視点:苗木誠
不二咲千尋は死ぬべくして死んだ人間だ。
これは誰でもない、全員の総意だった。
秘密が配られるまでの間は、大きく分けて2つのイベントがほぼ同時に起こる。
1つは大和田クンと石丸クンが義兄弟になる。
もう1つは腐川さんが十神クンに入れ込む。
腐川さんと十神クンに関してボクが干渉することはまずないから、石丸クンと大和田クンの喧嘩が重要になる。省けない過程だ。
……うん。省けない過程なんだけどさぁ。
苗木「わざわざサウナに何時間も籠る必要は無いよね!?」
大和田「勝負だ!」
石丸「望むところだ!」
苗木「あぁぁぁぁ…話聞いてない…」
ボクは台本通り立ち会い人になった…
不二咲「わぁ、苗木君いいなぁ。」
山田「やはり熱い友情のシーンは不可欠ですな。」
葉隠「リアルな話、どっちが勝つか賭けるべ?」
十神「ふん。たまには筋肉馬鹿共の勝負とやらを観察するのも良いだろう。」
腐川「…白夜様がいらっしゃるなら…」
苗木「うん?ちょっと待って皆立ち会いする気なの?」
セレス「いえ、舞園さん達の時と同じ、モニタールームで観戦しますわ。」
朝日奈「お菓子!ドーナツ持ってこー!」
大神「…飲み物も要るだろうか。」
苗木「…そうなんだ…」
江ノ島「うし。サウナにカメラ置いてきたからもう入っていいよ。」
大和田「おうわかった。」
石丸「うむ!自身の限界に挑戦するぞ!」
桑田「命だいじに、な。」
舞園「苗木君も役割終わったらモニタールームにいかがですか?」
あ、死んだメンバー出てきた。
苗木「そうだね。1人で部屋にいてもすることないし、あとでお邪魔するよ。」
にしても全員で、あの想像するだけでも暑苦しい勝負を観るのか…
娯楽の不足って結構深刻なんだな…
不二咲「僕もサウナに混ざりた__」
桑田「はいはい不二咲「ちゃん」はこっちでーす。」
うん、不二咲クンがサウナにいたらチャプター2の意味ないからね。
桑田クンに引きずられていく不二咲クンを見ながら、ボクも石丸クンと大和田クンに引きずられていった…
苗木「ねぇそろそろ戻らない?もう限界でしょ。」
石丸「なぁにをいう、まだまだぁ…」
大和田「オメーは、かえって、いいぞ…」
苗木「…じゃあボク帰るから。ほどほどに切り上げてね。」
ホント何時間居る気なんだろう…
勝負なんて5分で終わらせて、不二咲クンに編集してもらえばいいのに。
…これでどっちか、あるいは両方死んだ場合って見捨てたボクがクロになるんだろうか…
モノクマ『やぁ苗木クン。』
苗木「…江ノ島さんだよね?まぁ別の誰かが操作してるかもしれないけど。」
モノクマ『江ノ島盾子ちゃんですー。いやちょっと飲み物足りなくてね。食堂の冷蔵庫にジュース入ってるからこっち来るついでに持ってきてくれる?』
苗木「うん、わかった。」
冷蔵庫には果汁100%ジュースが沢山ある。シェルター内の果樹園で生産されたものだ。日持ちはしない。
苗木「よい、しょっと…」
両腕いっぱいに持ってくけど、足りるかな…まぁ、足りなかったら桑田クンとかがまた取りに来るよね。
腕が塞がって扉を開けられないので足でノックすると、内側から開いた。
苗木「皆、まだいる?」
不二咲「お疲れ様、苗木君。」
舞園「お疲れ様です。」
江ノ島「お、苗木おつー。」
大画面に石丸クンと大和田クンが映っている。
モニタールームでは皆それぞれにくつろいでいた。
不二咲クンと山田クンはそれぞれ自分のパソコンに向かっている。編集作業が大変なんだろうな。
手伝いたいけど、この2人に匹敵する技術は残りの14人には無い。
不二咲クンは名残惜しそうに大画面を見ている。
山田クンも時々視線を向けているから、全く興味が無いわけではないんだろう。
十神クンはコーヒーを飲みながらぼんやりと画面を見ていた。大分気が抜けてるなぁ…
朝日奈さん、大神さん、霧切さん、腐川さんはおしゃべりしつつ紙に何か書いていた。今後の立ち振舞いについて話しているみたい。
この4人はかなり終盤まで出演するから、行動に矛盾のないよう考えるのは大切だ。
とはいっても4人のうち朝日奈さんがほとんど喋っている。
…腐川さんの顔、あれ多分朝日奈さんの声を音として聞き流してるな。友達の声って耳さわり良いもんね。
江ノ島さんと舞園さんはモニターの真正面に陣取っているわりに画面を観るわけでもなく、色紙を持って何やら作業している。
何かあったのかな?
戦刃さんとセレスさんは何やら向かい合って座っていて、戦刃さんの後ろに桑田クンと葉隠クンがいた。
こっちはほぼ画面に興味がないようで、手元ばかりを見ている。
戦刃「…ん、どう?」
セレス「…プッシュ。引き分けですわね。」
戦刃「…駄目かぁ。」
苗木「そっちは何してるの?ジュース要る?」
桑田「お、苗木サンキュー。何って、ブラックジャックだよ。」
ブラックジャック、確かトランプを使うゲームだったよね。あれ賭けを前提にしたゲームだったと思うんだけど…
苗木「ブラックジャックかぁ。ボクはルールよく知らないけど、戦刃さんは得意なの?」
セレスさんについては聞くまでもないね。
セレス「いえ、今教えたばかりです。だから戦刃さんにはアドバイザーとして桑田君と葉隠君をつけていますわ。」
葉隠「つってもほぼ見てるだけだな。」
何というか…失礼だけど、あんまり役には立たなさそうだなぁ。
苗木「何か賭けてるの?」
桑田「ん。」
これ、と指差されたのは一口サイズのチョコレート。確かに戦刃さん側とセレスさん側に分かれている。
…持っている数は圧倒的にセレスさんが多い。
桑田「まぁ賭けてるワケじゃねーんだけど、個数で大体の勝ち数とか把握する的な?」
苗木「あー、確かに…」
正直、お金とか意味ないもんね。
セレス「さて、私達が飽きるまでには勝負が終わっていると良いのですが…」
セレスさんが横目に画面を見る。時間の目安にしてるらしい。
戦刃「え、もうちょっと遊ぼうよ…」
セレス「といってもずっとブラックジャックは…」
戦刃「…じゃあ他のとか…」
セレス「なら、簡単なババ抜きとかどうでしょう。桑田君と葉隠君も参加するとして、苗木君はどうします?」
苗木「ボクはジュース配ってくるよ。」
巻き込まれそうなのでジュースを言い訳に逃げ出す。ゲームはやるより見てる方が好きなんだよね。
好き勝手に散らばってる皆にジュースを配り、江ノ島さんと舞園さんに近づいた。
苗木「忙しそうだね、どうしたの?」
舞園「あ、苗木君。」
江ノ島「いや別に忙しいわけじゃ無いんだけど…ちょっとどーしよーか悩んでるのがあってね。ほら、これ。」
江ノ島さんが持っているのは…封筒?
あ、第2の動機。秘密が書いてある封筒だ。
江ノ島「大和田、不二咲、腐川は決まってるじゃん?でも他の奴らの秘密はなぁ。書くことがないっつーか。」
舞園「知られて困る秘密なんてそうそうありませんし。」
苗木「数少ない知られて困る秘密もバレてるからね。」
江ノ島「それが大和田と不二咲と腐川なんだよねー。」
うーん…
苗木「もう適当で良いんじゃない?ありもしないこと書いてあってもそれはそれでリアクションできるでしょ。」
舞園「そうしますか。」
江ノ島「んじゃ、残りの12人分作るか。舞園と苗木も手伝って~。」
苗木「もちろん。」
舞園「何書こうか悩みますね…」
渡された4枚の紙を前に考える。
…そうだなぁ。連続殺人鬼の腐川さんですら殺人をしなかったんだ、結構ヘビーな内容でもシナリオ上問題ない気がする。
かといって舞園さんと江ノ島さんも重い内容だと前科持ちがいっぱいのクラスになるから…
3枚は軽い内容のものを書いた。
江ノ島「そういえばさ、いつも朝は校内放送かけてるじゃん。」
苗木「うん。」
モノクマの『オマエラ、おはようございます。』ってやつだ。
江ノ島「あれいつもは録画使ってたんだけど、さっき間違えてデータ消しちゃったんだよね。」
苗木「え。」
大丈夫なの、それ…
江ノ島「っつーわけで明日から別の奴にモーニングコールさせるかも。」
舞園「楽しみにしててくださいねっ。」
どうやら舞園さんが一枚噛んでるみたいだ。まぁ、本人達が良いなら良いんじゃないかな。
朝日奈「あ、サウナ終わったみたいだよ!」
画面を見ると確かに、石丸クンと大和田クンがサウナを出ようとしていた。すっごい息も絶え絶えだけど大丈夫、だよね?
観察対象がいなくなってモニタールームは解散の流れになり、ボクも途中ですれ違った石丸クン達を労って寝た。
モノクマ『オマエラ、おはようございますっ』
いつもより少しだけ、軽やかな声。
翌朝、食堂。
石丸「はっはっはっはっは!」
大和田「ひゃっはっはっはっ!」
苗木「うん、仲直りしたなら、良かったよ…?」
不二咲「…いいなぁ…」
うーんうるさい。台本通りだけどまさかここまで完全再現されるとは思わなかった…
なんだろう、舞園さんと戦刃さん、桑田クンが退場してから静かでピリピリした空気だったからかな。笑い声が殊更場違いに感じられる。
腐川「人間スピーカーね…」
確かに…甲高いわけでもないのによく響く。
石丸「おおわd兄弟よ!」
大和田「おう兄弟!…オメーもうしゃべんなずっと笑ってろ。」
石丸「す、すまない…」
…訂正。わざと大袈裟に笑っているようだ。石丸クンに合わせてるんだろう。大和田クンも大変だなぁ…
十神クンが席を立った。
朝日奈「あれ、十神どっか行くの?」
朝日奈さんに声をかけられて、一瞬だけ言いにくそうに口を閉じた十神クンはそれでも耐えられなかったらしい。
マイクの拾わないような小さな声で呟いた。
十神「…演技だと、わかっていても、やかましい。」
山田「十神、心の俳句。」
…意図して5、7、5にしたつもりじゃなかったみたいで、茶化した山田クンが睨まれてる。
十神「…くだらん。」
吐き捨てられた言葉に被せるように、
ピーンポーンパーンポーン。
モノクマ『オマエラ、至急体育館に集合してください!』
…第2の動機だ。
配られた封筒を開く。
3人で書いた秘密は江ノ島さんが混ぜ、名前だけ書き足してランダムで封筒に入れてある。
だからボク作の秘密が誰に行き渡ったかはわからない。
さて、内容は…
『「苗木誠」は小学5年生までおねしょをしていた。』
って、これボクが書いたやつじゃないか!
どうせなら舞園さんか江ノ島さん作のものが見たかった…
この秘密もせっかく2人が忌避しそうなシモの内容だったのに、自分に当たったのがちょっと残念だ。
それはそうと、周りの様子は。
十神「な、なんだこれは…」
朝日奈「うそっ…」
皆、大和田クン達以外は白紙だと思っていたのか動揺が大きい。
山田クンとか大神さんとかちょっと笑いそうになってるんだけど…江ノ島さんネタ枠入れた?
モノクマ『24時間以内に殺人が起こらないと、この秘密を全世界に公表します!』
腐川「そんな…!」
石丸「よし!全員の秘密を共有しよう!」
もちろん却下された。台本の流れでもあったし、(自分で書いといてなんだけど)こんなありもしない恥を知られるなんてゴメンだ。
脅威の余波が冷めないまま、その場は解散した。
その夜。第1の殺人と同じく、ボク達はモニタールームに集まっていた。
といっても今回は十神クンも撮影される側。画面に映るのは3人だ。
男子更衣室で待っている大和田クン、ジャージを鞄に詰めている不二咲クン。時間潰しに自室で本を読んでいる十神クン。
…よく考えたら男子しかいないじゃないか。
絶対に逃せない撮影なので、江ノ島さんと山田クンが何度も撮影機材を確認している。
前回は不二咲クンがいたから心強かったんだけど、今回は彼も出演者だもんね。
ふいに、画面の大和田クンがズボンのポケットを漁る。出てきたのは、秘密の書かれた封筒だ。
それをじっと眺め、指先で弄んでから握り潰す。それをまたポケットに突っ込んだ時、更衣室に不二咲クンが入ってきた。
自身の生徒手帳が使われていないことを訝しむ大和田クン、そこに投下された爆弾発言。
一瞬の間の後、そうか、と大和田クンは受け入れた。
不二咲クンの秘密が共有された瞬間。
緩んだ空気の中、でも爆撃は終わっていなかった。
__男同士の約束。
握り潰した大和田クンとは違うと言わんばかりに、不二咲クンはその弱さを、強さを示した。
応える弱さは、暴力だった。
可愛らしいという言葉は昔から好きではなかった。
それでも、可愛いと言われる笑顔を浮かべていれば、誰もが優しくしてくれた。
砂糖のような幸福と依存性を伴うぬるま湯に浸かっていたのが、
あるいはそのぬるま湯から急に現実に這い上がろうとしたのが悪かったのだろうか。
自分の知る強さと、目の前の男が持つ強さは違うのだろうか。
__大和田君、どうしてそんなに弱々しい目で僕を見るの?
振り上げられたダンベルに、怯えた瞳の彼に、
失望?…違う。そんな感情すらも浮かばない。
ただ、理解不能。
__大和田君、一体どうしたの?
何も分からないまま、少年は倒れた。
殺してしまった。
頭より先に身体が動いた。
どうしよう、弁明すべきか、全部ゲロっちまうか。
…誰に?兄弟に?苗木に?それとも他の誰かに?
__不二咲に?
ぐるぐる考えこんでいる間に、「不二咲千尋が男である」証拠は隠滅されていく。もはや、自分の身体を自分の意思で制御できていなかった。
…そう、これで不二咲のプライドは守られたはずだ。
__プライド?命を奪っといて、プライドなんて。笑わせるなよ。
大和田「…っ兄貴…」
死体を抱えた感触は二度目だった。
大和田「……俺は強い、強い強い強い強い…」
江ノ島「__カット!桑田、マネキン設置!」
桑田「分かってる!」
苗木「お疲れさま!」
不二咲クンの死体移動が完了してから、マネキンと入れ替える。
十神クンが死体に工作するためだ。
舞園さんのときは本人にじっとしていてもらったけど、不二咲クンは吊るすし刺すしで損傷が多い。ヒトは使えない。
桑田クンが、倒れた不二咲クンと同じ格好でマネキンを寝かせる。同時に大和田クンと不二咲クンはモニタールームに入ってきた。
大和田「お疲れ。」
不二咲「お疲れ様。僕も今から裏方だね。」
戦刃「…ん。お疲れ。お菓子あるよ。」
不二咲「わぁ、ありがとう。」
大和田「サンキュ。やっぱ頭使った後は甘ぇもん食いたくなるよな。」
舞園「2人とも、結構平気そうですね。」
…自分が落ち込んでいた気恥ずかしさからか、舞園さんが顔を赤くして尋ねる。
それに対して2人はうーん、と微妙そうに唸った。
大和田「しょーじき、殺す瞬間に感情移入は出来なかったな。演技としては良くねぇんだろうが。」
不二咲「僕も、秘密を言うところまではのめり込めたんだけど…舞園さんと違って即死だから演技なんて無いし。」
霧切さんが頷く。
霧切「大和田君は、衝動的殺人だから。」
葉隠「?どういう意味だ?」
葉隠クンの問いをきっかけにノンストップ議論__もとい集中口撃が始まった。
腐川「つ、つまり、大和田の動機と殺人は場に流されれば誰にでもできることなのよ。」
セレス「逆に言えば場に流されなければ誰もしないと言うわけです。」
山田「通り魔的犯行と同じですな。要はシチュエーションが大事なのですよ。」
十神「…だが大和田は、自分のトラウマに対して既に区切りがついている。掘り返しながらでも、以前の精神状態を模倣することは難しい。」
朝日奈「…もっと分かりやすく言って。」
苗木「今の大和田クンと前の大和田クンは違いがありすぎて演じるのが難しい。」
朝日奈「なるほど!」
厳密には『殺人が絡む場合でのみ』違いが大きい、だけど。
大和田「つーか、俺の役目はむしろこっからだろ。裏方での運搬。」
苗木「あー…今までは桑田クンと戦刃さんに負担がかかってたみたいだからね。」
大和田クンが劇において早期退場するのは、こういう利点も考えられていた。最初は第1の殺人犯になる案もあったくらいだ。
と、話をしていると桑田クンが部屋に入ってきた。
桑田「ふぃー、運搬終わりー。」
苗木「お疲れ様、桑田クン。」
不二咲「わざわざごめんねぇ。」
桑田「いや別にいいけどさ、俺のマネキンも自分で運んだし。それよりあのマネキンって何なワケ?肌触りとか人間みたいだし重いし。」
不二咲「えっとね、あれはラブドー__」
!?
苗木「ストップ!ストップ!それ以上言ったらまずい気がする!」
不二咲「…ちょっと値段が張る人形だよぉ。だからあんまり無駄使いはできないんだ。」
桑田「うん、オブラートに包んでもらったトコ悪ぃんだけど苗木の反応で大体分かったわ。」
苗木「ボクのせい?」
十神「こちらも終わった。」
大神「早いな…」
十神「あの程度に長々と時間を取られる訳がないだろう。」
いつの間にか十神クンまでモニタールームへ来ていて、画面はチミドロフィーバーになっていた。
十神クンの顔は若干青い。
苗木「大丈夫?」
十神「あぁ…感触が、気持ち悪くてな。しばらくすれば治る。」
…マネキンの話かな?まぁ2度と触ることはないだろうし忘れて貰うしかない。
十神「人肌のように柔らかくて人の重みがある癖に、体温がないんだ…」
苗木「ちょっ、語らなくていいから。」
江ノ島「なんか、明日もいけそう?」
不二咲「僕はもう出ないから大和田君次第だね。」
大和田「俺は平気だ。十神は?」
十神「問題ない。」
江ノ島「はい、じゃあ明日も続行!」
ぞろぞろと全員が個室に戻る。
普段と変わらない大和田クンと不二咲クンに内心ホッとしつつ眠った。
モノクマ『ふぁ…オマエラ、おはようございまーす。』
いつもより少しだけ、ダルそうな声。
翌日。不二咲クンがいない。当たり前だけど。
探そうとめいめい席をたつ。一斉に更衣室へ行くのは明らかに不自然だから、十神クン以外は別のところへ散っていった。
ボクも十神クンの数分後に更衣室へ入る。
苗木「…うっ」
やっぱり血の匂いがする。キツいなぁ…
十神「ククッ…学級裁判だ。」
にやりと笑う十神クン、そこ匂いだいぶ強いと思うんだけど大丈夫かな。
さて。ここで、今回の犯人役である大和田クンを見てみよう。
前回は桑田クンをよく見る前に気絶したり戦刃さんが死んだりして、動きを観察できなかったからね。
まず死体発見時。
この時は普通、むしろ誰よりも驚いていたくらいだった。
当たり前か。十神クンに荒らされた現場は、もはや大和田クンの記憶する更衣室とは別物になっていたから。
次、捜査時。
義兄弟の石丸クンと喋っている場面をよく見かけるけど、その表情はやや暗い。でも人が死んでいるんだから別におかしなことじゃない。皆同じ位だ。
…うーん。普段の行動から犯人を特定するのって、かなり難しいんじゃないかな。こういうのが分かる人はすごいよね。
霧切「苗木君。」
苗木「え、霧切さんどうしたの?」
霧切「どうしたの、じゃないわ…大和田君のこと見すぎよ。様子が気になるのは分かるけれど、控えてちょうだい。」
苗木「あ、ごめん。」
犯人をジロジロ見てたら追々ヤラセを疑われてしまう。慌てて視線を落とした。
霧切「まったく…本人も気を張っているんだから、労ってあげなきゃ。桑田君のときも朝日奈さんや葉隠君が凝視して…」
苗木「あはは…」
面白半分に群がられて、冷や汗を流す桑田クンが想像できる。
なんだか野次馬根性が露呈したみたいで気恥ずかしい。
最後…学級裁判。
大和田クンは前回の裁判より口数が少なかった。ジェノサイダーとか冗談みたいな殺人鬼も出てきたし、下手な事を言うのを防ぎたかったんだろう。
むしろ、
石丸「待てって言っているじゃないかぁぁ!」
誰よりも石丸クンが口を開いていた。
微塵の抵抗も見せない大和田クンと、なりふり構わず叫ぶ石丸クンの様子は、殺人犯と第三者の立場が逆転しているようにさえ感じた。
裁判場を出ていく大和田クンの後を追う。
そこには既に、リーゼントのカツラと特効服を身に付けたマネキンがバイクに鎮座していた。
暴走したバイクは止まらない。
「狭い檻の中をぐるぐると廻る機械は、遠心力で逞しい男をバターに変えてしまいましたとさ。」
…桑田クンの時と同じだ。腹に響く轟音。
断続的に続くそれが煽るのは、不安と恐怖だ。
そして、低い重低音と重なるように、義兄弟の絶叫が谺する。
その不協和音に耳を塞ぎたかったけど、ボクの腕は動いてくれなかった。
魂を抉るほどの、絶望。
__そんな長い苦痛にも終わりが来る。
がらんがらん、と乗り手を失ったバイクが倒れた。
残された嘆きだけが響いていた。
食堂。撮影を切り上げ、大和田クン達もモニタールームから出てきていた。
そろそろ夕方が暮れろうとしている。
大和田「お疲れ。」
不二咲「無事に終わって良かった…!」
江ノ島「いや不二咲スゲーわやっぱ。作業が9割ぐらい楽になった気ぃする。」
江ノ島さんが不二咲クンの頭を撫でる。ずいぶん強引にわしゃわしゃと髪が乱されていた。
不二咲「わわっ…」
桑田「大和田も、助かった。やっぱ力仕事は2人要るよなぁ。」
山田「力こそパワー…」
桑田「…あと男子少なすぎて辛かった…」
大和田「ああ、そーいえばそーだったな。俺が来た時にはオメーも不二咲もいたから何も思わんかったが。」
桑田クン的には女子に囲まれるのは嬉しいはずだけど…まぁ状況が状況だよね。多分忙殺されていたんだろう。ボクが桑田クンでも喜べない。
舞園さんが食堂を見渡す。
舞園「あれ、石丸君は?」
葉隠「苗木っちに伝言伝えて部屋に戻ってたべ。石丸っちにしては珍しいと思ってたが、何かあったんか?」
苗木「あー…大和田クンに会ったら気が抜けるから、食堂には来ないって。」
憔悴していたから本気で心配だけど…演技に入れ込むのは悪いことじゃない、のかな。難しい役回りなら尚更。
戦刃「…ん。気持ちは分かるよ。」
戦刃さんも撮影の直前はほぼ誰とも顔を合わせなかったもんね。
朝日奈「じゃあ石丸の夕ご飯、部屋に持ってくの?戦刃ちゃんの時は江ノ島ちゃんが持ってってたよね。」
セレス「まぁそれが妥当でしょうけど夕飯にドーナツは入りませんよ。」
朝日奈「え?なんで?」
大神「…少々キツいだろう。」
腐川「…シナリオ上、戦刃は江ノ島と会っても良かったけど、石丸は誰とも接触して欲しくないのよね…」
十神「ならモノクマに持たせれば良いだろう。バスケットがあったはずだ。」
十神クンが持ってきてくれたバスケットに、何を入れるか見積もる。
苗木「…とりあえず、おにぎりかな?」
大和田「おかずも弁当箱に詰め込んで入れてやろーぜ。」
桑田「あとあいつもゼッテー喉痛めてるからのど飴な。」
舞園「経験者は語る、ですね。」
霧切「…まぁ、明日はほとんど喋る機会なんてないでしょう。喉は休められるのではないかしら。」
山田「そのまた翌日に僕と口論なので1日で治してほしいところですなぁ。」
山田クンと石丸クンの口論…アルターエゴか。
苗木「そういえば、アルターエゴって出来てるの?」
不二咲「うん。僕が1年生の時に作ったプロトタイプAIを改造したものだから、そこそこ良い感じの粗悪品になってるよぉ。」
そ、粗悪品…それでもボクには一生かかっても作れなさそうだ。
食堂を去っていくモノクマを見送って、ボク達も夕ご飯を食べることにした。
夜時間。あとはもう寝るだけなんだけど、つい退場した2人のことを考えてしまう。
超高校級のプログラマー、不二咲千尋。
腐川さんと山田クンがシナリオを作るとき、死ぬ人間で真っ先に上がったのが不二咲クンだったらしい。
決して不二咲クンが肉体面で弱いからではない。
現実問題としてプログラマーが脅威だったからだ。アルターエゴが良い例だと思う。
黒幕としても、確実に彼を殺しにかかる。
そのために、動機が個人で用意されていたんだ。特定の数人を狙い撃ちする発破だった。
不二咲クンが誰かを殺す__ではなく、誰かに殺されるような動機。
抜擢されたのは大和田クンだった。
大和田クンがお兄さんの死に深く関わったのは本当の話だ。
…第三者としての意見だけど、その死因はどう考えても事故だとしか思えない。
間接的な要因が大和田クンにあるとしても、あまりにも間接的すぎる。
大和田クンのせいじゃない。今では大和田クン自身もそのことを認めていて、お兄さんとの絆を誇らしく思っているとも言っていた。
ただ、それは今の話。
劇中の大和田クンはそれを受け入れるほど強くはなかった。自分で自分を追い詰め、爆発させてしまった。
…今回の事件、そのほとんどが黒幕の予想する展開だった。掌の上だったとも言える。
そして思わぬ副産物__ボク達にとっては更に悪いことに、次なる殺人の前兆は撒かれてしまった。
ところで、被害者役と殺人犯役はわざと顔色を悪くする特殊メイクを施してある。
霧切さんによると死相とかも再現しているらしい。ボクにはよく分からないけど。
まぁ要するに、死ぬ役と殺人役しかされない特殊メイクを、明日朝から施される役がいる。
…石丸クン。頑張ってね…ボクもフォローするから…
ものすごく不安を感じながら、目を閉じた。
→以下、キャラ設定
全員が2年間共に過ごしたクラスメイト。
苗木誠
全員のサポート役且つ雑用係
なんだかんだで皆を纏める鶴の一声的存在
主人公役のため一番疲れる
霧切響子
情報解析、捜索担当
汚染物質の解析やマッピングを行う
父の行方が心配
フル出演のため大変
十神白夜
情報解析担当だがわりと何でもこなす
性格は少し良くなったというか良くならざるを得なくなった
しかしまた悪くなる性格(演技)
腐川冬子
(十神の)雑用係
苗木に次いで万能
体力が尽きたらジェノサイダーに演技を投げる気でいる
葉隠康比呂
サポート且つカウンセリング担当
正直皆と一緒にあたふたしてるだけのお仕事
フル出演且つ和ませ役という荷の重い役
朝日奈葵
内回り、護衛担当
施設内の点検や侵入者の兆候がないか探す
ドーナツ狂
プールが開いたら好きなだけ泳いで良いというお達しに狂喜
大神さくら
内回り、護衛担当
だが施設内の人間の護衛の方が多い
彼女の容姿に違和感を持ち直さねばならない苦行
舞園さやか
サポート、農業、畜産、(公報)担当
公報の仕事は今はない
現役アイドルとして振る舞う準備は万全
早々に退場して裏方のサポートに入る
セレス
農業、畜産、娯楽担当
だいたい畑か娯楽室にいる
気が向いたら一緒に遊んでくれる
ミルクティーを飲む生活に変わりはない
山田一二三
農業、畜産、(セレスの)雑用係
セレスに従う形で仕事している
お人好しでよくイジられる
油芋を部屋にストック中
不二咲千尋
情報全般係
パソコン関係で困ったら彼に聞け
情報戦の最大兵器なので外出禁止
早々に退場して裏方のサポート、編集作業に入る
大和田紋土
外回り担当
改造バイクに乗って荒れ果てた世界を探索
早々に退場し、大道具の移動や死体の掃除など裏方の作業に入る
石丸清多夏
外回り担当
バイクに乗るときはヘルメット着用
最も演技力の要る役だが前半は号令係
桑田怜恩
外回り担当
バイクに乗せられ探索し続ける
早々に退場し、裏方の作業とモノクマの操作を一部受け持つ
戦刃むくろ
(江ノ島、不二咲の)護衛担当
他の護衛は朝日奈と大神に任せ、江ノ島と不二咲に張り付く係
江ノ島の双子の姉
早々に退場し、江ノ島のサポート且つ監視役
江ノ島盾子
モニター、カウンセリング担当
最も命を狙われやすいので外出禁止
死なないのが役目
モニター、カメラの管理、モノクマの操作など序盤は全て彼女の仕事
終盤にさしかかってからが出番