※ダンガンロンパ無印が「お芝居だった場合」のパラレル世界です。ダンガンロンパ他シリーズとの矛盾が見られます。
視点:苗木誠
苗木「はぁ…」
ため息をついて、空を見上げる。灰色の雲が空を覆っていて太陽が見えない。
雨が降るかもしれないな…
舞園「この雲じゃあ雨は降りませんよ、苗木くん。」
苗木「あ、舞園さん。ボク、声に出してた?」
舞園「苗木くんの考えてることはお見通しですよ。エスパーですから♪」
舞園さんはヒヨコの餌を両手に抱えていた。
苗木「手伝うよ。」
舞園「ありがとうございます!じゃあ、この袋を1つお願いしますね。」
餌を受け取って、歩き出す。
舞園「苗木くんは何をしていたんですか?」
苗木「外回りに出た3人の見送りに。」
舞園「ああ…3人とも、大丈夫でしょうか。」
苗木「うん、ボクもそれが心配で来たんだ。さっきは大丈夫そうだったけど…」
後ろを振り返る。大和田クン、石丸クン、桑田クンを乗せたバイクは、もう見えなくなっていた。
また前に向き直って、ボクは学園__シェルターの中に戻った。
こんな生活が続いて、そろそろ半年が経つ。
人類史上最悪の絶望的事件。それは唐突に起こった。
「江ノ島循子」を名乗る人物が世界各地に複数同時出現したのが事の発端。
奴らと、奴らの引き連れる「絶望」集団はあっという間に勢力を拡大していった。
奴らの主な活動はテロ。
毒ガス・汚染物質の散布や爆弾投下が、奴らにとっての「絶望」らしい。
日本でも被害が及んで__ボク達は家族の消息も分からないまま、学園シェルターの中に避難した。
一週間経って、学園の外に出ると、そこはもう荒廃しきった世界に変わってしまっていて。
それでも、きっとどこかに希望があるはずだ。「絶望」の勢力が及んでいないところが。
そう信じて、ボク達はこのシェルターを拠点に仲間を探す活動をしている。
けれど、とふと思う。
けれど、この事態のきっかけはボク達の「劇」なんじゃないかと。
それはただの劇だった。学園祭の舞台で、どうせなら派手にやろうと作られた超大作。
「16人の超高校級が、名前も肩書きもそっくり同じまま記憶を消されて殺し合う。」
不謹慎としか言えない内容のそれは、何故か公演の許可が降りて、多少のトラブルはあったけど大成功に終わった。
その直後に、「江ノ島循子」が現れた。
…やっぱり、ボク達のせい、なのかな。
まさか現実に起こると思って作られた劇じゃない。けど、この事件が劇を元に起こったことは確かだった。
舞園「苗木くん。何か余計なこと考えてますね?」
苗木「え…う、うん。余計なこと、かな。」
舞園「あんまり思い詰めちゃ駄目ですよ。」
苗木「…そうだね。」
今日を生きる。今はそのために考えよう。
視点:不二咲千尋
江ノ島「つまんなーい!」
真横で江ノ島さんが伸びをする。モニター室に響く正直な感想に苦笑いしか返せない。
不二咲「まあ、江ノ島さんは退屈だよね。」
江ノ島「そーそー!なんか、アタシと不二咲だけ外出禁止って、オカシクね!?」
戦刃「盾子ちゃん、大変だね…」
江ノ島「いやアタシらの護衛であんたも外出禁止状態だからね?そこ自覚してる?」
なんかすることないかなー、と足をばたつかせる江ノ島さん。多分、どこに行っても邪魔者扱いされるから拗ねてるんだろう。
大和田君達外回り組は数時間前に出発したから、そろそろ帰ってくるだろうけど…
不二咲「…あ、セレスさんと遊んで来たら?この時間なら畑にはいないはずだよ。」
江ノ島「お、不二咲冴えてる!ヒャッハー待ってろルーデン多恵子、私様がのしてやるぜ!」
戦刃「あ、盾子ちゃん、置いてかないで…」
江ノ島さんと戦刃さんがモニタールームを出る。それと入れ替わるように、十神君が部屋に入ってきた。
十神「おい不二咲…おい、護衛はどうした。」
不二咲「えっと、戦刃さんが江ノ島さんについてったから…」
十神「そういえば今すれ違ったな…ちっ、人手が足りんな。とりあえず大神を呼んで穴埋めを…いやそれだと二人組体制が…」
十神君曰く、僕は「情報戦で有力だから」、江ノ島さんは「狙われやすいから」護衛が必要らしい。
「超高校級の絶望と勘違いされている」江ノ島さん。
希望側、絶望側共に命を狙われる江ノ島さんが保護されるのも、まあ無理はないなぁ。本人は可哀想だけど。
男の僕としては、護衛は少し複雑だけど…ううん、僕には僕の強さがあるって大和田君も言ってたんだから、落ち込んじゃダメだ。
不二咲「十神君、何か用事があったんじゃ…」
十神「ああそうだ、この紙を見ろ。」
十神君が差し出した紙。そこには設計図が書かれていた。
けど、これって…
不二咲「と、十神君、大丈夫?正気?」
十神「問題ない。可能か?」
不二咲「…可能か、不可能かで言えば、可能だよ。けど、」
十神「なら早急に頼む。」
不二咲「ほ、本当にするのぉ?」
十神「コレの出来の良し悪しによるな。」
不二咲「…わかった。頑張ってみる。」
十神「頑張る、ではなく結果を寄越せ。俺は出来ることを依頼しているはずだ。」
十神君は、僕にコレを作れると期待してくれているらしい。
不二咲「うん。期待してて、十神君。」
僕は、「モノクマ」の設計図を持つ手に力を込めた。
…実は、ふざけてガワの部分はもう作ってあるんだよねぇ。
そのとき、遠くからバイクの音がした。
不二咲「あ、大和田君達が帰ってきたかな?」
十神「だろうな。五月蝿くてかなわん。」
不二咲「迎えにいってくるねぇ。」
席を立って部屋を出ると、後ろから十神君がついてくる。
…それは別に良いんだけど、十神君の更に後ろから腐川さんがついてくるんだよねぇ。
僕は二人とも隣を歩いてほしいけどなぁ。
エントランスから外に出ると、バイクは丁度止まったところだった。
大和田君、石丸君、桑田君の3人を乗せたそれは3人乗り出来るように改造された代物で、僕も設計に手伝わされたりした。
けど…様子がおかしい。 大和田君がタンクトップ、桑田君がTシャツ1枚なのに、真ん中のヘルメット(石丸君)がYシャツの上から特攻服を来ている。
Yシャツは桑田君の、特攻服は大和田君の物だ。
これは…何か、あった。
不二咲「おかえり、皆。」
大和田「オウ。あ、十神、頼まれてたの持ってきたぜ。」
十神「でかした。」
大和田君が十神君に袋を渡して、受け取った十神君は嬉しそうだ。なんだろう?
桑田「げっ腐川居んのかよ。…なあ不二咲、」
急に桑田君がこっちに身を乗り出してきた。
不二咲「な、何、桑田君?」
桑田「あのさ、悪ィんだけど、これ処分してくんね?」
そう言って差し出されたのは、
不二咲「これ、石丸君の…」
石丸君の白い学ランは、血で真っ赤に汚れていた。
確かに、血が苦手な腐川さんには絶対に見せられない。
不二咲「…わかった。石丸君は無事なの?」
桑田「あぁ、かすり傷一つねーよ。」
…と、いうことは。これは全部返り血という訳で。
不二咲「石丸君…」
ヘルメットを脱いだ彼の、真っ青な顔を見て確信する。
石丸君はまた、人を殺してしまったんだ。
視点:苗木誠
いつからか、ボク達は朝と夕方は全員が食堂に集まるのが暗黙のルールになっていた。
基本的な情報共有はこの時にされるから、ここで欠席すると何かしら情報を見落としかねない。
十神クンやセレスさんも参加しているのはそのためだろう。
朝日奈「内回り班、今日は施設の点検をしたよ!特に異常はなかったけど、途中からさくらちゃんがどっか行ってて寂しかった!何かあったの?」
大神「不二咲の護衛をするように、十神に言われてな…」
江ノ島「あ、ごめんそれアタシとお姉ちゃんが不二咲と離れたからだわ。」
戦刃「あ、ごめん…」
大神「いや、別に構わない。」
セレス「農業は特に変化なし。ですが途中から江ノ島さんが乱入してきたので作業が滞りましたわ。」
江ノ島「え、アタシのせい?」
舞園「畜産は、ここ数日で卵の生産量が少し増えたように感じます。餌を変えたからでしょうか?」
苗木「個体数も少し増えたよね。」
大和田「外回り組は今日は隣街の端まで行ったぜ。霧切にそこの土渡したんだが、どうだったんだ?」
霧切「解析を行ったわ。汚染レベルは低いわね。もう少しくらいなら行動範囲を広めても良さそうだわ。」
広げられた地図に、霧切さんがマーカーをひいていく。土壌汚染が行われていない安全な地域を示すマップだ。
桑田「あー、あとココ、農園があったぞ。」
そう言って、桑田クンが街から少し外れたところを指差す。
桑田「管理者はもういねーから、明日肥料とかこっから取ってくるわ。」
十神「管理者がいない?どういうことだ。」
桑田「…コイツ見りゃ分かんだろ。」
桑田クンが視線を向けた先は、真っ青な顔をした石丸クン。
呆然としていて、話を聞いているのかすら判断できない…
十神「…。フン、こいつのことだから返り討ちだろう。こちらの被害は?」
桑田「バイクに傷がいくつかと、大和田の特攻服に穴が空いたくらいだな。」
大和田「撃たれたんだよ。相手は猟銃を持ってた。 飛び道具の対策もとれりゃあ良いんだがな。」
不二咲「うーん、倉庫に防弾チョッキとかあったかなぁ…?」
山田「流石にないと思いますぞ。」
戦刃「わ、私1着持ってる…」
桑田「1着なら自分用にとっとけ、つーか動きづらくなるから着ねーし。」
わいわい言ってる間、葉隠クンが石丸クンと何やら話をしている。そのうち石丸クンも回復してきたみたいだ。
腐川「と、ところで撃たれたバイクはどっか故障したの?」
大和田「いや、塗装がちと剥げただけだ。後で塗装し直すから、倉庫からスプレー持ってくな。」
石丸「大和田君。」
大和田「あ?おー『兄弟』、復活したか。」
石丸「…今思い出したんだが、あの家には大量の銃があったぞ。明日はそちらの回収を急いだ方が良い。」
十神「何?」
石丸「おそらく、日本では所持するのも違法の物がほとんどだと思われるな。」
苗木「銃がそんなにあるなら危険だね。明日は出来るだけ早く回収しに行ってほしい。」
桑田「え、朝イチかよ!たりーっつか起きれるかな。ちょ、誰か起こしてマジで。」
葉隠「誰かしら早起きするだろーしそいつに任せるべ。」
江ノ島「そんなに心配なら校内放送かけよっか?」
十神「モノクマの声でか?あのふてぶてしい声を聞くと朝から苛つくんだが。」
戦刃「ちゃ、チャームポイントだよ…?」
江ノ島「てか、元の声アタシなんですケド!」
朝日奈「え、そうなの!?」
不二咲「加工してるから分かんないよねぇ。」
賑やかなまま報告は終結する。地図を見ると、以前より随分と活動範囲が広がったのがわかった。
それでも、まだ誰の家にもたどり着けない。僕達は皆寮生活だったから家族と毎日会うわけじゃなかったし、今もその安否はわからない。
唯一、霧切さんの父である学園長がシェルターにいたけど、行方不明になってしまった。彼女も不安だと思う。
明日になったらこの地図はもっと広がるだろう。それが、希望の足掛かりになることを祈るしかない。
視点:不二咲千尋
夕食も終わって、皆それぞれ自室に帰って行く頃。石丸君が大和田君と桑田君を捕まえていた。
石丸「大和田君、桑田君。すまないが今日どちらかの部屋に泊まっても良いだろうか?」
大和田「おー別にいいぞ。俺の部屋来いや。」
桑田「え、ならついでに俺も泊めてくれよ。」
大和田「じゃオメーら布団持ってこいよ。雑魚寝すっから。」
友達の部屋で雑魚寝…
男らしくて格好いいなぁ…!
不二咲「ぼ、僕も泊まっていいかなぁ…?明日早起きしたくて。」
石丸「む、不二咲君もかね?」
桑田「お、いーんじゃね?布団運ぶかー。倉庫にあったっけ? 」
大和田「あー…どうだっけな。自分の部屋から持ってこいよ。」
桑田「えーだって自分のだったら後から洗濯するのメンド__」
石丸「倉庫の物でも洗濯したまえ!」
桑田「冗談だって!」
布団を抱えて大和田君の部屋に行くと、意外とすっきりして…というよりはほとんどの物が隅に追いやられていた。
僕達が布団を敷けるスペースを作ってくれたみたい。
時間は__午後10時。
石丸君はさっさと布団に入って眠ってしまったけど、大和田君と桑田君は布団の上でトランプをしている。なんだか修学旅行みたい。
僕も混ぜてもらって、3人で遊んだ。すぐ傍で騒いでるのに眠っていられる石丸君は流石だなぁ…というか石丸君、寝るの早すぎない?
不二咲「2人は何時に寝るの?」
桑田「あ?あー…」
大和田「あと1時間ぐれー後か?多分。」
不二咲「曖昧だね…」
大和田「何時になるのか分かんねーからな。」
不二咲「?寝る時間が不規則ってこと?」
大和田「そんなとこだ。」
その言葉の真意が分かったのは、ちょうど1時間後だった。
石丸「……ぅうう……」
不二咲「え、石丸く__」
石丸「うわぁああぁぁあ!!」
絶叫。
聞いたこともない石丸君の声。
不二咲「え、え?」
動けない僕を他所に、大和田君と桑田君の行動は早かった。
大和田「石丸、おい石丸、起きろ。」
桑田「イインチョー、朝だぞー。ぐっもーにんだろー」
肩を掴んでガクガク揺さぶっている。
く、首が凄い揺れてるけど大丈夫かな…
と、思っていたら急に目が開いた。
石丸「___っ!おはようございます!」
桑田「はいおはよう。そしてオヤスミ、今11時だ。」
石丸「…すまない、今日も駄目だったようだな。」
大和田「気にすんなよ。オメー起こしたら寝よーと思ってたトコだ。」
大和田君が石丸君の隣に寝転ぶ。
桑田君も似たようなことをしたけど、ちょうど布団と布団の間に入ってほぼ床に寝転がったようになった。
まさに雑魚寝って感じだなぁ…っていうか大和田君、自分のベッドは使わないんだね。
石丸「ああ、おやすみ。」
そう言った石丸君は数秒もしないうちにまた眠ってしまった。
また叫び出さないかと見ていたら、大和田君が苦笑する。
大和田「心配すんな、もう朝まで起きねぇよ。いつものことだ。」
不二咲「い、いつもなの?」
桑田「んや、毎日って意味じゃなくて、人殺した日はいつもって意味。」
不二咲「そうなんだ…」
やっぱり、石丸君にとっては、人殺しは一層重い物なんだろう。それこそ夜な夜な魘されるくらいに。
不二咲「僕が…僕が、代われるなら、」
大和田「やめとけ、それ以上は不毛ってヤツだ。」
不二咲「……うん。」
大和田「これでも良くなった方だしな。」
確かに、以前はもっと酷かった。
服に付いた血を隠す余裕も、互いを気遣う余裕もなく、転がり込むように帰ってきたあの日の3人を覚えている。
「仕方なかった」とか「正当防衛だ」なんて周囲の慰めは彼等には届かなくて。何日も寝込んだ3人を覚えている。
彼等の苦しみを知っていても守ってもらうしかない僕達が、酷く悔やんだことを覚えている。
不二咲「…うん。覚えている。」
どれだけ傷ついても。僕達の代わりに血を被ることを決めた、3人の悲痛な覚悟を覚えている。
桑田「オヤスミー。」
照明が消える。複数の寝息が聞こえなくなったと思った頃には、眠りについていた。
翌朝。
『オマエラ、おはようございます。』
石丸「おはよう!さあ起きたまえ諸君!」
校内放送と、布団をひっぺがす石丸君の声が重なる。昨日の姿が別人みたいだ。
大和田「ぁ゛ー…」
桑田「マジ、ねみぃ…zzz」
石丸「桑田君、二度寝の体制に入るんじゃない!こら!」
枕を抱えて丸まる桑田君とそれを転がす石丸君の攻防が始まった。
不二咲「あ、あはは、おはよう。」
石丸「おはよう不二咲君!すまないが桑田君を起こすのを手伝ってくれないだろうか!」
不二咲「うん、もちろん。」
視点:江ノ島盾子
石丸「江ノ島君、朗報だ!」
昨日はフリーズしてた石丸が声をかけてきた。
そろそろお昼になる時間だから、昨日報告会で言っていた銃はもう回収してきたんだろうな。
江ノ島「石丸じゃん。アタシになんか用?」
石丸「当然だろう!用事もないのに呼び止めるはずがない!」
…十神とか霧切には用があるとき以外でも話しかけてる癖に。やっぱ役立たず扱いされてる!
江ノ島「__はいはいそーですね、用事もないのにアタシが呼ばれるワケないね!」
石丸「?何を怒っているのだね?それより、君の外出許可が降りたぞ!」
江ノ島「え、マジで!?」
石丸「大マジだ!条件付きだがな!」
江ノ島「条件って?お姉ちゃん連れてくとか?」
因みにお姉ちゃんは今も隣にいる。一言も喋らないから存在忘れがちとかそんなこと思ってない。
石丸「いや、同伴者は戦える者なら誰でもいい。というか、今日君にお願いしたい仕事は僕が同伴する。」
江ノ島「え、アタシ仕事あるの?何か役に立てる?」
石丸「もちろん!協力してくれるか?」
江ノ島「あったりまえじゃん!」
戦刃「え、あの、私は?」
石丸「戦刃君には回収した銃の点検を行ってもらいたい!十神君か腐川君のもとに行ってくれるかい?」
戦刃「わかった、腐川のとこね。」
さらっと十神抜いてるな…
まあ気持ちはわかる。
石丸「さて行こうか!」
連れてこられた先は車庫。中はバイクが3台ある。
いつも大和田達が乗っている魔改造バイク。
通常の2人乗り用バイク。
なんかすごいボロボロの1人用バイク。
石丸はアタシにヘルメットを渡して、自分もヘルメットを被ると、2人乗り用バイクに跨がった。
石丸「さぁ乗りたまえ!」
え。
江ノ島「アンタ、バイク運転できるの!?」
石丸「うむ、その通りだが?」
江ノ島「えー…なんつーか、それでいいの風紀委員。」
石丸「むぅ、話せば少し長くなる。とりあえず乗りたまえ。道中で話そう。」
江ノ島「ヘルメットしなきゃダメ?」
石丸「駄目だ!」
ちぇ。
大人しく後ろに座ると、バイクが動き出す。
出口を抜けてもスピードは大してない。せいぜい自転車より少し速いくらいだ。
江ノ島「…おー。」
石丸「どうかしたかね?」
江ノ島「いや、外ってどんな感じになったのかなって思ってたからさ。ホラ、前は都会だったじゃん、ここ。」
石丸「うむ。」
そう、たしかここは住宅街だったはず。放課後に立ち寄るドーナツ屋とか、ショッピングセンターも以前はあった。
それが今は。
江ノ島「なんもないね。」
建物の残骸が散乱した荒野が延々と続いている。形をそのまま保っている建物にも、人っ子一人いない。
石丸「…」
江ノ島「…」
沈んだ空気を変えたのは石丸だった。
石丸「僕がバイクを運転できる理由だが。」
江ノ島「え?あ、うん。話すって言ってたね。なんで?」
石丸「僕はそもそも、大和田君達とあの魔改造バイクに同乗する気も無かったのだよ。しかし外回り組になるからにはバイクに乗ることが必須でな。」
江ノ島「あー…」
そういえば、せめてもの抵抗にコイツだけヘルメットしてたような気が…
石丸「その後、絶望の暴徒に襲われることがしばしばあってな。大和田君と桑田君が運転できない状況になったとき、僕が運転する必要があるとわかったのだ。」
江ノ島「確かに。」
肝心なときに運転できませんじゃ話にならない。
江ノ島「…もしかして、車庫にあったボロい1人乗りバイクってあんたの?」
石丸「い、一応桑田君も練習した結果なのだがな…まぁ大半の傷は僕がつけた。」
どーりでボロボロなわけだ…
石丸「今日は僕の運転実習も兼ねているのだよ。乗り心地はどうかね?」
江ノ島「遅すぎて寝そうですー。」
石丸「むぅ。」
少しだけスピードが上がった。
到着した先は図書館だった。
物陰にバイクを止めて、壊れた窓ガラスから慎重に侵入する。
電気が通っていない薄明るい図書館に、ブーツの音が2つ響く。
そーいえば石丸もアタシもブーツじゃん。おそろじゃんキモッ。
石丸「江ノ島君には、娯楽雑誌の類いを回収してほしいのだ。」
江ノ島「娯楽ぅ?」
そーいうの嫌いそうなのに、わざわざアタシに頼んでまでそんなもの集めんの?
石丸「舞園君達、女子からの要請でな!僕では彼女らの興味を引くものを持って帰れない。」
江ノ島「あー、確かにアンタにゃ無理ね。」
石丸「ではよろしく。10冊ほど見積もってくれ。多くなっても構わないぞ!」
そう言った石丸はメモを取り出す。
そこには生物学、農業、畜産などの専門書についての回収依頼がメモされていた。 この字は十神かな。
専門書の棚に消えていく石丸を見送って、とりあえず適当な雑誌にざっと目を通す。
江ノ島「つってもウチの女子群って好みが結構違うからなー。」
色んなジャンルからピックアップすると、最終的に20冊くらいになった。
石丸の指定より倍くらい多いけど…いっか別に。誤差の範囲、誤差の範囲。
___とか思ってたら、石丸はめっちゃ分厚い本を結構持ってきた。うんマジでアタシ誤差の範囲だったわ。
石丸「うむ、これだけあれば十分だろう!」
江ノ島「てか、勝手に持って帰ることには反対しないのね。」
石丸「借りたいときに司書がいないのが悪いのではないかね!待っていたら来るわけでもなし。」
江ノ島「まーそうだけど。」
石丸「不満かね?」
江ノ島「いーや別に。アンタも丸くなったなと思っただけ。」
石丸「誰のせいだと思っているのだね…」
江ノ島「少なくとも、アタシ"だけ"のせいじゃないですー。」
石丸「…。むぉっほん!では帰宅しよう。」
あ、咳払いで誤魔化しやがった。まあいいや。
本を紐で縛って、その辺にあった台車に乗せる。石丸がそれを運んでいくのを後ろからついていった。
江ノ島「それ全部バイクに乗せられるの?」
石丸「無理だろうな…だから、これを使う!」
じゃん、と取り出されたのは…でっかいカゴ。てか買い物カゴがバイクに取り付けられた。
不安定なそこに容赦なく本が置かれていく。
石丸「よし、入った!」
江ノ島「ギリッギリじゃん!」
石丸「うむ。落としたらもう諦めよう!」
江ノ島「えー…」
石丸「さて行くか。」
絶対落とすなよ、と釘をさしてから後ろに跨がる。
けど__いつまでも経っても出発しない。
石丸「…。」
江ノ島「どした?」
石丸「…静かに。」
横から石丸の顔を覗きこんだら、どこかを睨んでいる。何見てるんだとアタシもそこを見て__後悔した。
江ノ島「あれ…絶望の…」
モノクマの不恰好な面を被った大人達が複数、歩いていた。
さっきは見なかったから、アタシ達の後から来たんだな。
なんつーか、不気味…フラフラさまよってるみたいなのに、しっかりと武器を握りしめてるあたりに狂気を感じる。
石丸「こちらには、気づいていないな。」
確かに、こっちは建物の陰になっているから向こうからは見えないハズ。
江ノ島「は、早く逃げないの?」
石丸「むぅ。バイクは音が大きいからな…それに、奥にいる人がピストルを持っている。気づかれたら撃たれてしまうな。」
江ノ島「うげっ…どうすんの?」
さっきから悪い意味でドキドキが止まらないアタシに反して、石丸は冷静にバイクにつけていた袋を漁った。
石丸「まずは陽動する。」
江ノ島「陽動?」
石丸「あった。これだ。」
江ノ島「…。なにそれ。」
取り出したものは…人形?ロボット?
メタリックで片手で掴めるサイズのそれは、不二咲に似ていた。
石丸「身代わりチヒロ君5号だ!」
江ノ島「5号」
石丸「試作品の第5号だな。いつか使わなければならなかったし今使おう。」
石丸はロボットの背中のボタンを押して、そっと地面に置いた。
トコトコ、やけに可愛い動作でロボットは歩いていく。意外と足が速い。
そして、絶望達に近づいて__
爆音。続いて熱風。
江ノ島「…うわぁ…」
数人が巻き込まれて黒焦げになってるのに、ロボット自体は傷一つない。そのまま爆発しながらアタシ達とは逆の方向へ疾走していった。
絶望の奴らが奇声をあげながらそれを追いかけていく。
石丸「今のうちに行くぞ!」
江ノ島「あ、うん。」
バイクのエンジン音は、背後の爆音に掻き消された。
石丸「ただいま戻ったぞ!」
江ノ島「ただいまー。つっかれたー。」
不二咲「おかえりなさい。」
大和田「おぅお疲れ。」
桑田「おつー」
十神「フン。意外と早かったな。」
腐川「…お、おかえり。」
エントランスには5人。謎のメンツだ。
ほんとコイツら意外と仲良いな。
あ、向こうからお姉ちゃん来た。
戦刃「お帰り盾子ちゃん、石丸。盾子ちゃん大丈夫だった?怪我してない?」
江ノ島「元気でーす。」
石丸「ただいまだぞ!では江ノ島君、また夕時に。今日はありがとう!」
江ノ島「こっちこそー。」
石丸「不二咲君、身代わりチヒロ君5号についてだが__」
お姉ちゃんと一緒にその場を離れる。爆発を見たからか、アタシはまだ少し混乱していた。
灰色の街。
絶望。
戦刃「盾子ちゃん、本当に大丈夫?顔色悪いよ…」
江ノ島「え、お姉ちゃんに心配される位とかマジにヤバいじゃんちょっと休むわ。」
戦刃「ええ…」
もーいいわ、思考停止。寝よっ。
視点:苗木誠
夕方の報告会では江ノ島さんが現れなかった。
戦刃「盾子ちゃん、疲れて寝ちゃって…夕食も盾子ちゃんの部屋に運ぶね。」
うん、だろうなとは思ってた。今日は外に出るって聞いてたから。
石丸「…やはり、江ノ島君を外に出すのはまずかったか?申し訳ないな…」
霧切「そんなことないわ。彼女は外出禁止状態を嫌がっていたし、外の状況を知りたがってもいた。
危険は承知でもたまには出してあげないと可哀想だわ。」
そんな犬か猫みたいな…けど、その通りではある。
十神「…しかし、どうしようか…今言おうと思ってたんだがな。」
朝日奈「?十神、なんて?」
山田「あ、もしかしてアレですかな?拙者は早めに言った方が良いと思いますぞー。」
腐川「びゃ、白夜様には白夜様のお考えがあるのよ…」
山田「いや多分大した理由は無いと…ハイすみません黙りまーす。」
腐川さんと山田クン、あと不二咲クンは何か知っているみたいだ。何の話だろう?
十神「言ってしまおう。江ノ島には戦刃に伝えさせれば良い。」
戦刃「伝言?いいよ。」
十神「おいお前達、ダンガンロンパするぞ。」
「「「え?」」」
不二咲「十神くん…それじゃ伝わらないと思うよぉ。」
葉隠「そうだべ!ちゃんと説明するんだべ!」
十神「言葉の通りだ。学園祭の劇をもう一度、今度はリアリティを追及して行う。」
舞園「そ、そんなことできるんですか?」
十神「できる。というか、漸くできるようになった。」
霧切「計画自体は以前からしていたのね。」
十神「ああ。だが、最近まで食糧の生産が安定していなかったし、設備の用意もできていなかったからな。」
苗木「…でも、今は違う。農場も畑もあって、外からスクラップを集めてくることもできる。」
十神「その通りだ。俺達は遂に俺達以上の人間を抱え込むことができるようになった。
『希望』として他者を支えられるくらいにな。」
桑田「でも、どうして今なんだ?もっと後でも__」
十神「駄目だ。事態は一刻を争う。
現在、ネットで不二咲にまともな人間を探させているが、まだ見つけきれない。
もう正気の人間はいないかもしれない。少なくとも、大していないことは確かだ。その人数をこれ以上減らすワケにはいかない。」
不二咲「それに、これが完成したんだぁ。」
いつの間にか不二咲クンが抱えていたそれは__
苗木「も、モノクマ!?」
モノクマ「うぷぷぷ…」
朝日奈「すごい、プニプニしてる!」
大神「うむ、素晴らしい弾力だ。」
モノクマ「オマエラ、おはようございます。」
石丸「喋っているぞ!」
霧切「録音かしら?」
不二咲「今はね。マイクに繋げたらモノクマボイスで喋れるよぉ。」
セレス「なるほど、今日コレが出来たのですか。」
十神「ああ。昨日不二咲に案をだしたばかりだったが、完成が早くて驚いた。」
不二咲「えへへ、実は暇な時間に一人で作ってて…あとは仕上げだけだったんだぁ。」
大和田「すげーな不二咲!」
十神「シナリオは主軸をそのままで、細かなところは腐川と山田に作らせた。」
不二咲「監視カメラの用意も出来てたねえ。」
十神「大和田に取ってこさせたからな。それにガトリング銃も手に入った。設備はバッチリだ。
あとショッキングピンクのペンキもな。」
朝日奈「ぺ、ペンキ…」
葉隠「けど、普通に劇やるだけで意味あるんだべ?」
十神「普通にやるわけがないだろう。
無論、実況中継だ。」
桑田「ふーんそっか…ってはぁ!?」
舞園「な、生放送ですか?無理があるんじゃ…」
十神「と言っても、実際の生放送ではない。1日24時間分きっちり撮影するだけだ。」
桑田「きっつ!」
十神「それを編集・放送し、あたかも生放送であるかのように見せかける。不二咲なら可能だろう?」
不二咲「うーん、多分…」
戦刃「というか、そもそも劇自体をやる意味は?普通に生存報告の放送とかじゃダメ?」
十神「そうだな、メリットはいくつかあるが…
まずは生存者の存在だ。希望の生存を知ればネットなり何なりで誰かは動く。その動きのきっかけを作れる。
そしてもう一つ重要な目的は、江ノ島盾子の死だ。」
苗木「江ノ島さんの死…」
十神「つまり絶望のリーダーの崩壊だな。
…同時に、世界各国に湧いている偽者を一掃できる。」
偽者、のあたりを強調して十神クンは言った。
確かに、級友のフリして絶望を振りかざし、悪事し放題の奴らはずっと気に入らなかった。
これは全員が思っていることだ。
十神「そろそろ、反撃しよう。」
我慢するだけ我慢した。そして状況は整った。
配られた台本を持つ皆の目が好戦的に輝く。舞園さんも不二咲クンも石丸クンも。
そしてきっと江ノ島さんも同じ目をするんだろう。
僕も、同じ目をしている。
→後書き
全員が2年間共に過ごしたクラスメイト。
苗木誠
全員のサポート役且つ雑用係
手伝いが板についてきて大抵のことはできるようになった
なんだかんだで皆を纏める鶴の一声的存在
霧切響子
情報解析、捜索担当
汚染物質の解析やマッピングを行う
彼女のお墨付きがないと安心して外に出られない
父の行方が心配
十神白夜
情報解析担当だがわりと何でもこなす
日曜大工が趣味になりつつあり、彼に壊れたものを渡せば修理されて返ってくる
性格は少し良くなったというか良くならざるを得なくなった
統率力もしっかりと身に付いている
腐川冬子
(十神の)雑用係
だが、十神に頼みごとをする際の良い中継役になるので、彼自身より声をかけられることが多い
苗木に次いで万能
葉隠康比呂
サポート且つカウンセリング担当
正直皆と一緒にあたふたしてるだけのお仕事
臓器に価値がなくなりつつあるので、もう臓器には興味がない
3割しか当たらないと分かっていても占いをして皆に運勢を教えたりする
朝日奈葵
内回り、護衛担当
施設内の点検や侵入者の兆候がないか探す
ドーナツ狂でお菓子作り担当でもある
外回りじゃない理由は絶望達に騙されてどっか行きそうだと全員に心配されたから
相棒は大神さくら
大神さくら
内回り、護衛担当
だが施設内の人間の護衛の方が多い
道場の皆が心配で、どこかで無事でいることを願っている
外回りじゃない理由は最後の砦だから
相棒は朝日奈葵
舞園さやか
サポート、農業、畜産、(公報)担当
公報の仕事は今はないけれど、いつか必要になる希望も含められている
農業や畜産してるのはいつか公報活動に役立てるため
セレス
農業、畜産、娯楽担当
だいたい畑か娯楽室にいる
農業しているのは紅茶の茶葉を栽培するため
畜産しているのは牛乳を生産するため
気が向いたら一緒に遊んでくれる
山田一二三
農業、畜産、(セレスの)雑用係
セレスに従う形で仕事しているが、美術室で絵を描いていることも多い
なので畑、娯楽室、美術室のいずれかに居ることが大半
お人好しでよくイジられる
不二咲千尋
情報全般係
パソコン関係で困ったら彼に聞け
世界各国に生存しているはずのまともな人間とどうにか交信できないか奮闘する日々
情報戦の最大兵器なので外出禁止
友達(大和田、石丸、桑田)が全員外回りなので少し寂しい
大和田紋土
外回り担当
改造バイクに乗って荒れ果てた世界を探索する毎日
石丸と桑田を乗せているので結構安全運転
絶望した人々に襲われることが多く、反撃している内にたびたび殺人を犯している
石丸を兄弟と呼ぶことがあるが別に義兄弟の契りを結んだわけではない
石丸清多夏
外回り担当
バイクに乗るときはヘルメット着用
殺人を嫌悪するが大和田に次ぐ頻度で人を殺し、その度に病んでいる
大和田を兄弟と呼ぶことがあるが別に義兄弟の契りを結んだわけではない
桑田怜恩
外回り担当
3ケツとかあり得ねーだろ!とかいいながらもバイクに乗せられ探索し続ける
一応殺人経験があり、そこそこ気に病むが石丸の病みっぷりが酷すぎて自分が気に病んでいると気づいていない
戦刃むくろ
(江ノ島、不二咲の)護衛担当
他の護衛は朝日奈と大神に任せ、江ノ島と不二咲に張り付く係
江ノ島の双子の姉で、妹からはそこそこ好かれている
妹のためにキビキビ働く他、武器に詳しいので意外と頼れる存在
フェンリル?なにそれおいしいの?
江ノ島盾子
モニター、カウンセリング担当
最も命を狙われやすいので外出禁止
モニターの仕事はぶっちゃけ無い
死なないのが役目
彼女が生きて此処にいるということがクラスメイトにとって何よりの希望である
2021/7/15誤字報告ありがとうございます。
すみません、「江ノ島循子」の「循」はわざとです。偽物は「江ノ島盾子」ではないので。