メギド72オリスト「太古の災厄と新生する憤怒」   作:水郷アコホ

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30「バチンッ」

 翌朝早朝。女子部屋で目を覚ますポー。

 

 

ポー

「ん~~ん……!」

 

 

 ゆっくりと伸びをして部屋を見渡し、まだ誰も起きていない事を確認する。

 枕元のキンチャクを手に取ると、起こさないようにそっとベッドから抜け出し、ベレトのベッドへ向かう。

 

 

ポー

「……ヨシ!」

「(夜中に目が覚めた時はあんな格好で寝てたけど、今朝は何ともなさそう。お姐さんって、本当に丈夫なんだなあ)」

 

 

 ベレトの寝顔を覗き込み、良好な顔色を指差し確かめるポー。

 自分のベッドに戻り、手早く支度を済ませると、静かに寝室を出ていく。

 ポーが階下に降りると、台所でヤブが朝食を作っている最中だった。

 

 

ポー

「おはよう、おとうさん」

 

ヤブ

「お、ポー。具合は……大丈夫そうだな」

 

ポー

「うん。でも、おとうさんこそ大丈夫?」

「お客さん達の話じゃ、私の部屋が壊れちゃったって聞いたけど」

 

ヤブ

「なんだ、覚えてないのか。まあ無理もないか」

「マジだよ。こりゃあ、おちおちガイードを笑ってもいられねえ」

「俺としちゃあ、もう一日大事を取って、部屋の片付けでもさせたい所だが……」

 

ポー

「大丈夫。着替える時に見たけど、必要なものは大体運んでもらったみたいだし」

「それにいつまでもジッとしてるなんて、私はそっちの方がしんどいよ」

 

ヤブ

「ま、本当に元気かどうか、いつも通りにしてもらわなきゃわからないしな」

「わかった。じゃあ、とりあえず奥の棚から皿取ってくれ」

「うっかりガイードが泊まってんの忘れててよ。あいつの分の食器が足りないんだ」

 

ポー

「またガイードさんばっかり……本当におとうさんの幼馴染なの?」

 

ヤブ

「『だから』だよ。あいつに『客』なんて他人行儀なイメージ、今更持てって方が無理だ」

 

ポー

「『親しき仲にも礼儀あり』って言うのに……いつかガイードさんに嫌われちゃうよ?」

 

ヤブ

「小難しい言葉知ってるなあ」

「大丈夫だよ。本気でぶん殴り合ったのだって10や20どころじゃないんだ」

「お互い、『キライ』だなんて今更で、これからもずっと腐れ縁の『ダチ』なのさ」

 

ポー

「ええー……言ってることメチャクチャじゃない?」

 

ヤブ

「お前もいつかわかるさ。それよりホラ、皿ぁ頼む」

 

ポー

「むう……はーい」

 

 

 台所に入るポーだが、昨夜ベレトに語った通り道幅は狭く、奥に抜けるにはポーの前後幅半分ほど空間が足りない。

 

ポー

「おとうさん、もうちょっと詰められない?」

 

ヤブ

「いや、これでもできるだけ道空けてるつもりなんだが……」

 

ポー

「これじゃ潰れちゃうよお。おとうさんまた太ったんじゃない?」

 

ヤブ

「いやいや、昨夜も話したろ。ロンバルドは本当に寒いからむしろ痩せ──」

 

ポー

「それは外から来た人の話でしょ。ウチの『お父さん』だって、お腹プニプニのフカフカだったんだから」

 

ヤブ

「はっはっは。そういやぁアイツも、ポーが産まれた頃から一気に幸せ太りしてたなあ」

 

ポー

「誤魔化したってダメだよ。もう、おとうさんが自分で取った方が安全だと思うよ」

 

ヤブ

「俺もそう思うが、今、手が離せないんだ」

「この鶏肉の腹縫うのが俺は苦手でな。もうちょっとなんだが、ここでしくじると最初からやり直しになっちまいそうで……」

 

ポー

「何も、朝からそんな凝ったの作らなくても……」

 

ヤブ

「そうはいかねえよ。気絶したお前を介抱してもらったり、色々骨折ってくれたんだ」

「俺にできる、せめてものお礼はこれくらいさ」

 

ポー

「う……そう言われると……」

「じゃあ、合図したら、ちょっと無理やりでも通るから、気をつけてね」

 

ヤブ

「あいよ。その時だけこっちも手ぇ止めるから、遠慮なく押しのけてくれ」

 

 

 ポーが、まな板と向かい合うヤブの背に手をかけた。

 

 

ポー

「それじゃあ、押すよ。お父さん、良い?」

 

ヤブ

「おう。いつでも」

 

 

 ヤブの返事を受けて、ポーが両手に強く力を込めた。

 

 

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