アイリス視点
「幸せえええぇぇぇぇぇ!!!!」
「………アイリス様。私嫌です。あの人の相手」
だろうね。同じ立場なら僕も嫌だ。
然し善逸の気持ちもすごく良くわかる。
皆良い子だしアオイとカナヲに至っては美少女だ。
そりゃ善逸でなくてもあわよくば…なんて考える。
…………まぁ善逸のアレは行き過ぎだけど。
僕だって薬膳料理人として早くからここに来なかったら、善逸みたいな事を……いや、しないな。流石に。
善逸のアレは限界を超えた童貞って感じだ。
ん?大正時代の平均の結婚適齢期って何歳からだっけ?
ひょっとしたら善逸の行動は普通なのかもしれない。
後で調べて置こうっと。
そうこうしているとやる気に満ち溢れた善逸と伊之助。遅れて申し訳無さげに炭治郎が戻ってきた。
柔軟
ギチギチギチギチ
「うふふふふふ」
(アイツやる奴だぜ…俺でも涙出るくらい痛えってのに笑ってやがる…)
「ふむ。どうやら効いてないようだね。なほちゃん。すみちゃん。きよちゃん。代わりなさい。僕がやろう」
「え?いや俺3人が…」
「深呼吸して〜♪」
ギチギチギチギチギチギチ!!!!!
「ぎぃやああああぁぁぁぁ!!!!???」
「いいぞ〜♪このままゆっくり10数えて〜♪」
「痛い痛い痛い痛い!!??折れる!背骨折れるからぁ!!?
「ぜ、善逸ーー!!??」
反射訓練
シュバババ!
ピッ!
「ふっ…俺は女の子にお茶なんか掛けたりしないぜ」キラーン
「………(腹立つ)」
「じゃあ次は僕がやろう」
「え?」
「When to jump out, enjoy!」
「え?え?!な、なに?!」
「ヨーイドン!!」
シュバババババババッ!!
「ちょ、ちょちょっ…わぶ!」
バッシャバッシャ!
「どうしたどうした?びしょ濡れだぜボーイ?」
「善逸ーーー!?」
(は、はえぇ…少しも見えねぇ)
全身訓練
「うっひょーー!」ダッ!
「ひっ!?」
「わっしょーい!!」ダキッ
「ッの!!」
ドカッバキッ!
「勝負で勝ち戦いに負けた!!」ボロッボロ
(流石に止めとこう)
炭治郎視点
とまぁこんな感じで善逸は薬膳さん…アイリスさんに偶に手酷くお仕置きされながらも機能回復訓練はこなし、続く伊之助もそれまでが嘘のように勝ち進んだ。
(俺だけ負け越してる…不甲斐ないなぁ)
だけど二人の快進撃もそこまでだった。
カナヲには勝てない。
3人とも彼女の湯呑みを抑える事も掛けることも出来なかった。
負け慣れてない伊之助は不貞腐れ、善逸は早々に諦めに入り、訓練場に来なくなった。
「また貴方だけですか」
「すみません…明日には連れてきますから」
「いいえ。あの二人には構わなくて良いです。あなたも来たくないならそれで構いません」
そういう訳にはいかない。
機能回復訓練と言うからには、これをこなせないと任務に戻る資格が無いということだ。
そうだ!俺がカナヲに勝って、二人に教えてあげよう!
「いえ、頑張ります!」
「うん。いい心掛けだね。炭治郎くん」
「アイリス様」
いつの間にかアイリスさんが訓練場に来ていた。
この人は不思議な人だ。
なんと言うか嗅いだことのない匂いに溢れすぎている。
そのどれもが食べ物の匂いだっていうのは分かる。
どの匂いを紐解いても美味しそうだ。
「さて、炭治郎くん。そんな君にこれをあげよう」
そう言うとアイリスさんは俺に鉢植えを渡す。
鉢植えには俺の名前が書かれていた。
「ありがとうございます。それでこれは…」
「これは僕と知り合いが品種改良したとある花でね。有ることをしながら一念に思い続けると、その熟考具合で咲くんだ」
「へぇ…何だか不思議な花ですね」
「うん。その花はね…実は食べることができるんだよ」
「花を…ですか?」
食べられる花…海の向こうにはそんな物があるのか。
アイリスさんは日本とアメ…リカ?と言う国の人の間の子らしい。
アメリカ…凄い国だ。
「あぁ、そして咲く速度によって味が変わるんだ。試しに食べさせてあげよう。これが僕が今朝咲かせた花だ」
そう言って差し出して来たのは、花というか花の形に丸まったお肉みたいだ。
茎がちゃんとあるから花なんだろうけど。
凄い国だなぁアメリカ。
「えっと…生でですか?」
「生でもイケるよ。焼いても美味しいけどね」
うーん…大丈夫かな?
「い、いただきます」
取り敢えず花弁を一枚取って口に入れる。
モムモム…モムモム…
………!!!
う、美味い!
美味すぎて良く分からない!!
美味しいお肉って生でも食べられるものなのか!?
も、もう一枚…
「あっ、ごめん。カナヲ達にあげちゃった」
「えっ…そ、そうですか」
そ、それもそうか。あんなに美味しいもんな。
でも…あれがこの鉢植えから…。
「炭治郎くん」
「はい。なんでしょうか?」
「僕はあんまり直接的なアドバイスは出来ないんだけど、一つだけ。今の君ではカナヲには一生追いつけない。それは根本的な違いがあるからだ」
根本的な違い…。
それを正せば追いつけるのだろうか?
「僕が言えるのはこれだけだ。精進しなさい」
「はい!ありがとうございます!」
良い人だなぁアイリスさん。
俺よりずっと小さいけど。
アイリス視点
「意外と上手くできたなぁ」
炭治郎に渡したのは全集中の呼吸向けに改良…いや、新しく生まれたローズハムだ。
しのぶちゃんとカナヲとIGOの協力の下生まれたこの特殊調理素材は、食林寺だけでなく料理人の集中力向上の為に広く普及している。
感謝の念という一般人には少し理解しにくい感覚を、呼吸という形として落とし込んだのがこのローズハムだ。
その所為もあってか、味は本家本元のローズハムより数段落ちる。
でも食べた事ない味だったのだろう。炭治郎は実に美味しそうな顔をしていた。
うんうん。苦労したかいがあったってものだ。