ただのお芝居だったのに【完結】   作:Ugly

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ただのお芝居だったのに8

 

 

視点:苗木誠

 

モノクマ『…オマエラ、おはようございます。』

 

いつもより少しだけ、涼しげな声。

 

 

ダンガンロンパ、そのシナリオも終わりに近づきつつある。

 

撮影開始前。

 

朝らしく澄んだ空気には独特の緊張感が含まれていた。

 

朝日奈さんは屈伸をしているし、葉隠クンも伸びをしている。

十神クンはいつもより濃いめのコーヒーを飲んでいて、その傍にいる腐川さんも硬直気味に佇んでいる。

唯一様子が変わらないのは霧切さんかな。

 

 

…まぁ、そんな清廉さをぶち壊すのが78期生なんだけどね。

 

舞園「お菓子、何を用意しましょうか。」

 

大神「ドーナツは止めておこう、朝日奈が怒る…」

 

セレス「せっかくですからゲームでも持っていきましょう。」

 

江ノ島「小型モニターも持ってこーよ。操作は不二咲だから何もできないけど。あとモノクマ操作機とーマイクとー、そんぐらい?」

 

 

石丸「では行ってきます!」

 

大和田「ねみぃ…」

 

桑田「運転中に寝るなよ大和田。」

 

不二咲「行ってらっしゃい!」

 

山田「いてらー。さてパソコン運び出しますかぁ。」

 

慌ただしく横切っていった退場メンバーを見送りながら、ボクは百鬼夜行のことを考えていた。

 

 

 

戦刃「…」

 

あれ、戦刃さんが皆とは別の方に。

細長い物を引きずっている。

 

苗木「戦刃さん、手伝う?」

 

戦刃「苗木…?止めたほうが良いよ。」

 

…この顔。

たぶんボクが手伝っても足手まといになるって顔だ。

 

苗木「…ん?戦刃さん、それ__」

 

よく見ると細長い物はマネキンだった。変なマスクをしている…

 

戦刃「これ、爆発物。」

 

苗木「…ヨロシク。気をつけてね。」

 

戦刃「ん…」

 

爆発物にしては乱暴な扱いで、戦刃さんはそれを運んでいった。

 

 

 

 

 

しばらくすると放送が流れる。

 

ピーンポーンパーンポーン。

 

モノクマ『全員、待機と配置及び外出完了!レディ__アクション!』

 

 

 

 

 

 

ボクのオシオキもどき(といってもマネキンが受けたんだけど)が終わった直後のこと。

 

苗木「これからどうしようか、カップ麺の妖精さん。」

 

霧切「苗木君、私でも怒るときは怒るのよ。」

 

苗木「ごめん。先にはしご登る?」

 

霧切「…私、スカートを履いているの。」

 

台詞通りの行動を一連終えて、ボクからはしごを登る。

 

…それにしても、まっすぐ90度のはしご登るのって結構辛いんだね。しかも長いし…

 

なんとかはしごの中間辺りに来た、その時。

 

ずるっ

 

霧切「…………あっ」

 

苗木「え?」

 

下を見ると、霧切さんはこちらに手を伸ばしたまま__

 

落ちていった。

 

 

苗木「霧切さんッ!」

 

 

 

ぼふっ

 

霧切「っ……平気よ。」

 

苗木「よ、よかった…」

 

下は緩和材になるよう、クッションやソファーなどがごみ袋に入れられて敷き詰められている。

たいてい新品だ。撮影が終わったらまた使うらしいし。

 

霧切「万が一を考えて用意してもらっていて良かったわ。」

 

苗木「手袋が滑ったの?」

 

霧切「ええ。…使い始めてずいぶん経つから、少し擦りきれているのよ。次は気をつけるから問題ないわ。」

 

そのあとは何事もなかったかのように登れたけど、本当に肝が冷えた…

 

 

 

 

 

 

霧切「さ、行きましょう。」

 

はしごを登りきり、迷いのない足取りで霧切さんが歩いていく。

 

苗木「…ちょっと、待っ…」

 

膝が限界を訴えていたボクはストップをかけた。

 

ホントに待って今膝が大爆笑してるから…

 

霧切「…」

 

霧切さんはくるりと振り返って、音を出さずに唇を動かした。

 

 

江ノ島さんが、待ってるわ。

 

 

霧切「ほら、早く。」

 

苗木「…うん。」

 

急がなきゃ。

 

待ちくたびれているだろう江ノ島さんのためにも、膝を1度叩いて踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

広がる煙。扉が開く音。

 

 

江ノ島「待っていたわ!私様は待っていたのよ!」

 

 

江ノ島盾子は「超高校級のギャル」だ。

そして今回に限り、「超高校級の分析者」と「超高校級の絶望」の肩書きをも持って登場する。

 

 

江ノ島「あなた達のような人間が現れることをね!」

 

 

同じく「超高校級の絶望」である戦刃むくろを利用し、その生を踏みにじって。

 

江ノ島「___可愛くて天才で、しかも妹という設定が、アタシ。」

 

 

 

ボクは待っていたのかもしれない。

 

 

 

「超高校級の絶望」として勝手に祭り上げられ、鬱憤を募らせつつ今の今まで全く登場できなかった彼女の。

 

 

 

 

江ノ島「江ノ島、盾子ちゃーーーん!!」

 

 

 

生き生きと輝く姿を!

 

 

 

__感動のあまり、つい熱が入ってしまったのは仕方のないことだと思う。

 

 

 

 

 

 

ボク達を希望とするなら、絶望はその鏡でなければならないと。

確か、腐川さんがそう言っていた。

 

それは正反対という意味であり、写し絵という意味だった。

 

 

江ノ島「ねぇ、絶望した?」

 

 

監視カメラからはきっと見えない。

 

江ノ島さんの瞳の奥。

隠しきれない怯えの色を。

 

 

江ノ島「この世界に希望なんてないんだよ!」

 

ボク達の心を、不安を煽り、絶望へ突き落とす言葉は彼女をも傷つけていた。

 

 

霧切「まさか、あなたは、全てを見越していたと言うの…?」

 

江ノ島「そうだと言ったら、どうする?」

 

 

円陣を描く遺影。

彼らの身長に合わせて高さが調節されたそれは、本物と1cmも違わないんだろう。

見回す江ノ島さんの瞳が、一瞬だけ揺れる。

 

苗木「それでも!」

 

 

大声を出して、真正面から見据えて。その視線をこちらに向けた。

ボクの隣に立つ、生き残った5人も、江ノ島さんを見ている。

1本の線のように、ボク達の間には透明な橋ができた。

 

他の席を見てはいけない。希望も絶望も揺らぐから。

 

 

苗木「…ボクは飽きたりしない__」

 

江ノ島「はぁ?」

 

苗木「逃げたりしない__」

 

江ノ島「死にたいのですか?」

 

苗木「絶望なんてしない!」

 

…最後のは、嘘だ。けど、江ノ島さんを絶望とするなら。ボクは希望でなければいけないから。

 

 

 

江ノ島「明日に絶望しろ!」

 

ボク達が毎晩おやすみを言い合うのは、明日があるのが当然だからだ。

 

 

江ノ島「未知に絶望しろ!」

 

外の世界を見て平気でいられたのは、皆がいたからだ。

 

 

江ノ島「思い出に絶望しろーーーーっ!!」

 

何よりも、皆が大事だから。江ノ島さんにとって、ボクにとって。

 

 

 

 

苗木「希望は前へ進むんだ!!」

 

その絶望も背負うから。

 

 

 

 

 

 

 

ダン、ダン、プレス機がその身体に迫る。

 

ついさっきボクのマネキンが受けたオシオキを、違う服を着ただけのマネキンが受けていた。

 

片手にモノクマを抱えて、もう片手はこちらに手を振るようなポーズをとっている。

 

 

直前で床が開くこともなく。誰の助けが入るわけでもなく。

 

__一切の記憶もない劇中のボク達が、江ノ島さんを救うわけもなく。

 

 

 

 

控えめな微笑を浮かべた無機物は、ぐしゃりと音をたてて潰れた。

 

 

 

あまりにもあっけない最期だった。

 

 

 

ピーンポーンパーンポーン。

 

モノクマ『__これにて、ダンガンロンパ、シナリオ全過程を終了したことを、ここに宣言する!』

 

 

 

 

 

苗木「待ってまだ外に出るとこ撮ってない!」

 

 

モノクマ『あ。』

 

朝日奈「詰めが甘いよ、江ノ島ちゃん!」

 

葉隠「朝日奈っち渾身のどや顔だべ!」

 

十神「ちょっとお前ら黙ってろ!」

 

 

 

 

 

 

その日の夕御飯はいつにも増して豪華だった。

 

 

退場メンバーはボク達が裁判していたあたりから食堂に移動して、料理を作り始めてくれていたらしい。

 

冷凍してあった牛肉を解凍してハンバーグにしたり、シチューを大量に作ったり。

あとは鳥の丸焼きとかケーキとか、なんだかクリスマスみたいな料理が並んでいる。

 

……餃子とドーナツについては触れないでおこう。明らかに異彩を放っているけど突っ込んだら負けな気がする。

 

 

苗木「お疲れ様!」

 

霧切「お疲れ様ね。」

 

十神「フン。まぁ全員が相応の働きはしただろう。」

 

腐川「やっと終わったわね…」

 

朝日奈「おつかれ!さくらちゃーん!」

 

葉隠「はぁーもうやりたくないべ…」

 

大皿に盛られた料理を各自で取り分けて、皆食堂で散り散りになる。ボクも皿を片手に、食べる場所を探しだした。

 

 

 

江ノ島「最後のオシオキにマネキン6体も潰しちゃったよー。」

 

不二咲「うーん、もう使わないし良いんじゃない?」

 

戦刃「余ったら…人形爆弾にしたかったけど…」

 

不二咲「あ、それでも良かったねぇ。人形の前方からホログラム掛けて陽動にしたり…」

 

江ノ島「ん、あれまだ使い道あんのね。たくさんダメにしたけどまだ在庫あるし、あとで見に行って__」

 

不二咲「うーん、その前に僕は編集作業が残ってるけど終わってから__」

 

なんかすごい不穏な作戦が練られてる…

意見を求められたら困るから、早々に離れよう。ボクの存在が場違いにも程がある。

 

 

 

 

山田「あのーセレス殿。」

 

セレス「なんでしょう。」

 

山田「餃子とミルクティーという謎の組み合わせに僕は目を疑っているのですが。」

 

セレス「たまには良いものですよ。ロイヤルミルクティーも餃子も余っているのですから、試してみたらどうです?」

 

山田「えぇ…あ、まぁ味が喧嘩するわけではありませんな。」

 

セレス「でしょう?」

 

味が喧嘩しない=おいしい、なのかな…

山田クンはオブラートに包む言い方が多いからよく分からない。

気になるけど放っておこう。首を突っ込んだらややこしいことになりそうだ。

 

 

 

 

葉隠「へぁぁ…」

 

机に突伏しているウニ…ではなく葉隠クンは食欲より睡眠欲が勝っているみたいで、料理を取ることもなく寝始めた。

 

多分あとで起き出して食べると思うから、取り分けておこうかな?

…うーん、でも一応成人してるし、そこまでお節介焼くのもなんだかなぁ。お腹が空いたら自分でどうにかするか。

 

ブランケットを被せて、起こさないようそっと離れた。

 

 

 

 

 

朝日奈「さくらちゃんー。」

 

大神「…」

 

大神さんは朝日奈さんの口にドーナツを放り込んでいた。あらかじめ皿に乗せて、フォークで1口サイズに切っているあたりプロ(?)だ。

 

大和田「餌付けされてる犬だな。」

 

桑田「食べるたんびに鳴くのって猫じゃねーの?犬は待てるじゃん。」

 

石丸「僕には餌を食べる金魚に見えるのだが…」

 

腐川「む、むしろ介護の域でしょこれ。」

 

十神「……朝日奈、幼児返りか。」

 

なんか見てる皆それぞれ違う感想みたいだ。

プロのドーナツ食べ職人と食べさせ職人っていう案は無い…んだね。

 

大神「…慣れた。」

 

苗木「そっか…」

 

 

 

舞園「お疲れ様です。大変でしたね!」

 

霧切「…そうね。あっちで朝日奈さんも赤ちゃん返りしてたし…あなた達の協力もあっての成功よ。裏方ありがとう。」

 

舞園「えへへっ霧切さんにそう言われると照れちゃいますね!」

 

舞園さんは霧切さんの手に何か塗り込んでいる。薄い手袋がテーブルに置かれていた。

 

苗木「お疲れ様ー。」

 

舞園「あ、苗木君!」

 

霧切「あ、行き場もなくこんな食堂の隅まで来てしまった苗木君。」

 

苗木「あってるけどハッキリ言われると悲しい!」

 

舞園「まあまあ…」

 

霧切「ママ?私はあなたのママじゃないわよ。」

 

苗木「霧切さん脊髄反射で会話するのやめて。」

 

そうだった、霧切さんって頭働かなくなったらこうなるんだった…

 

苗木「ここ座っていい?」

 

舞園「どうぞ。話相手になれるかはわかりませんけど…」

 

苗木「ご飯食べる場所が欲しいだけだから気にしないで。いただきます。」

舞園「はい。…霧切さん、終わりましたよ。」

 

霧切「ありがとう。」

 

元通り手袋を嵌めた霧切さんが薄く微笑んだ。舞園さんも花が咲くように笑う。

 

表情の程度が違うのに込められた気持ちは同じなんて、人間って複雑に出来てるなぁ。

 

 

霧切「手間かけさせたわね。」

 

舞園「いいえ全然!けど、やっぱり塗っておくと違いますよね?」

 

霧切「そうね。前までは時々痒くなることがあったけれど、それを塗り始めてからは全く。」

 

それ、と動く視線の先を追う。何かの塗り薬かな?

なんとかジェル、って書いてある。

 

舞園「傷痕とかのケアをする薬ですよ、苗木君。」

 

苗木「あ、見てたのバレた?」

 

舞園「近くに座っているんですから、そりゃバレます。」

 

霧切「……私、半年ほど前まではこういった物に頼らないようにしていたのだけれど。医学の力は偉大ね。まだ失われていないことを祈るばかりだわ。」

 

舞園「まったくです。」

 

苗木「そうだね。」

 

命を救うものから、過去の傷痕を消すものまで。

医学だけじゃない、守るべきものは沢山あるんだ。

 

舞園「さ、ご飯取りに行きましょうか。」

 

霧切「そうね。」

 

2人がテーブルから離れてしまったので、彼女達が戻ってくるまでボクはまた独りだった…

 

数分間の孤独って何気に辛いよね。

 

 

 

 

 

モノクマ『オマエラ、おはようございます…』

 

いつもより少しだけ、厳かな声。

 

 

 

 

翌日からボク達はいつもの生活に戻った。

 

 

外回りと内回り。農業や畜産、雑用。

 

 

違うところは、不二咲クンと山田クンが編集作業につきっきりってことくらいかな。

2人の姿をほとんど見かけなくなった。

 

 

あとは、放送が始まって襲撃されると危ないから、シェルター内の点検を徹底的にしたり食料や薬の在庫確認をした。

 

これまでのシェルターより、頑丈に。攻撃されても耐えられるように。

 

大神さんと戦刃さんのお墨付きをもらった此処はもはや要塞と言ってもいいかもしれない。

 

 

ダンガンロンパが編集も含め本当に完成したのは、さらに1週間後だった。

 

 

 

 

全員でモニタールームに集まった。

 

不二咲「じゃあ、放映するよぉ…」

 

タン、とエンターキーが沈む。

何も映っていなかった大画面に、突然暗い教室が現れる。

…ボクだ。

 

 

 

 

と、同時に。

 

戦刃「…始まった。」

 

窓のバリケードを一部だけ取り除いて作った覗き窓。

 

そこからスナイパーライフルを差し込んで遠くを見張っていた戦刃さんが呟いた。

 

 

江ノ島「じゃ、放送は成功ってことでいーの?」

 

戦刃「ん…皆、画面見てる。」

 

 

絶望の連中が、ボク達の存在をハッキリと知ってしまった。

いや、知らせたんだ。他でもないボク達の手で。

 

 

放送中や、その後。どれくらいの人が此処に来るんだろう。

 

 

十神「防衛戦か。面白くなってきたな。」

 

大和田「ま、放送終わるまでは引きこもりだろ。」

 

 

舞園「皆さん、できるだけ複数で固まって行動しましょうね。」

 

霧切「そうね。あと、勝手に外に出ないように。」

 

山田「多分今から外に出たら蜂の巣でしょうなぁ。」

 

桑田「蜂の巣どころかミンチじゃね?」

 

朝日奈「お腹すいたー。」

 

腐川「よく今の流れで言えたわね…!?」

 

 

 

葉隠「次に外見られるのは何日後になるんかなぁ。」

 

大神「放送の進み具合によるな…」

 

不二咲「うーん、2週間はあると考えてほしいかな。」

 

葉隠「俺の占いによると__」

 

苗木「葉隠クンは占いより直感の方が良いと思うよ。」

 

セレス「そうなると超高校級の肩書きも変えた方がよろしいのでは?」

 

桑田「超高校級のカウンセラーとか?」

 

大和田「あ?似たよーなの先輩に居なかったか?」

 

霧切「先輩って、77期生?確か、超高校級の相談窓口と呼ばれる生徒がいたはずよ。正式な呼称じゃなかったけれど。」

 

朝日奈「先輩達ってどこにいるのかな…」

 

葉隠「なんにせよ被りは駄目だべ。だからカウンセラーはパス。」

 

腐川「幸運も被ってるのに…」

 

苗木「そりゃ幸運は毎年選出だからね…」

 

山田「御曹司も被ってませんでしたかな?」

 

十神「…おい。」

 

山田「冗談ですぅ。」

 

 

戦刃「…バリケード塞いだから、もう食堂行こ。」

 

江ノ島「え、もう塞いじゃったの?換気できるからペディキュアしようと思ったのに~。」

 

戦刃「ご、ごめん盾子ちゃん…でも、ここで裸足になって足上げるのはちょっと…はしたないよ…」

 

石丸「江ノ島くん、ブーツを上から踏んで潰すんじゃない!皺が残ってみっともないだろう!」

 

江ノ島「やべっうるさいブーツだ!逃げろー!」

 

石丸「あ、こらっ!」

 

ガッガッガッ…ゴツッゴツッゴツッ…

 

葉隠「ブーツの足音うるさいべ!」

 

大和田「言っとくがオメーのサンダルもペタペタうるせーぞ。」

 

戦刃「盾子ちゃん…待って…」

 

苗木「…皆、食堂行こっか。」

 

舞園「ですねっ。」

 

 

 

 

 

まぁそんなこんなで意気込みは充分だったんだけど。

 

 

 

シェルターの籠城は、とても上手くいっているというわけではなかった。

 

 

放送中は、不二咲クンや山田クンがずっとモニタールームに張り付いて監視している。2人居ないだけでいつもどことなく物寂しかった。

 

 

 

 

さらにシェルターの外からは常に爆発音や破壊音が漏れ聞こえてくる。

 

想定通り__というか当然ながら、絶望の奴らが襲撃に来ているんだ。

 

放送中、それも昼時間の襲撃が特に多い。

 

ほんの少しの音だから、最低限の生活に支障は無いけど。鳴り続ける脅威は心を蝕んだ。

 

 

奴らは絶望を鑑賞するだけじゃ飽き足らず、それを阻もうともしている。

 

それは囚われたボク達を助けようとか、そんな生優しい動機からの行動じゃない。

 

 

絶望を壊す絶望。

 

 

そんなくだらない快楽のために、断続的な襲撃は続いていた。

 

 

それでも救いだったのは、その破滅的な絶望を望む連中はあまり多くないということ。

 

 

シェルター周囲に設置された監視カメラを見るに、(モノクママスク越しで顔は分からないけど)決まった奴らがいつも襲いに来ている。

 

だからシェルターの耐久がもたないということはない、と思う。

 

 

ただ、怖いのは最終日。

 

放送で外へ出るシーンに合わせて、ボク達も実際に外へ出ることになっている。

 

扉が開く時、どれだけの絶望が此処に集まるんだろう。

 

 

想像するのも嫌なその瞬間は、確実に迫ってきていた。

 

 

 

 

そんなときだった。

不二咲クンが全員を召集したのは。

 

 

 

不二咲「皆、忙しいのにごめんねぇ。」

 

不二咲クンが身を縮こませるけど、申し訳なさそうな態度ではない。必要なことだと本気で思っている様子だった。

 

…不二咲クンにしては珍しい。よっぽどのことみたいだ。

 

霧切「構わないわ、あなたよりは暇だもの。」

 

セレス「一段落ついていたので大丈夫です。」

 

十神「お前の提案は暇潰しにちょうど良い。聞いてやる。」

 

十神クン、君暇じゃないでしょ…

 

大和田「別に良いが外回りまで中止させるってなんかあったか?」

 

朝日奈「内回りも呼ばれてるよー。」

 

 

あ、ホントだ。誰かがここまで大々的に集めるのは本当に久しぶりだなぁ。

 

 

不二咲「うん。何かあったというか、現在進行形で被害に遭っているというか…」

 

葉隠「被害?なんか困ったことあったっけか?」

 

不二咲「生活する上では問題ないけど、通信に困ってるんだ。…でも、やっぱり、どうしよう…」

 

何か悩んでいるみたいで、言い淀んでいる。

 

苗木「何かボク達にできることがあるの?」

 

不二咲「…うん。でも、すごく迷惑をかけると思うし…」

 

桑田「んだよ水くせーなぁ。ここまで来たんだから全部言っちまえよ。」

 

不二咲「…そうだね。皆、協力してほしいことがあるんだ。」

 

 

伏せていた目を上げて、彼はボク達を見た。

 

 

不二咲「破壊活動をしよう。」

 

苗木「…え?」

 

 

 

 

 

不二咲クン曰く。

 

半年もの間、誰とも通信が取れないのは流石におかしい。

 

これは絶望の奴らがボク達の電波を傍受しているせいだ。

…その可能性は前から考えていたけど、確信はしていなかったから動くに動けなかった。

 

でも最近になってようやく、妨害されている確証が得られた。

 

 

__傍受している機械を壊せば、誰かと通信がとれるかもしれないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モノクマ『3、2、1__』

 

ガコン、と大きな扉が開く。画面に映る放送と少しも違わずに。

 

苗木『やっと、外に出られるんだね__』

 

画面の中のボクの台詞が白々しい。

 

 

だって門の外には地獄が広がってるんだから。

 

蠢くのは絶望の連中。ナイフやらブラックジャックやら物騒な武器を持っているのもちらほら。

 

流石に銃器は見当たらないけど、居ないとも限らない。

 

__いつも来る数よりずっと多い!

 

並び立つ6人のうち、誰かの息を呑む音が聞こえた。あるいは全員かもしれない。

 

感じるのは純粋な恐怖だった。

 

 

それでも。

 

ボクはまだ、恐怖に抗える。他の皆だって。

 

 

ボク達の目の前で、爆発が起きた。

 

仕掛けてもらっていた爆弾だ。

 

もうもうと煙があがって、絶望とボク達は一瞬互いが見えなくなる。

 

 

 

 

その隙に、シェルターの裏へ回り込んだ。

 

裏口扉が少し開いていて、6人でそこに身を滑り込ませる。

 

 

そこには大型バイク(改造3人乗り版)が3台と、大和田クン、桑田クン、石丸クンがいた。

 

…いつの間に改造バイク増えたんだ…

 

 

大和田「お、来たか。」

 

桑田「やっとか。遅かったなぁ。」

 

苗木「そ、そうかな?」

 

石丸「ほら、全員ヘルメットを着けたまえ!」

 

渡されたそれはモノクマの頭を象っていた。

 

霧切「何かしらこれ。」

 

十神「…まぁ、無いよりは良いだろう。」

 

葉隠「クマー!だべ!」

 

腐川「葉隠、アンタ髪の毛がはみ出てるわよ…」

 

 

ここからは3人1組、3手に別れて行動する。

 

バイクの運転手が1人ずつと、生き残りが2人ずつだ。組み合わせはもうクジで決まっている。

 

大和田「行くぞ十神、腐川。」

 

腐川「大丈夫だとは思うけど、ちゃんと運転しなさいよ…」

 

十神「フン。大和田は途中で警察が来そうだな。」

 

 

桑田「葉隠ー朝日奈ー。早く乗れー。」

 

葉隠「なぁホントに大丈夫か?」

 

朝日奈「桑田が運転してるとこ見たことないけど…」

 

桑田「ダイジョーブダイジョーブだから乗れって!」

 

 

石丸「苗木くん、霧切くん、ヘルメットは着けたかね?さぁ乗るんだ!」

 

霧切「あなたの運転もなかなか心配ね。」

 

苗木「江ノ島さんが大丈夫って言ってたから、大丈夫、だと良いなぁ…」

 

 

とはいえ速くて長距離移動できる手段はバイクしかない。

 

石丸クンと霧切さんに挟まれながらしっかり掴まると、ゆっくりとバイクが動きだした。

 

入ってきた細い裏口を縫うように通り抜けると、おもむろに速度が上がる。

 

 

大和田「東門から出るぞ!」

 

並走するバイクを運転する大和田クンが声を張り上げる。

 

桑田「えっなんか視界が狭いんですけど!」

 

石丸「慣れないヘルメットをしているからだろう!普段から着けていないからそうなるのだぞ!」

 

…激しく不安だ。

 

 

 

学園の敷地の出入口である門はいくつかあるけど、正門は玄関の惨状を見るに使えない。

 

確かに、東門なら正門よりマシだと思う。

 

 

 

 

…と思っていたんだけど、東門も酷かった。

 

色んな意味で。

 

 

苗木「…何このモノクマの数!?」

 

霧切「すごいわね…」

 

飛び交うモノクマ、追う絶望。

 

迎撃してるモノもあれば逃げるモノ、喋ってるモノ、果ては謎のダンスをしてるモノもある。

 

その数、ざっと見て100体。

 

朝日奈「すごーい!」

 

葉隠「なんでこんないるんだべ!」

 

十神「…校舎を見てみろ。」

 

振り返ると、そこはちょうどモノクマ操作室に面している。

窓はバリケードで塞がれてるけど、もしかしたら覗けるくらいの穴が空いてるかもしれない。

 

あの部屋で待機しているのは確か、

 

苗木「セレスさんか…!」

 

桑田「えっぐいことすんな…」

 

腐川「不二咲が、自立思考プログラムがどうこうって言ってたから、勝手に動いてるのもいくつかあるんでしょうけどね…」

 

だとしても、これ程の数のモノクマを操作できるのは相当器用な人だ。

セレスさんが動かしてるに違いない。

 

 

絶望がそれらに気を取られているうちに、無事に門を抜けられた。

 

 

 

 

 

 

桑田クン達とも大和田クン達とも別れて、大型バイクが住宅街を走る。

 

霧切「苗木君、反応はどう?」

 

苗木「んー…近くなってはいるよ。」

 

 

手元の機械を見る。手のひらに収まるサイズのそれは規則的な音を鳴らしていた。

 

「通信傍受機を逆探知する機械」だって不二咲クンに渡されたものだ。

 

『ピピッ…ピピッ…ピピッ…』

 

近くなればなるほど、音の感覚が狭くなるらしい。

 

 

さっきが『ピッ…ピッ…』だったから、傍受機に近づいているんだろう。

 

 

石丸「ならば住宅街のどこかにあるかもしれないな…これは骨が折れそうだ。」

 

霧切「まぁ、気長に探すしかなさそうね。」

 

 

『ピピピッピピピッピピピッ』

 

苗木「!近くなったよ!」

 

石丸「おお!やった…と、喜べないかもな。」

 

 

霧切「…苗木君。良いニュースと悪いニュース、どっちから聞きたい?」

 

苗木「定番で良いニュースから、かな。」

 

霧切「今、ほんの少し住宅街から外れたから、逆探知機のおかげもあって傍受機の在りかがわかったわ。一戸建てね。」

 

苗木「そっか。悪いニュースは?」

 

霧切「その傍受機がある建物から絶望の奴らが大勢出てきたわ。」

 

世の中ってほんとままならないね。

 

 

石丸「僕が時間を稼ごう。苗木君と霧切君で傍受機を壊しに行ってくれないか?」

 

霧切「私も残るわ。苗木君、1人で行ってちょうだい。」

 

苗木「え、2人とも危ないよ!」

 

石丸「僕は慣れているから問題ない!それより霧切くん、大丈夫かね?」

 

霧切「ええ、秘密兵器があるから。」

 

そう言った霧切さんは何かを取り出した。

 

 

あれは、手のひらサイズの…モノクマ?

 

バチバチッ

 

…その耳の間に稲妻が流れた。

 

霧切「スタンガンよ。戦刃さんが点検、塗装したから安全面では安心ね。」

 

苗木「うわぁ…」

 

石丸「…霧切くん、手伝ってくれるのは嬉しいが僕に当てないでくれたまえよ…」

 

霧切「護身術の心得くらいはあるわ。普通でしょう?」

 

ボクは普通だけど、そんな心得ないよ…

 

霧切「とにかく、ここは私達に任せて。そちらは頼んだわよ、苗木君。」

 

苗木「…わかった。気をつけてね!」

 

石丸「安全第一だ!無理だと感じたら引き返してくれ!」

 

苗木「うん。そっちもね。」

 

バイクが停車すると、絶望がゆっくりと近づいてくる。

 

石丸クンが日本刀を構え、霧切さんがスタンガンを鳴らした。

 

バチバチと聞くだけでも痛そうな音が響く。

 

ボクは息を殺して物陰に隠れた。

 

石丸「さぁさぁ、かかってきたまえ!」

 

霧切「…自分に当てたことがないから、確証はないけれど。きっと、痛いわよ。」

 

その声を背に、駆け出す。

 

 

 

モノクマヘルメットを抑えながら、ゆっくりと一戸建ての庭から侵入した。

 

縁側への大窓には当然のように鍵がかかっている。

 

ボクはマイナスドライバーを取り出した。

 

苗木「確か…三角割り、だっけ。」

 

窓枠とガラスの間に差し込む。

 

ペキペキッ…ベキッ

 

よしっヒビが入った。

 

そのヒビに向かってさらに2、3回同じことをすると、ガラスは小さな音をたてて崩れた。

 

苗木「…お邪魔しまーす…」

 

誰もいないけどつい言ってしまう。

 

中は普通の部屋だ。リビングかな?

 

テレビが付けっぱなし…でも砂嵐になっている。ザーザーうるさいし何より怖いから消そうっと。

 

『ビーッビーッビーッ』

 

苗木「わわっしっ静かに…」

 

逆探知機の電源を切る。どうせこの部屋にあるのはわかりきってるから。

 

苗木「…あった。」

 

黒い箱のようなものが無造作に転がっている。緑色のランプが光っていた。

 

一抱えもあるそれを持つと、ずっしりと重みがあった。

 

頭上まで持ち上げて、振り下ろす。

 

苗木「えいっ」

 

ガシャン、と音をたてて機械は壊れた。ランプが赤く点滅する。

 

あんまり音は鳴らしたくなかったんだけど、壊すためだからしょうがない。

 

不二咲クンからは、壊した後に持って帰るように指示されている。再利用されないためらしい。

 

壊れた傍受機を持って外に出た。

 

 

 

 

視点:霧切響子

 

 

4、5人を感電させていたら、絶望達は一斉に逃げてしまった。

流石に、日本刀とスタンガン相手にほぼ丸腰では勝てないと踏んだのでしょう。

 

苗木君の方には行っていないから放置で良いわね。

 

石丸「いつもより引き際が良いな。やはり目に見える脅威は効果が高いのだろうか。」

 

霧切「見た目も音も怖いから、理性のない絶望でも圧倒できるわね。」

 

今朝、戦刃さんから貰ったばかりの新品。汚さなくて良かったわ。

 

実は私以外にも、女子に何人かスタンガン所持者がいるのだれど…

江ノ島さんの物とか特に凝った装飾のモノクマで…

別に言う必要はないわね。

 

石丸「うむ…」

 

霧切「…ところで石丸君。私が処方した抗うつ剤や睡眠薬はまだ飲んでいるのかしら?」

 

石丸「いや、最近は忙しくて夜もぐっすりでな。全く飲んでいない。」

 

霧切「そう、なら良かった。実はあれ全部ただのビタミン剤だったから。」

 

石丸「!?」

 

苗木「終わったよー。」

 

霧切「お疲れ様。じゃあ、次の傍受機を探しに行きましょうか。」

 

 

他の皆は大丈夫かしら。

 

 

 

→以下キャラ設定

 

 

全員が2年間共に過ごしたクラスメイト。

 

苗木誠

全員のサポート役且つ雑用係

なんだかんだで皆を纏める鶴の一声的存在

圧倒的希望

 

霧切響子

情報解析、捜索担当

汚染物質の解析やマッピングを行う

父の行方が心配

ヒロ…イン…?

 

十神白夜

情報解析担当だがわりと何でもこなす

性格は少し良くなったというか良くならざるを得なくなった

基本的に表舞台にはいない

 

腐川冬子

(十神の)雑用係

苗木に次いで万能

もはや一日中ジェノサイダーのときがある

 

葉隠康比呂

サポート且つカウンセリング担当

正直皆と一緒にあたふたしてるだけのお仕事

山は越えたとお気楽

 

朝日奈葵

内回り、護衛担当

施設内の点検や侵入者の兆候がないか探す

ドーナツ狂

感嘆符担当

 

大神さくら

内回り、護衛担当

だが施設内の人間の護衛の方が多い

自分だけ良い死に方で何となく気後れ

 

舞園さやか

サポート、農業、畜産、(公報)担当

公報の仕事は今はない

現役アイドルとして振る舞う準備は万全

裏方のサポート、モノクマ操作担当

 

セレス

農業、畜産、娯楽担当

だいたい畑か娯楽室にいる

気が向いたら一緒に遊んでくれる

ミルクティー飲んで高みの見物

 

山田一二三

農業、畜産、(セレスの)雑用係

セレスに従う形で仕事している

お人好しでよくイジられる

編集アシスタント

 

不二咲千尋

情報全般係

パソコン関係で困ったら彼に聞け

情報戦の最大兵器なので外出禁止

サイバー戦争中

 

大和田紋土

外回り担当

改造バイクに乗って荒れ果てた世界を探索

大道具の移動や死体の掃除担当

外回りでバイク乗り回し始める

 

 

石丸清多夏

外回り担当

バイクに乗るときはヘルメット着用

外回り

 

桑田怜恩

外回り担当

バイクに乗せられ探索し続ける

裏方の作業とモノクマの操作担当、外回りと小器用ゆえに忙しい

 

戦刃むくろ

(江ノ島、不二咲の)護衛担当

他の護衛は朝日奈と大神に任せ、江ノ島と不二咲に張り付く係

江ノ島の双子の姉

江ノ島のサポート且つ監視役だが割と暇

外回りいない時の裏方担当

 

江ノ島盾子

モニター、カウンセリング担当

最も命を狙われやすいので外出禁止

死なないのが役目

出番は短い

 

 

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