悪役令嬢は悪役プレイがしたい〜令嬢に転生して冒険生活〜   作:明日美ィ

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1 悪役令嬢 転生する

……気がつくと私は知らないところにいました。

 

 少し前まで私は日本で暮らすOLだったが、ここに来るまでの記憶がありません。別に浴びるほど酒を飲んでいたわけでもないし、誰かに攫われたわけでもないはずです。

 

 周囲を見渡すとここはどうやら深い森の中で、近くに人の気配はなさそうです。

 

 そして今の自分の格好が覚えている格好と全く異なっていた。まるで貴族の令嬢が着るようなくるぶしまであるロングスカートと、かかとが高いヒール、そして腰に届くほどの赤いストレートヘアー。

 

 この格好には覚えがある、と思って私は自分の姿を写せるものを探し始めた。森の中をヒールで歩くのは一苦労だったが、幸い近くに泉がありそこで自分の顔を水面に映してみた。

 

 ……間違いない。髪の色に負けないほどの赤い瞳、そしてこの顔立ちは以前私がプレイしていた乙女ゲーム『キングダムラブ』の登場人物。それも悪役であるマリアンヌ・スカーレットブラッドそのものだった。

 

 このゲームは中世ヨーロッパ風の学校『聖カリッジ学園』を舞台にして、庶民出身の主人公が王族や公爵家と恋をするシンデレラストーリーの恋愛ゲームだった。そしてマリアンヌ・スカーレットブラッドはいわゆる悪役令嬢と呼ばれ、公爵家令嬢という肩書きを利用して身分の低い主人公をいびり倒すのが作中の彼女の役割だ。

 

 主人公とは主に彼女の婚約者である王子ルートで争うことになり、最終的に彼女は主人公に敗北し、逆に王国反逆罪で処刑されることになる。

それ以外のルートでもただ1つのルートを除いて、マリアンヌ・スカーレットブラッドは王子に刺されたり、国外追放されたうえで最終的に死んだりとなにかと血なまぐさいエンディングが多いキャラである。

 

 唯一彼女が生還するルートが彼女の弟とのルートである。この場合は主人公と和解するのだが、この際彼女が努力家であるという一面が見られる。

 

 身分が低いながらも類稀なる幸運と才能をもつ主人公に焦りを感じながらも、敵わないと思い公爵家の肩書きを利用して主人公を妨害するしかなかった、とエンディングで独白している。

 このルートはそれ以外のルートを攻略した後でしか開放されない超高難易度であるが、彼女の人間臭い一面や、他にも常に公爵家令嬢として気品を保とうとする姿勢に共感を持ったファンは少なくない。そして私もそのファンの一人です。

 

 とりあえずここがどこかわからないのが問題だった。仮にゲームの世界ならば舞台である『聖カリッジ学園』にいてもおかしくはないのだが……。

 

 具体的な学園の大きさはわからいが、かなり広いと設定で書かれているでもしかしたら校内の森の中かもしれません。とにかくこの森から出ることが先決でしょう。

 

 とりあえず適当に方向をつけ、真っ直ぐ歩いていきましょう。

 

「……ちっ、この靴じゃ歩きにくいったらありゃしないわね」

 

 やはりヒールで森の中を歩くのはかなり厳しい。

 しかし作中のマリアンヌなら多分ヒールを脱いで素足で歩くことなんてしないだろうな。あとマリアンヌは舌打ちはしていなかったはずだ。私はマリアンヌではないが、ファンの一人として彼女のイメージを自分で壊したくなかった。

 

 小一時間歩くと、もうすぐ森から出られそうだった。彼女の体は意外と丈夫で、さすがにつま先は痛むが歩けないほどではなかった。

 ここまで来ても周りの風景が『聖カリッジ学園』の敷地内だとは思えません。もしかしたら結構遠くまで飛ばされたのかもしれません。

 

 そして森と森の外との境界線に差し掛かった時、キン、キンと金属を打ちつけるような音がした。人がいるのかもしれない、そう思って私は音のする方向にそろそろと向かった。

 近くの茂みからのぞくと、一人の少年が長剣を持ち、豚の頭をした怪物と戦っていたのが見えた。

 少年は必死に戦っていたが、怪物は身長が2m以上あり、体格差は歴然としており劣勢に追い込まれていた。

 

 ……どうしよう、と私は茂みの中からのぞきながら考えていた。外見から判断するべきではない、ということは重々承知だが怪物よりも人間の少年を手助けした方がいいだろう。

 

 私自身は戦闘技術はないが、『キングダムラブ』作中ではマリアンヌは鉄扇をつかった武術を習得していた。

 鉄扇は竹や木の代わりに鉄の骨組みでできた扇である。短剣のように突いてよし、投げてよし、扇を広げて切りはらうもよし、その上扇を閉じれば嵩張らないため割と使い勝手のいい武器である。

 

 マリアンヌは騎士団長とのルートで武闘大会の決勝戦で主人公と争うことになるほどの実力を持つが、その時に受けた傷が元となって結局死ぬあたりやはり彼女の不運は並ではない。

 

 マリアンヌが作中と同じ能力を持つならあの怪物を倒すことは可能だろう。しかし正直日本人である私としてはモンスターとはいえ殺すのには躊躇があります。

 

 そう迷っていると先に怪物の方が私に気がついた。私を少年の仲間だと思ったのか、私に向けて唾を吐きました。つまりマリアンヌに対して唾を吐いたということです。……マリアンヌファンとしてはこれは看過できません。

 

 そう思った刹那、腰に挿してある鉄扇を怪物に投げつけ、茂みから飛び出し怪物に向かって走り出す。鉄扇は怪物の眉間に突き刺さり、そこから血が吹き出す。怪物はいきなり武器を投げつけられたことに驚き急に動きを止める。そこに私がロングスカートをなびかせながら接近し、怪物の顎にヒールの先端を突き刺すように蹴り上げる。

 

 スカーレットブラッドの家訓は『常に優雅に』。

 

 このときもパンチラなんて下品なことはするわけがありません。

 

 怪物は仰向けで崩れるように倒れた。倒した、とほっと息をつく暇もなく近くの茂みからガサガサと音を立て、さっきと同じ見た目の怪物が一体現れた。先ほどの怪物は素手だったが、今度の怪物は棍棒のようなものを持っていた。すぐさま鉄扇を拾い上げ、今度は扇子を広げ怪物を迎えうつ。鉄扇を投げつけてもいいのですが、棍棒で撃ち落とされた場合を考え斬り合いの方がいいでしょう。

 

 怪物との距離はおよそ5メートル、私は駆け出し鉄扇で切りかかる。怪物もそれに応じて棍棒を振り下ろすが、逆に棍棒の半分より上の方がすっぱりと切り落とされてしまった。さすが”ワイングラスを割らずに斬れる”とうたわれるほどの一品と作中で説明されていたほどです。令嬢がこんな物騒なものを学校に持ち歩いているのはどうかと思いますが。そして返す刀で怪物の顔を切りはらう。顔を横一文字に切られてそこから血が吹き出す。

 

 新鮮な魚を捌いた時に血が飛び散るよりもずっと嫌な感じがします。でもここでしかめ面をするのは公爵令嬢として三流。余裕の微笑みは決して絶やしません。

 

 顔を切られた怪物は動かなくなり、そして辺りは静かになった。突然の出来事に呆然としている少年に振り返り、にっこりと笑みを浮かべたまま私は声をかける。

 

「ごきげんよう」

 

 ……あれっ、これって問題しかありませんね?マリアンヌではない”私”の思考を取り戻し今の状況を考えて見ます。

少年からすれば私はロングスカートにヒールという明らかに戦闘に向かない格好で、苦戦していた怪物を一瞬で倒すだけでなく、微笑みを崩すことなく怪物を殺すことができる女性になります。これ日本だったら明らかにサイコパスが入っていると思われますよね?そして自分で言っておいてだがこの状況で「ごきげんよう」はない。

 

 逃げられてもおかしくないし、下手すると敵として認識されるかもしれません。このままではまずい。なんとかしてこの場を和ませないと。……となると、

 

「オーホッホッホ、この程度の雑魚、造作もありませんわ!」

 

 なぜマリアンヌお得意の高笑いを選んだし私!これでは完全にサイコが入っているようにしか見えないじゃないですか!

 しかしもし本物のマリアンヌなら多分同じことをしていただろうし、やはり彼女のイメージ像は壊したくないし……

 

 少年はあっけにとられたとように構えた武器をだらんとおろした。結果的に警戒心を取り除くことができたので良かったのかもしれない。

 

「……ありがとう」

「礼には及びませんわ、それよりもここはどこか教えてくれます?」

 

 当面の目的は学園に戻ることです。私ことマリアンヌはあいにく死亡フラグ満載ですが、すでに生還ルートが存在している以上『キングダムラブ』プレーヤーとしてそのようなミスは犯すはずがありません。ならここに残るより学園に戻った方が安全でしょう。

 

「……?ここはデーニッツ王国のテリトリ領だけど、お姉さんはどこから来たの?」

 

 ……デーニッツ王国もテリトリ領も聞いたことがありませんね。

 

「ちなみにスカーレットブラッド公爵家はご存知で?」

「……少なくともこの国にはスカーレットブラッドと名乗る貴族は存在しないと思うよ」

 

 自体は思ったより深刻かもしれません。

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