メギド72オリスト「太古の災厄と新生する憤怒」   作:水郷アコホ

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16「地底湖の天使」

 地底湖に辿り着いた一行の前に、明らかにエリダヌスを模した水晶の彫刻が現れた。

 

 

シャックス

「みんなどしたのどしたの?」

「大丈夫だよ、あれはゲンゲンじゃなくてただの壁だから!」

 

モラクス

「んなことはわかってんだよ!」

「つか覚えてねえのかよ、アレどう見たってエリダヌスだろうが!」

 

ガイード

「さっきからどうなすったんで? その、えり……何とかってのは?」

 

ソロモン

「あ、いや、その……」

 

バルバトス

「み、見覚えがあってね。あの芸術的な造形に」

「その……そ、そう、とある村でああ言った姿の『モノ』を見たんだ。余りに良く似ていたから驚いてしまってね」

 

ガイード

「ほう、そりゃあ興味深い。その村で見たというのが、エリなんとか言うやつなんですな」

「あの地底湖の真ん中に建ってる水晶の塊は、ポーを最初に見つけた時からあんな形をしていたんですよ」

「加工のしようも無い物なのに何かの形に見えるってんで、あっし達はあれをポーを守ってくださった『地底湖の天使』様だと考えてるんです」

 

バルバトス

「へ、へえ。それは神秘的だ……」

 

ガイード

「そんなに似ているとなると、何かこの大空洞と関わりがあるのかもしれませんな」

「ずっと昔にその村とここに同じ天使様が訪れたとか──ちょっと安直すぎますかね。ハハハハハ」

 

バルバトス

「ははは……」

「(エリダヌスが天使か。やれやれ……)」

 

ベレト

「あれが、こいつらが赤い月を落とす発端になったというエリダヌスか……顔とか腕とかは造りが甘くて良くわからんが」

 

フォラス

「途中で別行動した仕事に、試作型だか予備だかがいたらしいが、俺も見るのは初めてだな」

「でも、確か塔とかにも似たようなのが居たような……まあいいか」

「(しかし改めてじっくり見てみると……間違いねえ)」

「(『相当』昔にも見たことがある。もしかするとエリダヌスって名前もなんだが……喉元まで出かかってるんだがなあ)」

「(俺も結構、転生の影響で曖昧な記憶があるっぽいな……)」

 

ソロモン

「それよりも、メギドラルの兵器が天使──ハルマと同列に扱われてるってのは……」

 

一同

「……」

 

 

 ミカエルを見るソロモンたち。

 静かにエリダヌス像を見つめていたミカエルが視線に気付く。

 

 

ミカエル

「む……? オゥ、なるほど!」

 

 

 エリダヌス像と雄大な地底湖をバックに、ビシッとポーズを取って見せるミカエル。

 顔の両隣やや高い位置で手の甲をバッと広げ、見下ろすように顎を突き出している。

 真上から光でも浴びせれば「いかにも」な雰囲気が出そうだ。

 

 

ウェパル

「……何がなるほどなのよ」

 

ガイード

「ほう、絵になりますなあ」

 

ソロモン

「え……?」

 

ガイード

「はい、絵です」

 

ポー

「違いますよ、せっかく立体的な天使様がセットなんですから、ここは彫像とかの方が良いって事を──」

 

ソロモン

「いや、あの、そういう話じゃなくて……」

 

ウェパル

「何か変な方向に流れてってるわよ……」

 

バルバトス

「あー……フォラス。ちょっと、ソロモンと一緒に適当に話を合わせてやってくれ」

 

フォラス

「俺かよ……どんだけ無茶ぶりだよ」

「まあ、あの2人を俺らの話に巻き込んじゃ、ややこしくなるだけだろうしな」

 

バルバトス

「すまない。恩に着るよ」

 

 

 渋々、ポーとガイードの元へ向かうフォラス。

 

 

バルバトス

「さて、ミカエル──」

「はぐらかそうとしてくれたって事は、こちらの言いたい事も察しているんだろう?」

 

ウェパル

「(絶対『素』だったと思うけどね)」

 

バルバトス

「あえて単刀直入に聞こう。君としては、この唐突なエリダヌスとの関連──どう捉える?」

 

ミカエル

「どう……? フッ──トリビアル!」

「素晴らしい事じゃないか。確かにあの『姿』とは因縁があったし、それを天使と呼ぶ事に思う所が全く無いと言えば嘘になる」

「だがそれは些細な事だ。エリダヌスは既に破壊され、そして迷える仔羊達は天使を拠り所に幸福を享受している。姿形など問題ではないよ」

 

シャックス

「うんうん、みんなラッキーなら困る事なんてナイナイ!」

 

ウェパル

「あんたの個人的なお気持ちなんてどうでもいいの」

「何でここでエリダヌスが出てくるのか、あんたなら何か知ってるんじゃないの?」

 

ミカエル

「ノーウェイ! 私にとってもこの出会いは想定外さ」

「ここに来てからも独自に情報を集めてみたが、確かにロンバルドでも『六夜の悪夢』は知られている」

「だがそれも、禁忌の地から移り住んだ者たちが伝える『異郷のお伽噺』に過ぎなかった」

「私の知る限り、直接の関連は見出だせなかったよ。ロンバルドとエリダヌスは、ね」

 

ウェパル

「今日着いたばかりで、いつの間に調べたのよ……」

 

バルバトス

「まあ、俺達と片時も離れなかった訳でも無かったし……」

「しかしつまり、ミカエルの情報もアテにならないか」

「以前、エリダヌスの試作型を純正メギドが奪取しに来た事もあったからその線も捨てきれないが……目の前にあるアレはただの『像』だ」

「メギドラルが大空洞に何か仕掛けていたとしても、あんな無意味な物を用意する理由がない」

 

モラクス

「じゃあさ、中に本物が埋まってんだよ、きっと」

「んでさ、起動すると中から水晶ドバーっと砕いて出てくんだよ! こう、ゴゴゴゴゴーって!」

 

バルバトス

「いやいや、ジャスティスフォースじゃないんだから……」

「それに益々有り得ない。さっきも言った通り、メギドラルにはそんな仕掛けは『意味が無い』んだ」

「ただ人跡未踏の地に兵器を隠すだけなら、あからさまな目印も無くひっそりと置いておくだけでいい」

 

ベレト

「そもそもメギドラルがこんな所にやってくる理由も無いではないか」

「異世界の不毛の地の更に奥底、メギドどころかヴィータが立ち入るにも後から掘り進めたような場所だぞ」

「(や、やっと口を挟めた……こいつら話し慣れ過ぎだ……!)」

 

モラクス

「あ、そっか。言われてみりゃ、こんなデケエの、洞窟の入口通らねえじゃん!」

 

バルバトス

「こんなフォトンスポットがあるなんて知ったら、ただの兵器安置所で済ますはずも無いしね」

 

シャックス

「じゃあ、やっぱり偶然偶然?」

 

バルバトス

「それが一番無難だが……偶然で作られるには『出来すぎ』だろう、これは」

「たまにシャックス達が拾ってくる人面岩と比べても精密過ぎる。何らかの作為で作られたとしか考えられない」

 

ウェパル

「つまり結局、判断材料が足りないってわけね」

 

ミカエル

「なら、より深く探ってみるのが適当ではないかね」

 

バルバトス

「探る? あ、そうか。現地の人間が居るじゃないか」

 

 

 ガイード達を見るバルバトスたち。

 ソロモンとフォラスを交えた会話は、何とか軌道に乗っているようだ。

 

 

ソロモン

「……じゃあ、ポーはここに落っこちた後のこと、何も覚えてないのか?」

 

ポー

「はい。3,4日くらい、ずっと眠くてウトウトしてた感覚だったから、1年も経ってるなんて聞いてビックリしちゃいました」

 

フォラス

「たまには意識があったって事か?」

 

ポー

「ぼんやりとですけどね。たまに何となく地底湖のお水を飲んだりしてたのは覚えてるんですけど──」

「自分が何でプカプカ浮いてるのかとか全然気にならないような状態で……」

 

フォラス

「集落に帰って目覚めるまでは、ずっと夢うつつか……」

 

ガイード

「暖かい所に移ったから、それが何か『元気になる』切っ掛けだったんじゃないかって集落では──」

 

バルバトス

「おーい、ガイードさん。ちょっと良いかい?」

 

ガイード

「おっと。はい、何でしょう」

 

バルバトス

「大した事じゃないんだが、この水晶について、歴史とか成り立ちみたいなものをご存知だったら聞いてみたいと思ってね」

 

ガイード

「ええ。学者先生ほど詳しくはありませんが、少しくらいなら聞きかじってますよ」

 

フォラス

「お、何だか面白そうだな。混ざってみるか」

 

 

 ガイードの周囲に集まる一行。

 

 

ガイード

「まあ、こんな囲まれる程は大した話もできませんが──」

「この水晶がいつからあるのかってのは、かつて何人もの学者先生が調べて来たわけですが──」

「ご覧の通り、とんでもなく深い所まで水晶が分布してるでしょう?」

「何でも、地表からの深さを計算すると、この辺りから最初に生えてきたと考えても、1000年や2000年じゃきかないとかで」

 

モラクス

「じゃあ、1万年とか……?」

 

シャックス

「ううん、もっともっと!」

「地層って言うのはね、1mから2mくらい積もるのに大体1万年かかるって言われてるんだよ」

「お空が見えないから地底湖がどのくらい深いとかわからん事ばっかりだけど、仮に深さ100mだとすると──えっと、たくさん?」

 

ソロモン

「ひゃ、百万年……!?」

 

バルバトス

「本当に興味のない事以外に頭が回らないな……」

 

ウェパル

「1000年前でも神話になってるのに……そもそもそんな昔からヴァイガルドなんてあるの? クラクラしそう」

 

ポー

「クラクラ……!?」

 

ウェパル

「いや、例えだから。そんな目しなくても大丈夫だから。話の腰折らないで」

 

ガイード

「と、まあ最初は随分と驚かれたもんですが、ある時、非常に石に詳しい学者さんが訪れて、あっという間に答えを出しちゃいましてね」

「何でも、水晶自体はもっと最近になってから根を張るように増えた物で、地層とは直接関係ないそうです」

 

バルバトス

「おっとっと。中々の盛り上げ上手じゃないか」

 

ベレト

「す、すっかりその気になってしまったではないか、バカ者!」

 

ガイード

「いや申し訳ない。あんまり小難しい事を説明する経験が無いもんでして。ここは順を追って説明させてください」

 

ソロモン

「つまり、水晶はある時点から急に現れ始めて、今は地層の奥深くまで幅をきかせてるって感じか」

 

バルバトス

「完全にただの石じゃないな。新種の鉱物が独自に繁殖しだしたようなものだ。それも大地の歴史より遥かに短期間で」

 

モラクス

「何かカビとかキノコみてえだな」

 

フォラス

「だだっ広い洞窟を埋め尽くすほどのキノコなんざ聞いた事もないけどな」

 

シャックス

「あるよあるよ? 洞窟じゃないけど、山よりでっかいキノコ」

 

ソロモン

「あるのか!? でもそんなキノコ、傘で山を丸ごと日陰にしちゃいそうだな……」

 

ウェパル

「変な胞子吸い過ぎて幻でも見たんじゃないの?」

 

シャックス

「違う違う! あたしがいつも拾ってるキノコは『子実体』って言って、キノコのほんの一部分なんだよ」

「キノコの本体は『菌糸』って言うので繋がってて、子実体が生えてる場所の周りにずーっと広がってるの」

 

バルバトス

「あ、そうか。花と根っこのようなものか」

「(てっきり、その子実体1つで山1つより巨大なものとばかり……)」

 

ソロモン

「つまり、そのキノコもこの水晶みたいに、後から増殖して……その『菌糸』っていうのが山より大きくなった?」

 

シャックス

「そうそう。オレ……なんとかって所にね、今から200年だか300年くらい前に山火事があって丸ハゲになったんだけど──」

「そこに最初に育った生き物が何とキノコだったのだ!」

「枯れたキノコが他の植物の養分になって、生えてるキノコを食べに生き物が新しく住み着いて、山もすっかり元通り」

「キノコの菌床は山全部をすっぽり覆って、今は世界最大のキノコっていうか、世界最大の生物としてキノコ業界では伝説になってるんだよ!」

 

ソロモン

「キノコ業界……」

 

フォラス

「……落ち着け、俺。シャックスは学生なんだ。何もおかしい事はねえんだ……」

 

シャックス

「フォラフォラひどいひどいー!」

 

ポー

「でも、そんなに大きな生き物が人知れず沢山の命を助けてたって──何だか、親近感湧きますね」

 

ガイード

「おいおい、天使様の正体は水晶のキノコでしたってか?」

 

ポー

「い、いえ、別にキノコに限らなくてもですね……」

 

シャックス

「水晶キノコ!? そこ詳しく詳しく!」

 

バルバトス

「いや、ただの例えだから! とにかく、ガイードさん。話が逸れたけど続きをお願いしたい」

 

ガイード

「はいはい。ええっとどこまで話したっけ……そうそう。水晶を学者先生が調べたってところでしたね」

「何をどう調べたらわかったのか、あっしらには見当も付きませんが、その先生が言うには──」

「『水晶が最初に生まれたのはおよそ1000年以上前。そして2000年前には存在しなかった。それだけは確かだ』と」

「その後すぐにその先生は旅に出ちまったので、これがどういう意味かはあっしらにはサッパリですがね」

 

バルバトス

「ふむ。もしかしたらその言葉の意味、わかるかもしれないな」

 

モラクス

「わかるも何も、水晶が1000年前に急に出てきたって事だろ? さっきからそう言ってんじゃん」

 

バルバトス

「それだけじゃないって事さ。つまり──」

 

フォラス

「待てよ、バルバトス。本職の見せ場取るのはよくねえんだろ?」

 

バルバトス

「おや、これはすまない。ここはフォラス教授に譲らなくてはね」

 

ソロモン

「フォラス、『それだけじゃない』って一体……?」

 

フォラス

「重要なのは多分、言った事より『言わなかった事』の方だ」

「1000年、あるいはそれ以上前に地質が変わるような出来事つったら、とりあえず思いつくものがあるだろ?」

 

ソロモン

「もしかして、こ──」

 

ベレト

「古代大戦だな!」

 

フォラス

「正解。地形なんてホイホイ変わるほどの規模だったって事は、歴史と土地が証明してる」

 

ガイード

「古代大戦……そういや1000年前ってえと、あの天使と悪魔が戦ったっていう伝説がありましたね」

「学者先生がたも、1000年以上前に長い間、天変地異がヴァイガルド各地であったみたいな事を教えてくださった事がありましたよ」

 

ミカエル

「イグザクトリー。その戦争で陸地を隔てる巨大な山が隆起したとも伝えられている『らしい』ね」

 

ウェパル

「(白々しい)」

 

バルバトス

「ベレト……別に黙ってたって忘れられたりはしないからな?」

 

ベレト

「な、何の話だ。たまたま答えが思いついただけだ!」

 

シャックス

「こらこらチミたちー、静かに静かにー。エッヘンエッヘン♪」

 

ベレト

「(シャックスに説教された……だと……!?)」

 

バルバトス

「(絶対、学校で何度も言われたセリフだな)」

 

フォラス

「続けていいか? だが古代大戦が原因なら、そうだと一言伝えるだけで良いはずだ」

「新しい石が見つかるほど地面を混ぜっ返されたなら証拠も充分見つかるだろうしな」

「そうしなかったって事は、その学者には水晶の年代の推定以上の事は証明できなかったんだろう」

 

ウェパル

「古代大戦じゃなさそうって事以外、わからず仕舞いだったってこと?」

 

フォラス

「そうだ。権威のある学者ほど、自分の分野では憶測じゃ物を言いづらくなるものだからな。自分にわかる事しか教えなかったんだろう」

 

ソロモン

「じゃあ結局、1000年前に古代大戦の余波以外の理由で生まれたって事以外は何もわからないのか……」

 

バルバトス

「そこがミソって事じゃないかな。なあフォラス」

 

フォラス

「ああ。地質学は専門じゃないが単純に興味がある……ってのはまあ冗談半分としてだ」

「古代大戦なんて単純な答えじゃないなら、関係あるかもしれないだろ。幻獣と」

 

ソロモン

「幻獣? 何で急に幻獣と繋がるんだ?」

 

フォラス

「確かにまだ可能性でしかないが、連中は今やこの大空洞のヌシと言っても良いはずだ」

「地底湖近くに……あるいは大空洞の奥底ほど連中がよく現れるって事は、その住処もこの近所か、もっと深い所にあるって考えるのが妥当だろう」

 

バルバトス

「つまり幻獣の繁殖サイクルを考えれば、幻獣と水晶は生活圏を同じくして生きてきた」

「酒場で話した通り、あの幻獣達の生態系は環境にも繁殖の道理にも合わない」

「例えば水晶の影響で、幻獣があんな進化を遂げたと考える事もできるだろう」

 

フォラス

「結局見せ場取って行きやがったな。まあ話が幻獣に移ってからなら許してやる」

 

バルバトス

「寛大なお心に感謝を」

 

モラクス

「そういやあの水晶、幻獣の爆発でもビクともしてなかったしなあ」

 

ミカエル

「私も見えていたよ。幻獣が自爆した時、水晶に含まれるフォトンは殆ど散らされていなかった」

「私見だが、あの水晶は幻獣のフォトン操作に対抗する特性を得ているように感じられたね」

 

バルバトス

「石が意思を持っているかのように……なるほど、一理あるな」

 

モラクス

「ん?」

 

ソロモン

「え?」

 

シャックス

「イシがイシを!?」

 

バルバトス

「しまった……違うんだ。流してくれ。頼むから」

 

ベレト

「だが、それがわかったからどうだと言うのだ。やることは変わらんだろうが」

 

フォラス

「そうでもねえぞ。確かにこれが普通の幻獣退治なら、巣だけ潰して細かい事は後で考えればいい」

「だが今回、ゴリ押しで行くには環境が悪すぎる。場所と敵とをよく見極めて、必要なら搦手を突いていかないと命が幾つあっても足りねえ」

 

ウェパル

「最悪、意図的に洞窟を崩して閉じ込める事になるかもしれないわね」

 

ポー

「そ、そんな……!」

 

ガイード

「本当にいよいよとなったらそうするか──って話は既にあります」

「ただそれにしたって、出所が知れないことには大空洞を完全に封鎖する他なくなりますから、おいそれとは……」

 

バルバトス

「飲み水1つさえここに頼っている状況だからね。下手すりゃ共倒れだ」

 

ガイード

「大空洞の水を採る前は、雨や雪から細々と集めていたそうですが、それも今より人が少なかった頃の事ですしねえ」

 

ポー

「あ、あの……」

 

バルバトス

「大丈夫さ、ポー。俺達は決してそんな方法は選ばない」

 

ソロモン

「ああ。ロンバルドの人達を助けるために来たのに、そんな事したら本末転倒だ。ロンバルドに厄介事を押し付けて逃げるのと一緒になってしまう」

 

 

 決意を新たにするソロモンの耳に呑気な声が届く。

 

 

シャックス

「モンモーン、お水持って帰ってもいーい?」

 

ソロモン

「お、お水?」

 

ガイード

「ああ、地底湖の。構いませんよ。なんなら水筒も用意してあります」

 

ポー

「ただし、後で水筒代1個500ゴルドです」

 

シャックス

「はーい、それじゃモンモンよろしくねー」

 

ソロモン

「ちょ、俺が払うの!?」

 

ウェパル

「ハァ……話を聞いてる間も幻獣が出る様子もないし。今日はこれでお開きかしら」

 

フォラス

「だな。後は戻って今日のまとめか」

「水晶が出来たのが1000年前だとすれば、アレが作られたのはそれ以降って事になる……そうなると、益々わからない事だらけだしな」

 

ウェパル

「エリダヌス像ね。1000年かけて未完成なら、あれがそれなりの形になるだけでも100年単位はかかったでしょうね」

「わからないってのは、メギドが作ったと考えにくくなるから?」

 

フォラス

「ああ。間もなく護界憲章が発効されるって時に呑気に壁掘ってるメギドがいるはずもねえ」

「ここには漂って爆発するだけの幻獣しかいないんじゃ、他に仕事を任せられるものも無し。そうなると──」

「本当に、『イシのイシ』であんな形になったとしかなあ」

 

ウェパル

「……早く帰りたいわね」

 

フォラス

「遠回しに手厳しいツッコミどうも。俺も同感だ。そろそろこう言う仕事は保たねえ歳だしな」

 

ウェパル

「……」

 

フォラス

「どうした。それでもやっぱエリダヌスからは目が離せないってか?」

「まあ、お前さんらは直接あいつらとやり合ったそうだから、無理もないか」

 

ウェパル

「……そんなんじゃないわよ」

「(……どうせソロモン達も、もう気付いてて、ああしてるんでしょうし)」

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 地底湖を出て引き返す一行。地底湖手前の壁伝いの通路を進む。

 

 

モラクス

「なあなあアニキ、地底湖の水はすぐ飲んでも大丈夫って話だったけど、やっぱフォトンが少なかったりしたのか?」

 

ソロモン

「え? どうだろう。毒入りの水の方をちゃんと見たこと無いからな……」

「ただ、物凄いフォトンではあるけど、『危なそう』って程には感じなかったかな。あくまで勘だけど」

 

モラクス

「じゃあ本当に水の毒ってフォトンの事なんだな。これポー達に教えたら何か役に立つんじゃね?」

 

ウェパル

「わかったってどうしようも無いでしょ。水の中のフォトンが操れるわけじゃないんだから」

 

モラクス

「でもよお、メチャクチャフォトンたっぷりの水って解ってりゃ、それはそれで売り物になるんじゃね?」

 

ウェパル

「う……」

 

バルバトス

「なるほど。要は飲まなければ良いのだから、単純に大地の恵みを生かしたい品──あるいは研究用の需要は高そうだ」

「これはモラクスに一本取られてしまったかな」

 

ウェパル

「うっさいわね……」

 

ソロモン

「そこはまあ、追々考えていこう。幻獣をどうにか出来なくちゃ、売れるだけの水も採れないんだし」

「それに、毒入りの水は普段の生活に使ってる分だ」

「不用意に『売れるかも』なんて教えて、もしロンバルドの人達の生活を崩してしまったら、余り良い事にはならない気がする」

 

モラクス

「そっかあ。色々難しいんだな……」

 

フォラス

「今のやり方でロンバルドはうまくやれてるからな。その間は今のままで良いんじゃねえか」

 

 

 話していると、壁沿い通路の終点で先頭のガイードが一行に振り返った。

 

 

ガイード

「それじゃあ皆さん。こっから、行きと帰りは同じ道でも全くの別物になるんで──」

「って、あれ……ポー?」

 

 

 ガイードが首を傾げて一行より更に後方を見る。

 つられて一行も振り向くと、最後尾に付いているはずのポーが居ない。

 

 

フォラス

「ポーのやつ、どこに──ベレト、何か見てないか」

 

ベレト

「知るか。地底湖を出る時には確かに儂の後ろに……あ!」

「居たぞ、地底湖の入口前だ!」

 

 

 ポーは一行に背を向け、地底湖の方を向いて立ち尽くしている。

 

 

モラクス

「こうして見ると結構、距離あるよな」

 

ソロモン

「何してるんだ? 何か手に持って眺めてる?」

 

ガイード

「あー……やっぱりなあ……」

 

フォラス

「(やっぱり?)」

 

ガイード

「おーーい!! ポーー! 皆さんをお送りするぞー!」

 

ポー

「ふあ!? あ、あ、あんな遠くに……!?」

「す、すいませーん! 今行きま……」

「っ!」

 

 

 こちらに駆けて来ようとしたポーの足に急ブレーキがかかる。

 ポーとソロモンたちとの間に、地底湖突入前にシャックスが発見した横穴がある。

 そこから、見覚えのある半透明の影がユラユラと滲み出していた。

 

 

ソロモン

「しまった、幻獣!?」

 

シャックス

「あわわわ、ゾロゾロ出てきた出てきた~!」

 

バルバトス

「地底湖で話し込んでる間に、『そよ風』頼りの幻獣達がようやく出入り口を探り当てたかな……まずいぞ」

 

ソロモン

「バルバトス、フォラス、ここから幻獣を……!」

 

フォラス

「ダメだ。流れ弾がポーに当たるかもしれないし、どのみち幻獣の自爆に巻き込んじまう!」

 

ガイード

「ポー! 一旦、地底湖に……!」

 

バルバトス

「それもダメだ。原因は解らないが幻獣は今、『人に寄り付いてる』!」

「様子見に徹した所で、幻獣が俺達とポー、二手に分かれるだけだ」

 

ウェパル

「だからって放っとくわけにいかないでしょ。無理してでも誰か飛び込むべきじゃない?」

 

ソロモン

「でも、この地形……一歩間違えば崖まで吹っ飛ばされて……」

 

ベレト

「能書きを垂れとらんでフォトンを回せ! ありったけだ!」

 

 

 ベレトが幻獣の群れへ駆け出した。

 

 

ソロモン

「お、おいベレト!?」

 

ベレト

「落ちそうなら召喚しろと、さっきも命じただろうが!」

 

ソロモン

「あ、そうか。よしベレト、ポーの安全を最優先に頼む!」

 

ベレト

「指図は要らん!」

 

 

<GO TO NEXT>

 

 




※ここからあとがき

 地底湖の「天使」にするか「守り神」にするかで迷いましたが、ヴァイガルドでの神の立ち位置について手元に情報が無いもので、念の為に天使を採用しました。

 ミカエルのポーズはこの描写だと不足かも知れません。
 より具体的にイメージしたい方はメギド公式のプロデューサーレターを参照ください。

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