修学旅行の後から、八幡の様子がおかしい。
元気も無いし、自分で『腐っている』と言ってた目は、生気を失い死んだような目になっていた。時々、大岡君や大和君と一緒に教室を出て、遅れて戻って来る。
話を聞いても『大丈夫だ』『なんでもない』ばかり…。時には『俺に関わらない方がいい』とまで言う。
こんな状況なのに、由比ヶ浜さんは何も言わない…。川崎さんは話しかけてるけど…。
しばらくした雨の日。部活も休みになり、一旦帰宅後に買い物に出掛けた。その帰りに海の近くの公園のベンチで八幡を見かけた。傘もささず、鉛色の空を見上げる八幡が居た。近づこうとすると、うっすらと笑みを浮かべながら海の方へ歩きだした。
危ないと思い、駆けより海の数歩手前で捕まえた。
「八幡!何をやってるの!」
「…戸塚」
「しっかりして!」
「俺は…もう…」
そう言うと気をうしなった。
幸いにも、家までは遠くない。引きずるように家まで運び、ずぶ濡れの八幡を着衣のまま湯船に放り込んだ。気を失っているので、沈まないように注意をはらいながら、自分もシャワーを浴びた。
家人と一緒に着替えをする為に服を脱がすと、体中がアザと傷だらけだった…。
とりあえず、自分のベッドに寝かせて目が覚めるのを待った。
「ん…。ここは…」
「目が覚めた?」
「天使が居る…。ここは天国なのか…。違うな、俺が天国に行けるわけが…」
「八幡…」
「戸塚…」
「なんで、あんなところに…」
「どうして、死なせてくれなかったんだ…」
消えそうな声で彼が呟く。
「八幡、よかったら話してくれないかな?」
「いや…でも…」
「八幡…」
彼の手を握り目を見つめる…。彼の顔が赤くなった気がする…。
「あんまり、気分の良くない話だぞ」
「それでもいいよ」
「わかった。話すよ」
彼はゆっくりと話してくれた。
修学旅行の前に来た、戸部君の依頼。その後に来た海老名さんからの依頼。葉山君の現状を壊したくないとの話。そして、嘘告白。信じると言ってた奉仕部二人の言葉。妹は奉仕部二人を信じて話を聞いてくれない。戸部の告白を邪魔したと大岡君・大和君からの暴力。ほかにも、文化祭の悪い噂もあっての罵詈雑言に暴力。
「と、戸塚…、泣いてるのか…」
「八幡…、よくがんばったね」
気がついたら、彼を抱き締めていた。
少し落ち着いてきたので、今後の話をしよう。
「八幡は…どうするつもりなの?」
「ま、死ぬのは戸塚に止められたし、どこか遠くに行こうかなぁ」
「あてはあるの?」
「ないな。人目につかないところで…」
「この世界を捨てるの?」
「かもな。次は俺に優しい世界になってくれると、ありがたい」
「…わかった。僕もこの世界を捨てる」
僕は決意した。八幡と一緒に、ここを捨てることを。
「戸塚、何を…」
「八幡、僕がこれからする話を聞いたら、後戻り出来ないよ」
「ど、どうしたんだ、戸塚」
「この話を聞いたら、友達、クラスメイト、部活仲間、…そして家族。すべてを捨てる覚悟はある?」
「…死ぬつもりだったからな。まぁ、最後の挨拶ぐらいできればいいかな」
「わかった。これから話すことは、嘘偽りない事実だからね」