メギド72オリスト「太古の災厄と新生する憤怒」 作:水郷アコホ
大空洞内部。地底湖への道中、何度目かの幻獣を撃破した一行。
シャックス
「モンモンー、向こうからまだフワフワ来てるよー!」
ソロモン
「まだ居るのか……!」
「こうなったら、遠くのヤツらは無視して先に進もう。ポーを探すのが先決だ」
ガイード
「詰め所のミハルも生憎と、怪物以外の出入りがあった事すら気付いてませんでしたし、心当たりと言ったら地底湖くらいしか……」
「進むにしても、前回以上に気をつけてください。あっしら、案内は二人一組で慣らされてますから、対応しきれん事もあるかもしれませんので」
焦燥と慎重の狭間で歩を進めていく。
ウェパル
「それにしても、今まで以上にクラゲの大盤振る舞いね」
バルバトス
「恐らく、異常気象が起きていないからだ」
「戦ってる時は元より、遠くで雷のような音も聞こえない。大空洞が幻獣の数を減らせてない分、クラゲ達も遠慮なく跋扈してるんだ」
「これも、メギドの魂が弱っているせいか……」
モラクス
「いやいや、水晶壊されてんだから、そのせいだろ?」
バルバトス
「は?」
モラクス
「え?」
バルバトス
「確かに、何故だか道中の水晶が軒並み砕かれているけど……異常気象と何か関係あったかい?」
モラクス
「な、何言ってんだよバルバトスのアニキ……」
「雷とか炎とか、全部水晶から出てきてたじゃんかよ。アニキ達も見てたろ?」
バルバトス
「な……」
「……ソロモン、ちょっと来てくれ」
ソロモン
「俺? わかった。じゃあ、ウェパルとシャックス。ガイードさんを護衛しながら先行を頼む」
シャックス
「了解りょうかーい!」
ウェパル
「手短にね」
陣形を変えて、バルバトスとモラクスの位置まで下がるソロモン。
ソロモン
「何かあったのか?」
バルバトス
「モラクス。異常気象と水晶について、もう一度説明を頼む」
モラクス
「何だよアニキまで呼び出して……」
「だからさ、一昨日も大空洞入った時、クラゲと戦ってる時に雷とか炎とか氷とか色々あったけどさ──」
「あれ全部、水晶からバーっと飛び出してたろ? 地割れも一度あったけど、ヒビは水晶の根本から伸びてたし……」
ソロモン
「え?」
モラクス
「え?」
「……」
「な、なあ。もしかして、これ……?」
バルバトス
「何で今まで言わなかったんだ!」
モラクス
「お、怒らなくても良いだろ!?」
「だって、見てりゃわかる事だし、アニキ達の方が俺なんかよりずっと頭も良いし、とっくに気付いてるとばかり……」
ソロモン
「皆の指揮に集中してて、そこまで見てなかった……」
バルバトス
「異常気象の発生に規則性が無かったし、集落でも起きてたからな……」
「モラクス、怒鳴ったりして悪かった。報告が遅れた点は惜しいが、それでも大手柄だ」
モラクス
「お、おう。今度から、何かあったらちゃんと伝える」
ソロモン
「モラクスの言う通りだとすると、バルバトスやミカエルの言う『同期』説、少し信憑性が出てくるな」
バルバトス
「大助かりだよ。クラゲある所に異常気象が起きていたのは、メギドが異常気象を介してクラゲを撃退していたからだ」
「大空洞ではメギドの魂の残渣が、水晶を中継して戦っていたとも考える事ができる」
「それに水晶自体がメギドの影響だとしたら、モラクスが無意識の『恐れ』から共有しない理由付けをした可能性もある」
「まあ、それはそれで新たな問題もあるけどね……」
モラクス
「ま、まだ何かマズかったか?」
バルバトス
「モラクス、街一帯に嵐を呼び起こすような力を持った敵と、戦ってみたいと思うかい?」
モラクス
「みてえ! 大幻獣レベルの相手じゃん、ワクワクするぜ!」
バルバトス
「そういう事さ。未だ大空洞でクラゲと戦う『片割れ』は、それだけの力を持っている事になる」
ソロモン
「魂だけでそんな力が振るえるとは思えないから、遺物か何かが関わってるかもしれないな」
バルバトス
「むしろ、そうである事を願いたいね。クラゲの対策が済んだら、遠慮なく遺物を破壊するだけで済む」
モラクス
「そっかあ。メギドの力だけで集落にまで異常気象起こしてたら、並のメギドどころじゃねえもんな」
バルバトス
「しかもその力を引き出すためのフォトンの問題もある」
「いくらフォトンスポットだからって、明らかに追放メギドの領分を超えている。『ポーにメギドが憑依した』って仮説が崩れて、考え直しになってしまうからね」
ソロモン
「とにかく、クラゲが大発生してる原因が水晶で、これもポーと関係あるかもしれない事はわかった。引き続き、注意して進もう」
陣形の先頭へ戻っていくソロモンと、後についていくモラクス。
・ ・ ・ ・ ・ ・
大空洞道中。前回、ベレトが滑落しかけた辺りで小休止する一行。
ベレト
「ゼェ……ハァ……だ、だらしないぞ……貴様ら……!」
「こんな……真っ只中で……へ、へたりこんでる……場合、では……」
モラクス
「お前も……息……上がってんじゃねえかよ……ハァ……ハァ……」
ソロモン
「無理して倒れちゃ元も子も無いだろ。フォトンを送るから、ベレトも大人しく休んでくれ」
ミカエル
「再びキミ達が立ち上がるまでに、幻獣が近づいて来るようなら私が対処しよう」
ソロモン
「助かるよ、ミカエル」
「でも、ポーが地底湖に居るとは限らないから、万一に備えて、十分気を付けてくれ」
ミカエル
「わかっているとも」
一行から少し距離を開け、周囲の警戒を始めるミカエル。
バルバトス
「こんな地表近くでも、異常気象が無いというだけでクラゲがこんなに押し寄せるとは……」
「気付かれなかっただけで、異常気象は大空洞の至る所で、毎日のように起きていたのかもしれないな」
ガイード
「案内役としちゃ、足場もたまったもんじゃありませんね」
「ほとんど岩に埋まってたような水晶まで抉り取られて穴ボコだらけ……こりゃあ、あっしらが歩くだけでも難儀するかもしれません」
「元から幾らでもあるから、いつもより薄暗い程度で済んでますが、普段から水晶の光を頼りにしてたのが今は完全に裏目です」
「普段はツルハシでも跳ね返すくらいに硬いクセに、何だって今日に限って……」
バルバトス
「これも『衰弱』のせいかと思ったけど、道中の辛うじて触れそうな水晶は、銃で撃ってもビクともしなかった」
「となると、クラゲ以外の何者かが、強力な力で砕いて回ったとしか……」
ウェパル
「そんなの、ポーしか居なくない?」
バルバトス
「俺もそれしか思いつかないが、目的が見えてこない」
「自らを守るための物を何でわざわざ……仮に水晶の役目を知らなかったとしても、わざわざ壊す理由がわからない」
シャックス
「モンモン~、あたしにもフォトンフォトン~……」
ソロモン
「わかってる。今、回すよ」
「正直こうなると、フォトン操作も少し面倒だな」
「水晶が砕けた分、フォトンが濃くなってると思ったら、クラゲに取られて期待するほど残ってないし──」
「かと思えば、クラゲを倒せば自爆して、クラゲが溜め込んだ分も周囲のフォトンもまとめて散らされるし」
ウェパル
「……」
「ねえ、バルバトス。あのクラゲ、メギドの魂を狙ってるって言ってたわよね」
バルバトス
「ああ、言ったよ。魂もフォトンの一種だから──」
「……んん?」
ウェパル
「あんたが言うには、メギドは魂だけになって、ここを漂ってたんだっけ?」
「それに昨日の『会議』の時には、クラゲ達は『捨て駒』だって」
バルバトス
「なるほど……メギドラルは何かしらの方法でここにメギドの魂が居る事を知った上で、クラゲを差し向けた可能性があると」
「ハイドロボムによる自爆で、魂を確実に破壊し、大地に還すために……」
ウェパル
「あくまで、馬車でのトンデモ仮説が本当ならだけどね」
ソロモンの元に、フォラスがフラフラと歩み寄る。
フォラス
「ハァ、ハァ……ゲホッ」
「ハハ……インドア派とはいえ……走り込みくらいはしとくべきだったかな」
ソロモン
「フォラス……大丈夫か? フォトンで持ち直せれば良いけど……」
フォラス
「息さえ整えればまだやれるさ……」
「それより、今のうちに見て欲しい物がある」
フォラスが手に握った物をソロモンに見せる。
ソロモン
「これは……小さい葉っぱ……芝生の欠片?」
フォラス
「クラゲの『核』だ。さっき戦ってる内にまた拾えた」
ソロモン
「これが……!」
「何か、このあいだ瓶入りで見たのと、だいぶ印象違うな……」
フォラス
「見た目通り植物の一部なら、最初に拾ったやつは、一日足らずで枯死……あるいは腐っちまったのかもな」
「結局、最初に拾ったやつは完全にお手上げだったが、これなら何か情報が得られそうだ」
ソロモン
「そうか! これが植物だとしたら……」
「シャックス!」
シャックス
「なになに~? まだちょっとダル~い……」
ソロモン
「疲れてるところ悪いけど、これ、何かわかるか?」
シャックス
「あたしに? どれどれ~……」
「……!!!!!」
ソロモン
「一気に目が輝いた……当たりか!」
シャックス
「モ、モ、モ、モンモンモンモンモ! これ、これ、どこどこ!? どこで見つけたの!??」
ウェパル
「うるさいわね。急にどうしたの」
モラクス
「またキノコでも見つけたか?」
バルバトス
「いや、こんな所でキノコは流石にないだろ……」
シャックスの奇声に仲間たちの注目が集まる。
フォラス
「幻獣の中に、透き通ってない『本体』みたいなのが収まってるだろ。そいつがこれだ」
「ちなみに、こっちはここに来た初日に見つけた同じやつだが……」
懐からすっかり枯れ葉か砂のようになった物体が入った瓶を取り出すフォラス。
シャックス
「むほぉぉ! 何で! 何で教えてくんなかったの!」
ソロモン
「いや、二日目の朝食前にフォラスが見せたじゃないか!」
ベレト
「何だその瓶。儂は見覚え無いぞ?」
ウェパル
「そうね……あの時、シャックスとベレトは爆睡してたものね」
フォラス
「変な意地張らずにさっさと皆の意見聞くべきだったか……ちょっと反省」
「で、シャックス先生。こいつの正体は何なんだい?」
シャックス
「コケだよ! コケコケだよ!!」
モラクス
「何……コケコッコ?」
ウェパル
「頭だけじゃなく、とうとう心まで……」
シャックス
「違う違う! コケコケだってば!」
バルバトス
「あ~……苔植物の事か。確かに、この小ささは納得だが……」
ウェパル
「キノコも生えないような場所なのに?」
シャックス
「ここには生えてないけど、ちゃんと寒い所にもキノコやコケって生えるんだよ」
「特にコケはね、南のず~~っと南の、南に行き過ぎて寒いくらいの所に、しかも海の中に生えてたりもするからね!」
フォラス
「それはそれで驚きだが、こいつは大空洞の奥深くから来る幻獣の一部だ」
「どういった特徴のコケで、しかも何で幻獣がこれを利用してるか、何かわかる事ないか?」
シャックス
「ゲンゲンが持ってたのはよくわかんないけど、このコケはすっごい珍しいコケとソックリだよ!」
「こんな風に凍っちゃうくらい寒い所に自生しててね。栽培がすっごく難しいし、しかもフォトンが無いとうまく増えてくれないの」
「植物の成長にはフォトンは必ずしも必要ないって説があるんだけど、このコケはその学説をひっくり返すんじゃないかって言われてる大注目のコケコケなんだよ」
「全く同じ種類かはわかんないけど……これがロンバルドにあるってレポート書くだけでも、絶対単位もらえる……グヘヘ!」
ウェパル
「よくもまあ、一目で苔なんてのの違いが見分けられるわよね」
フォラス
「つーか、こんな状況で単位の話が飛び出るとは思わなかったぜ……」
モラクス
「なあ。コケって、土が無くても生えてくるもんなの?」
バルバトス
「岩や洞窟の壁にビッシリ苔むしてるの見たことあるだろ。コケはいわゆる草木とは別物なんだ」
シャックス
「それにそれに、コケはキノコみたいに胞子で増殖するのだ。えっへん!」
モラクス
「何でシャックスが威張ってんだよ……」
フォラス
「とにかく考えようによっちゃ、このコケが繁殖するにはフォトンが不可欠ってわけか」
「ソロモン。これっぽっちだが、何か見えるか?」
ソロモン
「うん。さっきから見えてる。確かに、かなりのフォトンを含んでるよ」
「でも、こんなコケ、周囲には全く見当たらないけどな……」
ガイード
「あのー、皆さん……?」
バルバトス
「おっと、蚊帳の外にして済まない。護衛を付けた方が良いかい?」
ガイード
「いや、そうでなく──」
「さっきから、コケがどうのって話されてるみたいで、もしかしたら、お力になれるかなと」
フォラス
「心当たりあるのか!」
ガイード
「ええ、まあ」
「最近になって、大空洞からコケが見つかったってんで、詳しい学者先生が訪れるの待った方が良いんじゃないかって話がありまして」
シャックス
「どこ! どこに生えてたの!?」
ガイード
「ポーが怪物に襲われかけた時、ヤツらが出てきた横穴あるじゃないですか。あの先です」
シャックス
「よこ、あな……?」
バルバトス
「開通したばかりで、まだ安全かどうかも調査中の通路だね」
「(そして、幻獣を地上に出す原因にもなってしまった……)」
ガイード
「そうです。幾らか進んだあたりから、コケが岩やら氷を覆っていって、奥に進むほどビッシリなんですよ」
「これがまた、ゴツゴツした岩肌より滑るのなんの。あっしも何度か調査に行きましたが、滑落とか大事になる程じゃありませんが、帰る頃には毎度尻が痛くって……」
シャックス
「ビッシリ……!!」
「モンモン、あたしちょっと行ってくるね!」
ソロモン
「モラクス!」
モラクス
「おう!」
即座に取り押さえられるシャックス。
バルバトス
「ありがとう、ガイードさん。かなり有益な情報になるかもしれない」
ガイード
「そいつは何よりです」
ウェパル
「ちょっと、全員で情報の確認しなきゃならないから手が離せなくなるわ」
「念の為、あっちのくどい顔の男の近くで待機してて」
ガイード
「くどい? ああ、多分、あちらで見張りしてくださってるお客さんの事ですよね。わかりました」
場を離れるガイード。
ソロモン
「地底湖より奥で自生しているコケか……」
バルバトス
「元々、岩壁で隔てられていた空間だからね。地底湖より上とは何かしら環境が違ったためかもしれない」
「それよりも今の話からすると、クラゲが発生する仕組みがわかったかも知れないな」
ベレト
「体の殆どがフォトンのハリボテで出来た幻獣に、その一部と化した、フォトンを含むコケ……」
フォラス
「触媒って事か」
モラクス
「何だ、ショクバイって?」
シャックス
「うぅ~、モラクス離してってば~!」
モラクス
「勝手に動くなって言われてんだろ。とりあえずアニキ達の話を聞いてからにしとけ!」
フォラス
「科学的な説明してもしょうがねえし……」
「大雑把に言うと恐らくクラゲは、自分の体を作るための『取っ掛かり』にコケのフォトンを利用してるんだ」
バルバトス
「ほぼ魂のみの状態から、コケのフォトンからフォトン体を作り、コケを実体の拠り所として活動。以降の生活のためのフォトンは周囲から吸収する仕組みなんだろう」
モラクス
「コケに取り憑いて動き回ってるみたいなもんか?」
フォラス
「大体そんな感じだ。そういう意味では寄生型幻獣の一種かもな。多分、コケの他に便利な取り憑き先が無くて適応していった結果だろうよ」
ウェパル
「じゃあ、これっぽっちのコケで、アレ一匹ができるって事よね。それがビッシリ……」
「大空洞全部が巣みたいなものじゃない。本当に退治できるの?」
ベレト
「コケも幻獣も、一つ一つ毟っていてはメギドの寿命でも足りるかわからんぞ……」
一同
「……」
ソロモン
「……待てよ?」
「ウェパル。ハイドロボムを作り出すには、フォトンを使うよな?」
ウェパル
「当たり前でしょ?」
ソロモン
「敵が逃げても、付着させたハイドロボムを維持させるには、どうするんだ?」
ウェパル
「メギドによるかもしれないけど、ボム自体が安定したフォトンとして残留し続ける感じ」
「もちろん、ジワジワと消耗していくから大体の場合、ある程度までフォトン量が減った時点で爆発するように仕掛けるけど?」
ソロモン
「じゃあさ。爆発する間もなく、一気にボムを構成するフォトンが減っていったら、どうなる?」
ウェパル
「実際にそんな経験ないからわからないけど、そのまま掻き消えちゃうんじゃない?」
「私達がメギド体になれるのが一瞬なのも、フォトン体を再構成する間もないほどフォトンが散って……」
「……ねえ、バカみたいにスケールの大きなこと考えてないでしょうね?」
ソロモン
「考えてる。でも、本気でどうにかするなら、一番現実的だと思う」
フォラス
「お、閃いたか。俺にゃあちょっと思いつかねえが……何しようってんだ?」
ソロモン
「説明する前にまず、実現できそうかどうか試しておきたい」
「みんな、休憩終わりだ。次のクラゲとの戦いで確かめる!」