悪役令嬢は悪役プレイがしたい〜令嬢に転生して冒険生活〜   作:明日美ィ

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23 偽薬

 夜の帳が降りて、テントの外はすっかり暗くなった。

 

 スラムのど真ん中に仮説医療所を設けているため、オーラムはテントの中で夜を過ごすしかない。当然護衛をしている私達もそこで宿泊することになった。

 

 魔導ランプを付けてもその明かりは部屋全体を照らすには頼りなく、スラム街から野良犬の遠吠えがときおり聞こえる。

 

 夕食を終えた私達はいすに座って各々思うように過ごしている。

 

「コーヒーを入れます?」

 

 この世界にもコーヒーはあるらしく、オーラムはミルでコーヒーをひいていて香ばしいにおいがテント内に立ちこめる。

 一から焙煎した引き立てのコーヒーは向こうの世界でもあまり飲んだ覚えはなく、一口飲むと苦みとともに特有の酸味と香りが鼻孔をくすぐる。

 

「なにこれ苦い」

 

 ヒロはしかめ面をして目の前の液体をにらむ。

 オーラムは笑って、飲み続ければ慣れますよと言った。

 

 ベッドに寝かされている患者達はすでに寝静まっているのが大半だが、ときおりうめき声をあげる者もいる。

 

「痛みとか緩和できないかしらね」

「ん〜、ケシの実の乳液があればいいのですけど高いですし、何より与え続けると中毒症状を起こすのであまり与えたくないですね」

「そういうものなのね。あ、そういえばこんなものを露店で買ったけどこれどうなのかしら?」

 

 私は以前買った瓶を懐から取り出した。オーラムはその瓶を受け取った。

 

「なんですかこれ」

「病気の進行を止められるエルフの秘薬、と言っていましたわ」

「エルフの秘薬ね〜正直あまり信用していないけど、調べてみるか。マリアンヌさん少しもらっていいですか」

「いいですわよ」

 

 オーラムはピペットを使って瓶から少量の液体を取り出す。

 彼女は匂いをかいだり、試薬と混ぜ合わせてしばらく試験した結果こう結論づけた。

 

「これ、ギルドで市販されているただのポーションですね。やはりとは思いましたが、これ一○○ミリリットルで一○○○Gで買える安物ですよ」

「な?!」

「大都市だとたまにいるんですよね、田舎からきた人に不安を煽らせてどこにでもあるポーションをぼったくり価格で売りつける押し売りの人が」

「でもエルフの薬師が売っていましたわよ!」

「仮にエルフだとしても人間の町に数百年住んでいるのもいます。それにエルフの秘薬として売られていても、そもそも秘薬の製造方法が門外不出だったりして知らないエルフもいるのですよ。ですので市販の薬を秘薬だと偽って売る人もいるのです」

「効果はないのかしら」

「市販の物はあらかた試したので、ほとんど効果はないはずです」

 

 これが偽物だと聞いてさすがの私も怒りがこみ上げてくる。

 今度見かけたら締め上げようと心の中で決意した。

 

「そもそも病気なのか人に移る呪いの類なのかまだはっきりしていないですしね」

「呪いならどうやったら治るんだ?」

「呪いには必ず呪いをかける術者がいます。ですので術者に解除させるか、殺害する、もしくは呪いの媒体となる物を破壊すれば呪いは解けます」

「媒体?」

「たとえば藁人形や特定の紋章とかですね。呪いを他者にかけるには一定の手順をふんで媒体に刻む必要があるのです。まあこれらの解除手段がダメなときに呪いを治癒する私がいるのですよ」

 

 一見呪術師にしか見えないオーラムだが、理路整然と呪いの仕組みを話してくれた。

 

「もしこの病気の正体が呪いなら術者をとっちめれば解決するわけ?」

「ええ。ですけどこの街は国内最大規模で人口が百万人近くはいます

よ?そうそう術者が見つかるとは思えないですが……」

「でも感染が接触のみなら別に王都すべてを調べる必要はないわよね?もしかしたらこのスラム街のどこかに犯人が潜んでいるかもしれないわね」

「その可能性はあります。まあ治療費用もバカにならないですし、仮に犯人がいてそれを叩けるなら一番早くて安く済みますけど……」

「それなら早速いくわよ!ヒロ!」

「ちょっと待ってください!スラム街の夜は治安が非常に悪いですよ!それに護衛の両方が出て行ったら護衛を雇った意味が内じゃないですか!せめて朝になってから片方だけでお願いします!」

 

 意気揚々と深夜の街に繰り出そうと思ったらオーラムに止められてしまった。

 

 その翌朝、私は単独でスラム街を歩き回った。

 バラックが建ち並ぶ寂れた街を歩いているが、やはり今の私の格好はやたら目立つ。古ぼけて今にも崩れそうな建物に住み、ぼろ着れ同然の服を着ている住人からすれば、常に浄化機能が働き汚れ一つないドレスを身にまとう私は異様な存在に見えるだろう。

 

「といっても何も手がかりもないわね……」

 

 小一時間歩いたが特に収穫は得られなかった。それもそうだ。特に何も宛がなくさまよっているだけで、知人もいないので情報を得る手がかりがないのだ。

 

 そろそろテントに戻ろうか、と思ったそのとき思いも寄らない人物に出くわした。

 そいつはスラム街のさらに裏通りに立ち寄るのが偶然見えた。

 その後を付け、私は走り出してそいつの肩をつかんだ。目立つのだから尾行は不可能だし、逃げられる前に捕まえるのが一番だと踏んからだ。

 

「ちょっと急になんですか!」

「よくもだましたわね、この詐欺師!」

 

 先日私をだましてポーションを売りつけたエルフの薬師だった。

 

「はて?美しいお嬢さん、私はあなたとどこかであったような、会わなかったような……うぼぉあ!」

 

 とりあえず一発頬をひっぱたいた。

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