メギド72オリスト「太古の災厄と新生する憤怒」 作:水郷アコホ
大空洞への道中。牛の馬車の馭者を務めるガイードと、その隣にフォラス。
ガイードは青褪めた顔でうなだれている。
ガイード
「……」
フォラス
「その……大丈夫か?」
「なんなら、今は異常気象も起きてないし、俺が代わっても……」
ガイード
「ありがとうございます。けど、心配は要りませんよ……」
「毎日のように、馬車乗って通ったこの景色見てる方が、落ち着きますから……」
フォラス
「……済まねえな。わざと『隠して』連れ出しちまって」
「俺達の馬じゃ、防寒具やら何やら積んでちゃ重量オーバーだったんでな……」
「一応、あのままってのもあんまりだから、仲間が体を横にして、毛布だけ掛けてはおいたよ」
ガイード
「……呆気に取られてたあの時、すぐ近くでヤブが、ねえ……」
フォラス
「あのニオイで、お前さんが現場まで見ちまったら、大空洞どころじゃ無くなっちまうだろうと思って……本当に、悪かった」
ガイード
「いいえ。そこは感謝してるくらいです」
「ポーに何かあって、あいつが動けないなら、あっしが何とかしてやらにゃなりませんから」
フォラス
「無理はしないでくれよ。入り口まで運んでもらえりゃ──」
ガイード
「とんでもねえ。そこはナメんでください」
「あっしだってダテに大空洞潜り続けちゃいません。できる限りのお手伝いはさせてもらいます」
「案内役があっし一人しか居ないってんならなおさらです」
フォラス
「わかった。頼りにしてるぜ」
「『ポーのためには、これ以上、地元の人間を巻き込まない方が良い』って、バルバトスが何度も釘刺して来たからな」
「お前さん一人に任せなきゃならない理由、しっかり聞いとく。話せるようなら後で教えるよ」
ガイード
「ええ。ありがとうございます」
フォラス
「じゃあ、俺は馬車の中に戻るが……」
ガイード
「ご心配なく」
「……いや、むしろ、少し独りになりたいってのが正直な所です」
フォラス
「それもそうか……じゃ、失礼するぜ」
幌に引き返すフォラス。
中で待っていたソロモン達とミカエルが一斉にフォラスを見た。
フォラス
「ガイードさんは、今の所は大丈夫そうだ」
「この先も気張ってもらえるかは……お前さん次第って事になるぜ。バルバトス」
バルバトス
「ああ。わかってる……」
「これから話す事をガイードさんにも伝えるかは、皆の判断に任せる」
「あんな事の後だ。皆も、自分たちが『気が立っている』事を意識して、どうか静かに付き合って欲しい」
ベレト
「勿体つけとらんで、必要な事だけとっとと吐け!」
「このままだとポーの命に関わると抜かしたのは、一体どういう事だ!」
ソロモン
「(早速、『気が立っている』どころじゃないな……)」
バルバトス
「持って回る言い方になるけど、現状の結論だけ言おう」
「俺の推測通りなら、ポーが危険なのは確かだ。だが──」
「どんな事になるか……具体的には『死因』だとか、そこまでは俺にもまだわからない」
ベレト
「全くわけがわからん!」
「死ぬのがわかっていながら、どんな死に様かわからんなどと、そんな状況があるものか!」
バルバトス
「あるさ。君みたいに頭に血を昇らせて、考えなしに喚き立てなければ簡単に思いつく」
ベレト
「なんだと貴様ぁっ!!」
ソロモン
「ちょ、バルバトス……?」
モラクス
「バルバトスのアニキが、喧嘩売った……!?」
バルバトス
「……済まない。俺の趣味じゃないが、敢えて煽った」
「ベレト。昨夜も話した通りだ。ポーに関する問題は、俺たちの中でも意見が割れている」
「どうしたって、君の望む答えになれない時もある。だから──」
「君の『個』を否定する物言いになるのは承知の上だ。それでも頼む。少しの間だけ、その『ぶつける』ばかりの怒りを呑み込んでほしい」
「今、この状況では、君が『起爆剤』になってしまいかねない」
ベレト
「……」
「とっとと続けろ」
「このツケは必ず支払わせるからな……!」
バルバトス
「ありがとう。肝に銘じておくよ」
「続けよう。命に関わるとわかっていて、原因まではわからない理由は、単に情報が足りないからだ」
「例えるなら、土気色したヴィータが、血塗れのまま遠い目で座り込んでいるのを見たようなものかな」
フォラス
「まあ、確かにそんなの見たら、今にも死にそうな事『だけ』はわかるが……」
ウェパル
「ちょっと待って」
「じゃあ、バルバトスの考えでは、ポーが危ないってのは大空洞で野垂れ死ぬ事じゃなくて、ポーが『弱ってる』って言いたいわけ?」
バルバトス
「そうだ」
モラクス
「え? 俺てっきり、外から入った幻獣みてえに落っこちたり氷漬けになったり、後はクラゲに襲われちまうとかだと思ってたんだけど……」
ソロモン
「昨夜の爆発騒ぎから、クラゲが出た時にポーの調子が悪くなる可能性は確かにありそうだけど……」
「それを差し引いても、『死ぬほど弱ってる』なんて言われても……昨夜まであんなに元気だったし」
バルバトス
「それを説明する前に──『確認』しておきたい」
「俺たちは、ポーがメギドである疑いを既に共有している」
「信じたくない者もいるだろうけれど、その可能性は否定しきれない。ここまでは、異論は無いな」
一同
「……」
バルバトス
「その上で……」
「ウェパル。ポーがメギドだったとして、ロンバルドの事件と今朝の『騒動』。これらをどう関連付ける?」
ウェパル
「私……?」
「あんたのここまでの話を一旦置いといて構わないならだけど──」
「クラゲ騒ぎの元凶はポーで、今朝になってどうしてか、私達が正体に感付いたと知った」
「父親代わりのヴィータを殺してフォトンを回収、根城の大空洞に逃げ込んだ……幾つか仮説は考えてたけど、一番手短な筋書きはコレくらいね」
ベレト
「ありえん!」
「ポーなら昨夜遅くに目を覚まして、儂と語らってから眠り直した」
「到底、裏があるようには見えなかった。他愛ない今後の『約束』さえ笑って取り交わしていたのだぞ」
「貴様の言うようなバカ丸出しのメギド脳であるなら、儂らを出し抜けるわけがないだろうが!」
ウェパル
「バルバトスじゃないけど、勢い任せにギャーギャー喚かないで」
「手短に話せる仮説の一つだって言ってるでしょ」
「それに、周りに媚びへつらって『いざ』って時に本性さらけ出すメギドなんて今まで幾らでも居たじゃない」
「むしろ、アンタが口を利いたせいでポーに私達の思惑がバレた可能性だってあるんじゃないの?」
ベレト
「メギドの話など一言もしとらん!」
ウェパル
「カマかけの一つも無かったなら、嘘ついてないなんてのも、ただのアンタの願望じゃないの」
「そもそも口に出して無いからって根拠にならないんじゃない? アンタ、普段から態度に出やすいんだし」
ベレト
「儂を侮辱する気か!!」
旗竿を掴んで膝を立てるベレト。
ウェパル
「やろうっての……?」
珍しくウェパルがこれに応じて警戒態勢を取った。
フォラス
「ま、待て待て、落ち着けって二人とも……!」
ソロモン
「フォラスの言う通りだ。あんまり騒いだらガイードさんにも心配がかかる」
「それに、ウェパル。それはあくまで『仮説』の一つだって、自分で言ってたじゃないか」
「俺からしてもおかしい点があるし、そこまで拘らなくたって……」
ウェパル
「ふーん。ベレトに味方する気……?」
ソロモン
「そんなんじゃないって。でも、ヤブさんの死体を見た時──」
「魂を差し引けば、肉体のフォトンは殆ど『減ってなかった』」
「ポーがヤブさんを殺したとしても、フォトン目的じゃ無いって事だ」
ウェパル
「じゃあただの証拠隠滅で十分じゃない。でなきゃ独りで外出る時に見つかって邪魔だったから──」
ソロモン
「だから、そんな話をしてるんじゃない! 何でその『仮説』に拘ってるんだよ?」
ウェパル
「私が先に、『誰の味方か』って聞いてるの。答えなさいよ」
ソロモン
「なっ……ハァッ!? 本当にどうしたんだよ急に!」
「いい加減にしないと……俺だって『怒る』ぞ!」
モラクス
「何か、ヤベエ雰囲気に……」
バルバトス
「……頃合いだな」
ゴトン、と異質な音が割り込み、緊張が一時的に解かれた。
一行が音のした方を見ると、バルバトスのラッパ銃が転がっている。
バルバトスが自分で宙に放り投げた物だった。
静かに拾い直し、銃を点検しながらバルバトスが口を開いた。
バルバトス
「もう十分だ。『確認』は取れた」
フォラス
「今ので十分って事は……ポーの話は建前で、『確認』したかった事は別にあるって事か?」
ベレト
「バルバトス、貴様……儂らを弄んだのか!」
バルバトス
「どう受け取ってもくれても構わない。ただ──」
「これから、俺の考えの中にある『前提』を理解してもらう上で、皆には身を持って実感してもらう他にないと判断した」
ソロモン
「『前提』……?」
バルバトス
「恐らく、俺と皆が考える事件の全体像には、その根本の部分に違いがある」
「ポーの事、これから起こる事も含めて、俺の考えを共有させるには、その根本を『見つめ直して』もらわなくちゃならない」
「これは、口頭で伝えただけでは簡単に理解できるとは限らない問題なんだ」
ウェパル
「勿体つけないで。こんな茶番やらせないと何がわからないって言いたいの?」
バルバトス
「ベレトみたいな事を言うじゃないか。ウェパル」
ウェパル
「ふざけないで!」
「うっ……」
指摘された通りの恫喝を返した自分にハッとなり、口を抑えるウェパル。
バルバトス
「やれやれ。もう、答えに『気付いている』仲間も居るっていうのにな……『覚えている』かは、さておきね」
「なあ、シャックス。皆、さっきから様子がおかしいと、『気付いている』よな」
フォラス
「シャ、シャックス……?」
珍しくシャックスが静かだった事にようやく気付く一同。
ようやく口を挟むタイミングを得られたシャックスが、修羅場の隅から輪に入ってきた。
シャックス
「うぅ……モンモンもパルパルも、何かいつもより怒りっぽいよぉ」
ソロモン
「怒りっぽい……?」
ウェパル
「バカ言わないでよ。朝っぱらからポーの騒ぎで『気が立ってる』んだから当たりま……?」
モラクス
「あれ? こんな話、だいぶ前にも……」
フォラス
「何だ、どうしたお前ら、急に固まって……?」
ベレト
「何なのだ貴様ら。勝手に驚いてないで儂にもわかるように話せ!」
バルバトス
「フォラスは『あの時』、一緒じゃなかったから分からないのは仕方ない」
「ベレトも、『あの時』は当事者だったが、立場が俺たちとは逆だった。皆よりは自覚は薄いだろう」
ベレト
「立場が、逆……儂が召喚者どもと戦った時か!」
バルバトス
「ベレト。今、君が持ってる小さな袋……『キンチャク』と言ったっけ」
「ポーの遺留品と言う事は、ポーは普段からそれを?」
ベレト
「う、うむ。朝起きたら、何よりも先にこれを身に着けてると、そんな事を言っておった……」
バルバトス
「やっぱりね。これで最後の『確認』が取れた」
「ポーの世話焼きを皆が『断りきれない』理由。今回の事件を紐解くにあたって、いつもより明らかに『ひらめき』が冴えなかった理由──」
「そして今、臆面なく事件の事を話し合える代わりに、やけに『怒りっぽく』なっている理由……」
「全て、その『キンチャク』がカギだ」
ベレト
「……そういうことか」
「昨夜、この袋の中を見た……」
「石コロが……3つ、入っておった」
ウェパル
「石……じゃあ、それって……!」
ソロモン
「アンガー……ストーン……!?」