その後、緊急柱合会議の場になぜか僕もいる。
本当になんでだ?
「ねぇねぇ」
袖を引っ張ってくるのは時透無一郎くんだ。
色々とすぐ忘れる彼だけど、僕の事はふろふき大根の人という事で覚えてるみたいだ。
「今日は持ってきてないの?」
「うん。ないかな。いきなりだったし」
「そっか」
あっ、ちょっとシュンとなってる。
無一郎くんのお兄さんも救いたかったけど…出来なかったもんな。
当時は蝶屋敷もてんてこ舞いだった。
………うん。止めよう。詮無いことだ。
「柱の前だぞ!!」
お、炭治郎が起きた。そしてびっくりしている。
そりゃそうだ。起きたら知らない人達に囲まれてるもんね。
「ここは鬼殺隊の本部。あなたはここで裁判を受ける事になります。覚悟は良いですか?竈門炭治郎君」
笑顔だけど怖いよしのぶちゃん。
「裁判って事は弁護人がいるんじゃないかい?」
「いるのか?どう取り繕っても鬼を連れていたことには変わりがねえ。ド派手に斬首だろう」
「うむ!薬膳殿には悪いが弁護人など必要なし!鬼を連れ歩くなど明らかな隊律違反!我等だけで対処できる!」
まぁ普通ならそうだよね。
「どうかな。果たして彼女は本当に普通の鬼なのかな?」
「普通でないのなら尚更だろう…家族を鬼にされた。それだけでも不幸だと言うのに…あぁ、なんとも悲しい…」
うーむこの切り口でも駄目かぁ。
「薬膳。お前がなぜこんなところにいるのか…それは後にしておくとして、俺としては何故富岡が拘束されていないのかが気になるのだが?胡蝶めの話では奴も隊律違反だろう?どう処罰する?どう償わせる?次いでに薬膳も処罰しろ。甘露寺に色目を使うと目を潰すとか」
「私怨が混じってるじゃねーか!」
この甘露寺ガチ勢め!
その蛇蒲焼きにしてやろうか!しないけど!!
「薬膳さんがここにいる理由はお館様のご意思です。富岡さんは大人しくついてきてくれたので、処分等は後で決めるとしましょう。それよりも私は坊やに話が聞きたいですね」
当事者だもんね。
「…ッ!ガハッ!ゴホッ!ゲホ!ゲホッ!」
「……水を飲ませた方が良いですね。顎が割れてますから、ゆっくりと飲んでください」
しのぶちゃんが僕の方を見る。
うんうん。なんとなく分かりましたとも。
「ちょっと待ってね………うん。これが良い」
取り出したのは凍らせた蜜飴レモンだ。
これをそのまま擦りおろせば鎮痛作用が働く。
正しい力加減でないと寧ろ痛みが増すけど。
擦り下ろした蜜飴レモンを瓢箪の中に入れて軽く振る。
これで完成だ。
「はい。しのぶちゃん」
「ありがとうございます。さっ、これを飲んでください」
そうやって差し出された蜜飴レモン水を飲む炭治郎。
若干前のめり気味なのはまぁ仕方ないだろう。
飲んだことが無かったら普通に甘くて美味しい水だし。
「……説明してくれますか?薬膳さん」
……他人の前だからしのぶちゃんも薬膳さん呼びだ。ちょっと悲しい。
「蜜飴レモンは適切な力加減で擦り下ろすと鎮痛作用がある。とはいえ疲労や傷が癒えた訳じゃないからね。あくまで痛みを鈍くしただけだって言うのを忘れないで」
「あ、ありがとうございます。その…甘くて少し酸っぱいのが美味しかったです」
「うんうん。それは良かった」
お礼をすぐ言える子は好きだよ。
何処ぞの蛇柱と違って良い子だな炭治郎は!
「あの…俺の妹は…禰豆子は鬼になりました。でも今までも、これからも…人を食べる事はありません。絶対にです」
「下らない妄言を撒き散らすな。身内なら庇って当然だろう。そんな言葉、俺は信用しない。信用ならない」
「可哀想に…鬼に取り憑かれて居るのだろう…すぐにでも解き放ってやるべきだ…」
「まぁ、世の中に絶対と言うことは計算上しか存在しないしね」
炭治郎が目を見開いている。
あれか。僕は味方と思われていたのか。
そりゃ優しくしたからね。
「…ッ俺は禰豆子を人間に戻すために剣士になったんです!禰豆子が鬼になったのは2年も前で、その間人間を食べたことは一度もない!」
「それを裏付ける証拠は?」
「証拠…?」
「先程そこにいる柱が言ったとおり、君でなくても家族を庇うのは当然の行為だ。けれど、ここにいるのはそれを知らない他人ばかりだ。僕も含めてね」
まぁ僕は信じられるけど他はよく知らない下級隊士が鬼を連れてるって認識だしね。
「そんな他人に君の妹が無害である事を信じさせるには、その疑問を解消させるだけのなにか…つまり証拠や証人が必要な訳だ。分かるかい?」
この場合で言えば鱗滝さんがそれに当たるだろう。
炭治郎もそれに気づいたようで顔を上げる。
「居ます…!俺の育手の鱗滝左近次さんです!」
「知ってる人―」
…………誰も手を挙げない。いや、お前は反応しろよ冨岡!
「冨岡さん…」
ほら!炭治郎くん絶望の表情浮かべちゃってんじゃん!
「………(みんなも知っているとは思うが)鱗滝左近次は元柱だ」
「……なんですぐ反応しないの?」
「…………(みんなも知っていると思っていたから)」
なんか喋れよ…。
「はぁ…まぁいいや。証人はその鱗滝さんでいいとして、これからも襲わない証拠はあるのかい?」
「……そ、それは」
「その必要はねぇな薬膳」
…この関智ボイスは。
「鬼を連れた隊士も・・・その鬼も今ここで殺すからな」
おーおー、好き勝手言いなさる。
まぁ境遇には同情する。
実弥からすれば、炭治郎達はあり得たかもしれないもう一つの未来だから。
苛立たしいだろうな・・・。
だがそれとこれとは話が別だ
「例え結果がそうでも、それはお前が決めることじゃあないんじゃないか?」
「ならお前がしていることは何だ?柱でもなければ日輪刀すら持ってない臆病もッ――!」
「んっん~♪その柱でもない臆病者の下敷きになっているのはどこの何という柱ですかなぁ?♪」
「んの・・・!」
甘い甘い。
実力で黙らせたいなら最低でもグリーンパーチレベルに成ってから出直しな。
「・・・・薬膳さん。不死川さんの言うことは半分正しいですよ」
「知ってる。けど産屋敷さんが来る前にある程度情報の整理をしておいたほうが良いと思ってやっただけだよ」
「そうですか。でも出過ぎたマネは自重してくださいね。それと不死川さん。彼の実力はこの中でも抜きん出ているのは周知のとおりです。上弦の弐を素手で圧倒したのは知っているでしょう?」
「・・・・・ならなぜ日輪刀を持たない」
「耐えきれないんだよ。日輪刀が。この間も説明したでしょうに」
血を流しすぎてそんなことも忘れちゃったのかね。
正直さ、もちろん握りたかったよ日輪刀。
刀とかそういうのはさ、男の子の夢じゃん。
でもさ・・・・でもさぁ・・・・
「まさか・・・爆散するとは思わないじゃん・・・ねぇ・・・」
本当にもう・・・もう・・・うぅ、悲しくなってきた。
「うおぉん・・・」
(マジ泣きだ)
(マジ泣きですね)
(マジ泣きだわ)キュン
(ド派手にマジ泣きだ)
「うむ!豪快に泣いておるな!何、気にするな!薬膳殿!」
「いうなよぅ!!」
「お館様のお成りです!!!」
コントしてたら来ちゃった。