メギド72オリスト「太古の災厄と新生する憤怒」   作:水郷アコホ

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14「寄辺無」

 大空洞を進む一行。何度目かの幻獣の群れを撃破した。

 最後の一体を討ち取ったモラクスが座り込んだ。

 

 

モラクス

「ハァー……やっぱコイツらと戦うと疲れるなあ」

 

バルバトス

「油断してると銃が凍りついてしまう……予想以上だ。思ったよりこちらの攻撃力が出せなさそうだな」

 

フォラス

「だな。弓の達人でも靴の中に小石1つ入っただけで、本人も気付かない内に一気に集中力が削がれるって聞いた事がある」

「この寒さと足場の心もとなさ、戦うとなると実感以上の障害になるかもな」

 

ソロモン

「みんな、よくやってくれた。今、フォトンを供給する」

 

シャックス

「これこれ! いやー癒やされますなー」

 

バルバトス

「俺の力じゃ怪我は直せても、連戦の疲労までは難しいからな」

「良質なフォトンがそこら中にあるのはまたとない幸運だね」

 

ウェパル

「まあ、限度はあるでしょうけどね」

「どっかの上位ハルマサマが見守って下さってるお陰で『ヤる』気だけは充分だけど」

 

ミカエル

「君たちの力になれているなら何よりだよ」

 

ウェパル

「皮肉で言ってんだけど?」

 

ソロモン

「良いんだ、ウェパル。その分、ミカエルはガイードさんたちの護衛に徹してくれている」

 

バルバトス

「(言い換えれば傍観に徹しているわけだけど……追求した所で白状するとも思えないしね)」

 

モラクス

「つーかよ、入口から引き返したって言うには幻獣の数が多すぎねえ?」

 

バルバトス

「元々、入口まで移動もせずに漂っていた連中だろうね」

 

ガイード

「よければ、少し休みますか?」

「道中では馬車に避難してて解らなかったんですが、どうも怪物どもの動きも妙な感じですし」

 

フォラス

「妙?」

 

ガイード

「何となくですがね──怪物ども、いつもより『人に寄り付いて』きてる気がするんですよ」

「いつもだったら、こんなまともなケンカになるのも珍しいくらい、絶えずあっちこっちへフラついてるくらいですから」

 

ソロモン

「確かに、一見無軌道に漂ってるようにしか見えない。けど言われてみれば──」

「モラクスやシャックスが間合いに入るまでに飛び去る事もできるのに、不自然に一つ所に留まっていたり、むしろこっちに向かってくる時がある」

「こんなだったら、休憩所も変に幻獣が長居して、今頃は異常気象で幻獣が自爆してとっくにボロボロだったかもしれない」

 

ガイード

「私が休憩所詰めの時にも出くわした事あるんですがね」

「怪物どもは常に動き回るもんで、小屋に近づいてもすぐに通り過ぎちまうんですよ」

「あんな風に何というか、『のんびり』はしないんですよね」

 

バルバトス

「そよ風程度の指向性があるんじゃないか──みたいな違和感なら俺も何となくあった」

「思えば、集落で取り逃しかけた一匹がフォラス達の方へ流れたのも、『寄り付いて』いたと考えられるかもしれないな」

 

ポー

「あのー、休憩されるならいつでも準備OKなんですけど──」

「1人、足りませんよね。緑色のお客さん……」

 

ソロモン

「あれ、ベレト? どおりで静かだと思ったら……!」

 

バルバトス

「さっき、幻獣の一体を倒して、道中と同じように爆風を受けて飛んでいったところまでは見ていたけど──」

 

ベレトの声

「しょ、召喚者! 終わったのなら儂を召喚しろ! 早く──早く!」

 

ソロモン

「ベレト!? ど、どこだ?」

 

フォラス

「居たぞ、あっちだ!」

 

 

 フォラスが指差す向こう、手のひら程度に見えるほど遠くにベレトの姿。

 

 

バルバトス

「あんな所まで飛ばされたのか。何でへたり込んで──脚をやられたのか?」

 

ベレトの大声

「話し込んでないで早く呼っ──!!」

「うひっ……は、は、早くしろ! お、お、『落ちる』っ!」

 

ポー

「っ!! いけない、ガイードさん!」

 

ガイード

「わかってる!」

 

 

 ガイードが身に着けた投げ縄をベレトへ投げた。重り付きなのか良く飛び、かなり距離のあるベレトのすぐ隣まで到達した。

 

 

ガイード

「お客さーん、ロープの輪っか、掴めますかー!」

 

ベレト

「お、おう……!」

 

 

 ベレトが投げ縄を引く手応えを感じたガイードが縄を引く。

 輪っかが窄まり、ベレトの手に巻き付いた。

 

 

ガイード

「ポー、アンカー!」

 

ポー

「はい!」

 

 

 ポーが上着の内から、頭に輪の付いた楔を取り出した。

 手早く近くの岩肌に打ち込むと、返事も待たずにガイードが投げ縄をアンカーに結わえ付けた。

 

 

ガイード

「お客さーん、絶対に手を離さないで! 今こっちからも引っ張りますから!」

 

ウェパル

「何が起きてるの、これ?」

 

ソロモン

「とにかく非常事態なのは間違い無さそうだ。手伝うぞ!」

 

 

 その場の勢いでソロモン達も参加し、無事にベレトを引き寄せた。

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

ベレト

「ハァ、ハァ……た、助かった……」

 

ガイード

「フーッ……ポー、お客さんに怪我ないか確かめてくれ」

 

ポー

「はい。お客さん、防寒具が壊れたりしてないか調べるので、こっちに来て下さい」

 

ベレト

「わ、わかった……クソッ、昨日から何で儂ばかりこんな目に……!」

 

 

 近辺の比較的開けた安全そうな場所へ移動するポーとベレト。

 

 

バルバトス

「歩いてる様子を見る限り、どこか痛めたようにも見えないが……何があったんだ?」

 

ガイード

「滑落しかけたんですよ。このあたり、よく滑りますからね」

 

モラクス

「落っこちそうだったって事か? でも確かに少しは滑るけどよ、立てねえほどじゃないぜ?」

 

シャックス

「うんうん。向こうに崖とかも見えない見えない」

 

ガイード

「そんな風に見えるってだけです。ごく緩やかな傾斜でも油断できませんし、ここじゃあ足場の行き着く先は断崖絶壁しかありません」

「あっしらが踏み慣れた道はまだ良いほうですが、場所によっちゃ水晶のせいで、滑る所は身じろぎしただけで『流されて』いくんですよ」

 

フォラス

「なるほど。多分、ベレトが爆風に乗って着地したのは、あそこよりもっと俺達に近い所の足場だったんだな」

「だが、そこは調査隊の通り道として整備されてなかった。坂にも見えないほど緩やかなもんで甘く見たんだな」

「濡れた岩と水晶とのバランスが悪く、防寒具は素肌ほど摩擦力も無い。登ろうと足掻くほどにジワジワと滑り落ちて……」

 

バルバトス

「ヤバいと思った時には時既に遅し、立ち往生ならぬ座り往生するしか無かったわけだ」

「さしずめ死者の国行きの滑り台。ベレトの立場を想像したらちょっとゾッとしてくるな……」

 

ミカエル

「ふむ……不甲斐ない事に、私にも平坦な道の1つとしか見えていなかった」

「ヴァイガルドには、まだまだ思いもよらぬ事象があるという事だね。みすぼらしいレディには不謹慎ではあるが、これは些か感動を禁じえない」

 

シャックス

「どゆことどゆこと?」

 

ウェパル

「ただの足場に見せかけたアリジゴクに引っかかってたってこと」

「ていうか、そんなに危険なら柵か何か用意しときなさいよ」

 

ガイード

「面目ありません……」

「言い訳するわけじゃありませんが、観光地化したのも最近で、まだまだそう言った準備が整ってないんですよ」

「あの辺りに水晶がはびこってるなら尚更です。あれ、アンカーも通らないほど硬いですからね」

 

モラクス

「ん? でも道になってるって事は、おっさん達が掘ったって事だろ?」

 

フォラス

「それは違うぜ。だったら『大空洞』なんて名前は付かねえ」

「元々アリの巣みたいに入り組んだ空洞が開いてて、それを人が出入りしやすいように掘り進んだり足元ならしたりしたんだろうよ」

 

ガイード

「そういう事です。ポーが落ちた時の無我夢中の仕事のまま殆ど変わって無いんで、こんな風に、あっしらでも見分けが付かない事もたまにあるのが実情です」

「申し訳ない。案内役買って出ておきながら、お仲間を危険な目に……」

 

ソロモン

「い、いえ、こっちが戦って勝手に起きた事故ですし──!」

 

バルバトス

「気にしないでくれ。こっちもお客様気分で来ちゃいないさ」

「アフターケアは文句なしだった。心から感謝している。それでひとまず言いっこなしとしよう。お互いにね」

 

ガイード

「恐れ入ります」

 

 

 ポーとベレトが戻ってきた。

 

 

ポー

「ガイードさん、お客さんに異常ありません。大丈夫です」

 

ガイード

「おお、それは良かった」

 

ベレト

「うむ。ま、まあ褒めてやらんこともない」

「それに比べて……おい、召喚者!」

 

ソロモン

「お、俺!?」

 

ベレト

「他に誰がおる。貴様と言うやつは儂の危機に何をボサっとしておった!」

「早く召喚しろと何度も命じたのが聞こえなかったとは言わせんぞ!」

 

ソロモン

「ご、ごめん。だって、こんな人前で呼び寄せたら説明とか大変だし、状況がわからないことには……」

 

ベレト

「言い訳にもならんわ! 宿に戻ったら覚悟しておけ!」

 

ソロモン

「うぅ……」

 

モラクス

「何言ってんだよ。アニキだってお前を引き上げるの手伝ったんだからな!」

 

ソロモン

「良いんだ、モラクス。今回は俺の失態だ……」

「ベレトの居場所がわかった時、ベレトの置かれてる状況までは全く理解できていなかった」

「下手すれば、あのまま助けに行こうとして一緒に落っこちてたかもしれない。みんなを指揮する役目としては──」

 

バルバトス

「そこまで。これ以上はくれぐれも言いっこなしだ。気になる事だけ各自の中で反省する。良いね?」

 

 

 ベレトのピンチを受けて、改めて全員に異常が無いか確かめた後、地底湖までの調査を再開する一行。

 列をなして進む中、ウェパルがたまたま隣になったソロモンとバルバトスに呟く。

 

 

ウェパル

「思い起こせば、ベレトも随分バカになったわよね」

 

ソロモン

「ちょ、何言い出すんだいきなり!?」

 

バルバトス

「まあ、言いたい事はわかるよ」

「バカは言い過ぎにしても、俺達と戦った頃と比べると、『子供っぽく』なったという印象はある」

 

ソロモン

「そうかな……少なくとも獣の軍勢を率いていた頃の実力は今も変わらないと思うけどな」

「この前だって、俺はその場にはいなかったけどペルペトゥムで──」

 

ウェパル

「腕っぷしじゃなくて頭の話してるの」

「別に不満はないけど、それでも時々、あいつ本当にソロモンのたった2コ下なのかって思うくらい」

「まあ出自が出自だし、あくまで自称っぽいから水増ししててもおかしくないけど」

 

ソロモン

「お、おいウェパル……」

 

バルバトス

「ズバズバ言うなあホント……」

「確かに『ある時点から融合前のベレトの魂がヴィータ体の人生を度々観察していた』という話だから、多少のズレはあるかもしれない」

「ただ、背格好から考えても年相応──若く見積もっても1歳差が限度じゃないかな」

「俺達が知る平均的な15歳よりは若干小柄だが、過酷な生活を思えばむしろ健康的な範疇だし」

 

ウェパル

「ますますタチ悪いじゃないの。本当にあの歳なら落ち着きなさすぎ」

 

バルバトス

「(ウェパルが落ち着き払いすぎな気もするけど……)」

 

ウェパル

「ソロモンも心当たりあるんじゃないの? 小さい子供みたいに、もっと構えとかどっか連れてけとか」

 

ソロモン

「言われてみれば、まあ……食べたい物とか行きたい場所とか、ジズとかとたまに被る事はあるけど」

 

バルバトス

「なら、そういう事じゃないかな」

 

ソロモン

「そういうって……どういう?」

 

ウェパル

「1人で納得しないでもらえる?」

 

バルバトス

「おっと、二人ともわからないとは。ふふん、良いだろう。説明してあげよう」

 

ウェパル

「手短にしてよ。サムいんだから」

 

バルバトス

「(今、含みがあったな……)」

「まあ善処はするが、一応は前置きさせてくれ」

「ベレトの心の事はベレト自身にだって簡単にわかるものじゃない。これはあくまで俺の勝手な推測だ。そこは念頭に置いてくれ」

 

ソロモン

「ああ。わかってる」

 

バルバトス

「その上でだ。あくまで持論だが、ヴィータの精神性というものは、『1つ1つ段階を経ないと成長できない』」

「一段ごとにダンスが踊れるくらい大きな階段を昇っていくイメージかな。決して一足飛びに高めてはいけないのさ」

「そして、階段は自分の力で踏み出さなければ昇れない」

 

ウェパル

「まあ、心当たりあるわね」

「頭が幼稚なまま歳だけとったような連中、今まで幾らでも見てきたし」

 

バルバトス

「一応、ヴァイガルドとヴィータを守る立場として、もう少し言い方を選んだ方が良いと思うよ……」

 

ソロモン

「じゃあ、つまりベレトは──」

 

バルバトス

「ああ。彼女は俺達が思い描くような人生は歩んでこれなかった」

「当然、俺達が『そうあって当然』と目もくれないような、成長の機会も無かったと考えられる」

「頭が良いとか、世の中の不条理を知っているとかとは全く別の、もっと根本的な部分の、ね」

 

ソロモン

「俺達に苦戦を強いてきた時に感じた『強さ』や『知性』みたいなものは、ベレトの『人格』を測る指標にはならないって事か……?」

 

ウェパル

「そもそもベレトが暴れてた動機も、半分以上が八つ当たりって言っちゃえるしね」

 

バルバトス

「しつこいようだけど、所詮は第三者の憶測……いや、邪推だけどね」

「だが、俺達に敗れて召喚を受け入れてからは違う。肩の荷が下りたんだ」

「得るべきものも得られず歳だけ重ねてたった1人で世界に抗う事を決めた子どもから、そうではなくなった」

「ずっと昔に足止めを食らってきた階段をやっと昇り始められた──今の彼女は、『失った幼き日を埋め合わせている』というのが、俺の見解だ」

 

ソロモン

「じゃあ今のベレトは──『やり直せてる』ってことか」

 

バルバトス

「もしかすれば、来年の今頃は一気に階段を登り詰め、歳に似合わぬ荘厳なまでの淑女に……なんてね」

 

ウェパル

「でも相手は不死者でしょ? ヴィータの魂取り込んだんじゃなかったの?」

 

バルバトス

「そこはほら、例えばバエルだって、メギドラル時代からお姉ちゃんっ子だったとは考えにくいだろう?」

「メギドの精神性だって不変なわけじゃない。それにヴィータ体に転生した事に変わりは無いんだ。大なり小なりヴィータの脳の影響を受けるものさ」

「かくいう俺も、メギドの頃より一段と心が美しく磨かれて──」

 

ウェパル

「ま、相変わらず仮定ばっかだけど、昔とのギャップに一応の説明が着けば十分かしらね」

「別に今のベレトに迷惑してるわけでも無いし」

 

ソロモン

「今度からは、俺の方からももう少しベレトに構ってやろうかな。ハハハ」

 

バルバトス

「(またもスルー……!)」

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

ソロモン

「……」

「(何となくだけど、それだけじゃない気もするんだよな)」

「(今のベレトの性格が……いや、『魔王』になるって言った時から今までのベレトが、メギドラルから続くベレトの『地』だとしたら──)」

「(俺達が倒してしまった後のベレトには、余りにも『何もない』。『地』に見合うだけの、その上に積み立てたいだろうものが……)」

「(だからベレトが本当に欲しいのは、失った時間を取り戻せる生活だけじゃなくて──)」

「(……これも、ベレトを余所にして考える事じゃないか。今は幻獣退治の最中だ。切り替えよう)」

 

 

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※ここからあとがき

 ベレトの年齢解釈云々は完全にオリジナルです。

 余談ですが、いまいち、ウェパルを動かしきれてないかもしれません。
 感じ悪かったりしたら申し訳ありません。


「みすぼらしいレディ」呼びはあんまりと言えばあんまりですが、バラムみたいにベレトと関わった事が余り無いミカエルからすれば、奴隷服の第一印象が優先されるかなと思い、このようになりました。
 メインクエストなどでミカエルがベレトを呼んでいる描写があったらご指摘いただけると幸いです。
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