視点:桑田怜恩
今日は外回りの仕事がない。ので、俺は一日中皆のパシリになることが決定していた。
軽くノックして扉を開けると、案の定舞園ちゃんと戦刃がいた。
頭に雑誌を乗せた戦刃が平均台の上を歩いて、舞園ちゃんが監視してる感じだ。
舞園「はい、いち、に、さん、し、」
戦刃「ごぉ、ろく、しちっ…」
舞園「戦刃さん、もう少し背を伸ばして!」
戦刃「うう…」
桑田「よー、頑張ってんな。」
戦刃「あ、桑田…」
舞園「お疲れ様です桑田君、どうかしましたか?」
桑田「朝日奈と大神がドーナツ作ってるから食べに来いって。」
戦刃「ど、ドーナツ…!えと、私食べたいなぁ…」
戦刃が舞園ちゃんをチラチラ見てる。主導権は完全に舞園ちゃんが握ってるっぽいな。
舞園「…では、休憩にしましょう!」
戦刃「やった…!じゃあ先行ってるね!」
一目散に逃げていった戦刃に舞園ちゃんはため息をついた。
舞園「戦刃さん…」
桑田「大変だな、軍人をギャルにするって。」
舞園「…戦刃さんも覚えは速いんですよ、体が追い付いてないだけで。」
桑田「それもそれでどーなの?」
舞園「あはは…ほら、行きましょう?朝日奈さん達を待たせちゃいます。」
桑田「ういー。」
ダンガンロンパの再演。
よりリアルで、誰もが信じるような映像を作ることになってから、準備は続いていた。
つってもまぁ、目下の目標は「戦刃むくろ」を「偽江ノ島盾子」に仕立てることだ。
指導は江ノ島本人と舞園ちゃんによるものだが。見てりゃ分かる、相当厳しい。
無茶振りで混乱させてくる江ノ島と、何気に完璧主義な舞園ちゃん。この2人に板挟みされてる戦刃が不憫ですらある。
舞園「あの、桑田君…」
桑田「どした?」
舞園「そっち側歩くの、やめてくれませんか?」
そっち、と言って指差されたのは廊下の外側_要は窓がある側だ。
桑田「あー、わり。意識してなかったわ。」
シェルター化したときに出来たルール。
力がある連中は、廊下とかでも常に窓側を歩く。
万が一バリケードが破られて、外から 襲撃を食らった時でも咄嗟に誰かを守れるためだ。
最近はほぼ無意識にやってたから言われるまで忘れてた。
桑田「外側歩いてたら変?」
舞園「はい。わざわざ回り込んで外側を歩くのは、ちょっと違和感が…」
桑田「マジ?直さなきゃなぁ…」
舞園「けど、守ろうとしてくれてるのは嬉しいですよ。ありがとうございます。」
舞園ちゃんはフォローを忘れない。
「いつも笑顔で皆を幸せにすることが、アイドルの存在意義」だそうだ。
…なら、野球選手の存在意義って?
こーゆートコに嫉妬する俺ってマジにダセー。
…お、廊下の反対から来るの山田じゃん。セレスと一緒に居ないのは珍しいな。
山田「あ、桑田怜恩殿、舞園さやか殿。丁度良いところに!」
舞園「山田君、こんにちは!何か私たちに用事ですか?」
山田「ああまぁ、詳しくは食堂で。おやつの誘いを延長はできませんからな。」
桑田「食い意地張ってんなー。」
山田「ま、腹が減っては戦は出来ぬと言いますしおすし」
十神「おいお前達、ドアを塞ぐな邪魔だ。」
モノクマ「うぷぷぷぷ」
桑田「あ、わりーわりーってオイ!」
なんでこいつモノクマ抱えてんだ!?
腐川「クマのぬいぐるみを抱っこする白夜様も良い…!」
山田「まーギャップ萌え路線としてはアリですなぁ。」
そして外野が意外と冷静!
舞園「十神君と腐川さんもドーナツを食べに来たんですか?」
腐川「わ、悪い…?」
舞園「いえ、嬉しいです!折角だし、一緒に食べませんか?」
十神「断る。俺は忙しいんだ。」
朝日奈「ちょっと、何ドアの前で騒いでんの!」
うるさすぎたか、ついに食堂から朝日奈が出てきた。
大神「十神よ、これで良いか…?」
十神「ああ、丁度良い大きさだ。」
桑田「んだそれ、バスケット?」
大神(エプロン着用)からバスケットを受け取った十神はおもむろにモノクマを降ろした。
モノクマはバスケットを持って、トコトコとどっかに歩いていった。
モノクマ「うぷぷぷぷ…」
朝日奈「何あれ?」
舞園「かわいいですね!」
十神「モノクマの作業実験だ。不二咲を見つけ出し、ドーナツが入ったバスケットを無事届けられたら成功だな。」
そう言った十神はモノクマを見届けることもなく食堂に入っていった。やっぱオメーもドーナツ食いに来たのかよ。
朝日奈「はいどーぞ!いっぱいあるしまだまだ揚げるから限界まで食べていーよ!」
舞園「流石にそれは…」
桑田「んで山田、用ってなんだ?」
山田「あー、実は桑田怜恩殿と舞園さやか殿のツーショットが撮りたくてですね。出来れば動きのある絵がいいので協力願えないかと。」
舞園「私は構いませんよ。動きのある、というならキャッチボールでもしましょうか?」
桑田「いーぜ。けど後で俺にもくれよ、舞園ちゃんとのツーショ。」
山田「ええ勿論。感謝しますぞ!では後程、体育館で。」
舞園「なら、30分後に向かいますね。」
キャッチボールか。舞園ちゃん相手だから本気は出せないけど、久々だな。
そもそも遊ぶこと自体結構してない気がする。
桑田「なんか俺らだけ遊ぶのはワリーな。」
舞園「たまには良いんじゃないですか?それに桑田君はいつも頑張ってますし、休憩も必要ですよ。」
桑田「えぇ?俺はそんないつもホンキーとかじゃないけどな。」
舞園ちゃんはクスッと笑った。意地っ張りな俺の態度なんて全部お見通しだ、と言わんばかりだ。
付き合いが増えるにつれて、俺はクラスメイトからしょっちゅうこんな風に笑われる。連中の目はこう言ってる。
「わかってる、わかってる。努力してるって思われたくないんだろ?」
そんなガキを見るような目に、妙な生温かさに、どうにも恥ずかしくなる。
にしても、食べたドーナツが甘ったるい。朝日奈が砂糖の加減を間違えたのか?
山田「おぉっと桑田選手、顔が真っ赤だー!」
苗木「これは照れてますねー。ふふっ」
桑田「うっせーな!散れ散れ!」
山田「良いですか、くれぐれもカメラに写る速度で投げてくださいよ!」
桑田「舞園ちゃんが投げるんだからそんな号速球じゃねぇだろ…」
舞園「じゃ、いきますよ!」
スパン、と良い音を立てて白球が飛び込んできた。結構強いな。
パシャ、とカメラの音が鳴る。でも山田はまだカメラを降ろしてないから、何枚か撮るつもりなんかな。
出来るだけ受け取りやすいよう加減しつつ、こっちから投球。
投げ返されるボールは、へろへろ。なんとかキャッチする。
舞園「あ、ごめんなさい!」
桑田「いやダイジョブー」
初球のはビギナーズラックか。でも練習すればすぐ上達しそう。
その後もボールとグローブの衝突音、シャッター音が続いた。
舞園ちゃん息上がってきたけど大丈夫か?
と、思ってるところで漸く山田がOKサインを出した。
山田「なかなか良いのが撮れましたぞ~。」
山田が選んだのは、「投げきったポーズ」の舞園ちゃんと、「ちょっと逸れそうなボールを受け止めようと頑張ってる」俺の写真だった。
桑田「こんなんで良いのか?」
舞園「失敗したときのなので、ちょっと恥ずかしいですね…」
山田「萌えというのは多少不恰好な方が良いものですよ。」
桑田「よくわかんねー。」
…いや、ちょっとわかるかも?高嶺の花のおっちょこちょいなトコ、的な。
舞園「そういえば、写真を撮ったのって私たちだけなんですか?」
山田「いえ、ダンガンロンパのシナリオ用に、殺人の被害者&加害者の写真を撮ってますぞ。他の人も見ます?」
舞園「ぜひ!」
山田がカメラをいじるから、その手元を見る。
関係ねーけど、コイツ痩せたか?なんか指が細くなったような。
山田「まずはコレですな。」
桑田「お、おぉ…なんつーか、すごいインパクトだな…」
不二咲と大和田のツーショだ。
サウナで座ってる不二咲(限界が近い)。眼がやべぇ。肉食獣の眼光してやがる。
その隣で大和田がオロオロしてるから怖くはないんだがな。
舞園「不二咲君の性別を知らなかったら大混乱ですね!」
山田「ですな。」
次は大神一人の写真。
桑田「…」
舞園「…かわいい。」
山田「いやー、二次元専門のこの僕が、新しい扉開きかけるくらい全力でセッティングしましたからね!そりゃあね!」
ウサギやらネコやらの大量のぬいぐるみに囲まれて困った顔をしている。写りこんでる手は朝日奈か?ドーナツ押し付けてるな。
マジで一瞬誰かと思った。
よくここまでファンシーになったな。
山田「あとは…あ、この写真ですかな。」
今度は3人。石丸、山田、セレスだ。
山田を真ん中に。石丸とセレスが両隣に立って、それぞれ山田のほっぺたを人差し指で突いている。
…なんつーか、めっちゃ楽しそうな顔だな2人とも。容赦ねーからかな。
……つか、
桑田「山田、オメーやっぱブーデーだな…」
山田「やっぱとは何ですか!そんなしみじみと言われると余計悲しくなりますぞ!」
だって今さっきまでちょっと痩せたとか思ってたし…
舞園「押されて尚、画面の半分くらい占拠してますね。」
桑田「石丸とセレス若干見切れてるもんな。」
セレスの縦ロールとか片方しか写ってねぇ。
山田「うぅ…」
とは言っても、前より痩せたと思ってはいる。
やつれたのか、引き締まったのか。
俺はその両方だと思う。
励ましの意味も含めて、腕を叩く。思ったより堅い感触。あぁやっぱりな。
山田「?何ですかな?」
桑田「…ははっ、ぷにょぷにょ!」
教えてはやんねーけど!
視点:山田一二三
大和田「桑田、ちょっといーか?」
桑田「…あー、山田、もう用事は終わりか?」
山田「あ、ハイ。ありがとうございました。」
桑田「んで、どした大和田。」
大和田「まぁ食堂に来てくれよ、石丸の野郎がよぉ__」
体育館を出ていく桑田殿を見送りながら、視線を横に。舞園さやか殿は無言で桑田怜恩殿を見送っていました。どこか心配そうに。
舞園「…無理、してますよね。桑田君。」
山田「そうですなぁ。石丸清多夏殿や大和田紋土殿程ではないと思うのですが__」
舞園「それです。」
山田「え?」
舞園「…石丸君がかなり消耗しているのは皆知っています。最近は睡眠薬や抗うつ剤を服用することもあるみたいですし。」
えっなにそれ初耳。
舞園「大和田君も、外回りに加えて大道具の準備でちょっと疲れている感じがしますね。」
あ、漸く知ってる情報が。
舞園「…だから、桑田君はいつも気を張ってるんです。『あいつらはメンタルがあれだから、俺がしっかりしねーと』って。」
山田「彼が、そんなことを言ったのですか。」
意外です。が、府に落ちる気もします。
彼は野球選手であり、エース。
逆境に立ち向かい、チームを励ますリーダーは自身の弱音を隠すことに長けているのでしょう。
山田「彼は、限界を感じてもそれを隠すだろう、と?」
舞園「今の桑田君が限界だ、とは言いません。けど、そもそも限界を迎えさせてはいけないと思うんです。そうなる前に、私達で支えられないかなって。」
山田「確かに…しかし、どうすれば…」
舞園「わかりません…けど、桑田君が安心できる場所を作ることはできます。弱さを晒して、一息つけるような。」
山田「安心できる場所…」
なるほどそれなら用意できそうな気もします。気がするだけ、ですが。
舞園「…まぁ、今なにが出来るのかはわかりません!とりあえず笑顔が大事です、山田君!」
山田「そうですなぁ。舞園さやか殿も、あまり無理はしないでくださいね。」
舞園「私は大丈夫ですよ?色んな人とお話してますし。」
そういえばこの方の情報ネットワークは恐ろしいほど広いのでしたな…。
舞園「ふふっ」
山田「ヒェッ」
舞園「あ、すみません。セレスさんから聞いた山田君の話を思い出して…」
女子って怖っ
視点:腐川冬子
食堂は騒然としていた。
桑田「イインチョ、何?」
石丸「実は折り入って頼みがあるのだが…君は、身長が僕と同じくらいだろう?」
桑田「あ?まーな、いつか越すけどな。」
石丸「桑田君、これから石丸清多夏として生きていかないか!?」
桑田「イヤだわ!!」
原因はコイツらだ。
うるさいけど、白夜様が見てるからあたしも静観。
石丸「しかし__やはり僕には荷が重い!丸1日廃人化した後に狂人化する演技なんて無理だ!」
あ、これあたしと山田が関係あるわね…
腐川「ちょ、ちょっと!シナリオ作ったあたし達が悪いっていうの!」
石丸「居たのかね腐川君!そうではなくてだな、純粋にできる気がしないのだよ!」
十神「俺を挟んで怒鳴り合うな馬鹿共が!」
苗木「まぁまぁちょっと、落ち着いてよ皆…」
桑田「まあイインチョと、あと戦刃の役が異常にムズいのはわかる。他の奴らは割りと素の性格だからな。」
腐川「けど、妥協はできないわよ…」
大和田「そこをどうにか出来ねーかよ?」
腐川「あ、あんたに関係あるの?」
石丸「石田化した僕の演技指導が大和田君だぞ。」
大和田「おう、コイツの練習の賜物見てみっか?」
桑田「お、いーじゃんやってみろよ。」
石丸「む?了解した!
うおおぉぉおお!ぼ、お、オレはオレだぁ!」
…あたし並にどもってるわね…
大和田「相手に話聞いてほしい時は?」
石丸「静聴せよ!!」
大和田「ちげーよ!話聞けや!」
石丸「ハナシキケヤ!」
大和田「このヤロ…」
苗木「大和田君がゲンナリしてる…」
不二咲「リーゼントがへんにゃりしちゃってるよぉ…」
セレス「ウフフ、前途多難ですわね。」
桑田「…腐川、どうにかしてやれねーか?」
……。
腐川「い、嫌よ!キーポイントはどうしても変えられないわ!」
葉隠「めっちゃ迷ってたべ。」
山田「考慮してくれる辺り優しいですな。」
腐川「石丸…あたしと違って二重人格を演じるのは難しいと思うけど…どうにか頑張ってくれないかしら…?」
石丸「う、む…努力しよう。」
腐川「お、大和田も…あんたにしか出来ないのよ…」
大和田「…わぁーったよ。」
大和田が気まずそうに首を掻く。
面倒事押し付けても、なんだかんだで怒鳴りも殴りもしなくなったこいつは優しくなったと思う。
今も、あたしなんかの言うこときいてくれたし…
十神「そもそも、桑田にお前の役回りは無理だろう。」
苗木「えーっと、髭剃って、ピアス外して、髪切って黒染めして…」
舞園「え、誰の話ですか?」
朝日奈「そんなの桑田じゃないよ!」
桑田「そこまで言うのは酷くね!?」
葉隠「というかだな、なんで戦刃っちと石丸っちはこんな難しい役なんだべ?」
腐川「さっきも言ったけど、シナリオのキーポイントだからよ…黒幕の味方である戦刃、第三の殺人に繋がる石丸はどうしてもある程度の演技が必要なの。」
山田「あとはまぁ、善人の善人たる所を強調するためですなぁ。」
江ノ島「善人~?残念の間違いじゃなくて?」
山田「いや残念でもある気がしないでもないですが…」
誰にでも楽しめるチープなサスペンスには、登場人物として分かりやすい『善人と悪人』がどうしても必要になる。
善人を戦刃、石丸、大神、不二咲。
悪人を大和田、セレス。
その間に桑田と舞園、山田。
最低限に複雑で、最低限に簡潔に。必要経費ね。
腐川「だから、演技とか発狂とかは、まぁ…哀れみを誘うためね。」
石丸「成る程!わかったぞ!はっはっは!」
戦刃「(ドーナツおいしい)」
大和田「…哀れみ?」
不二咲「大和田君が混乱してるよぉ…」
本人達の普段の行いは関係ないわよ…
視点:桑田怜恩
…ったく、俺がイインチョになれるワケねーだろ。
と、後ろから肩に回される腕。
大和田「よぉ桑田、暇なら手伝えや。」
桑田「えー、内容によるわ。」
大和田「大道具の設置。俺と石丸じゃ終わんねぇんだよ。」
あ、そういえば俺が午前中色々パシらされてる間、こいつら大道具やってたんだったな。
桑田「ま、他に人手不足のトコってないんだろ?んじゃ手伝ってやるよ。何やんの?」
大和田「オメーの処刑装置。」
桑田「マジか…」
大和田「つっても組み立てだけな。木材切ったり色塗ったりとかは終わってっから。」
そっか自分でオシオキ装置作るのか…
と半ば衝撃を受けながらたどり着いたのは屋内駐車場だった。
車とかあるわけないから今は倉庫扱いになっている。薄暗くてだだっ広いそこは少し寒かった。
桑田「つーわけで加勢しに来たぜ。」
石丸「うむ、桑田君もきてくれるなら百人力だ!」
大和田「んじゃ、俺と石丸で俺の処刑装置作ってるから、そっちは頼むぞー。」
大和田は鉄骨を背負って行ってしまった。
あー大和田のってあのハムスターが回すカラカラみたいなやつか。あっちはあっちで大変そうだ。
桑田「…つか処刑装置じゃなくてオシオキ装置。」
処刑って言われるとめっちゃリアルに聞こえるからやめてくんねーかな。
桑田「さってとー。」
セッティングの図案を見る。これ山田が書いたやつか?絵は上手いのに字がやべー。
桑田「ええっと、セット1のグラウンド中心にアイアン塗装した杭を打ち込む…」
いかにも金属、という見た目のそれは軽い。木に色を塗ってあんのか。
桑田「鎖を巻き付けて…これも木かよ!」
なんつーか、安上がりだな…
桑田「手足の拘束具は、身長175cmを目安に…これ俺の身長か。」
じゃあわざわざメジャーとか使わなくても自分の体に合わせればいいな。
桑田「足のはこの辺で固定して…上に乗って…よいせっと…ん?これで良いのか?…えーと…」
がしゃん
桑田「!?」
嫌な予感。恐る恐る視線を下ろすと、足枷が俺の足にしっかり嵌まっていた。
……。
桑田「…大和田ー!イインチョー!助けて!」
大和田「どうした桑田!?…ぶはっ!オイなんだよソレ!自首か!?ひゃっはははは!」
石丸「敵襲かね!?む!?桑田君、何を遊んでいるのかね!なんというか少し滑稽だぞ!はっはっは!」
桑田「笑っている暇あんなら助けろ!」
大和田「千本ノック~」
ポイッポイッ
桑田「おい!」
石丸「では、僕は拘束具の鍵を持っている十神君のところに行ってくるとしよう!待っていてくれたまえ桑田君!」
桑田「は!?十神かよ!ちょっと待てイインチョ、せめて別の奴で__」
俺の願いも虚しく、この後やってきた十神にもボール投げられた。多分二十本ノックぐらいされた。
大和田「いやーセレスの処刑装置は楽でいいなー、ハリボテばっかで。」
石丸「まったくだな!磔は桑田君の物を使い回しできるし、一石二鳥だ!」
大和田「でも桑田の使い古しっつったらセレス怒りそうじゃね?」
石丸「黙っていればいいだろう?なんなら桑田君が使った後に消臭剤でも撒けば__」
コイツらうるせぇ。多分ハムスター(のカラカラ)もどきを作り終わってテンションが上がってるんだろう。
十神「…」
何気に居座ってる十神は無心で段ボールを切っている。
ギコギコ鳴らして炎の形が量産されてくのは結構面白い。
しばらくして。
十神「…こんなものか。おい、出来たぞ。」
壮大な城(ハリボテ)を組み立てる大和田とイインチョ、俺に十神が声をかけた。
おー、炎が大量。糊かなんかでくっついてるやつもある。
大和田「サンキュー十神!流石だな。」
石丸「おお、ありがとう十神君!やはりこういった仕事で君の右に出る者は居ないな!」
十神「フン、当然だ。」
桑田「眼鏡に糊が付いてるぞ。」
十神「…。じゃあ、俺は帰る。」
石丸「本当にありがとう!」
大和田「助かったぜ。」
十神は背を向けて去っていった。
あ、さりげなく眼鏡外して拭いた。
…十神も居なくなったことだし、この2人に言いたかったこと言おう。
桑田「なぁオメーらさ、十神のことテキトーにおだて過ぎじゃね?」
大和田「あ?そーか?」
石丸「そんなつもりはないが。」
桑田「だってさ、流石~とか右に出る者は~とか普通言わなくね?他の奴にはそういう褒め方しないし。」
なんか端から聞いててむず痒くなるんだよな。
大和田「いや、俺は『流石、自称でも超高校級の完璧だな』っつー意味で言ったからな。超高校級っぽいことしてたら他の奴にも言うぞ。」
桑田「あー、そういう?」
なんか納得。そういえば腐川がシナリオ持ってきた時も言ってたかも。
石丸「こういう根気が必要かつ単調な作業は十神君がずば抜けて得意だからな!」
桑田「オメーは面倒な仕事やらせたいだけだろ。」
大和田「でもよ、十神ってマジでめんどくせー事チマチマやるの上手いよな。」
石丸「この間は米に絵を描いていたぞ。」
桑田「それ誰がやらせたんだ?つかやらせた意味あんの?」
大和田「どーせセレスか霧切にノせられたんだろ。いつものことだ。」
……。
かわいそ…
桑田「まぁ腐川が黙って見てるなら大惨事にはならんだろ。俺しーらねっ」
大和田「お前そんな薄情だから軽い奴って思われるし加害者にされるんだろ。」
桑田「うっせーな10連敗かつ加害者!」
大和田「あ"ぁ!?」
石丸「2人共、アルターエゴ用の鉄球(発泡スチロール製)作りを手伝ってくれ!」
騒ぎながらも、シナリオで使うオシオキ装置を全部作り終わった。
達成感。
食堂に向かおうと、薄暗い駐車場から廊下に出た。急に明るいところに出ると光が眩しい。
つか廊下の色!赤って。色彩の暴力。
大和田「眩しっ」
桑田「だな。むしろ目が痛ぇ。」
石丸「ふむ、そういえば瞳の虹彩の色が薄い人は眩しさを感じやすいらしいな。」
桑田「へー。球場とか眩しーもんな。」
大和田「しぱしぱする…」
桑田「イインチョは眩しくねーの?」
石丸「恐らく君達ほどではないな。」
大和田「そりゃそんなギットギトの赤い目だったらなぁ…」
石丸「ギットギトとは擬態語として不適切ではないかね!」
いや大和田に賛成だわ。イインチョの目ってギラギラとかそんなもんだろ。
石丸「眩しいなら今度サングラスを調達しようか。」
桑田「(別にそこまでじゃねぇけどカッケーから)欲しいな。」
大和田「心の声駄々漏れだぞ桑田。」
と、食堂についた。
中では苗木と山田、不二咲、霧切がパソコンを見ている。謎のメンツだな。
やけに真剣にガン見してるけど、何かあったのか?
桑田「おーっす、何やって__」
苗木「く、桑田クン!?来ちゃ駄目だ!」
不二咲「ふえぇ!?桑田君!?」
霧切「山田君、その巨体でパソコン画面を覆うのよ!」
山田「ふぉ!?」
桑田「あ?なんだ?」
石丸「む?」
大和田「どーした?」
不二咲「大和田君、石丸君、ちょっとこっち来てねぇ。」
不二咲が大和田とイインチョを引っ張って何か説明してる。
え、俺だけハブ?
大和田「あー…桑田、なんかほら、十神が呼んでたぜ?」
石丸「そっそうだその通りだ!だからパソコンのことなんて忘れて行こう!」
桑田「んなわっかりやすい嘘に騙されるか!」
立ちはだかる大和田を押しやって飛びかかってくる不二咲を避け、おろおろしてる山田を小突いてパソコンを開く。
苗木「待って、桑田ク___」
その先の言葉は、聞こえなかった。
『__バッター、打ちました!』
ぐちゃり。
打った白いナニかはバットに当たって潰れた。
『_一塁、間に合っ__』
一塁に走ったバッター。本来ベースがあるはずのそこには、白装束で踞る、子ども?
容赦なく踏みぬかれる。
悲鳴。
『ピッチャー、第4球、投げました。』
一塁に向かってボールが放たれる。
先程のバッターに当たったそれが、爆発する。
此処にルールなんて無いのか?
『バッターが死んだので、デッドボール__』
パソコンを閉じた。
がちゃん。
その音に自分でビビって肩が震える。
誰も、何も言わなかった。
桑田「__なんだ、これ?」
苗木「…外の世界の映像だよ。不二咲クンと放送の準備をしてたら、見つけたんだ。」
桑田「…マジか。」
不二咲「ごめん、ごめんね桑田君、もっと強く止めていれば__」
オイ不二咲が泣いてるぞ。泣かせたのは誰だ、俺か?
怒るな、泣くな、笑え、俺。
桑田「気にすんな、不二咲!
だって、あんなの野球じゃねぇよ。」
野球はスポーツだ。勝っても負けても笑うものだ。拷問でも虐殺でもねぇ。
そうだ、あれは野球じゃねぇ。別の何かだ。
桑田「……野球じゃねぇよ…」
それでも、初めて。外が怖いと思った。
江ノ島「よー、凹んでるね。」
戦刃「…大丈夫?」
桑田「凹んでねーし、平気だ。」
江ノ島「ふーん…」
俺の向かいに江ノ島が、江ノ島の隣に戦刃が座る。「ん。」と差し出されたクッキーを遠慮なく摘まんでいると、江ノ島が口を開いた。
江ノ島「アタシは凹んだけどね。」
桑田「あ?」
江ノ島「初めて外見たとき。あんな瓦礫の山だったんだーって。」
そういえば、江ノ島が外見に行って夕飯時に来なかったことがあった。体調崩してたんだな。
江ノ島「もぉ、めっちゃブルーになってさー」
戦刃「吐いてたもんね盾子ちゃん…」
江ノ島「オイ残姉、ギャルはゲロなんて吐かねぇよ!」
桑田「自分で言ってるぞ江ノ島~」
つか物食ってる時にゲロの話すんな。
…ま、慰めに来てくれたのは確かなんだろーけど。
葉隠「よっ」
桑田「今度はオメーか葉隠。」
葉隠「ん?俺以外にも誰か居たんか?」
桑田「今日は色んな奴と会ってる気がすんだよな。」
葉隠「そりゃパシリで動き回ってるからそーなるべ!」
桑田「まーなぁ。」
セレス「あら。」
葉隠「おーセレスっち。」
セレス「ごきげんよう、葉隠君、桑田君。」
ダブルやすひろが集まったな。
セレスは台車にデッケー瓶を乗せて運んでいた。
瓶の中身は、
桑田「牛乳?」
セレス「ええ。」
ご機嫌っぽいのは多分、今からミルクティーでも作るからだろ。
桑田「冷蔵庫にソレ入れるんなら手伝うぜ。ほら来い葉隠。」
セレス「助かりますわ。」
葉隠「俺の意思は聞かんのか?」
文句言いつつ、ついてくるのが分かってるからな。
桑田「セイッ」
葉隠「おりゃあ!」
2人がかりでどうにか瓶を移動させる。セレスは別でとっておいた牛乳を火にかけていた。
作らせてる事が多いが、セレス自身でもミルクティーは作れるらしい。
なら最初から自分で作れと思わなくもないけど、多分あれはセレスなりの構ってちゃんなんだと思う。
食堂に戻ってたら、しばらくしてカップ3つとティーポットを盆に乗せたセレスがやってきた。
セレス「さっきはありがとうございます。よろしければ、どうぞ?」
葉隠「お、いただくべ!」
桑田「サンキュー。」
味の良し悪しはわからんが、とりあえずこれはうまい。
葉隠「あ、そうだ桑田っち。俺がさっき占った結果を教えてやるべ。」
桑田「別にい__」
葉隠「まあまあ、金取ったりしねーから!」
そりゃ貨幣価値ねーからな。
葉隠「俺の占いによると、桑田っちは仲間と触れあうことが大事と出てるべ。くだらない会話でもして心身共にリラックス!」
桑田「その占い、いつしたんだ?」
葉隠「今日の朝。」
桑田「ワリーが遅かったな葉隠。今日はもう全員会ったわ。」
少なくとも全員見た。
葉隠「えー!で、でもこの占いには続きがあるんだな、これが!」
だいぶ苦し紛れだが、大丈夫か…?
葉隠「そんなジト目で見なくても…
…ごほん、誰かの変化に気づけるのは桑田っちだけだべ。この調子でどんどん周りと関わってくといいな!」
桑田「変化ぁ?」
んな変化とか…あいつらするか?
朝日奈「あ、葉隠いた!腐川ちゃんがさっきから呼んでたよ!」
葉隠「えぇ、腐川っちが?俺なんかしたっけな…セレスっち、ごちそうさまだべ!」
そのままセレスの返事も聞かずにドタドタと食堂を出てった葉隠。おいカップ片付けろ。
セレス「賑やかですわね。」
桑田「ホントにな。」
不二咲「あれ、桑田君にセレスさん。」
セレス「ごきげんよう不二咲君。あなたも休憩に?」
不二咲「うぅん、休憩じゃなくて、モノクマにバイオ燃料使えないかの材料集めに来たんだぁ。」
桑田「…色々頑張ってるな。」
不二咲「皆ほどじゃないよ。でも、ありがとう。」
セレス「けれど、今日明日にでも本格的にダンガンロンパが始まるのでは?実験している余裕がありますの?」
不二咲「まぁ本番用のモノクマは2体あれば問題無いからねぇ、クローン機をいじってる最中かな。」
桑田「え、マジ?もう始まるの?」
戦刃とイインチョの演技の件は大丈夫なのか?
セレス「まぁ十神君が決めるでしょうから口出しはしませんわ。」
不二咲「十神君、早く始めようと一生懸命だもんね。」
ふーん…
十神「おいお前達、何の話をしているんだ。」
噂をすれば御曹司。
桑田「…………ん?」
不二咲「あ、十神君。」
セレス「大した話じゃありませんわ。」
十神「フン…」
朝日奈「あれ?なんか此処にいっぱい人いるね!」
大神「…うむ、何かあったのか?」
山田「あ、多恵子殿見てくださいよこの写真!」
苗木「ごめん誰か霧切さん見てない?」
舞園「霧切さんにサンプリングして欲しいものがあるんですが…」
霧切「私はカップラーメンを食べにきたのだけど、その後でいいかしら。」
腐川(ジェノ)「だぁから、アンタのガラス玉は割れる運命だって白夜様も言って___」
葉隠「それでも嫌なんだべぇ!」
大和田「あー、処刑装置作りって無駄に疲れるなぁ兄弟。」
石丸「そうだなおおわd兄弟!むぅ、また間違えたぞ!」
江ノ島「ゼツボーテキな人口密度なんだけど!」
戦刃「絶望的の使い方はそれでいいの…?」
うん、なんで全員集合?
まぁそれはいい、重要なことじゃない。
いつもより若干、赤い頬っぺた。
潤んだ目。
鼻が詰まってるのか、少し開いてる口。
ホントにちょっとの変化。それでもなお平然としているソイツの腕を掴んだ。
「___十神、オメー風邪引いてるだろ!」