悪役令嬢は悪役プレイがしたい〜令嬢に転生して冒険生活〜 作:明日美ィ
依頼人オーラムがいた場所は王都の中でも端の方、スラム街の中だた。
ギルドから出た町並みは華やかで道を行き交う人々の表情は生き生きとしていたが、スラム街に近づくについてぼろ小屋や不衛生な集合住宅が並びそこに住む人々はどこかうつろな目をしていた。
「こんなところもあるのね」
「ヴィレッジにはこんなところはなかったし、オレも初めて見たな」
私ことマリアンヌはこの世界の扱いはともかく貴族であり、身なりも文字通りお嬢様なのでスラム街の人にとっては珍しいらしい。そのため、スラム街の住人は時折私をじろじろと見るが、私が彼らに目を向けると私と目を合わせないようにそっぽをむいてしまう。
私がいた向こうの世界ではスラム街はテレビやネット上で知識を仕入れていたが、実際に歩いてみるのは初めてだ。
「スラム街はスリやひったくりの犯罪も多いらしいから気をつけなさい」
「冒険者の格好をしているオレよりもマリアンヌさんの方が気をつけたほうがいいんじゃない?お金持っていそうに見えるし」
「そうかもしれないわね」
そのような会話をしながら、依頼人のいる場所に着いた。
そこはスラム内に建てられた仮設テントだった。
不潔な町並みの中で白い布が張られたテントは周りから明らかに浮いていた。
「ごきげんよう。冒険者のマリアンヌですわ」
テントの中に入ると、その中はさらに異様だった。
中にはベッドが十数台おかれており、そのすべてに患者が寝かされていた。それでもベッドが足りないらしく、地べたに藁を敷いて布を敷いただけの上にも数人が寝かされていた。
全体で見ればほとんどが若い女性で、身なりも貧しいものが多かった。
そしてテーブルの上には山積みの資料や様々な医療器具が乱雑に置かれている。
「まるで診療所ね」
それも向こうの世界の簡易診療所に近い。スラム街と比較して圧倒的に清潔感があり、ファンタジー世界観に似つかわしくさえある。
ベッドに寝かされている彼女らの方を見ると、ほとんどの者は腕や足に包帯が巻かれていた。包帯の隙間から肌がさらけ出ているが、その肌の色はまるで木の幹のように茶色くひび割れている。
「これってもしかして……」
「最近流行っている病気の患者さんですよ。あたしはこれを『朽木病
』と呼んでいるけど」
背後から声がして振り返ると、幕の隙間から人がテントの中に入ってきた。
その姿は受付嬢がいっていたように確かに妙な見た目をしていた。
その人は医者が着ているような白衣を身にまとい、頭を覆う白いハットを被っていた。そこまでなら普通だが、鳥のくちばしが付いた仮面を付け、両手には白い手袋をつけている。
医者のように見えるが、世界史の教科書にのっていた「ペスト医師」に近い見た目をしていた。
おまけに声は若い女性のように聞こえる。
「もしかして冒険者のマリアンヌさんですか?」
「ええそうですわ。私がマリアンヌですわ。あなたが依頼人?」
「はい。オーラムといいます」
オーラムはテントの中の簡易椅子に座り、残りの椅子に座るように私達に促した。私達は促されるまま座った。
「それで、オーラムさんはオレ達になにをしてもらいたいんだ?」
「基本的に雑用兼護衛ですね。あたしは普段アルケミア王国で王女専属の医師をしていますが、二週間前にこの朽木病の話を聞きデーニッツ王国から要請がきたのでこちらに派遣されました」
「どうして隣国の医師がこっちに来るのよ」
「あーもしかしてアルケミアの王女とうちの国の王子が婚約を結んでいたからそれで?」
「まあそういうことですね」
流石元王女。その王子は兄弟に当たるため詳しいらしい。
「患者はスラム街に住む若い女性に多く、病気が足にかかり移動させるのが困難なケースもあったのでここに診療所兼研究所を建てました。それでここ治安が悪いですし、護衛が必要なのでついでに雑用をしてもらうために冒険者を雇うことにしたのです」
「そういうことですか。それでどうして私達を指名したのです?」
「ああ、大した理由ではないですよ。単に安く雇えて実力がありそうな冒険者という条件で探したらあなた達が偶然ヒットしたのです」
オーラムは手を横に振ってそう答えた。
わざわざ私達を指名したのに何か理由があるかと思ったがそうではなかったようだ。
「冒険者を雇う時は、依頼料は冒険者と直接交渉する場合を除いて基本的に雇う冒険者のランクに依存するのですよ。それでランク5でありながらランク10の魔物を倒したあなた達ならば、安くて実力のある冒険者を雇えると思ったのですよ」
「冒険者ランクってそういう意味があったのか……」
「そしてですが念のためいっておきますと、この依頼は正直気持ちの良い仕事ではありません。主な目的はあたしの護衛ですが、時には病気の研究の助手や患者の看護をしてもらうことがあります。専用スタッフもいますが数は多くない上に、想定以上に患者の数が多く手が回っていません」
オーラムは患者達に顔を向けた。
「この人達はこの街の中でも最下層に当たる人たちです。貴族の中にもこの病気にかかっている者はいますが、彼らは神官の回復魔法で多少とはいえ症状を食い止められています。ですが彼ら彼女らはそのようなお金がないのです。あたしはこの人を何とかしたいと思っています」
それに、と彼女は付け加えた。
「個人的にこの病気に興味があります。他人に感染する特徴は病気ににていますが、症状はすでに知られている呪いに近いものがあります」