メギド72オリスト「太古の災厄と新生する憤怒」   作:水郷アコホ

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24「ワン・フォー・オール」

 日もほとんど落ちた頃。

 会議も終えて、夕食前の時間をゆったりと過ごす一行。

 バルバトスがポーに歌を語って聴かせている。

 

 

バルバトス

「……ふぅ。ご清聴どうも。ご期待に添えたかな?」

 

ポー

「はい! とっても格好よかったです!」

 

ベレト

「ふん。楽器はともかく、歌なんぞ誰にでも出来るであろうに……」

 

バルバトス

「ベレトは何をヘソ曲げてるんだ……?」

 

ベレト

「知るか! 儂が簡単に貴様を認めてやると思ったら大間違いだからな!」

 

バルバトス

「やれやれ。何なんだ急に……」

 

 

 少し離れて3人のやり取りを眺める他の仲間たち。

 

 

フォラス

「休日だってのに、気付けばバルバトスだけ殆ど働き詰めだったな」

「朝っぱらから戦って、話し合いの時も率先してたし、今は詩人の仕事もこなしてと来てる」

「こういう時は、流石に長命者ってのがちょっと羨ましくもなるな」

 

ソロモン

「バルバトスは余り動き回らず銃で距離を置いて戦ってたから、幻獣との戦いでも消耗が少ないんだと思う」

「だから、皆よりも本調子で動きやすいんじゃないかな」

 

ウェパル

「だいぶ考察バカな所もあるしね。ああしてないと、むしろどんどん弱ってくんじゃない?」

 

フォラス

「いやあ、遠距離タイプってんなら俺だってそうだろ」

「なのに俺なんかもうバテバテだったし、やっぱ若さってのはデカイと思うぜ、うん」

 

ウェパル

「ブネやイポスならバリバリだったんじゃない?」

「何でもかんでも歳のせいにするのもどうかと思うわよ」

 

フォラス

「う……手厳しすぎて何も言えねえ……」

 

ソロモン

「ま、まあまあ。フォラスにはアジトの仕事手伝ってもらったりとか、すごく助かってるから」

「それぞれに得手不得手があるから良いんだと、俺は思ってるよ」

 

シャックス

「そうそう、あたしのパパパパも歳よりずっとヨボヨボだからだいじょぶだいじょぶ!」

 

モラクス

「それ、フォローになってんのか……?」

 

ソロモン

「それはそうと……ミカエル、遅いな」

 

フォラス

「そういや、もう暗いってのにあれから戻ってないな。一日かけて回るほど広い集落でもないだろうに」

「ポーやヤブさんたち見てても、俺達が知らない間に黙って帰ってきたって事もなさそうだしな」

 

モラクス

「つーか俺達、今日一日ずっと酒場に居るから、帰ってきたら気づかねえわけねえし」

 

ウェパル

「良いんじゃない、好きにさせとけば」

「存在自体は怪しいけど、私達の迷惑になるようなモノ仕掛けるようなやつじゃ無いし」

 

モラクス

「そういや、ついでに屋根壊れたおっさんも居ねえな」

 

ソロモン

「ガイードさんなら、家の修復に行ってるらしい。多分、夕食までには戻って来るんじゃないかな」

 

 

 一方、バルバトスたち。

 

 

ポー

「あ、あのう……ちょっと、お聞きしても良いですか?」

 

バルバトス

「ん、ああ。良いとも。ベレトはまあ、いつもの事だから気にしないでくれ」

「(それにしたって、今日は一段とベレトに噛みつかれてるけど……寒くてイラついてるとか?)」

 

ベレト

「儂を蔑ろにするような物言いは気に食わんが、良いだろう。聞いてやる」

 

バルバトス

「いや、俺に振られた話だから……」

 

ポー

「い、良いですかね……」

「歌詞だけ知ってて、題名とかどこの歌なのかとかわからなくて、気になってる歌がありまして──」

「お客さんなら何かご存知かなって」

 

バルバトス

「ほほう、それは興味深い。どんな歌だい?」

 

ポー

「えっとですね……おほん」

 

 

 おもむろにポーが実際に歌ってみせた。

 この世に生まれたもの同士、全ては手を取り合い、幸福になるために生まれてくる。

 大体そんな内容の生命賛歌だった。歌声に気付いたソロモン達も静かに聞き入った。

 バルバトスが笑顔を崩さないまま、興味深げに姿勢を正した。ベレトは口をぽかんと開けてポーに釘付けになっている。

 台所からヤブが顔を覗かせ、同じく歌うポーをしみじみ見つめている。

 歌い終わると、バルバトスやソロモン達から拍手が送られた。

 

 

ベレト

「ぉ、ぉ……」

 

シャックス

「おー、上手上手。やんややんや♪」

 

ポー

「あわわ、あ、ありがとうございます……」

 

ヤブ

「いやあ、懐かしい歌が聞けたな。どうしたんだ急に」

 

ポー

「お、おとうさんは仕事に戻ってて。後で説明するから!」

 

ヤブ

「おっと、へいへい」

 

 

 愉快そうに台所に引っ込むヤブ。

 

 

バルバトス

「いや驚いたよ。賞賛どころか、誇張無しにこれで食べていけるレベルだ」

 

ポー

「い、いえいえ、そんな大げさな……」

 

ソロモン

「俺、歌はそんなに詳しくないけど、素直に『良いな』って思えたよ」

「何ていうか、プロが歌ってるみたいって言うかさ」

 

ウェパル

「プロ、ね。と言うか……」

「ねえ、ポー。その歌、男の人が歌ってたものじゃない?」

 

ポー

「あ、はい。4人組の吟遊詩人……楽団さんって言うのかな?」

「とにかく、その人達が歌ってたものなんです」

「その人達が訪れた時、ちょうど私の10歳の誕生日だったので、プレゼントにって」

 

モラクス

「当たりってことか? ウェパルすげえな!」

 

ウェパル

「歌い方が、何かそんな感じがしたのよ」

 

バルバトス

「確かに、俺も同じ事を思ったよ」

「吟遊詩人や舞台歌手の間でも一部では、男性と女性の声は高さ以外にも違いがあると考えられている」

「抑揚や息継ぎ、口の形とか。事実、肺活量による差は確実にあるだろうしね」

 

ウェパル

「じゃあポーは今、大の大人の肺活量の違いまで模倣してみせたって事?」

「誕生日に一度聞いたきりでここまで覚えてるだけでも相当でしょうに……」

 

バルバトス

「そこまで出来たら超人だね。そうならそうでとても素晴らしい事だけど」

「理屈で考えるなら、一呼吸当たりの声量を抑えるとかして、無意識にバランスを取ったんだろうね」

「聞いたままを覚えて、しかも自分流に取り込んで見せている。これは本当に凄い才能だぞ」

 

ポー

「あうぅ……わ、私の事は良いですから、あの、この歌の題名とかですね……!」

 

 

 褒めちぎられて思わず身振りが大げさになるポー。

 暫しポーの歌について話題を交わしていると、ポーの会話がピタリと止まる。

 ポーの視線が遥か遠くを仰いだ。

 

 

ポー

「あれ……?」

 

ベレト

「ぬ? どうした、ポー」

 

ポー

「……」

 

ベレト

「お、おい、聞いているのかポー!?」

 

バルバトス

「大丈夫かい、ポー。何か不調でも?」

 

ポー

「いえ、あの……なんだか……」

「……オナカ、スイタ……」

「……って、あ、あれぇ!? わ、私、急に何言って……!?」

 

 

 しばらく間を置いて、どっと笑いに包まれる酒場。

 

 

ソロモン

「ははっ、もう少しの辛抱だよ」

 

フォラス

「聞いたかい、マスター。『家族』が痺れ切らしちまってるぜ」

 

ヤブ

「はっはっは。いつも通り元気な証拠ですよ」

「もう一息ですから、手数かけますが、その子がぐずらないように見てやってください」

 

ポー

「しないから! もうそんなちっちゃくないから!」

「そ、それに、そんなんじゃなくってですね……」

 

モラクス

「そういや俺も腹減ってたんだった。待ち遠しくなってきちまったな」

 

シャックス

「料理の良い匂いも、もうこっちまで漂ってきて……うぅ、お腹が切ないよぉ」

 

 

 賑わう中、酒場の扉が開いた。

 北国の夜に素肌ジャケットの男が悠々と現れた。

 

 

ミカエル

「待たせたね、君達。淋しい思いをしてなかったかい?」

 

ソロモン

「あ、ミカエル。おかえり」

 

ウェパル

「あんたが居なかったお陰で、淋しさの欠片も感じずに過ごせたわ」

 

ミカエル

「グッド。君達の団欒を助けられたなら何よりだよ」

 

バルバトス

「(つよい……)」

 

ミカエル

「しかし悲しいかな。平和とは長くは続かないものだ」

 

フォラス

「って事はまさか……」

 

ミカエル

「イグザクトリー。幻獣だ」

「2匹確認した。大まかだが、こちらに接近する軌道だった」

 

モラクス

「んー、二匹だけかぁ」

「あいつら張り合い無いからなぁ。俺が言うのもなんだけど、それっぽっちだと何つーか……」

 

シャックス

「ぶーぶー、ついでにやっつけてくれればよかったのにー」

 

ソロモン

「……いや、幻獣退治はあくまで俺達の仕事だ」

「それに俺達が見てない所で倒される幻獣が、何か重大な手がかりを持ってないとも限らない」

「なるべく俺達が対処して、得られる情報は可能な限り集めた方が良いと思う」

 

バルバトス

「一理あるな。詰まるところ、ミカエルと俺達は幻獣に対する目的もスタンスも違う」

「俺達のための情報は、俺達で地道に集める他にない」

 

ベレト

「四の五の理屈を捏ねるまでもない。幻獣が出たなら潰す、それだけだろう!」

「行くぞ貴様ら、ポーはそこで大人しく待機だ!」

 

 

 誰の返事も待たずに酒場を飛び出すベレト。

 マティーコ講座を終えてからは、ベレトの服装はいつもの裸足にボロ一枚のまま。

 

 

ポー

「ああ、お姐さんまたそんな格好で……!」

「行っちゃった……」

 

フォラス

「何を張り切ってんだか。とりあえず俺らも追うか」

「つーわけだ、ヤブさん。飯はポーの分だけ先に作っちゃってくれ」

 

ヤブ

「そのくらい待たせますよ。ご武運を」

 

 

 ミカエルに幻獣のおおよその位置を聞き、酒場を出る一行。

 

 

 

 




※ここからあとがき

 パパパパについては、十代の娘の親にしては立ち絵が老年過ぎるなと思ったための独自解釈です。
 バスターシャックスのメギストは未確認です。食い違いがありましたらご指摘願います。

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