メギド72オリスト「太古の災厄と新生する憤怒」 作:水郷アコホ
翌朝早朝。女子部屋で目を覚ますポー。
ポー
「ん~~ん……!」
ゆっくりと伸びをして部屋を見渡し、まだ誰も起きていない事を確認する。
枕元のキンチャクを手に取ると、起こさないようにそっとベッドから抜け出し、ベレトのベッドへ向かう。
ポー
「……ヨシ!」
「(夜中に目が覚めた時はあんな格好で寝てたけど、今朝は何ともなさそう。お姐さんって、本当に丈夫なんだなあ)」
ベレトの寝顔を覗き込み、良好な顔色を指差し確かめるポー。
自分のベッドに戻り、手早く支度を済ませると、静かに寝室を出ていく。
ポーが階下に降りると、台所でヤブが朝食を作っている最中だった。
ポー
「おはよう、おとうさん」
ヤブ
「お、ポー。具合は……大丈夫そうだな」
ポー
「うん。でも、おとうさんこそ大丈夫?」
「お客さん達の話じゃ、私の部屋が壊れちゃったって聞いたけど」
ヤブ
「なんだ、覚えてないのか。まあ無理もないか」
「マジだよ。こりゃあ、おちおちガイードを笑ってもいられねえ」
「俺としちゃあ、もう一日大事を取って、部屋の片付けでもさせたい所だが……」
ポー
「大丈夫。着替える時に見たけど、必要なものは大体運んでもらったみたいだし」
「それにいつまでもジッとしてるなんて、私はそっちの方がしんどいよ」
ヤブ
「ま、本当に元気かどうか、いつも通りにしてもらわなきゃわからないしな」
「わかった。じゃあ、とりあえず奥の棚から皿取ってくれ」
「うっかりガイードが泊まってんの忘れててよ。あいつの分の食器が足りないんだ」
ポー
「またガイードさんばっかり……本当におとうさんの幼馴染なの?」
ヤブ
「『だから』だよ。あいつに『客』なんて他人行儀なイメージ、今更持てって方が無理だ」
ポー
「『親しき仲にも礼儀あり』って言うのに……いつかガイードさんに嫌われちゃうよ?」
ヤブ
「小難しい言葉知ってるなあ」
「大丈夫だよ。本気でぶん殴り合ったのだって10や20どころじゃないんだ」
「お互い、『キライ』だなんて今更で、これからもずっと腐れ縁の『ダチ』なのさ」
ポー
「ええー……言ってることメチャクチャじゃない?」
ヤブ
「お前もいつかわかるさ。それよりホラ、皿ぁ頼む」
ポー
「むう……はーい」
台所に入るポーだが、昨夜ベレトに語った通り道幅は狭く、奥に抜けるにはポーの前後幅半分ほど空間が足りない。
ポー
「おとうさん、もうちょっと詰められない?」
ヤブ
「いや、これでもできるだけ道空けてるつもりなんだが……」
ポー
「これじゃ潰れちゃうよお。おとうさんまた太ったんじゃない?」
ヤブ
「いやいや、昨夜も話したろ。ロンバルドは本当に寒いからむしろ痩せ──」
ポー
「それは外から来た人の話でしょ。ウチの『お父さん』だって、お腹プニプニのフカフカだったんだから」
ヤブ
「はっはっは。そういやぁアイツも、ポーが産まれた頃から一気に幸せ太りしてたなあ」
ポー
「誤魔化したってダメだよ。もう、おとうさんが自分で取った方が安全だと思うよ」
ヤブ
「俺もそう思うが、今、手が離せないんだ」
「この鶏肉の腹縫うのが俺は苦手でな。もうちょっとなんだが、ここでしくじると最初からやり直しになっちまいそうで……」
ポー
「何も、朝からそんな凝ったの作らなくても……」
ヤブ
「そうはいかねえよ。気絶したお前を介抱してもらったり、色々骨折ってくれたんだ」
「俺にできる、せめてものお礼はこれくらいさ」
ポー
「う……そう言われると……」
「じゃあ、合図したら、ちょっと無理やりでも通るから、気をつけてね」
ヤブ
「あいよ。その時だけこっちも手ぇ止めるから、遠慮なく押しのけてくれ」
ポーが、まな板と向かい合うヤブの背に手をかけた。
ポー
「それじゃあ、押すよ。お父さん、良い?」
ヤブ
「おう。いつでも」
ヤブの返事を受けて、ポーが両手に強く力を込めた。