メギド72オリスト「太古の災厄と新生する憤怒」   作:水郷アコホ

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15「悠久の大空洞」

 未だ地底湖への道のりを慎重に進む一行。

 

 

ソロモン

「うーん。休憩所を出てしばらくの戦闘から、殆ど幻獣が出てこないな」

 

モラクス

「遠くから雷とか爆発の音とかしてたのも静かになっちまった。もう全部倒しちまったのか?」

 

バルバトス

「全部は流石に有り得ないと思うが、この近辺の幻獣は粗方片付いたと見て良いかもしれないな」

「ダイヤモンドダストみたいに無害でわかりやすい異常気象が起きていれば、1つの基準になったんだけどな」

 

ガイード

「いやあ、まだわかりませんよ」

「余所への水が滞ってるのはご存知の通りでしょう。連中、地底湖へ降りるほどよく出てくるんですよ」

 

ウェパル

「現地に着くまで油断できないって事ね。モタモタするのは気に食わないけど、しょうがないわね……」

 

フォラス

「っつー事は、最初に異常気象を観測したのも、もしかして地底湖だったりするのか」

 

ガイード

「最初かどうかは生憎わかりませんが、かなり早い内から知られてはいましたね」

 

フォラス

「それ、『自分たちの事だから』で王都に伏せとくには無理ないか?」

 

ガイード

「今ではそう思いますよ。お恥ずかしながら人間、いつだって思い通りに動けるとは限らんって事でしょうかね」

「ポーの奇跡が起きるような未だわからん事だらけの洞窟だからとか、王都に知らせたとしてどうしてもらうってんだとか、色々話し合ってる内にね……」

「まあ最終的に一番でかくなったのは、『あんまりややこしくなって王都が匙を投げないか』って懸念ですね」

 

フォラス

「あー……何か、悪かった」

 

ソロモン

「(最初はちょっとした事で保留にしてたのが、手に負えないとわかってからは、黙ってた事を責められそうで言えなくなったって事か……)」

 

ミカエル

「王都にとっては後回しにできる些事でも、彼らにとっては今まさに生活を脅かすリアル──」

「時が経つほど冷静ではいられまい。やはり、私がここに訪れたのは正解だったようだ」

 

ウェパル

「そう思うんなら、もうちょっと仕事らしい仕事してもらいたいんだけど」

 

モラクス

「なーなー、ずっと気になってたんだけど、良いか?」

 

ガイード

「ええ。何でしょう?」

 

モラクス

「この光ってる石さ、これ売ってもすげー稼げるんじゃね?」

 

ポー

「! やっぱり、そう思いますよね?」

 

ソロモン

「でも、硬くて楔が通らないとか言ってたから、掘り出して加工すら出来ないんじゃないか?」

「幻獣との戦闘でも、たまにぶつかったりしても傷一つ付かなかったし」

 

バルバトス

「いや、切り出す事自体はできるんじゃないかな」

「でなければ、この道も水晶の鉱脈を避けてもっと複雑になっていたはずだ」

 

ガイード

「おっしゃる通り、取り除く事ならできますよ」

「ちょいと骨ですが、爆薬仕掛けたり地道に斧叩き込んだりしましてね」

「地底湖が見つかる前は水晶を売り物にしようって動きもあったらしいですがねえ……」

 

バルバトス

「それは叶わなかった、と?」

 

ガイード

「ええ。取り出すだけの労力が大きいってのはまだ良いとしても、水晶は傷つけると『砕ける』んですよ。硝子みたいに……いや、もっと細かいな」

「とにかく、ヤスリで削るみたいなのでも同じです。傷ついた所からパーっと弾けて粉々になるんです」

「しかも光も失せるとあって、こんな砂利みたいなのじゃロクな使いみちも無いだろうって事でね」

 

ポー

「あ……だから誰も採ってなかったんですね」

「何だかこの光がすごく好きで、こういう石で小物とか作ったらキレイだろうになーって思ってたんですが……」

 

ガイード

「ハハッ、ヤブのやつ教えてなかったのかよ。まったくしょうがねえなアイツは」

 

モラクス

「斧か……なあアニキ、ちょっとその辺の水晶でやってみて良いか?」

 

バルバトス

「こらこら」

 

ソロモン

「……いや、ガイードさん達に迷惑でなければ、俺もちょっと確かめてみたい事がある」

 

ガイード

「まあどこにでも有るもんなんで、一本二本くらい、別に構いやしませんよ」

 

ウェパル

「バカなの? 子どもみたいな寄り道してる場合じゃないでしょ」

 

ベレト

「フン、いかにもヴィータらしい無軌道な破壊衝動だな」

 

シャックス

「いやー、男の子ですなー♪」

 

ソロモン

「そういうんじゃなくて……」

「確かに必要では無いけど、俺の予想通りなら、戦闘の足しになるかもしれないんだよ」

 

バルバトス

「フォトンの詰まった水晶が、砕ける……ははーん」

「そういう事なら、一度試すくらいなら俺も異論はないかな」

 

ウェパル

「ハァ……。勝手にすれば?」

 

ソロモン

「ありがとう。じゃあモラクス、フォトンを回すから一発で頼む!」

 

モラクス

「任せろ。防御力なんざ関係ないぜ!」

 

 

 モラクスの斧が、地面から斜めに伸びた水晶を叩き折った。

 折れた断面が、炭酸のように細かく弾けた。

 

 

モラクス

「おわっ、ホントに粉々になっちまった!」

 

ポー

「うーん……集めてくっつけて、バレッタとかかな……」

 

ガイード

「ポーよ、諦めな……俺らに思いつく大体は、既に通った道なんだ」

 

フォラス

「面白い振る舞いだな。先端側も根本側も断面から半分くらい砕けたか?」

 

バルバトス

「ああ。そして砕けた破片と、先端側の残りだけが光を失った。ソロモン、これはやはり──」

 

ソロモン

「ああ、バッチリ見えた。これは──フォトンバーストだ」

 

ウェパル

「フォトンバースト? 『かなり』前に王都が襲撃された時だっけ?」

 

ソロモン

「ああ、あの時はヴィータが犠牲になったけど、あれと原理は一緒だ」

「高密度のフォトンで、水晶の中は破裂寸前の風船みたいにパンパンになってるんだ」

 

フォラス

「でもあれは、『希薄化したフォトン』とやらで引き起こされるものじゃ無かったか?」

 

ソロモン

「程度の違いだよ。フォトンの状態がどうあれ、要は『受け皿』の許容量を超えてフォトンが過剰供給されれば同じ事は起こせる」

 

ウェパル

「要は、風船に水を詰めて割るか、水蒸気を詰めて割るかの違いってこと?」

「1つの風船割るだけの水を沸かして水蒸気にすれば、全部の水蒸気を注がなくても同じ大きさの風船を幾つも割れる」

「薄く散ってる物ほど、同じ量でもより広い場所を占有するからね」

 

ソロモン

「ああ。『希薄化したフォトン』で満たされる許容量分、普通のフォトンを地道に詰め込めば同じ結果になる」

 

ウェパル

「休憩所で聞いたインフレ話からして、風船一個膨らませるのに大瀑布を用意するようなものかしら──」

「ますますついていけないわね……」

 

モラクス

「よくわかんねえけど、やろうと思えばどんなフォトンでもフォトンバーストは起こせちまうってことか」

 

ソロモン

「一見すると、水晶のフォトンは安定しているんだ。指輪でも簡単には取り出せないくらいに」

「でも実は、かなりギリギリのバランスで保たれてるんだと思う」

 

バルバトス

「だから何らかの形で変形してバランスが崩れると、その部分から周辺の水晶組織を巻き込んで『破裂』してしまうわけだね」

「まさしく風船に針を突き立てるかのようにってね」

 

モラクス

「そういや、この水晶自体も、すげえ『手応え』だったぜ」

「俺の『力』があれば何てことねえけど多分、普通に折ろうとしたらその辺の幻獣の骨とかよりずっと硬いぜ、これ」

 

ソロモン

「それだけの硬さだから、これだけのフォトンを抑え込めたのかもしれない。でもこうして、傷一つ付ければそこから綻ぶ──早速試してみよう」

 

 

 指輪でフォトンを操作するソロモン。

 

 

シャックス

「おおー、何かすっごく力が湧いてくる感じだよ!」

 

ウェパル

「まさかこれ全部、水晶から?」

 

ソロモン

「ああ。折れ残った部分が光を失ってないからもしやと思ったら、大正解だった」

「フォトンが溶け込んでるどころじゃない。水晶は大空洞地下のフォトンを吸い上げて蓄積してるんだ。多分、その大半を」

「だから1つ壊すだけで、その場の地面から取り出すよりずっと多くのフォトンが得られる」

「これなら余程のダメージを負わなければ、連戦も何とかなりそうだ」

 

ウェパル

「それは良かったけど──大地から取り出すより効率が良いって本当なの?」

「さっきからの戦闘でも補給でも、フォトンを湯水のように使ってたじゃない。あれだけでも並大抵じゃないと思うんだけど」

 

ミカエル

「イグザクトリー。その全てが事実だとも。傍らで見守ってきた私からも保証しよう」

 

ソロモン

「ここまででも、普段の戦闘よりかなり豪快にフォトンを使ってきてるけど──」

「今の水晶1つで少なくとも2、3回戦分は賄えてる。正直言って危機感を覚えるくらいだよ」

「多分、この水晶がこうしてフォトンを調整してくれてなかったら、普通のヴィータなら大地から湧くフォトンだけで許容量を超えて、体が『ボン!』だ」

 

シャックス

「ひえぇ~、モラクスが大変大変~……」

 

モラクス

「いや、シャックスだってフォトン受け取ったじゃねえか!」

「ここまでロンバルドのやつらが掘ってきたんだから、少しくらい壊しても──」

 

 

 シャックス達の会話にポーが大慌てで割り込む。

 

 

ポー

「ま、待ってください! お、お客さん達もしかして──『大空洞の水』を飲んじゃったんですか!?」

 

ソロモン

「え……水? 別に、誰も飲んでないけど……」

 

ポー

「だって今、『体がボン』って! 『大変』って!!」

 

ソロモンたち

「???」

 

ガイード

「落ち着けって、ポー。どうせ何かの話の例えだろうよ」

「いや、すいませんね。ポーが言ってるのは、『毒入りの水』を飲んだ時の症状なんですよ」

 

モラクス

「水を飲んで、体がボン……?」

 

ガイード

「毒抜きも全くしてない汲みたての水を飲むとですね。よくても二口で体が破裂して死んじまうんです」

 

モラクス

「マジか!」

 

ソロモン

「水の毒って、ベレトみたいにお腹壊すだけじゃなかったんですか!?」

 

ベレト

「っ!!」

 

 

 ソロモンに魂心の蹴りをかますベレト。

 

 

ソロモン

「痛って! 何すんだよ、人が心配してるって時に!」

 

ベレト

「野暮天も大概にしろ! こっちは危うくメギドの尊厳まで損ないかけたと言うのに、気安く口に出すヤツがあるか!」

 

フォラス

「(本当にヤバそうだったからな……おぶって運んでやった俺も色々とヒヤヒヤしたぜ)」

 

バルバトス

「君は本当、もう少しデリカシーというものを考えた方が良いよ、ソロモン王……」

 

ソロモン

「えぇ……お、俺が悪いの……?」

 

ガイード

「毒抜きが中途半端な水だと、そうなります」

「そして全く毒を抜いてない水だと、一口で留めても目や鼻、爪の下、内から外から血が噴き出し、胸が苦しくなって気も遠くなります」

「そして普通の水みたいに二口連続で飲めば、体のアチコチが膨れ上がったりして、最終的にドカンです」

 

ベレト

「ぬ……」

 

シャックス

「ひぃぃ……ざんこく……」

 

ガイード

「もう長いこと水で死んだヤツも居ませんが、それでもこんな具合で『残酷な話』を子どもに伝えていくんですよ」

「死にそうでも毒抜き前の水だけは飲まないようにってね」

 

ポー

「本当に、本当に飲んでないんですよね……?」

 

ガイード

「安心しろって。そもそも、この辺で手足だけで入り込める所に水場なんて1つもねえよ」

 

ポー

「よ、良かったあ……」

 

フォラス

「そういえば、地底湖以外のその『毒入りの水』ってのはどこで採れるんだ?」

「ここまで歩いてる最中にはそれらしい所は無かったが……」

 

ガイード

「ほぼ例外なく、死と隣合わせなくらい厄介な場所ですね。こんな安全な所からじゃ見えもしません」

「足元を濡らしてる僅かな水が流れ着く大穴の底だったり、崖の向こうの壁から滝みたいに流れてたり──」

「毎年1人くらいは帰ってこれなくなりますから、ポーも含め、若いもんには場所さえ教えないのが慣わしなんですよ」

 

フォラス

「大自然だなぁ……」

 

バルバトス

「この過酷な環境では、まさに子は宝だろうからね。さっきの『毒入りの水』の話も含め、なるべく危険から遠ざけ大切に育てるわけだ」

 

ガイード

「そんな所です。ああ余談なんですがね、水を飲んじまった時の話は家々でも少しバリエーションがありましてね」

「口で語って伝えるもんで、うっかり飲んじまった主役の末路──特に断末魔がまちまちなんですよ」

 

ポー

「あ、私の『お父さん』もやってました。確か最後に『あべしー』って言ってて──」

 

ガイード

「俺の父ちゃんは『うわらば』とか叫んでたな。しかも婆ちゃんは何でか、何度聞いても『パンツ』にしか聞こえねえんだ」

 

ポー

「やだ~、も~」

 

シャックス

「プププー、変なの変なのー」

 

ガイードとポーとシャックス

「アハハハハ──」

 

ウェパル

「地元トーク始まっちゃったわよ。部外者付きで」

 

バルバトス

「まあ良いじゃないか。これでポーの『世話好き』も落ち着くだろうし」

「それに吟遊詩人としては興味深い話題だ。つまり、登場人物の爆死という刺激の強い描写を、可笑しな悲鳴で幾らかマイルドにしてるんだな」

「さらにその悲鳴で印象付けて、子どもに『毒抜き前の水は飲んではいけない』という要点を紐付けているんだ」

 

モラクス

「でもよお、爆発して死んじまうって、何かフォトンバーストみてえだよな」

 

バルバトス

「『みたい』じゃなくて、多分その通りなんだろうね」

 

モラクス

「水のんだやつはフォトンバーストで死んでるって事か?」

「でも、死んじまうのは毒のせいなんだろ?」

 

ソロモン

「いや、その毒がフォトンなんだ」

 

モラクス

「??」

 

バルバトス

「つまりだ。危うくフォトンバーストしかねないほどの大地からのフォトン。これを取り込んで調整している役目は、水晶だけでなく水も担っているんだ」

「だから水も凄まじいフォトンを含み、うっかり飲めばやはりフォトンバーストを起こしてしまう」

「この現象をヴィータは『毒』のせいだと捉えた。そして洞窟から取り出して空気に晒せば毒が抜ける事に気付いた」

「実際には、枯渇した大地へと水の中のフォトンが散っていってるだけとは知らずにね」

 

モラクス

「毒だと思ってたら、フォトンの取りすぎなだけだったって事か」

 

ベレト

「おい待て。それなら何で儂は中途半端に苦しむ羽目になったのだ」

「ただのヴィータでなくメギドだぞ。しかも召喚者など使わずとも力を振るえる不死者だぞ」

「たかが多量のフォトンに晒されたくらい、影響など何らも無いはずだろうが」

 

フォラス

「同じ理屈かはわからねえけど、アンドラスから似たような話聞いた事あるな」

「ヴィータによっては、一部の食い物や飲み物を消化する能力が極端に低かったりするんだとよ」

「確かその時に聞いたのは牛乳だったかな。ちょっとくらいなら問題ないが、人によっちゃスープ一杯くらいの量でも消化不良起こしちまうんだと」

「ほんのちょっとでも、人によっちゃスープ一杯が樽一杯以上の『刺激』になっちまうらしい」

 

モラクス

「つまり──食い過ぎ?」

 

ベレト

「貴様からそんな言葉を向けられるとは……!」

 

ウェパル

「フッ」

 

ベレト

「笑うな! こっちは真剣なのだぞ!」

 

バルバトス

「全く同じとは言い切れないが、通常の飲食では有り得ない量のフォトンが一瞬で供給されたから──と考える事はできるかもしれないね」

「水一杯を切っ掛けに、テーブル一面の料理でも賄えないほど大量のフォトンが押し寄せて急に体が活性化したら、どうだろうか」

「メギドの処理能力的に問題ないとしても、ヴィータの内臓が異常事態と勘違いして自己防衛を始めるかもしれない」

「風邪をひいて熱が出るのも、体が自身を守るためにやってる事だ。理屈は通る」

 

ベレト

「毒が抜けきらんと言うだけでも、未だヴィータ体が音を上げるほどのフォトンが含まれておったからと……?」

 

モラクス

「何か、普通のフォトンバーストよりもすげえイヤかも」

 

ソロモン

「『の』って……一応別物だから」

 

ウェパル

「下品」

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

ガイード

「さて、皆さん。この道を抜けた先が地底湖です」

「念の為、先に地底湖の様子を見てきます。何かあれば大声で知らせますんで、ここで少し待っててください」

 

ソロモン

「大丈夫ですか? 誰か、護衛に付けた方が……」

 

ガイード

「心配いりませんよ。伊達にこの歳まで大空洞で生き延びちゃいません」

 

ポー

「あ、あの、私が代わりに──」

 

ガイード

「バカ言え、お前はお客さんたちに何かあった時に助けてやれ」

 

 

 地底湖へ去っていくガイード。

 

 

ベレト

「しかし、この地形……落ち着かんな」

 

バルバトス

「幅があるとは言え、壁の外周に沿うような通路。反対側は幸か不幸か露骨な斜面……ろうと状ってやつか」

「途中から斜面の先が見えないって事は、あそこで途切れて真っ逆さまなんだろうな」

 

ポー

「斜面と崖しかない所を、壁を少しずつ削り出してこの道を作ったらしいです」

「ここも柵を作るか考えてるそうなんですけど、岩の中に埋まった水晶が邪魔で上手くいかないそうで……」

 

フォラス

「柵を固定する杭が水晶にぶつかって途中で止まるか、砕いちまって変な隙間作っちまうかってとこか」

 

ポー

「あ、不安でしたらさっきみたいに、縄で体を固定しますか。万一滑っても大丈夫です」

 

ベレト

「いらん。二度も同じミスはせん!」

 

シャックス

「ねえねえ、そこの壁に空いてる穴はナニナニ?」

 

ポー

「あああ、近づいちゃダメです。最近開通したばかりの道で、まだ殆ど人の手が入ってないってガイードさん達が……」

 

バルバトス

「シャックス。下手したら本当に助けられないかもしれないから、ジッとしてた方が良い」

「しかし、これは名水の輸出を見合わせるのも無理ないな。この地形で幻獣に出くわしたら危険なんてレベルじゃない」

「ましてやこんな所で戦闘なんて、余り考えたくないな……何事も無い事を願うよ」

 

モラクス

「そういや結局、3匹くらいが纏まってるのを見つけたので最後だったなあ」

 

バルバトス

「この場では敵は少ないに越したことは無いが、それも幸いでは無いだろうね」

 

フォラス

「ここは結果として『集会場』になるだけで、『巣』じゃない可能性が出てくるからなあ」

「プロじゃなきゃ踏み込めねえ所で繁殖してたら堪ったもんじゃねえぞ」

 

シャックス

「地底湖って所に残りがウジャウジャしてたり?」

 

バルバトス

「君が言うと実現しそうだから止めてくれ……」

「それに、地底湖自体が幻獣の溜まり場じゃない事は住民から聞き取り済みだよ」

 

フォラス

「まあそれならそれで、遠くからバルバトスにでも核を撃ち抜いてもらえりゃ勝手に誘爆しそうだがな」

 

シャックス

「おおー、気持ちよさそう!」

 

バルバトス

「いやいやいや、こんな所で大爆発起こしたら崩落するかもしれないだろ」

 

 

 話しているうちにガイードが戻ってきた。

 

 

ガイード

「皆さん、地底湖にヤツらはおらんようです。どうぞこっちへ」

 

ソロモン

「ありがとうございます。よし、行くぞみんな」

 

モラクス

「あーあ。バトルは無しかあ」

 

フォラス

「まあ良い事じゃねえか。今日はあくまで大空洞に慣れるのが目的だしな」

 

ウェパル

「……」

 

バルバトス

「ん? どうした、ウェパル」

 

ウェパル

「この先──何か嫌な予感がするのよ。すごく」

 

バルバトス

「……当たるからなあ……覚悟はしておくよ」

 

 

 地底湖へ出た一行。

 想像以上に広大な空間。面積の8割方を埋め尽くす湖面は、水中を水晶に照らされていながら、それでも底が見えない。

「奇跡の御子」で語られた通り、湖面に氷の一片も見られず、波風1つないそこは、幽玄なほどに静まり返っていた。

 

ソロモンたち

「っ──!!」

 

モラクス

「なあ……あ、アレって……!」

 

ソロモン

「な……何でこんな所に……!?」

 

ミカエル

「……」

 

 

 周囲の壁に声が反響してよく響く。

 地底湖の中央付近に、小島のような岩場と、その上に天然の柱が聳えている。

 一行は地底湖の景色よりもまっ先にその柱に目を奪われ、釘付けになった。

 

 

バルバトス

「本物じゃない。水晶の凹凸がそう見せている。ただの『レリーフ』だ」

「見た目も曖昧だ。これが彫刻なら明らかに未完成。だが、ただの偶然というには……」

 

ウェパル

「予感、早速当たったかもね」

 

 

 バルバトスの言う通り、輪郭が不鮮明だったり、途中で途切れている部分もある。

 しかし、甲殻類を思わせる複数の脚。

 鞭のような尾。

 騎士を思わせる鋭くも重厚な上半身。

 それらの造形は嫌というほどソロモンたちの記憶に焼き付いている。

 

 

ソロモンたち

エリダヌス!!

 

 

<GO TO NEXT>

 

 




※ここからあとがき

 ヴァイガルドに風船があるかも知らないまま、物の例えとして使っています。
 何かソースがあったら指摘いただけると嬉しいです。
 某お空の世界にはゴムが無いそうですが、こっちはどうなんでしょうね。
 文明も進んでますし、スリングショットのパーツなんかに気軽に使われてると良いんですが。

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