メギド72オリスト「太古の災厄と新生する憤怒」 作:水郷アコホ
バルバトスの提案する「前会議」なるものに首を傾げるソロモン。
ソロモン
「前……会議? 昨日のまとめと、今後の方針を話すって事だよな?」
バルバトス
「ちょっと違う。そう言った事を話す『本会議』の前に、ロンバルドの住民や顔に出やすいモラクス達を交えてどこまで情報を共有しあうか……」
「それを決めるための『前会議』だ」
フォラス
「例のミカエルの『隠し事』か」
「下手な事まで話し合ったら、住民にミカエルを疑わせる事になりかねないしな」
「何より本会議にミカエル本人も参加しちまったら、ギクシャクしちまうだけになっちまうか」
ウェパル
「ミカエルの件なら一応、フォラスが寝る前に聞いてるわよ。話すなら説明は要らないわ」
バルバトス
「それもあるが……とにかく、ここまでの情報の整理も併せて行っておきたい。順番に考えていこう」
「まず、今回の事件の発端となった幻獣について」
ソロモン
「結局、今までの幻獣とは違った形の厄介な相手って事以外、わからないことだらけだな」
「大空洞のどこから出てくるのか、数はどのくらいか、そもそも何で大空洞に住み着いたのか……」
バルバトス
「その『厄介な相手』という部分、少し考えてみた事があるんだが、いいかい?」
ウェパル
「『前会議』で話す必要ある? 幻獣の話なら、それこそモラクス達に伝えといた方が良い事でしょ」
バルバトス
「ある。最悪の場合を考えると、これから話す事はロンバルドの住民には伏せておいた方が良いかも知れない」
ソロモン
「ヤブさん達に話せないとなると、内容によってはベレトやシャックスが口を滑らせないよう気を付ける必要も出てくるか……」
「わかった。とにかく話してくれ」
バルバトス
「まず、念の為に確認したい。俺達の中で、あの幻獣とソックリな姿をした幻獣を見た者は?」
一同
「……」
ウェパル
「クラゲみたいでフワフワしてるってだけなら覚えあるけど、『似てる』ってだけの意味じゃないんでしょ?」
バルバトス
「ああ。皆も知っての通り、ヴァイガルドに送り出される幻獣の姿というのは幾つか『パターン』がある」
ソロモン
「言われてみれば、『村喰らい』みたいな大物は珍しいやつもいるけど、数の多い幻獣はそんなイメージあるかも」
「狼頭のやつとか、鎧を着たトカゲとか、『ネズミ』とか──」
フォラス
「パッと見て色が違う程度の印象しか無いのとか、住んでる土地と使ってくる『手』が違うだけで見分けが付かない事も結構あるよな」
「まあ、こっちに適応できる幻獣って最低限の条件もあるだろうからな。そういった条件をクリアした中から、幾つか派生していったんだろう」
バルバトス
「そう。大体は『同じ』やつらなんだ。フォトン回収の尖兵としての幻獣の特徴は、外見である程度分類する事ができる」
「だが、今回現れた幻獣はそうじゃない。幻獣としては十把一絡げの存在だが、未だ誰も見たことがない」
ウェパル
「まどろっこしいから、手短にまとめてくれない?」
「見た事ない幻獣だからどんな可能性があるか。そして、それが住民に知られるとどう都合が悪いのか」
バルバトス
「……あの幻獣は、特別な意図を持ってメギドラルから送り込まれている」
「そして住民に知られれば……一言で言えば、『話がこじれる』」
ソロモン
「メギドラルから……フォトン回収とは別の目的で?」
フォラス
「だが待てよ? 地底湖帰りに出会った幻獣達、途中の横穴から出てきたよな」
「確かあの横穴、つい最近開通したってポーが言ってたはずだぜ」
「バルバトスの言う通りなら、横穴が開通する前から、大空洞の奥深くに幻獣たちが潜んでたって事にならないか?」
バルバトス
「俺が言いたいのもまさにその通りだ」
「俺の推測が正しければ、やつらは地底湖脇の通路が開通する以前から大空洞深部に送り込まれている。メギドラルによってね」
ソロモン
「そうか、ゲートか……!」
バルバトス
「ああ。極小のゲートだろうと、幻獣なら一旦フォトンに分解してゲートを通す事ができる」
「恐らく、今も最深部にゲートがある。それが引き続き幻獣を送り込んでいるか、既に繁殖に任せているかの違いはあるだろうけどね」
フォラス
「だが、仮にそうだとして理由が見出だせねえな」
「あの幻獣……もう手っ取り早く『クラゲ』と呼ぶとしてだ」
「クラゲどもは昨日も話した通り、フォトンを持ち帰るなんて器用なマネはできそうにないぞ」
ウェパル
「同感。アレにそんな仕事できなさそうだからフォトン回収以外が目的って考えてるなら、お粗末すぎない?」
バルバトス
「そうでもないさ。フォトン回収だけならともかく、クラゲ達にはそもそも『仕事自体任せられない』」
「ああやってフワフワ風の向くまま漂わせるだけが精々。そうは思わないか?」
ウェパル
「益々ダメじゃない。だったらそもそも何のために──」
ソロモン
「もしかして、クラゲはただの『迎撃』……いや、『捨て駒』って事か?」
ウェパル
「あ……」
フォラス
「大空洞の奥に踏み入らせない……もしくは大空洞に排除したい先客が居て、そのために送り込んだ、か」
「まあヴァイガルドに幻獣に匹敵する力なんざ、そうそうありゃしない。前者だろうがな」
バルバトス
「そう。つまり、幻獣は2種以上居る可能性がある」
「1つは例のクラゲ。そしてクラゲに最低限の目的を共有させるために、深部で細々と繁殖を続けるもう1種」
「幻獣はより意思の強い個体に追従する習性がある。自爆しか能のないクラゲの上に立つのは、生命力だけが取り柄な種族程度でも充分だろう」
ソロモン
「じゃあ、その深部に居る幻獣は一体何のために……?」
フォラス
「それこそフォトン回収じゃねえか? 『捨て駒』って別の目的があるのはクラゲの方だしな」
「例えば、本命の幻獣はクラゲを自爆させないように食う事ができるってんなら、クラゲどもが手当たり次第にフォトンを吸い上げてるのも納得がいく」
「奥で生活してる幻獣は、クラゲを食うだけ食ったらメギドラルに帰るだけで良いんだからな」
バルバトス
「俺もそれを考えたが、多分違う」
「だったら最初から、効率的なフォトン回収と寒冷地での繁殖を両立できる幻獣1種を作れば良いだけだ」
ソロモン
「そう言われると、クラゲは自爆した時にフォトンを吹き飛ばしてる」
「仲間も誘爆させる威力だ。フォトン回収が目的なら、この機能は効率が悪すぎると思う」
フォラス
「言われてみりゃあ確かに……」
「だが何にせよ、バルバトスの考え通りだとすれば、ひとまずの辻褄は合うか」
「規模は調べなきゃ分からないが、どこから来て、いつから住み着いたかも大まかには推測できるが──」
「それでも、真の目的まではまだハッキリしなさそうだな」
ウェパル
「……少し話逸れるけど、良い?」
ソロモン
「ウェパル、何か気付いたのか?」
ウェパル
「あのクラゲの自爆だけど、最初に見た時からずっと引っかかってたの」
「地底湖で自爆するのを見た時にようやく思い出したわ」
「あの自爆……ハイドロボムよ」
ソロモン
「ハイドロボムって……俺達も力ずくじゃ難しい相手に使ってる、『あの』!?」
ウェパル
「そう、『あの』」
「多分、比較的安定した状態のボムを自分の魂に取り付けて、安定が維持できなくなった時を条件に爆発するようにセットしてる」
「言ってみれば、時限式じゃなく……接触起爆?」
フォラス
「ダメージが魂に届いた途端に自爆か……分かったら分かったで益々厄介だな」
ソロモン
「ハイドロボムって、どこまで逃げても絶対に取り外せないって、前にヒュトギンから聞いたような……」
ウェパル
「ましてや自分に取り付けるなんてバカとしか思えないわ」
「そんな使い方に詳しいメギドなんて、メギドラル中探したって見つからないかもね。そんな事しても死ぬだけだもの」
バルバトス
「ハイドロボムの特徴は……魂に付着する、解除が極めて困難、現状で取り除く手段は爆破させるか術者を無力化するしかない、こんな所か」
「何か、そんな幻獣をわざわざ作るか見繕ったかした理由があると思うんだが……」
ウェパル
「ついでに言うと、魂にくっつくモノだけに、ダメージは直接魂に及ぶって事かしらね」
「事実は伝えたから。後はそっちで考えといて」
ソロモン
「(ウェパル、さっきモラクスやシャックスみたいな立ち位置になったせいか、ちょっと拗ねてる……?)」
バルバトス
「自爆と言えばフォラス、例のクラゲの『核』らしき物体は、その後進展はあったかい?」
フォラス
「それなあ……ちょっと俺には荷が重そうだ」
「分かる事と言えば、ほぼ間違いないのはヴァイガルド由来の天然のモノってくらいか」
ソロモン
「ヴァイガルド由来のって事は、核自体はメギドラルと関係ない……」
「クラゲは寄生型の幻獣で、そのヴァイガルドの何かを核にして発生するって事か?」
フォラス
「恐らくそうなる。ただ肝心の核が何なのかはさっぱりだ」
「すっかり風化しちまってるし、拾えた量もちっぽけだ」
「今朝の戦闘でも拾い直せないかと思ったがダメだった」
「やられる時に同じ様な物をこぼしてるのまでは見えたんだが、最初の戦闘の時みたいにガンガン照らしてもらわねえと目で追いきれねえ」
バルバトス
「ふむ……一応、モラクス達にも見せてみるかい?」
フォラス
「うーん……勝手で悪いが、もう一日だけ調べさせてもらっていいか?」
「専門外とは言え、意地張ってみたくなるのが悲しい性ってやつでね」
「せっかくの休みだ。一度頭をスッキリさせれば、何か違ったものが見えてくるかもしれないしな」
ソロモン
「じゃあ、『核』はもう一日フォラスに預けるよ」
「どの道この調子なら長期戦になるし、焦ってもしょうがないしな」
フォラス
「ありがとさん。それじゃあ幻獣について絞れる話題は、まあこのくらいか」
「幻獣の何が住民に話せないかってのは、つまりあの横穴が原因で幻獣騒ぎになったかも知れないって話だよな」
「自分たちの開拓のせいでこんな厄介を掘り当てたなんて聞いたら、集落の今後にとっても良くないだろうからな」
ウェパル
「厳然として驚異が残ってる以上、ただ塞げば良いって訳にもいかないものね」
ソロモン
「じゃあ、あくまで『奥にも幻獣が入り込んで巣食っていた』って形で──」
バルバトス
「それもあるけど、本題はそこじゃない。仮に幻獣の巣を叩いて根絶できたとしてもだ」
「もし俺の推測通りゲートが有ったなら、このヴァイガルド有数のフォトンスポットを、メギドラルは既に把握していると考えていいだろう」
「王都とも距離があり、通常のヴィータが長居するには極端な環境という事も読まれたとしたら……」
ソロモン
「そうか……メギドラルが放っておくわけがない」
バルバトス
「もし大空洞が度々メギドラルに狙われる可能性があると分かった時、今の話を知っていたら確実に説明を求められるだろう」
「メギドラルとヴァイガルドの事。そして、ソロモン王と俺達……メギドの事を」
ソロモン
「あ……」
ウェパル
「……」
バルバトス
「俺の知る限り、この集落の人々は本当に気の良い人達ばかりだ。だが……」
「今まで、俺達がメギドだって事で本当に『色々』あった。いい加減、最悪の事態も想定した方が良い」
「地底湖でのやり取りからして、ソロモンやメギドの噂は殆どこの地に届いていない」
「だからこそ、ファーストコンタクトは王都の仲立ちを挟んで、冷静に取り交わすべきだと思う……」
重く黙り込むフォラス以外の面々。
フォラス
「……まあ、なんだ。その……」
「俺も、事件が一段落したら家族を連れてまたここに来ようと思ってるんだ」
「家族には俺がメギドだって事は伏せてるからさ。先に集落の人達に知られちゃあ俺も困るっていうか……はは」
「……と、とにかく、話を進めようぜ。な?」
ソロモン
「あ、ああ、うん。ごめん、何か気を遣わせて……」
バルバトス
「とにかく幻獣については、ウェパルから出たハイドロボムの件だけ、モラクス達と共有しておこう」
「ついでに、『クラゲ』のあだ名もね」
フォラス
「じゃあ、他の話題は……そうだ。地底湖のエリダヌスの事とかどうだ」
ソロモン
「え……い、いや、それは……」
フォラス
「幻獣がもう一種類居るかも知れないんだろ。エリダヌスは兵器だから微妙に違うかも知れないが、何か関係が──」
バルバトス
「フォラス。もう自分で答えを言ってるようなものじゃないか」
「エリダヌスに何か関係があるとして、あの『地底湖の天使様』と繋げて住民達の前で話し合う気かい?」
フォラス
「う……」
バルバトス
「地底湖のアレは衝撃的ではあったけれど、逆に言えばそれ以外に何の手がかりもない」
「今はまだ、議論も共有も保留にしておこう。ポー達に変な疑いを持たせてしまいかねない」
フォラス
「お、おう……」
「(何か、幻獣の話と違ってあっさり片付けられちまったな……)」
ソロモン
「……」
ウェパル
「(……ほらね。やっぱり気付いてるんじゃない)」
「……じゃあ、今のうちに例のミカエルの話、片付けちゃって」
「ベレト達の話が終わる前に、勿体つけた部分くらいは済ませたいし」
バルバトス
「ああ。全く道理だ。構わないよ」
フォラス
「大体のやり取りは俺からウェパルに話してる」
「ソロモンが訝しむのももっともだが、俺からすれば今回の事件は所詮、ただの幻獣騒ぎだ」
「ミカエルが俺達とギクシャクしてまで隠すほどのネタがあるとは思えねえ」
「ソロモンには何か根拠があるみたいだが……ウェパルはどう思う?」
ウェパル
「いつも以上に変なのは私も気付いてたわ。もちろん、ソロモンに同意」
「理由の有る無しに根拠求めた所で、怪しすぎるって事実は変わらないもの」
フォラス
「相変わらずバッサリいくなあ。まあ、そこについちゃあ俺も頷かざるを得ないが」
ウェパル
「それに、隠す理屈ならアテが1つあるわよ。さっきの幻獣絡みで」
ソロモン
「ほ、本当か!?」
ウェパル
「……ちょっと白々しくない?」
ソロモン
「え……き、急に何言って……」
ウェパル
「……まあ良いわ。どの道、これだけは誰かがハッキリ言う事でしょうし」
バルバトス
「……」
フォラス
「な、何だよお前ら。何か、また暗くなってないか?」
ウェパル
「気の所為よ。とにかく、説明するわよ」
「ミカエルが隠してる事……多分、今回の事件に『メギド』が『直接』関わってるって事でしょうね」
ソロモン
「あっ……」
バルバトス
「(今、気づいたって顔だ……無意識に考えないようにしていたか。ソロモン、思った以上に揺れているな……)」
フォラス
「メギド? じゃあ、もしかしたら大空洞の奥に居るってやつも……」
ウェパル
「さあ、そこまでは。案外近くに居るかもしれないわよ」
「そうでしょ?」
バルバトスとソロモンの方を向いて返事を求めるウェパル。
ソロモン
「い……いや、まだ何とも……」
バルバトス
「……ウェパルの言う通りだ。メギドが大空洞の奥に篭っていると言うのは色々と無理がある」
ソロモン
「……確かに、そうだけど……」
バルバトス
「まず、メギドがこちらで生活するとなれば、十中八九ヴィータ体で過ごす事になる」
「ヴィータの生活様式が浸透した今のメギドラルだ。ヴィータの代謝機能まで模倣しているはずだろう」
「そうなれば、水しか得られない極寒の環境でヴィータ体が耐えられるとは到底考えにくい」
「そして、メギドが大空洞の奥に籠もってるなら、ミカエルが幻獣退治に参加しない理由に説明がつかなくなる」
フォラス
「なるほど。つまり、ミカエルは今までメギドの出現を警戒していたって事か」
「戦ってる最中、うっかりでも鉢合わせてぶつかっちまえばハルマゲドン一直線だからな」
「メギドが大空洞の底に居るならそんな心配は必要ないはず。つまり──」
「メギドの所在が全く知れないか、人里に出現しうると考える程度の手がかりは得ているって事か」
ウェパル
「あいつが私達や王都にまで情報を隠してた時も『メギド絡み』だったしね」
フォラス
「順を追って考えると、だ……」
「ミカエルはどこかで、この事件にメギドが関わっている可能性を掴んでいた」
「……ついでに言えば、何か面倒な事になる可能性もか。黙って単身で調査に来てたんだからな」
「そして同時に、そのメギドが集落を含めたロンバルドのどこかに現れるとも踏んでいた。つまり下手な動きをすればハルマゲドンになりかねない」
「そこに偶然、一日違いで俺達もロンバルドに来ていた。ミカエルはこれ幸いと、俺達にくっつく形で調査を開始したって筋書きか」
ウェパル
「私達が来る事も知ってたって可能性は?」
フォラス
「そりゃあ多分無いな。この依頼自体ほんの一週間近く前、姫様が独断で前倒しした結果だからな」
「恐らく、ハルマゲドンへの警戒にせよ他の理由にせよ、ミカエルは最初から荒事に進んで介入するつもりは無かったんじゃねえかな」
「ミカエルの事だ。誰かさんみたいにメギドだからってすぐ『ブッ殺す』なんて考えはしないだろう」
「事態が重いようなら王都に伝える予定だったか……あるいはそもそも、そのメギドは直接の目的じゃなかったか」
ウェパル
「メギドが関与してるのに、メギド以外の目的って何があるのよ?」
フォラス
「あくまで例えだからそこまでは……話し合って幻獣の迷惑だけ止めてもらうとか?」
ウェパル
「……あいつならやりかねないのが何かシャクだわ……」
フォラス
「とにかく、これも黙ってた方が良い感じか?」
バルバトス
「いや、住民には伏せて置くとしても、モラクス達には話しても大丈夫だろう」
「ミカエルも、勘付かれる事は織り込み済みのはずだ。ミカエルの事をうっかりポー達に漏らすような話題もそうは無いだろうし」
「ソロモンも、構わないね?」
ソロモン
「あ、ああ。うん……」
「(もし……本当にメギドがこの事件に関わってるとしたら……もし、そのメギドがこの事件を起こしているとしたら……)」
「(もし……平和的な解決が望めないとしたら……)」
バルバトス
「……」
バルバトスがソロモンの背中をドンと叩いた。
ソロモン
「うわっとっ!?」
バルバトス
「シャキっとしろ、ソロモン王。考えるべき事には優先順位がある。君も分かっているだろう?」
ソロモン
「……そうだな」
「ありがとう、バルバトス。今、切り替えた」
バルバトス
「存分に感謝してくれたまえ。ここにブネが居たらこの程度じゃ済まなかったぞ」
「それじゃあ……他に気になる事は無いかい。無ければひとまずお開きにするけど」
一同
「……」
バルバトス
「無いみたいだね。なら──」
フォラス
「あー、済まん。他にないなら1つだけ良いか。大した事じゃないから、最後に聞こうと思ってたんだが」
バルバトス
「もちろん構わないよ」
フォラス
「結論から言えば、地底湖が気になってるんだ」
「もしも、ここまでの考えが粗方事実だったとしたらだ。あの洞窟そのものも疑惑の塊って事になりかねないだろ」
バルバトス
「ふむ。ゲートや幻獣を通して、大空洞自体に何か細工がなされた可能性も無くは無いだろうけど……」
ソロモン
「でも、環境が変わるほど手を加えるとなると、100年200年どころじゃ済まないんじゃあ……」
フォラス
「まあ1000年以上前からある水晶とかはともかくとしてもだ」
「見つかってまだ数年程度の地底湖はどうだ。何も無いとは言い切れないんじゃないかと思ってな」
バルバトス
「そういえば、地底湖はかなり深さがあったな」
「地底湖の脇から、大空洞が更に地底深くへ続くのだとしたら、地形越しにフォトンで何かしら影響を与えるくらいは、あるいは……」
ウェパル
「あの地底湖だけ年中凍らない理由も、そういえば分からず仕舞いだったわね」
フォラス
「俺もそれが気になってる。誰か、あの場で何か気になる物を見つけたってやつは居ないか?」
バルバトス
「生憎、俺は何も」
ウェパル
「2つ……いえ、1つかしらね」
「水面に、僅かに流れ……対流を感じたわ。でも、これ自体は湧き水って事を考えれば珍しい事じゃない」
「でも……フォラスは地底湖の水、持ち帰った?」
フォラス
「いや、俺は別に。何か気になれば、モラクス達が持ち帰った分がありゃあ良いかって」
ウェパル
「その様子だと、まだ調べてないみたいね」
「シャックスが汲んだ水筒の中身、宿に帰った頃にはガチゴチに凍ってたわ。多分モラクスも同じ」
フォラス
「凍らない水が凍った!?」
ウェパル
「宿のマスターに聞いたら、組み上げるといつもそうなるんですって」
「地底湖から大空洞を出るまでのどこかしらで、気付くと水全部が凍ってるって」
「それを持ち帰ってからゆっくり溶かして、それから利用するらしいわ」
ソロモン
「ど、どうなってるんだ……?」
ウェパル
「現象自体は自然に起こる事もあるわ。『過冷却』って言ってね」
「液体が凍るには『刺激』が必要なの。あんまり刺激が少ないと、氷点下になっても水は凍らないのよ」
「そこに刺激が加わると、そこから冷え切った水が一斉に凍り始める」
「北国の湖なんかでこれが起きると、泳いでる最中の動物や、獲物を捕食した瞬間の魚が氷漬けになるそうよ」
バルバトス
「海が凍るほど寒い国の話なんかも聞いた事あるが、実際にそんな事が起きるのか……」
ウェパル
「で、ここからが問題なんだけど」
「水筒の中の水が、歩いて振られて凍った。これは分かる」
「けど、水筒を突っ込んだ地底湖の湖面が凍らない。これは異常よ」
バルバトス
「地底湖に何か熱源があって、見た目の割に凍るほど冷たくなかった……っていう可能性はどうだろう?」
ウェパル
「あるかもね。あんな場所で素手で水に触ろうなんて思わないし、基本的に水深が深いほど水場は凍りにくいものだし」
「汲んだ後の水が大空洞出るまでに外気で冷えて凍っただけって事なら辻褄も合いそうね」
「でなけりゃ、地底湖に溜まってる間だけ過冷却を防ぐ仕掛けがわざわざあるとか?」
「とにかく、フォラスの『地底湖に何か仕掛けがあるかも』って考えには賛成。それがメギドのせいか、ましてや策略かは微妙だけどね」
フォラス
「丁寧な説明どうも」
「ソロモンはどうだ。例えば地底湖のフォトンに何か妙な所があったりしなかったか?」
ソロモン
「うーん……凄いフォトンの量だった以外には何とも言えないな」
「水源1つ取っても、フォトンは土地によって色々な振る舞いをするのが普通だからさ」
「底の方から、今にも何か這い出して来そうなくらいの濃密なフォトンが湧き出して対流になってるのは見えたけど……」
「特別、何か明らかに『不自然』って思う事は無かったかな」
「フォトンの対流のお陰で氷が張らないのかなくらいに思ってたけど、科学的にそういうものなのかとか、全然知らないし……」
「ごめん、余り役に立てなくて」
フォラス
「結論は出ずか。まあ気にすんな。あの時はエリダヌスに大体持ってかれちまった所もあるしな」
「だがもし、フォトンの対流が凍結を防ぐってのが実証できるなら、湖はシロって根拠にはできるかもな」
バルバトス
「ひとまず……これは、モラクス達にも伏せたままの方が良いかな」
「俺達も恩恵に与っている水でもある。こんな曖昧なまま不安を煽っても何の特にもならない」
フォラス
「そいつは同感だ。何だかんだ、ポーを救った水でもあるかもしれないしな」
「しかし、なんだな。どの疑問も、もう一歩の所で煮詰まりきらない所があるな」
「こう、もう1つピースがあればな。それで何か、全部1つに繋がりそうな気がするんだ。あくまで学者らしくもない勘だが」
バルバトス
「それが大空洞の調査で見つかれば、それに越した事は無いだろうね」
「(確かに……ソロモンの『懸念』が的中したとしても、それでも全ての答えに繋がるわけじゃない)」
「(もしここで行き詰まるようなら……後はミカエルを問い詰めるくらいか?)」
「(話してくれる気しかしない……『その時』がくれば、呆気ないほどあっさりと)」
「(だが、それが『恐ろしい』。もし、何か起きる『その時』まで今みたいに白を切り続けるつもりなら、その理由は──)」
「(ミカエルの隠し持つ真実がどうあれ、その先に『懸念』通りの展開が待っているからだ。そうとしか思えない……!)」
バルバトスが辺りを見回す。
恐らく同じ事を考えているだろうソロモンの憂鬱な顔。
視線を泳がせて、冷ややかな表情だが同じく物思いに耽るウェパル。
疑問を埋めるピースを記憶から探り当てようと顎を擦るフォラス。
談笑を続けるベレトやポー達。
酒場の出入り口。そこに気配すらなく、今もどこかを歩いているのだろうミカエルを思い浮かべる。
バルバトス
「……とにかく、交わせる意見は一通り出し終えただろう」
「一息入れよう。その後、折を見てモラクス達と昨日のまとめと、今後の方針を話し合おうか」
フォラス
「そうだな。考えてみりゃ、俺なんか寝起きだった。何か頭が冴える物でも頼むとするか」
どこか晴れない顔のまま解散する一同。
※ここからあとがき
過冷却や結氷についての知識は完全に素人なので、科学的に正しくなくても大目に見て下さるとありがたいです。
実のところ1月8日現在、6章の例の件はこれから読み始める所(しかしイベントや年始めに時間を食われる現状)なので、実際にこれくらい引きずるような出来事だったか否かはまだ確認取れていません。
とりあえず、前回のラウムイベントの雰囲気を元に話の進行上、こじつけています。
実態と余りにかけ離れているようでしたら追って修正します。