メギド72オリスト「太古の災厄と新生する憤怒」   作:水郷アコホ

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31「焦げて潰れて凍った肉」

 朝。ソロモン他、男性メギド達の寝室の戸がノックされた。

 

 

ソロモン

「ん~……」

 

 

 ソロモンが寝ぼけ眼で起き上がる。

 繰り返し叩かれる出入り口をぼんやりと眺める。

 ソロモンに続いて起きた仲間達も、大体同じような顔をしている。

 

 

モラクス

「何だぁ、朝っぱらから……?」

 

ソロモン

「……まだ眠いな」

「昨夜は中々寝付けなかったし……」

 

バルバトス

「日が、だいぶ昇ってる。今朝もモーニングコールを頼んでたはずだけど……」

 

ウェパルの声

「ソロモン、起きてる? とにかく誰か出て!」

 

ソロモン

「ウェパル……?」

「ふあ~ぁ……待ってくれ。今、開けるから……」

 

 

 目覚めきらない頭では、執拗なノックも憂鬱な目覚まし代わりにしか認識できないでいる。

 のそのそとベッドから出るソロモン。寝不足の体に、ロンバルドの朝は一層身に沁みる。

 

 

ウェパルの声

「呑気な声出してる場合じゃないの! 早く……」

「あ、ちょっと、ベ──」

 

 

 直後、ドアノブが外から回され、吹き飛ばんばかりの轟音と共にドアが蹴り開けられた。

 

 

ソロモン

「おわっ!?」

 

 

 突き出たベレトの足裏がすぐに降ろされ、そのままドスドスと部屋に押し入る。

 

 

ソロモン

「ベ、ベレト……?」

 

フォラス

「おいおい、朝っぱらからかよ……」

 

 

 淀みなく突き進むベレトは、勢いそのままにソロモンの襟首を掴み上げた。

 

 

ベレト

「ポーはどこにいるっ!!!」

 

ソロモン

「は……?」

 

ウェパル

「とにかく付いてきて! 一発で目が覚めるから」

 

 

 動きの鈍い男たちを引っ張るように連れて行くベレトとウェパル。

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 階下への階段を降り始めた辺りから、思わず顔をしかめるソロモン達。

 

 

ソロモン

「ウッ、何だ、この臭い……!」

 

モラクス

「なんか、肉が焦げたみてえな……」

 

フォラス

「焦げたくらいじゃこんな異臭にはならねえだろ」

「それに、もう営業時間だろうにこの静けさって事は……」

 

バルバトス

「……『昨夜の今朝』って事か。確かに、完全に目が覚めたよ……」

 

ウェパル

「悪いけど、その『目』でも味わってもらうわ」

 

ベレト

「こっちだ。早く付いてこい。狭いから一列にだぞ!」

 

 

 ベレトに先導される形で台所に立ち入る一行。

 台所の入り口にたった時点でも既に異変は目に見えていたが、歩を進めるごとに一行の表情は険しくなっていく。

 

 

ソロモン

「これ……死体、だよな?」

 

モラクス

「ひっでえ……何をどうしたらこうなるんだ?」

 

ウェパル

「丸焼きにして、台所が凹むくらい押し潰して、何度も刻んで刺して、霜を被るくらい冷やせばこうなるんじゃない?」

 

フォラス

「見たまんまだが、見ての通りだしな……」

 

 

 交代交代に道を譲り合っては惨状を検分する一行。

 場所が不便なので、ひとまず死体をそのままにして引き返し、手近な席に腰を下ろす。

 

 

ウェパル

「今朝、モーニングコールの時間になってもポーの足音すら無いから、気になって降りてきたらあの有様だったわ」

 

バルバトス

「辛うじて原型を留めた鶏の枝肉と、包丁が落ちてた。調理の途中だったヤブさんだろうな……」

 

ベレト

「風呂も沸いておらなんだし、宿中探してもポーの姿が見当たらんのだ……」

「それに、死体のそばに、これが……」

 

 

 握っていた手を開くベレト。

 吊るし糸の切れたキンチャクがベレトの手汗でクシャクシャになっていた。

 

 

フォラス

「(ポーの両親代わりの石が入ってるってのは、これの事か……)」

 

ソロモン

「なあ。ところで、シャックスは?」

 

ウェパル

「殴っても起きないから放っといたわ」

「さすがにベレトがあれだけ暴れた後だし、いい加減降りて──」

 

シャックス

「ふわ~~~~……も~、ふたりともひどいひど~い……」

 

 

 丁度、目を擦りながらシャックスが降りてきた。その後ろにもう一人。

 

 

ガイード

「どうしたんです皆さん。集落は静かだし、化け物ってわけでも──」

「って、クセェ……! まさか、あのヤブが飯でも焦がしたか?」

 

一同

「……」

 

 

 想像を絶する有様を、これからヤブと親しい彼に説明しなければならないと思うと気が重い一行。

 

 

バルバトス

「……ん?」

「ちょっと待て。一人足りないぞ……」

 

ソロモン

「あっ……そう言えば、ミカエルは!?」

 

ミカエルの声

「ここだ。私を求める声よ」

 

 

 酒場の入り口が重々しく開く。朝日の逆光を浴びたミカエルが立っていた。

 微笑みを浮かべながらも、目は笑っていない。

 

 

フォラス

「外から? お前さん、一体いつから──」

 

ミカエル

「ストップ。今は僅かでも時間が惜しい。『恐らく』ね」

「詳しい話は道中でしよう。この場に居る者だけで向かってもらいたい場所がある」

 

ソロモン

「場所って、どこへ?」

 

ミカエル

「ロンバルド大空洞……ポーはそこに向かった」

 

ウェパル

「あの子が一人で? 確か、大空洞は案内役だけでもふた──」

 

バルバトス

「わかった。皆、準備しよう」

 

 

 予定されていたかのように無駄のない動きで立ち上がり、いそいそと階段へ向かうバルバトス。

 

 

ソロモン

「えっ? ちょ、ちょっと待ってくれ、バルバトス。急に大空洞へ行けなんて言われても……」

 

バルバトス

「幻獣の巣食う大空洞に、女の子が独りで向かった。急ぐ理由は十分なはずだ」

 

ベレト

「!!」

 

 

 椅子を倒さんばかりに立ち上がり、バルバトスの後に続くベレト。

 

 

フォラス

「……そう言われちゃあ、細かい事も気にしてらんねえか」

 

 

 フォラスもゆっくりと腰を上げた。

 

 

ソロモン

「ちょ、ちょっと待った!」

「確かに状況はバルバトスの言う通りだけど、昨夜話し合って、ポーは……その……」

 

ウェパル

「急がせたいなら、焦る理由だけ話して」

 

バルバトス

「……最悪、『荒れる』かも知れないから慎重に話すつもりだったが──」

「ミカエルが急かしてくる以上、俺の推測はおおよそ当たって『しまっている』」

「このままだと……恐らく、ポーの命が危うい。それも、誰も望まない形でだ」

 

一同

「!!?」

 

シャックス

「むにゃむにゃ……みんな、どったのどったの?」

 

ガイード

「ふぁ~む……さあ……?」

 

 

<GO TO NEXT>

 


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