メギド72オリスト「太古の災厄と新生する憤怒」   作:水郷アコホ

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「プロローグ」

ソロモン

「……ハァ~」

 

 

 いつものアジトの広間。ソロモンが適当な席に腰掛け暇そうにしている。

 1人通りかかり、ソロモンに声をかける。

 追放メギドにして歴史学者のフォラスだった。

 

 

フォラス

「お。どうしたソロモン王、仲間も無しにボーッとして」

「誰か人でも待ってるのか?」

 

ソロモン

「ああ、フォラスか。実は、シバを待ってるんだ」

「直々に依頼があるって言うから、言われた通りの時間からこうして待ってるんだけど──」

「もうかれこれ一時間以上も待ちぼうけでさ……」

 

フォラス

「そりゃあ確かに褒められた事じゃないが、お姫様も忙しいだろうからなぁ」

「そう言う事なら、話し相手にでもなろうか。俺もちょっと気分転換したかった所なんだ」

 

ソロモン

「良いのか。助かるよ」

 

 

 ソロモンの隣に座るフォラス。

 

 

ソロモン

「でも、なんか珍しいな。フォラスがアジトで暇してるなんて」

「こんな昼間なら、いつもは仕事か、家族とゆっくりしてる頃なんじゃないか?」

 

フォラス

「そうか? これでもたまにはアジトの子どもたちの面倒見たりもしてるんだぜ」

 

ソロモン

「あ、いや、話には聞いてたけど実際に見たことってあんまり無かったから……」

 

フォラス

「気にすんなって。冗談さ」

「俺がこっちで何もしてない時は、大体は仕事が煮詰まってる時でな」

「子ども達の遊びに付き合ったりダラダラして、アイデアが来るのを待ってるのさ」

「お前さんも、たまには童心に帰って遊び回ってみたらどうだ。2,3日羽根を伸ばしてみるとかな」

 

ソロモン

「そうもいかないよ。いつメギドラルが仕掛けてくるかもわからないんだ」

「それに、ちゃんと暇な時は休んでるよ。図書室に行ったり、皆とゲームしたり──」

 

フォラス

「最後にそうしたのはいつだった?」

 

ソロモン

「確か先週の……」

「あれ? 違うな。先週は経過観察待ちの依頼があったから、時間が出来たついでに見に行って、帰りに幻獣退治もして……」

 

フォラス

「俺が知ってる限りじゃあ、最後に休みらしい休みを取ったのは先月に1日だけだ」

「その1日にしたって図書室で俺に話聞きに来たと思ったら、すぐに他の頭脳班とテーブル囲んで作戦会議だった」

 

ソロモン

「い、いや待ってくれ。確かその一週間後くらいだったかにも仕事が空いて──」

 

フォラス

「仕事が空いて、王都でお姫様たちと情報交換に作戦会議だったろ。さっきの『経過観察待ち』を請けたのもその時じゃなかったか?」

「帰ってきたのが夕方過ぎ。お前さんはお前さんなりにその後の休日の過ごし方が有ったんだろうが──」

「あの時、帰ってきたから遊ぼうって駆け出したジズが、遠目にお前さん見るなり気ぃ遣って引き返しちまった」

「身に覚えがありすぎて見てるこっちがコタえたぜ……」

 

ソロモン

「あの日、ジズ来てたのか……」

 

 

 たまには新生グロル村に帰ったり、王都をぶらついてみたりもする。

 だが殆どの場合、ソロモンの一日はメギドラルとの戦いか、シバ達との情報共有に費やされる。

 全く予定が無くとも、有事に備えてアジトにこもりきりな事も珍しくない。

 その時はその時でアジト暮らしのメギド達と話したり些事を手伝ったりもするが、あくまで待機の一環だ。

 

 

ソロモン

「うーん……フォラスにとって俺の生活がどう見えてるのかは、何となくわかったよ……」

「でも、心配してくれてるのなら気持ちは嬉しいけど、俺も別に無理してるつもりは無いし──」

 

フォラス

「まあ、俺だって娘をイジけさせた事なら幾らもある身だ。仕方ねえ部分もあるのはわかってるつもりだ」

「無理して本当に時間作らなくても良いんだ。お前さんが体壊さなきゃ、月一でも年一でも誰も責めまではしないだろうしな」

 

ソロモン

「流石に年に一日だけはどうなんだろう。俺もそこまではちょっと……」

 

フォラス

「ただの物の例えだって。俺が言いたいのは、『何もしない、何も考えない時間』を作ってみたらどうだって事さ」

 

ソロモン

「何も、しない?」

 

フォラス

「平和な日にも『何か備えなくちゃならないんだ』って、俺にはお前さんがそう思ってるように見えてな」

「それが悪いなんてこたぁもちろん無いが、たまには無駄な時間を過ごしてみるのも、それはそれで得られる物があるもんさ」

「──いや。『離れてみてほしい』。あくまで俺の勝手な要望だ」

 

ソロモン

「フォラス……」

「言われてみれば、メギドラルの計画とか事件の裏とか、考える力が付いたのは幸いだったけど──」

「逆に、そうしない自分ってのは、自分でも想像できなくなった所はあるかもしれない」

「ありがとう、フォラス。すぐには出来るか分からないけど、少し考えてみるよ」

 

フォラス

「『考えない』のがコツさ。やりたい事もやるべき事も最初から無かったつもりでな」

「キマリスとかセーレとか、何の足しにもならないのに、散々走り慣れたアジトを心底楽しそうに探検してたりするだろ」

「それ見つけたら声もかけずに追っかけてみるとか、そんな思いつきで動いてみるのさ」

「それにいい歳に見えたって、俺らからすりゃお前さんもまだまだ──」

「おっと。そろそろ来たみたいだぞ」

 

 

 遠くから、細い足音がソロモン達の元へ駆けてくる。

 息を切らせながらシバがやってきた。

 

 

シバ

「すまぬ、ソロモン。こんなに待たせてしまうとは──」

「む。フォラスも一緒じゃったか」

 

フォラス

「ついさっき、たまたま会ったもんでね」

「それにしても、まるでデートの待ち合わせだな。なんなら、席を外した方がいいか?」

 

シバ

「茶化すでない、あくまで依頼じゃ。それに共有する者は多いに越したことはない。変な気を回すな」

 

ソロモン

「それにしても、なんでこんなに遅かったんだ」

「いつもなら少し遅れるだけでもルネ達に連絡させるのに」

 

シバ

「ルネもマイネも別件があってな。しかもガブ──」

「い、いや、わらわの事はどうでもいい。まずは依頼の話じゃ!」

「遅れた分、この後の予定もだいぶ押しておるしな」

 

フォラス

「(お付きのハルマ達まで撒いてここまで来たって感じだな──)」

「(これじゃ待ち合わせどころか逢い引きだな。まあ聞くけど)」

 

 

 シバからの依頼を聞くソロモンとフォラス。

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

ソロモン

「つまり──」

「北国の『ロンバルド』って集落に幻獣が発生しているから、俺達に退治しに行って欲しい……って事か?」

 

シバ

「うむ。加えて、その幻獣は不定期に現れては消えてを繰り返しておるともな。出所と原因の解明も併せて頼みたい」

 

ソロモン

「解った。それじゃあ早速、手の空いてる仲間を──」

 

フォラス

「いや。ロンバルドなら、人選はじっくり見極めた方が良いかもな」

 

ソロモン

「え、何で──あ、そうか。『北国』か」

 

フォラス

「正解だ。オセとかの普段から薄着のメギドじゃあ、着の身着のままで召喚したら凍えちまうかもしれない」

「事件解決まで時間の取れるメギドにだけ了解を取って、現場での追加召喚は控えた方が良いかも知れないな」

 

シバ

「さっきからどうもおぬしは重要な所を聞き落としているようじゃが、ロンバルドは北国どころかエルプシャフト文化圏の最北端じゃ」

「まだそこまではポータルも普及しきっておらん。行って帰るだけでも一週間どころではすまぬぞ」

 

ソロモン

「そうだったのか……ごめん」

「とにかく、依頼は確かに受け取った。連れて行く仲間が決まったらすぐにでも出発する」

 

シバ

「助かる。では、わらわはそろそろ失礼する。現地の情報や事件の詳細については、追って書簡で──」

 

フォラス

「悪いんだが、ちょっと良いか?」

 

シバ

「むっ!? な、何じゃ。わしは急いでおる。はようせい」

 

 

 ──実際に、何だかソワソワしている。用があると言うより、早くこの場を離れたがっているように見える。

 

 

フォラス

「まあ、大したことじゃない。『何で今なのか』って思ってな」

 

シバ

「ぬ……」

 

ソロモン

「ど、どういう事だ?」

 

フォラス

「日頃からあっちこっち駆けずり回ってるソロモンが知らないのはしょうがないが、ロンバルドの騒動はもう何ヶ月も前から王都でも話題になってたはずだ」

「今日日、ヴァイガルドのどこでだって幻獣騒ぎは尽きないからな。大方、現地の住民が生活に困らない程度に対策できているからってんで後回しになってたんだろう。まあそこはいい」

「それが何で今、しかもシバの女王直々に、それも1人で依頼しに来たのかって思ってさ。まあその様子からして大体察しは付くが、一応はっきりさせといた方が良いんじゃないか?」

 

シバ

「むぅ。バルバトスみたいな事を言いおって……」

 

ソロモン

「フォラス。もしかして、シバが何か隠してるって言いたいのか?」

 

シバ

「ば、馬鹿者! わらわとおぬしらの間じゃぞ。後ろ暗い事……など……」

 

 

 ──どんどん語尾の調子が落ちていく。

 ──急にフォラスが笑い出す。

 

 

フォラス

「ハハハ。悪い悪い。でも万が一って事もあるだろ?」

「もう白状してくれたようなもんだからな。話は充分だ」

「早く帰って、ガブリエルにでも謝っておけよ。拗れたらロンバルド行きも差し止められちまうかも知れないからな」

 

シバ

「うぅ……く、くれぐれも他言無用じゃぞ。ガブリエル達にはわらわから話しておくからな」

 

 

 ──しつこく釘を刺してから王城へのゲートへ去っていくシバ。

 

 

ソロモン

「えっと……フォラス? 一体、何の話だったんだ」

 

フォラス

「まあ、いつも通りに依頼を解決しとけば良いって話さ」

「詳しいことは──あの通り口止めされちまったからなぁ。お前さんももう少し、普通の生活ってやつに目を向けて見ると良いんじゃないか?」

 

ソロモン

「???」

 

 

 ──結局フォラスにははぐらかされてしまい、ソロモンは気を取り直してロンバルド行きの編成を考える事にした。

 

 




※ここからあとがき

 メギド質問箱の回答と食い違いが出たため、やり取りを一部修正しました。
 サタナイル達が、演奏中にソロモンが眠っても最後まで演奏するのも、フォラスみたいな気持ちからかも知れないという事で。

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