メギド72オリスト「太古の災厄と新生する憤怒」 作:水郷アコホ
証言通りの顔と身なりの男が、宿の奥から淀みない早足で近づいてくる。
ミカエル
「オー、ワンダフル! この遥かな地で、見知った仲と食卓を共に出来るなんて……今日という日に奇跡を感じ得ない。そうだろう?」
ポー
「ああ、あの方です。間違いありません」
ウェパル
「むしろ間違える奴が居たら見てみたいわね。朝から胸焼けしそう」
ソロモン
「ミカエル!? 何でここに……」
ベレト
「当然のように混ざる気だぞ、あのハルマ……ハルマ、で良かったのか?」
ウェパル
「残念だけど正解よ……」
バルバトス
「(どうでも良いけどポーのモノマネ、抑揚まで完璧だったな……)」
危惧した通り、断りも無くバルバトスの隣に腰を降ろすミカエル。
バルバトス
「ッ……!」
「(クッ、ハズレを引いたか!)」
ポー
「えっと、お代わりお持ちしますか。それともデザートにします?」
モラクス
「あ、俺? じゃあ、そろそろデザート頼む。シャックスもそれでいいか?」
シャックス
「むごっむ、ほごむもきゅもきゅゴックン……はぐはぐ、はぐ!」
モラクス
「ダメだ、全然聞いてねえ」
「じゃあ、シャックスの分も持ってきちゃってくれ」
「すっげえウマかったぜ。ごちそうさん」
ポー
「はーい。お粗末様でーす」
ポーが台所へ去っていく。
ソロモン
「えっと……今朝早くに来た客っていうのは、ミカエルの事で良いんだよな?」
ミカエル
「イグザクトリー!」
「先だって久々に王宮に立ち寄った時、ロンバルドが幻獣の驚異に晒されていると聞いてね」
「迷える子羊を放ってはおけまい。ヴィータを導く事がハルマの責務なのだから。居ても立っても居られず駆けつけたという次第さ」
ベレト
「それが貴様のメシに付き合ってやる理由にはならん!」
「儂らはそろそろ食い終わる頃合いだ。貴様の食事にダラダラ合わせる暇はないし、このデザートも一口だってやらん!」
フォラス
「ま、まあ落ち着けってお前ら」
「ミカエルとそれほど面識ない俺が言うのも何だが、いちいち見るからに鬱陶しそうにするのも感じ悪いだけだろうよ」
ウェパル
「少なくとも、私はそれだけが理由じゃないわ」
「『奇遇』だの『奇跡』だの、白々しいのよ」
「幻獣の報告を受けてたなら、大なり小なり私達が来てる可能性は織り込み済みだったんでしょ?」
「私達にさせたい事でもあるんならハッキリ言ったら? それとも逆に、私達がどこまで『知ってる』のか確かめようって魂胆?」
バルバトス
「(あくまで疑い通す気か。自信があるのか単なる嫌味なのか……まあ後者だろうなあ)」
ミカエル
「オーゥソーリー。今朝のレディ達はご機嫌ナナメのようだ」
「私が訪れた日に偶然、君達が居た。その事実に一片の偽りも無いさ」
「そして何より、旅先で期せず出会えた友に抱く喜び。それもまた同様さ」
モラクス
「俺、アニキの仲間だしそこまで嫌ってるつもりはねえけど……ハルマと友達になったつもりもねえな」
バルバトス
「(いつもの『ノンノンノー』は無い。はぐらかしている……?)」
「(気にしすぎかもしれないが、腹の内を読ませない事にかけては実績に事欠かない相手だからな……)」
ウェパル
「……ま、邪魔しなければ今は何でも良いけど」
「ほら。モラクスもシャックスも、とっととお皿の上のモノ飲み込んで。支度始めるわよ」
モラクス
「お、おう。そういや幻獣退治にも行かねえとだった!」
シャックス
「ウマウマ……モゴモゴ……むも?」
「あぅえー、ミふぁミふぁが居う?」
バルバトス
「食べながら喋るな!」
ポー
「デザート二人前、おまちどおさまでーす」
ポーがモラクスとシャックスのデザートをテーブルに置き、そのままグルリ一周して空いた皿を回収していく。
ミカエル
「ヘイ、ポースレーンのレディ。立て続けに済まないが、私にも朝食を用意してもらえるかい?」
ポー
「……あれ? あ、私の事ですか?(ポー、すれ……?)」
「かしこまりました。それじゃあ、お皿を片付け」
「た、ら──?」
ポーの体が、腕に積み上げた食器ごとグラリと傾いた。
バルバトス
「危ない!」
一番近くに居たバルバトスがスルリと椅子から滑り降り、倒れるポーを恋物語のワンシーンのように抱きとめた。
ソースや脂の残る食器達も躊躇いなくシャツとチョッキで受け止める。
バルバトス
「椅子の脚にでも躓いてしまったかな。怪我は無いかい?」
ポー
「わ……」
「はっ! ああのすいませんごめえわくを……」
バルバトス
「何のことだか。可憐な女性の助けになれて、これ以上の栄誉は無いというのに」
ポー
「か、か、かれ……あっ、い、いえでも、ふ、服を汚しちゃって……」
体勢を直すポーと手伝うバルバトス。
積み重なった食器一枚も落とさぬようバルバトスは積極的に服を犠牲にしていく。
バルバトス
「服? おやおや気付かなかった」
「なあに。お姫様のルージュが付くのと一緒さ。これは汚れたなんて言わない。勲章を賜ったのさ」
ポー
「ぅぁ……!」
両手に皿を重ねた少女と食べかす塗れの優男の間に、花のようなものが漂った気がする。
台所の方から微笑ましそうな声で水が差された。
ヤブ
「あんまりからかわんでくださいよ。素直すぎて何でもすぐ本気にしちまうんですから」
ポー
「おおおおおとうさん、なな何言ってるんですか!」
バルバトス
「おっと、お義父様も中々手厳しい」
ポー
「わわ、わ!? 私別にそういう……あ、ちょっと、おとうさん逃げないで!」
笑いながら台所の奥に引っ込んだヤブを追って足早に去るポー。
やり遂げた顔で席につくバルバトス。やけに突き刺さる視線がバルバトスに寄せられた。
ウェパル
「最低。年端も行かない子にまで……」
ベレト
「見損なったぞ。否、やはり元から男なんて生き物は信用ならん!」
シャックス
「やーい、身内に犯罪者ー♪」
バルバトス
「え……えぇっ!? 何だこの総スカン!」
「誤解だ。女性なら老いも若きもその魅力を讃えられる権利があるはずだろう!」
「って言うか自分で言うのもなんだけどこのくらい平常運行だろ。俺ってそんなに信用無かったのか!?」
「それとシャックスは考えなしに便乗するな。その表現じゃ意味合いが違ってくるだろ……クソッ、ツッコミは俺だけか!?」
ソロモン
「ウェパル達が言う程の事とは思わないけど、それでも自業自得じゃないかな……」
モラクス
「アレじゃね? どこかでウケた芸でも、またウケるとは限らないってニバスとかが言ってるの聞いた事あるぜ」
バルバトス
「これは芸じゃない!」
ウェパル
「本気ってこと? うっわ……」
シャックス
「バルバル捕まっちゃうの? 今までありがとありがと……」
バルバトス
「理不尽だ!!」
フォラス
「まあまあお前ら、そろそろシャレにならないからそのへんにしとけ」
「残りを食べ終わったら、部屋に戻って出発の準備だ。大空洞調査の協力は俺からヤブさんに話しとくよ」
「……ま、俺も口説かれてるのが自分の娘だったら、一緒に一言言ってたかもしれねえけどな」
バルバトス
「くっ……なんて幸先の悪い日だ」
「(しかし……これも考えすぎかな……?)」
「(ウェパルの毒舌やベレトのヤジはともかくとしても、こういう話題にシャックスまで乗っかるのは珍しいような……)
ミカエル
「大空洞へ向かうのかい……ブリリアント!」
「丁度、私も大空洞に用があった所だ。友よ、共に子羊たちを導こうではないか」
ベレト
「貴様は呑気にここで舌鼓でも打っておれ!」
ウェパル
「無駄ね。どうせこっちが準備整える間に済ませちゃうでしょうし」
ソロモン
「まあまあ。何だかんだで心強い味方には変わりないから」
「(それに、ミカエルはわざわざ到着して早々に調査するつもりで居たって事だ。幻獣の巣窟なのを承知で)」
「(思い返せば、ミカエルが荒事で俺達に協力するのは珍しい。もしかしたら今回の事件、幻獣以外にも何かあるのか……?)」