メギド72オリスト「太古の災厄と新生する憤怒」   作:水郷アコホ

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※ここから前書き※

ここから世界観に関する独自の設定・解釈が特に多くなります。
読まれる際は、色々と割り切っていただけると助かります。

※ここまで前書き※


37「古代メギド」

 幻獣を退けつつ、横穴の先を進む一行。

 

 

ガイード

「──つまり、まとめると……」

「ポーの中には、死者の国の悪魔が住んでいて──」

「ポーが大空洞から生きて帰って来れたのも、今、ポーが苦しんでいるのも、その悪魔が関わっているからだと?」

「そして、皆さんもまた、死者の国からやってきた方々と……」

 

ウェパル

「そこのソロモンだけは純粋なヴィータだけどね」

 

バルバトス

「とにかく、今の所はその理解で問題ないよ」

「ポーの事についてはまだ推測も多々あるが、今しがたの出来事からして、ほぼ間違いないだろうしね」

 

ガイード

「……もっと、早く教えてくれてたら……」

 

ソロモン

「隠してた事は、すみません……」

「ただ、俺達はあくまでもヴィータのために、こうして戦っているんです。それだけは信じてください」

「それに悪魔──メギド達だって、全てが悪者なわけじゃない。ポーの中にいるメギドも、もしかしたら……」

 

ガイード

「そういう事じゃあ、無いんですよ……」

 

ソロモン

「……ごめんなさい……」

 

ガイード

「ポーも、皆さんの事も、教えてくれてたなら幾らでも助けになれたのに……!」

 

ソロモン

「え……!?」

 

バルバトス

「それは……俺達が言うのもなんだけど、人々を脅かす『悪魔』というものに、抵抗を感じたりはしないのかい?」

 

ガイード

「あるわけないでしょう。あったとしたって、思う事は変わりませんよ」

 

バルバトス

「ヴァイガルド中に多くの怪物が蔓延る元凶であり、結果として、君たちの生活を脅かし犠牲者まで出したとしても──」

 

ガイード

「それとこれとは別じゃないですか。ポーが生きてくれたから、今の生活があるようなものなんですから!」

 

ソロモン

「……!」

 

ガイード

「そりゃあ、集落の皆が皆あっしと同じ考えとまでは言いません。ですが──」

「身内に悪魔が居るとか、そんなくらいじゃ誰も手のひら返したりなんかしませんよ。それは確かです」

「皆さんが存分に活躍できるよう取り計らったでしょうし、都合が悪い事は口外もしません」

「ポーも……話が聞けりゃ、そのメギドとやらが暮らしやすいよう、協力する事だって……」

 

モラクス

「なんか、すげえ良いおっさんだ……!」

 

シャックス

「よーし、みんなでポーポーを助けに行こう行こう!」

 

バルバトス

「それで片付けたいところではあるけど……」

「俺達の素性を知って、こう言ってくれる共同体というものは、今までの経験から言って珍しい部類だ」

「俺達当事者の間でさえ、自分が何者だろうが関係ないと、全員揃って胸を張れるわけでもない」

「だから、その、つまり……」

 

ウェパル

「言いたくて言うわけじゃないけど……『悪魔』って言葉の意味、わかってる?」

 

ガイード

「ええ。皆さんから見て、あっしが何を抜かしてやがるのかもわかってるつもりです」

「でもね。少なくとも、向こう二、三十年は変わりませんよ。あっしらは、ここに訪れるのが悪魔だろうと手を差し伸べます」

「でなきゃ、お互いまとめて凍え死んじまいますから」

 

ソロモン

「凍え死ぬ……?」

 

ガイード

「もう、実際に体験したのは、あっしの爺ちゃん婆ちゃんの世代くらいですがね──」

「昔のロンバルドは、本当に洒落にならない所だったそうです。『生きる事』以外に少しでも時間を使えば、たちまち氷漬けだってくらいに」

「いがみ合いだの防犯だのにかまけてると、仕掛けた方も仕掛けられた方も、飯も火種も足りなくなってそれっきりです」

「だから、ここでは相手が何者だろうと、まず助け合うよう教えられるんです」

「相手よりもまず、自分達が死なないために」

 

バルバトス

「追いやられた人々同士でやって来れたのも、俺達のような客をこぞってもてなす慣わしも、そんな下地があったからか」

 

ウェパル

「取って食われるかも知れなくても、まずは良い顔して見せないとやっていけなかったわけね」

「で、そんな教えが染み付いてる世代だから、悪魔だろうが物盗りだろうが迎え入れる……」

 

ソロモン

「……俺は、そういう事じゃないように思う」

「当初はどうかわからないけど、今のロンバルドの人たちは、反発するより協力する事の大切さに、自然と意識を向けられるんだと思う」

「思う所があったとしても、まずはポーを心配できるって、そういう事じゃないかな」

 

ウェパル

「それ、コインの裏表みたいな話じゃない?」

 

ガイード

「まあ、そういう事はあっしには何とも」

「あっしに言えるとしたら──ヤブとはお互い、『いっそ殺してやろうか』と本気で思った事もあります」

「それでも、あっしらはお互い腐れ縁の『ダチ』だったと。それくらいです」

「だから、とにかく皆さんやポーの事情が何だろうと、あっしらは協力を惜しみません。それだけは言えます」

 

ベレト

「……」

「(だからか……?)」

「(どいつもこいつも『時代遅れ』の慣わしで、知りもしない内から手放しに招き入れて──)」

「(だからポーは、『怒り』をどこぞに置いていったのか?)」

「(何が助け合うだ。あっちでもこっちでも上辺で馴れ合って染まりきって……そんなもの、果てには『自分独り』しか残らんではないか……!)」

 

フォラス

「ガイードさんに説明終わったなら、こっちの話も始めて良いか?」

「次にクラゲが出てくるまでに、聞けるだけ聞き出しておきたいしな」

 

ソロモン

「そうだった。あの時、ミカエルはポー……いや、ポーの姿のメギドを『パエトン』って……」

 

 

 一行の注目がミカエルに集まる。

 

 

フォラス

「ポーとメギドが一つの体に同居してる。そこまでは良い」

「だが、そいつを『パエトン』と呼ぶってのは、俺としちゃあ聞き捨てならねえな」

 

ソロモン

「そのメギドの名前が『パエトン』で、たまたまミカエルがそれを知ってたってだけじゃ、無いって事か?」

 

フォラス

「有り得ないんだよ。俺の知ってる『パエトン』なら、その名前が『こんな時』に出てくるって事はな」

「ヴィータと違って、メギドの名前がソックリ被るなんて事はそうは無い。名前そのものも『個』だからな」

 

ミカエル

「ナンセンス。有り得ないと言う概念こそ有り得ない」

「事実、我々はヴァイガルドは元より、各々の住む世界すら解き明かせてはいないのだから」

 

フォラス

「今は理論上の話してるつもりはないんだよ」

「ベレトが『石』持ってるんだ。いたずらに煽るのはナシにしようぜ」

 

バルバトス

「フォラス、ミカエル。済まないが、俺達にはどうも話が見えない」

「その『パエトン』、どういった曰くのあるメギドなんだ?」

 

ミカエル

「『かつて』、メギドラルを震撼させた強大なるメギド。そう聞いている」

 

ソロモン

「メギドラルを……って事は実質、中央にって事になるか」

「中央に何らかの被害を与えたメギドだから、追放されたって事か」

 

モラクス

「でも、そんな名前聞いた事ねえぞ」

「そんな強そうなやつだったら、俺だって噂くらい聞いててもおかしくねえのに」

 

バルバトス

「でなければ、武力ではなく一種の政治犯か……」

「どちらにせよ、俺がメギドラルに居た頃にも全く覚えがないな」

 

ウェパル

「同じく」

「あ、シャックスは黙ってて良いわよ」

 

シャックス

「うぇえ!? パルパルひどいひどい~!」

 

ベレト

「儂でさえ全く聞いた事も無いぞ」

「どんなやり口であれ、中央に楯突いた者が、議席持ちだった儂の耳に入らぬわけがない」

 

フォラス

「知らねえのは当たり前だ。俺だって直接会った事もねえ」

「上位ハルマさまの『かつて』を甘く見るなよ。なんたって、『パエトン』の記録が記されたのは千年前だ」

 

ソロモン

「千年か……それなら流石に知らなくても──」

「って……!」

 

一同

「せ、千年!?」

 

フォラス

「正確には更に百年か二百年前の事件っぽいが、メギドラルに細かい年表なんてそうそう無いからな」

「とにかく、これだけで充分、有り得ないって理由がわかるだろ?」

 

ベレト

「確か、いつかのユフィールの話では……」

 

バルバトス

「メギドの寿命は300年。長くても500年だったな」

「殊更に長寿な個体だったとしても、魂が2倍もの期間を生きるなんて……」

 

ソロモン

「そもそも、最初の追放メギドにしたって、もっと後の時代になってから……」

 

ウェパル

「……」

「(『100年』なら、わからなくもないけどね……)」

 

ミカエル

「私もメギドの寿命との問題には明確な答えは出せていない」

「故に、確かめたのだ。そして彼女は確かに自身を『パエトン』と認識していた」

「『友人』からの又聞きの情報だが、それでもかつての『パエトン』と、あのメギドは似通った点も多い」

「有り得ない事は、既に現実に起きている。キミ達にとって、もはや珍しい事でもないだろう?」

 

フォラス

「だからってなあ……それで片付いちまったら学者の仕事なんざ──」

 

ウェパル

「凍結……」

 

フォラス

「え?」

 

ウェパル

「メギドの魂って、凍結処理できるみたいよ。100年くらいは余裕でね」

「1000年前にそんな技術があったか知らないけど、もし凍結状態の間、魂が変化しないとすれば理屈は通せるわ」

「どの道、無茶には変わりないけどね」

 

バルバトス

「凍結処理の上で追放か……」

 

ソロモン

「でも、そもそも1000年も前に追放されたってのは……」

 

フォラス

「そこは『昔』に調べた時に答えは出てる」

「フリアエとかにも聞けば知ってるかもしれないが、『パエトン』が追放刑……いや、『魂摘出刑』の第一号だ」

 

シャックス

「魂取り出したら追放しかないから同じじゃないかな? かな?」

 

ソロモン

「いや、確か魂を取り出した後、ヴィータ体に封印してフォトンが枯渇した土地に放り出す刑罰があるってフリアエが言っていた」

「以前のアマイモンや、黒い犬がヴァイガルドに来る時も魂を別の肉体に入れている。それ自体は独立した技術なのかもしれない」

 

ウェパル

「それを『刑罰』にせよ、その頃はただの『処分』だったにせよ、最初に受けたのが『パエトン』だったって事?」

 

フォラス

「もっと昔からやってたのかも知れないが、俺が居た頃に現存してた資料では、それが最古の例だ」

「ついでに、魂絡みの技術が大っぴらに研究されだしたのもその頃からだ。『パエトン』を切っ掛けに入れ込むようになったんだろうよ」

 

バルバトス

「つまり、『パエトン』の魂を取り出すためだけに、魂摘出の研究が一気に推し進められたって言いたいのか……?」

 

モラクス

「何やらかしたらメギドラルをそこまで必死にさせられるんだよ……!」

 

ミカエル

「『友人』から伝え聞いた所では、それは『体を得た災厄』だったと……」

「山も草木も街も、進路の先にあるもの全ては更地と化した」

「無論、メギドも例外ではなかった。立ち向かう者、命乞いする者、崇め軍門に降るを求める者──」

「全て例外なく、『食い尽くされた』とね」

 

ソロモン

「食い尽くされた……?」

 

フォラス

「文字通りだよ。何でも掴み上げてガブリだ。最初に知った時はよくある誇張だと思ったが──」

「その資料で名前に『山』ってついてる土地に行ってみたら、中途半端な山が2つと、その間に『谷』が出来上がってた」

 

ウェパル

「まさか、大きな一つの山が真ん中から『齧られた』って……?」

 

フォラス

「そんなレベルの変化が有ったら、事実以外、書き残す理由が無いだろ?」

「ヴァイガルドじゃあるまいし、自然災害を神話でボカしたなんて事も考えにくいしな」

 

シャックス

「だ、大スケール……!」

 

モラクス

「俺も『昔』は、一面の草が無くなるまで食いまくってた事あるけど、山まるごとはなあ……」

 

ミカエル

「私から『パエトン』について語る必要は無いようだ。学者のキミなら、きっと私よりも正確だ」

 

フォラス

「俺はお前さんから聞き出したくって話してるんだがな。別に『パエトン』を専攻してたわけでもねえし」

 

ソロモン

「フォラス。俺もミカエルの事には少し疑問が残ってるけど、できればまずパエトンの事を教えてくれないか」

「今、俺達が追っているのがその『パエトン』なら、追いついてからの事を考えるためにも、何ていうか、『わかってやりたい』んだ」

 

バルバトス

「俺からも頼む。この事件の全容、パエトンの『力』が少なからず関わっているはずだからね」

 

フォラス

「……わかったわかった。俺の目的だけ焦ったってしょうがないしな」

 

 

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