その後、地図情報との差異を補完しながら探索を続けた結果、目的の区画へ行くにはかなり遠回りになる事がわかった。
というか、この施設外見より広い。周辺には民家も何もないし、小高い丘の上に位置しているのだけど、地下にかなり拡張されている。
多分、改造された荒魂が外へ逃げ出すのを防止する為に地下に閉じ込めたんだろうけど、こっちからしたら無駄に広くて探索にかける労力が増えるだけなんだよね。やっぱ違法スレスレ、というかこんなアウトな施設作るやつはロクでもないな。ババア、おまえのことだぞ。
現実逃避しながらも歩き続けると、衰弱している荒魂が閉じ込められている檻が増えてきた。
ここにいる荒魂達は実験の失敗作、身体全体のバランスが崩れて歩くことすら不自由な熊型、翼が縮み、胴体が肥大化した鴉型、ほとんどの個体が力を失い、檻の中で一生を過ごすと定められている存在だ。
正直、見ていてあまり気持ちの良いものじゃないなぁ。牙を奪われて、いつ来るとも知れない死に怯えるだけの無価値な存在。
まるで……うーん、なんだろう。なんだか似た様なものを見たことがある様な。
……なにか、思い出しそうな気がしたんだけど、まあ多分大した話じゃないんだろうな。
檻を眺めつつ歩き続けてようやく、『オニグモ』が収容されていた檻までやってきた。
ここは施設の最深部、最も危険な研究が行われていた場所だ。
今までの浅い場所は荒魂の性質の操作、その失敗作が収容されていたけど、ここはその操作を行った上で組み合わせられた荒魂等の、危険度の高い失敗作が収容されている。
そもそも何故二種類の荒魂を合体させたのかというと、最初は研究者達の気まぐれだった。
ノロを流し込む事で強制的に延命し、どの程度の負傷なら再生できるのかという再生能力の試験中だった蜘蛛型に、性質操作で上半身の肥大化を行った際の失敗作だった熊型を接合したらどうなるかという実験。
その結果産まれた『オニグモ』は暴走、研究者達を虐殺し、多くの被害を出しながらも収容された。
というのが施設の資料から読み取れた内容。知ってるってバレたらそれだけで目付けられそうだし勘弁してほしいね……、多分もう手遅れなんだけど。
私達刀使には予め、荒魂の存在を感知するレーダーが配布されている。
今回は危険度の高い大型荒魂以外の反応は遮断されているらしく、それなりに危険な荒魂以外はレーダーに映らない……はずなんだけど。
「この先の広間に反応が11体……?」
地図と照らし合わせてみたところ、この先にある施設の中心部でもある場所に11体の荒魂の反応がある。
本来数体集まることすら稀な大型荒魂がこんなにも集合しているのは聞いたことがない。厄ネタのギネス記録更新だよ。バカ。
しかし、よく見るとその反応は1体の荒魂を囲うように10体が並んでいるように見える。
瓦礫に隠れながら道を進んでいると、広間の方から複数の大きな叫び声と、何かが壁にぶつかる様な衝撃音が聴こえてきた。
……嫌な予感がする。
広間の様子が見える位置に付き、中の様子を見ると、そこには地獄のような光景が広がっていた。
身体の一部分が肥大化した大型の狐型荒魂達が、更に巨大な歪な体型の荒魂──おそらく『オニグモ』と思われる個体に飛び付いては巨大な腕に弾かれて壁に激突していた。
怪獣大戦争かなにか?と思っていたのも束の間、『オニグモ』は下半身の機動力を活かし、弱った荒魂へ接近していった。
「……え?」
『オニグモ』は巨大な腕で狐型の大型荒魂を掴んだかと思うと、もがく狐型を無視してそのまま口へ運び、貪り始めた。
他の荒魂は今がチャンスとばかりに『オニグモ』に襲いかかる訳でもなく、全個体が私とは反対の通路へ逃げ出した。
ここで私はようやく理解した。
『オニグモ』が弾いていたのはダメージを受けるからではなく、弱らせることと、小蝿のように、ただ邪魔だったから振り払うことを兼ねていただけだったのだ。
通常の刀使ならば数人で対処するレベルの大型荒魂を片手間に処理し、捕食する怪物。
それが私が倒すべき対象らしい。
「え、無理でしょ無理。あのババア私を殺す気ですよね、更年期か?」
『オニグモ』は食べ終わったと思ったらその場で足を下ろし、沈黙している。
食休み、というか身体の燃費が悪いから獲物を探すとき以外はこうやって消費を抑えているのだろう。
改めて観察してみると、この個体は写真よりも明らかに巨大化している。身体の接合部分は溶け出したノロか重なり固まったようで大きなカサブタのように身体を保護する鎧としての機能も備えているようだ。
どうやって倒せば良いんですか、これ。
まあでも愚痴った所で何も変わらないので事前に考えていた通りに動こう。
そう、私には事前に考えていた作戦があるのだ。
作戦名はそう、──【ガンガン行こうぜ】。
「もう何もわからない、『オニグモ』、とりあえず殴り合おう」
私は迅移を使い、全速力で『オニグモ』に斬りかかった。
私の御刀は無銘の野太刀だ。刀身が1.2m程の大きさで、とても分厚く、
不本意ながら、私もこういった荒魂に対する戦闘の適性は高いのである。本当に不本意ながら。
刃が『オニグモ』に触れた瞬間、私の身体にとてつもない衝撃と、手応えが伝わってくる。
コイツは滅茶苦茶硬い、斬り辛い。でも"斬れる"。そして、斬れるということは、殺せるということでもある。
勝機はある。やっぱり正面から殴り合うのが正しかったんだね。
しかし、こんな巨体相手では数発食らっただけで写シも剥がれて死んでしまうだろう。とても恐ろしい、恐怖で体が震えてしまいそうになる。
それと同時に、今の状況を楽しんでいる私が居るのも事実だった。私は私が思っていたよりも、強いのかもしれない。
「行くぞデカブツ。私の為に死ね」
さあ、戦いの始まりだ。ぶっ殺してやる。
お久しぶりです。覚えてる人居たらですけども。
なんでコイツこんな血の気多いの?
久しぶりに設定とか見直してたら主人気がかなりメンタルジェットコースター人間でした。
暇な時、気が向いたら書いて投稿します。バイバイ。