メギド72オリスト「太古の災厄と新生する憤怒」   作:水郷アコホ

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02「行き先確認」

 フォラスの提案で、ロンバルドの情報を改めて共有しあう一行。

 

フォラス

「よし、まずは基本のおさらいからだ」

「ロンバルドはエルプシャフト文化圏の最北端に位置する集落、あるいはそこを中心とした一帯の地名だ」

「極寒の地にある上にフォトンも殆ど無い。例外は集落近くにある巨大な洞窟『ロンバルド大空洞』。この唯一のフォトンスポットから採れる水が数少ない名産品だ」

「俺たちはロンバルドに出現した幻獣を駆除し、その発生原因も特定して対処する。ここまでは良いな」

 

シャックス

「ほ~、なるほどなるほど!」

 

ソロモン

「シャックスがこれ聞くの、もう三度目だぞ……まあいつもの事だけど」

 

ウェパル

「ねえ。話変わるんだけど、そもそも何でフォラスがわざわざ付いてきたの」

 

ソロモン

「言われてみれば……一緒にシバからの依頼を請けたからそのまますんなりメンバーに入れちゃったけど……」

「大丈夫だったのか? その……仕事とか、家庭とか」

 

フォラス

「何だ、今更気付いたのか。まあ実を言えば娘には随分ヘソ曲げられちまったけどな……」

「学者って言っても、好きなものだけ好きに研究してれば良いって訳にもいかなくてな。色々お仕事があんのよ」

「で、あの時は丁度新しい研究テーマ見つけて報告しなきゃならない時期だったもんでな」

「アジトでそのネタを考えてたんだが、ロンバルド行きは渡りに船だったって訳さ」

「要するに出張仕事も兼ねてって事だ。そのへんは何も心配いらえねよ」

 

ソロモン

「そうだったのか……なら、良いんだ。こっちも助かるよ、フォラス」

「話を戻そう。とりあえず、フォラスの説明以外でシバからの書簡で解ったのは、ロンバルドの人からの報告だと『見た事も無い怪物が大空洞から現れた』って事だな」

「フォトンスポットに幻獣が住み着いたって事かな。水が手に入れられないのも無理ないな……」

 

バルバトス

「王都もロンバルドも疑問に感じているのが、『その幻獣がどうやって住み着いたか』だったね」

「大空洞は果てしなく深い。一度住み着けば根絶が難しいのは必然としても、大空洞以外では一切不毛の土地なのに、現地住民の目もある中でいつから入り込んだのか──」

 

ソロモン

「繁殖するにも相当な数の幻獣が住み着く必要があるはずだしな」

「それなのに、そもそも大空洞に幻獣が寄り付くだけのフォトンが辺りに無い。もう3日くらい前からずっとだけど、俺から見ても確かにこの辺は『不毛の土地』だ」

 

バルバトス

「痩せたむき出しの土に、申し訳程度の草がちらほら……薄っすら積もった雪もあって多少の水気はあるようだけど、いつヒビ割れ出してもおかしくないな」

「モラクスだったら、『そんな事考えるの後にして、とりあえずブッ倒しちまえば良いんだろ』ーとか言いそうだけどね」

 

 

 外のモラクスを見る。

 退屈の余り、こちらの会話も耳に届いていない。肘を立てて腕枕で寝そべっている。

 会話を続ける一行。

 

 

ソロモン

「でも──そもそも、集落だって大体はフォトンスポットを中心に出来上がるものだよな?」

「洞窟の中にフォトンスポットが有ったから良いものの、昔のロンバルドの住民は何を思ってこんな土地の向こうに住み着こうなんて思ったんだ……?」

 

フォラス

「そういう歴史なら俺の分野だな」

「実の所、この先の集落に『ロンバルド』って名前が与えられたのは今からほんの数十年ほど前なんだ」

 

ソロモン

「そんな最近まで人が住んでなかったって事か。それじゃますます──」

 

フォラス

「まあ待て待て。名前が無いからって人が住んでないとは限らないだろ」

「ここにヴィータが住んでるって事自体が知られるようになった頃なら、百年くらい前まで遡れる」

「当時の探検家がな。今のロンバルドに訪れて、例の大空洞を見つけ出したんだ」

「それから探検家仲間や、当時からここに住んでた連中の助けも借りて洞窟の調査を始めたんだ」

 

ウェパル

「元々不毛の土地だったんでしょ。何で危険な事してまで潜ろうと思ったのよ」

 

バルバトス

「それが男のロマンというやつさ」

 

ウェパル

「全然わかんない」

 

フォラス

「ははは。まあ何にせよ、結果として活気づいたんなら何よりだろ。そうする内に学者やら旅人やら外から人や物が入るようになって、集落も発展していった」

「そして残念ながら洞窟踏破は今も達成できていないが、代わりに洞窟の水に特殊な効能がある事が解った。つまりフォトンスポットだな」

「水には毒があるそうなんだが、外気に晒せば毒抜きできる事が解って、そこからはトントン拍子さ。水の効能があっという間に知れ渡り、王都が興味を示し、その功績を讃えて『ロンバルド』の地名を与えたのが数十年前って流れさ」

 

バルバトス

「さっきも言った通り、ロンバルドの水は化粧品としても活用されている。これ、結構珍しい事なんだぜ」

「それはつまり、肌や髪に触れるだけで大地の恵みの効果が実感できるって事だからね」

「王都までの距離を輸送されても、それだけ濃密なフォトンを蓄えてる水なんて探したってそう見つかるものじゃない」

 

ウェパル

「へえ……」

 

ベレト

「むぅ……何だか落ち着かん話題だ……」

 

バルバトス

「興味があるならベレトも今度、ルネ辺りに頼んでみたらどうだい。きっと喜んで協力してくれるだろうよ」

 

ベレト

「きょ、興味があるなどとは一言も言っとらんだろうが!」

 

シャックス

「でもでも、『元々住んでた』ってヴィータ達は何してたの?」

「フォトンスポットが見つかる前から住んでたんでしょ? こんな草もキノコも生えないような所のずっとずーっと奥の方で」

 

バルバトス

「もう自分で答えを言ってるようなものじゃないか。そう言う事だよ」

 

シャックス

「……? どゆことどゆこと?」

 

ソロモン

「そんな土地まで、やって来ざるを得ない人?」

 

フォラス

「正解だ。大雑把に言えば『流民』だな」

「王都に指名手配された罪人や、事情があって故郷を追い出された人間、嫌がらせや奴隷商人の追手から逃げてきた人間とかな」

「身寄りが無いし、人目に付きたくもない。そんな人々やその子孫が細々と暮らしてたらしい」

「ついでに言うと元々住んでた脛に傷のある連中は、ロンバルドの名前が与えられると同時に特赦されたそうだ。罪に見合うだけの苦労はしてきたようなもんだしな」

「ついでに実質のエルプシャフトの版図が広がったんだから、そのくらいのサービスは妥当だろうよ」

 

シャックス

「おー、なるほどなるほどー」

 

ベレト

「……」

 

バルバトス

「(おっと。奴隷商人の名を出してしまったからな。ベレトの気を紛らわした方が良いかな)」

「ところで吟遊詩人達の間でも今、ロンバルドが熱いって言う話はご存知かな?」

 

ソロモン

「何か、幻獣以外にロンバルドの変わった話があるって事か?」

 

フォラス

「あ、俺知ってる」

 

バルバトス

「おおっと、本職を前に種明かしは勘弁してくれよ」

「では、ひとつご紹介しよう。数年前に広まりたての新作ホヤホヤ、『ロンバルドの奇跡の──』」

 

モラクス

「……!!」

「来たッ、アニキ、来やがったッ!」

 

ソロモン

「え、モ、モラクス!?」

 

 

 モラクスが馬車に飛び込み、いつもの大斧を手に取った。

 お預けを食らっていた犬が『ヨシ』を貰ったように瞳が輝いている。

 

 

バルバトス

「幻獣が出たって事か。やれやれ、今度はこっちがお預けか」

「しょうがない。まずは幻獣をなんとかしよう。話の続きはその後だ」

 

フォラス

「確かに、遠くに幻獣が何匹かいやがる」

「俺たちの方とは反対に遠ざかってる──このままだと幻獣が集落に躍り込むな」

 

ソロモン

「そんなことさせるか! すぐに追いついて、残らず食い止めるぞ!」

 

 


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