メギド72オリスト「太古の災厄と新生する憤怒」   作:水郷アコホ

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20「震撼と崩壊」

 ウェパル、シャックス、ベレトが酒場を飛び出す。

 先陣を切ろうとしたベレトが、一歩踏み出すなり後ずさりした。

 

 

ベレト

「な、何だこれは……水浸しではないか!」

「ぬぅ、見渡す限り、どこも水面になっておる。大空洞以外では水も採れん不毛の地では無かったのか!?」

 

ウェパル

「つまりこれも異常気象って事でしょ。驚いてる暇は無いわ」」

「深さは──つま先浸かるくらい。泥で滑りはしても戦えないほどじゃなさそうね」

「坂道を流れ続けてるって事は、どこかから水が噴き出してるわね。多分、さっきの地震でできた地割れとかから」

「水も面倒だけど……空気が湿気を含んできてる上に、風も強い。この寒気は、流石にちょっと厳しいわね」

 

シャックス

「この『ドトール』? っていうの、すっごく暖かいよ。不幸じゃないない!」

 

ウェパル

「『ドテラ』でしょ。あんたが難を逃れても私達が不幸じゃないの。とりあえずさっさと合流す──」

 

 

 ウェパルの鼻先スレスレを何かが落下し、足元で砕けた。

 

 

ウェパル

「氷……まさか、雹まで振ってる……!?」

 

ベレト

「どうした、何だそのヒョウとワギヤっ!?」

 

シャックス

「ひえ~、脳天直撃……」

 

ウェパル

「そんな風に、大きめの氷が空から振ってくるのよ」

「普通はこんな青空に真っ白い雲から振ってくるなんてありえないけどね」

 

ベレト

「ぐぬぬぬ……ふ、不幸だ……」

 

 

 斜向いの家からバキンと大きな音が響き、家の壊れた窓の奥から悲鳴が飛び出した。

 

 

ガイードの慟哭

「ちくしょう! 屋根まで抜けやがったあ!!」

 

ウェパル

「……」

「あんな風に、モノによってはタンコブ出来る程度じゃ済まないから、気を付けてよ二人とも」

 

ベレト

「う、うむ……」

 

ウェパル

「まだ『ぬかるみ』にソロモンたちの足跡が残ってる。洗い流されない内に追うわよ」

「あいつは絶対、私達の支度を気遣って当分は召喚を遠慮するでしょうからね」

 

 

・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 集落の一角。ソロモンたちが幻獣と戦闘中。

 

 

ソロモン

「バルバトス、そっちに行った!」

 

バルバトス

「ああ、わかってる!」

 

 

 バルバトスが幻獣を狙撃するが、直前に幻獣が移動し的を外す。

 

 

バルバトス

「かわされた? いや、風向きが変わっている……!」

 

ソロモン

「何だ……幻獣たちが一箇所に集まってる?」

 

 

 巻き取られるように幻獣が集い、暴力的に空中を旋回し始めた。

 

 

モラクス

「アニキ、これ違え、竜巻だ!」

 

 

 モラクスが言い終わるのとほぼ同時に、風速に耐えきれなくなった幻獣が一斉に爆発した。

 爆風で近隣の家々の壁材が剥がれ、足元の水が礫のように飛散した。

 

 

バルバトス

「くっ……凄まじい破壊力だ。体内のフォトンが一斉に奪われたのが感覚でわかるくらいに……」

「(しかも、大空洞でベレトが誘爆させた時とは規模が段違いだ。どっちだ……どっちが『例外』なんだ……)」

 

モラクス

「ぺっ、ぺっ、泥が口に入っちま──おお?」

 

 

 モラクスがその場に座り込んでしまった。

 

 

ソロモン

「モラクス!?」

 

モラクス

「チックショー、ちょっとフラついただけだと思ったのに、思い通りに力が入らねえ……」

 

バルバトス

「モラクス、後ろだ! 早くその場を離れろ!」

 

モラクス

「え!? ちょ、ま──」

 

 

 モラクスの背後に、竜巻に飲まれずに済んだ幻獣が漂っていた。

 指摘に気付いてモラクスが立ち上がろうとした瞬間、背後の幻獣が降り注ぐ雹に射抜かれ、爆発した。

 

 

モラクス

「ぐああっ!?」

 

 

 露骨に爆風を受けて愛用の斧からも引き剥がされ、地面を転がされるモラクス。

 泥まみれで上体を起こしたモラクスの腕は頼りなく震えている。

 

 

モラクス

「くっそぉ……立てねえ……!」

 

ソロモン

「どうなってるんだ。確かに異常気象で戦いづらい面はあるけど、険しい大空洞で戦った時よりかはマシなはずなのに──」

「なのに、何でこんなに苦戦するんだ……」

 

バルバトス

「大空洞で戦ったからかもしれないね……そうだろう、フォラス?」

 

フォラス

「……ゼェ、ハァ……認めたか無いが、そういうこったろうな」

 

 

 ずっと黙っていたフォラスは、がに股で両手を膝に付き、辛そうに体を支えている。

 

 

ソロモン

「フォラス……その、まだ、苦しいか?」

「戦い始めてすぐに息が上がって、その調子だけど……」

 

フォラス

「全く動けないほどじゃないが、二日酔いと徹夜抱えて働き詰めた気分だよ……」

 

ソロモン

「徹夜って、フォラスも皆も宿ではちゃんと休んで……そうか。ここはエルプシャフトとは違うんだった!」

 

バルバトス

「正解だ。この慣れない環境、そして大空洞という秘境への挑戦。俺達が思う以上に疲労は蓄積されていたんだ」

「モラクスは前衛で爆風に晒され続けてきた。フォラスは俺達みたいに旅慣れてないし、ダメージを補えるほど鍛えてるわけでもない」

「ずっと後衛に徹してきた俺やソロモンはまだ自覚が少ないが、早くもこの冷気に体が屈しかけているんだろう」

 

フォラス

「ついでに言えば、俺はこないだ拾った『幻獣の核』を調べるのに夜ふかししてたからな……ハハ」

 

ソロモン

「まさか、3日足らずでこんなに……思いも寄らなかった」

 

バルバトス

「誰一人気付いてなかったんだ。君だけ悔やんでも仕方ないさ」

「とにかく、どうする。一旦撤退して、二手に分かれたミカエルを頼るか?」

「彼なら今日まで体力を温存し続けていたし、爆風の直撃を受けてもピンピンしていた」

「シャックス達の合流を待つにも、彼女たちも前衛だしね。モラクスほど積極的で無いにせよ爆風を受け続けている。彼女たちも間もなくピークを迎えるかもしれない」

 

ソロモン

「正直、そうしたい所はある。けど、今この場に残っている幻獣だけでも倒しておかないと、ミカエルが駆けつけるまでに被害が──」

 

ベレトの声

「居たぞ、あっちだ!」

 

 

ソロモン達が振り向くと、通りの向こうで丁度ベレトが幻獣を叩き潰していた。

 ベレトが爆風にうまく乗って飛び退き、ソロモンのすぐ隣まで着地した。

 既に体のあちこちが泥に汚れている。

 

 

ソロモン

「ベレト……助かった!」

 

ベレト

「む……フフン、この貸しは後できっちり取り立ててやるからな」

「それより、さっさと後の2人を召喚しろ。チンタラ歩かせておったら日が暮れる」

 

ソロモン

「わ、わかった。召喚!」

 

バルバトス

「(『チンタラ歩かせて』って事は……やはり2人も……)」

 

 

 ウェパルがシャックスの肩を借りた姿で転移した。シャックスのドテラをウェパルが羽織らされている。

 二人とも、ベレトのような泥汚れは足首周りを除いて殆どない。

 ベレトの汚れは本人が勢い任せに駆けずり回ったか、単独で戦闘を請け負ったかだろう。

 

 

ソロモン

「ウェパル!? ど、どうしたんだ!」

 

シャックス

「ど、どうしようモンモン~……来る途中でパルパルがフラフラしちゃって……」

 

ウェパル

「また頭痛よ……痛くて目玉が零れ落ちそう」

 

バルバトス

「斬新な表現だな。まあ強風ってのは本来、気圧や寒暖の差で起きるからな……」

「フォラス、モラクス、ウェパルの続投が困難。敵の総数はようとして知れない……どうする、ソロモン?」

 

ソロモン

「くっ……最悪、フォラス達が倒れたら運ぶための人員と余力も必要になるかもしれないし……」

 

ベレト

「考えるまでも無かろう。とにかく探し出して殲滅だ。潰れた者は後で住民にでも手伝わせればよい」

 

フォラス

「いや、賛成しかねるな……さっきの爆発だけでも家が何件か巻き込まれてる」

「住民達だって自分たちの生活守るので手一杯のはずだ。不可能じゃないだろうが、俺達が生活を圧迫するようなマネはちょっとな……」

 

モラクス

「ま……まだだぜ、アニキ……俺は、まだ……」

 

 

 モラクスがソロモンの元までどうにか移動していた。斧を拾い直し、這いずるように。

 

 

バルバトス

「モラクス、君がそこまで言い出すのは本当にマズい時だ」

「ソロモンのためになりたいなら、ジッとしておいた方が良い」

 

モラクス

「でも、よぉ……」

 

ミカエルの声

「ドンッ、ウォーリー!」

 

ソロモン

「今度はミカエル!? ど、どこだ!」

 

ミカエルの声

「言ったはずだ、統べる者よ。常に高みを目指せとね」

 

バルバトス

「上か!」

 

 

 見上げると屋根の上でミカエルが風に靡く髪を手櫛で整えていた。今にもマイナスイオンが弾けそうな完璧なポージングだった。

 

 

ソロモン

「ミカエル、別行動で幻獣に対処してくれていたはずだが、ここに来たって事は?」

 

ミカエル

「イエス。護り抜いたとも。見通せる限り、一通りね」

 

ウェパル

「くっ……」

「(その割に泥一つ跳ねてないってツッコミたいけど、頭痛い……)」

 

ミカエル

「残るは、私の背後で漂っている数匹だけさ」

 

ソロモン

「本当か! 助かった……それじゃあ、悪いけどそいつらも──」

 

ミカエル

「ノンノンノー! ヴィータの希望は君達であるべきだ。トドメは君達にこそ相応しい」

 

ソロモン

「は……? こんな時に何言ってるんだよ!」

「それに、倒したいのは山々だけど、こっちももうギリギリで……」

 

バルバトス

「(この態度、異常気象を先延ばしにしたい……?)」

「(いや、違うな。幻獣を全滅させれば、異常気象が止まる──)」

「(警戒してるんだ。その前後に『何か』が起きる事を。その『何か』まではわからないが……)」

 

ベレト

「丁度いい、ハルマは大人しく見ていろ」

「儂がまとめて叩き潰し、召喚者への貸しを上乗せしてやる」

 

フォラス

「おい無茶すんなって。ベレトは昨日もぶっ倒れたたばかりじゃねえか」

 

ソロモン

「……いや。ベレトに行かせよう」

「理由はわからないけど、ミカエルが幻獣にトドメを刺してはくれそうにない」

「どのみち俺達の誰かが倒すしかないんだ。それなら、充分に休んでいたベレトが一番消耗が少ないと思う」

「それに、ベレトの気絶はフォトンを急速に失った一過性のものだ。今の俺達みたいに、疲労が限界に達したからじゃない」

 

フォラス

「……そう言われりゃ確かに。わかった、お前さんに任せる」

 

ソロモン

「ありがとう。行くぞベレト、フォトンを回す!」

 

ベレト

「せっかく身を暖めたと言うのに底冷えさせおって……儂の怒りは絶好調だ!」

 

 

 ソロモンの期待通りにベレトが幻獣を薙ぎ払うのに、そう時間はかからなかった。

 

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 異常気象も収まり、互いを支えあうような状態で酒場の扉を開いた一行。

 

 

モラクス

「ハー……やっと着いた」

「これっぽっちの距離をこんなに長く感じたの、初めてかもしんねえ……」

 

ソロモン

「この調子だと、今日の大空洞調査は見送るしか無さそうだな……」

 

バルバトス

「同感。ともすれば緊張が切れた今、熱くらい出す者が居るかもしれない。当然、俺とソロモン含めてね」

 

シャックス

「むむ! ねえねえ、それより美味しそうな匂いがするよ! 美味しそうな匂い!」

 

ベレト

「(こいつは大丈夫そうだがな。風邪は何とやらには効かぬと言うし)」

 

 

 キッチンからヤブが顔を出した。

 

 

ヤブ

「おかえりなさい、皆さん……っと、今回は随分と苦戦されたようですな」

「今日まで怪物が現れる回数も増えましたが、3日連続で集落までなんて初めてですからね──」

「もしかしたら、連中も何か力を付けているのかもしれませんな」

 

バルバトス

「なるほど。強くなっているかはちょっと微妙だが──何か活発化している要因はあるのかもしれないな……」

「まあ今回は幻獣よりも、大自然の洗礼にちょっとね」

 

ヤブ

「あー。元々、ヴィータの暮らすような土地でも無いですからねえ。まあ、すぐ慣れますよ」

「とにかく、ポーがそこの席で朝食と拭く物を用意していて……妙に静かだな?」

 

 

 ヤブの目線の先では、昨日の朝食と同じ席に料理の他、衣類やタオルが並び、席の1つにポーが座っていた。

 

 

シャックス

「おお、やっぱりゴハンゴハン! いっただっきま──」

 

フォラス

「こらこら、子どもの前で泥だらけで食おうとするんじゃない」

「……つーか、ポーは何してるんだ。座ってるだけにしか見えないが……」

 

 

 ポーは一行に気付いていないようで、虚空を眺めている。

 

 

ベレト

「おい、ポー!!」

 

ポー

「……はぅあっ!?」

「あ、あれ、皆さんいつの間に!?」

 

ベレト

「何をしておる。今帰ったぞ!」

 

ウェパル

「あんたあの子の何なのよ……」

 

フォラス

「酔っ払ったダメ亭主みたいなセリフだな……」

 

ポー

「す、すいません、何かボーッとしちゃ──」

「って……あ、れ……?」

 

 

 慌ててタオルを持って一行に駆け寄ろうとしたポーが、足をもつれさせて倒れ込んだ。

 そこにスルリとバルバトスが間合いに入り、ポーを受け止めた。

 

 

バルバトス

「大丈夫かい。健気なお嬢さん?」

 

ポー

「あ……す、すす、すいません、また──」

 

 

 バルバトスはポーの顔色を確かめながらもウインクを投げかけた。ポーの瞳が釘付けになる。

 

 

ベレト

「フンッ!!」

 

バルバトス

「ぐほぅ!?」

 

ポー

「うわあ!?」

 

 

 ベレトがバルバトスの脇腹に旗竿の石突を打ち込んだ。

 ポーを巻き込まぬよう華麗に体重移動しながら倒れ込み、子鹿のように悶えるバルバトス。

 

 

ポー

「あ、ああの、だ、だ、大丈夫ですか……!?」

 

バルバトス

「がふっ……ぶ、武器を使うのは、反則じゃないか……?」

 

ウェパル

「懲りないわね、あんたも」

 

ミカエル

「……」

 

ソロモン

「(ミカエル……?)」

「(何か、ポーが転んだ辺りから真剣にポーを見ているような……)」

「(それも……心配って顔にしては険しいような?)」

 

ヤブ

「あー、皆さん。良いですかね」

「こんな事もあろうかと、浴場の湯を沸かし直してあるんです」

「お腹もお空きでしょうが、まずは体を暖めてからというのはいかがでしょう」

 

フォラス

「お、助かるねえ。少しは疲れも癒えるだろう」

「このまま泥だらけで歩き回ってちゃ床を汚しちまうし、先に着替えときたかった所だしな」

 

ポー

「あ、じゃあ私が皆さんの着替えを──」

 

ヤブ

「いや、ポーもついでに入っとけ。お前が調子悪い時は、いつもひとっ風呂浴びれば一発だしな」

 

ポー

「え……で、でも、今朝も入ったばかりだし、今のは別に──」

 

ヤブ

「着替えの準備くらい、2人でこなす程の仕事でも無いだろう」

「異常気象のたびに体壊すやつも少なくないんだ。今まで平気だったにしたって、大事を取るに越したことはない」

 

バルバトス

「ふむ。やはり異常気象による急激な気候の変化も、少なからぬ影響を与えているのか」

「先程ポーが心ここにあらずだったのも、軽い貧血か何かだったのかもしれないな」

 

ポー

「でも……」

 

ベレト

「む……」

「おい、貴様!」

 

ヤブ

「あ、はい。私ですか?」

 

ベレト

「そうだ。貴様がどういうつもりか知らんがな、ポーが構うなと言っとるのにモガッ!?」

 

ポー

「(ちょちょ、お姐さんストップ、ストップ!)」

 

ベレト

「むが……ぷはっ!」

「(何を日和っている。ああいう過保護が気に食わんと言っておったのではないのか!)」

 

ポー

「(そ、そうですけど、過保護じゃなくて純粋に心配してくれてるだけですし、いきなり私、お姐さんみたいにはなれないですし……)」

 

ベレト

「(そうやって本音を飲み込んでいるから、いつまで経っても最初の一歩も踏み出せんのだ!)」

 

バルバトス

「何か言い争っている所すまないが、ポー。ちょっと良いかい」

 

ポー

「ほあ!? は、はい!」

 

バルバトス

「俺達から見ても、今現在の君は元気そのものだ。その点で君の不満はもっともだと思う」

「だが今、俺達の半数は『自分で大丈夫と思った』結果、気づかず溜め込んだ疲労に思わぬ苦戦を強いられた」

「正直な所、君にも今日はゆっくりしてもらいたいと言うのが俺の考えだ」

「君は大空洞で俺達と幻獣の戦いに居合わせている。爆風のダメージが無いとも限らないんだ」

 

ベレト

「……」

「(そう言えば、儂が盾になってやったとは言え、こいつは間近で浴びておったはずだな……)」

 

ポー

「う……はい……」

 

ベレト

「貴様の言い分は認めざるを得ないが……それでも気に食わん」

「なんというか……仕事を任せながら様子も見るとか、そんなやり方はできんのか」

 

バルバトス

「当然ダメだ。ポーが仕事をする以上、客の安全を預かる責任がある」

「料理を火にかけている最中に気でも失う事があったらタダじゃすまないだろう?」

 

ベレト

「ぬぅ……」

 

バルバトス

「だから──危険のない仕事なら良いのさ」

「ヤブさん。今日一日、ポーに俺達の『専属』になってもらってもいいかな?」

 

ヤブ

「専属……? ああ、なるほど。そういう意味ですか」

「まあ、他に客も居ませんしね。ポーが良ければ構いませんよ。ただ、料金はポーに相談してくださいよ」

 

バルバトス

「ありがとう。フフッ、どうやらヤブさんとは馬が合いそうだ」

 

フォラス

「ん? 今、何の話を取り付けたんだ?」

 

バルバトス

「それを説明する前に、確認しておきたい事がある」

「俺達は今、この有様だ。今日は休養を取って、行動範囲を宿とその近辺に留めるしかない。それで良いかな」

 

ソロモン

「うん。俺もそのつもりだった……。大空洞行きは無理がある以上、幻獣に備えて待機するしかできないし」

 

バルバトス

「だから今日一日、ポーには俺達に付きっきりで接客してもらう」

「ポーは俺達の『専属』だから、客全体に対する『共通』の仕事に従事する暇は無い」

「本日のポーの業務は、俺達の休息をより有意義にするため、また現地の理解を深めるために──」

「俺達と仲良く一緒に過ごしてもらう事、となったのさ」

 

ポー

「えっと、つまり……身の回りのお世話とか、ですか?」

 

ヤブ

「まあ仕事の内なら止めはしねえさ。ただし働いて良いのは、お客さんの誰かが必ずそばにいる時だけだ」

 

ポー

「え! じゃあ、ミルク用意したりお風呂沸かしたりできないの!?」

 

ヤブ

「そうだ。せいぜい工夫する事だな。つーか、午後の風呂焚きは元から俺の仕事だ。やらせねーかんな」

 

ソロモン

「とにかく今日、ポーは暇を与えられたんじゃなく、俺達とゆっくりする『仕事』を与えられた……って事になるのか?」

 

ベレト

「何だか無性に気に入らん建前だが……」

 

ポー

「うーん……休む事もお仕事とは言いますけど……」

 

バルバトス

「心配要らないさ、ポー。これも立派な仕事だ。ではまずは価格交渉から──」

 

ウェパル

「ポーには悪いけどロハ一択よ。お金払ったら怪しい酒場の『ご指名』と同じじゃないの」

 

バルバトス

「え、あ……すまない。流石にそういうつもりは全く無かった……」

 

モラクス

「なあ、何でも良いけど……先に風呂入ってきて良いか?」

「メシも食いたいけど、流石に寒くなってきた……」

 

シャックス

「じゃあ、あたしはゴハンにしてからお風呂──」

 

ソロモン

「いや、先に全員サッパリしてからにしよう」

 

シャックス

「え~ん、モンモンのいけず~……」

 

ソロモン

「それじゃあ、ヤブさん。折角の料理を冷ましちゃうのは悪いけど……」

 

ヤブ

「お構いなく。ゆっくり堪能してってください」

 

ベレト

「……フン。興が削がれた。今日の所は鉾を収めておいてやろう」

「ほら行くぞ、ポー。今朝の借りを返すチャンスを与えてやる」

 

ポー

「結局、入ったばかりでまた入るのは変わらないんですね……」

 

 

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