メギド72オリスト「太古の災厄と新生する憤怒」   作:水郷アコホ

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38「暴威の歴史」

 ──大空洞深部を進む一行。

 ──道中に現れた幻獣を退け、移動しつつ情報を確認しあう。

 

 

バルバトス

「気を取り直して、フォラスの話を聞く前に──」

「モラクス、シャックス。治療が必要かい?」

 

シャックス

「だ……だいじょ~ぶ~……」

 

モラクス

「骨とかにはキてねえけど、モロに打っちまった……」

 

ウェパル

「まるで産まれたてみたいね」

 

フォラス

「戦闘の真っ最中に2人揃ってすげえ尻もちだったからなあ」

「見てるこっちまでゾッとしたぜ。腰骨のあたりが」

 

ガイード

「言った通りだったでしょう? ここのコケ、地味に滑るんですよ」

「少しは慣れたつもりのあっしでも、一度入れば4回くらいはコケるんで、お気を付けてとしか言えません」

 

フォラス

「(コケでコケるってか……ハハ、俺も歳だなあ)」

 

ミカエル

「僅かな傾斜を『滑り続ける』事にはならず、むしろ体を捉えてくれてさえいる──」

「だが、一時『足元を掬う』事にかけては岩肌よりもデンジャラス……まさに自然の驚異だね」

 

バルバトス

「モラクスは重い武器を持つ分、地盤の支えが重要になるし、シャックスは逆に足取りが軽すぎるな」

 

ソロモン

「クラゲは無理に力を込めなくても倒せるんだ。二人とも、慣れないだろうけど安全第一で頼む」

 

モラクス

「お、おう。やってみる……」

 

シャックス

「あ……」

「そうだ……ここの、コケ……レ、レポート……」

 

フォラス

「おいよせ、シャックス。そんな足腰で屈んだら……!」

 

 

 シャックスの両足が横薙ぎにズリンと宙に浮き、こめかみから着地した。

 

 

シャックス

「むぎゅうっ!」

 

フォラス

「あーもう、言わんこっちゃない……」

 

ウェパル

「っていうか、シャックス今は休学中って聞いた気がするんだけど」

「はぁ……こんな調子じゃ、パエトンの話は少しお預けね」

 

ソロモン

「ポーは心配だけど、こっちも油断してると体が保たないな……」

「……」

「ベレト……?」

 

ベレト

「……なんだ」

 

 

 こころなしか一行から距離を置くようにして歩いているベレト。

 

 

ソロモン

「いや……戦闘前の話から、何だかあんまり喋ってないと思って……」

「それに、さっきの戦闘中も、いつもより勢いが無かったような気がしてさ」

「……ポーの事か?」

 

ベレト

「……」

「貴様は……」

「ポーがメギドだったとして……貴様は、ポーをどうする気だ」

 

ソロモン

「どうって、そりゃあ出来れば話し合って、『召喚に応じて欲しい』と思ってる」

「そもそも、この依頼は一応、王都から請けたものだから、事件が済んだらシバ達に報告しなきゃならない」

「だからメギド絡みとわかった以上、メギドを召喚もせず野放しにして帰るわけにもいかないし……」

 

ベレト

「…………」

 

ソロモン

「な、何だよ、その恨めしそうな目は!?」

「別にもう、『倒そう』とかそんな事、言ってないだろ……何か俺、気に障るようなこと言ったか?」

 

ベレト

「……フッ──」

「全く良いご身分だ。ソロモン王なのだものな……」

 

ソロモン

「……どういう意味だよ。ベレト」

 

ベレト

「何でもない。貴様は黙って、儂の怒りの矛先を提供しておればよい」

 

ソロモン

「ベレト。そんな湿っぽい『怒り』は、全然『らしくない』ぞ」

「言いたい事があるなら、ちゃんと言ってくれ」

「わかってはやれないかも知れないけど、向き合う覚悟くらいはあるつもりだ」

 

ベレト

「……貴様も、知った口を聞くのだな」

 

ソロモン

「何だって?」

 

ベレト

「……フンっ」

「今は気が向かんと言ったのだ! それに、貴様ごときに話してやるだけ無駄だ!」

「だが一応、そこまで食い下がるなら、貴様の臣下どもと話くらいは合わせてやろう」

「……儂は貴様と違って、儂の考えくらいよく理解できているのだからな!」

 

 

 プイと顔を背けるベレト。

 

 

ソロモン

「(うーん……これじゃあ、しばらくは取り付く島も無さそうだな……)」

「(何が言いたいんだかさっぱりだし。やれやれ……)」

「(『話してやるだけ無駄』……『自分の考えを理解してる』……)」

「(……俺達には、どうこうするのが難しい悩みだったりするのかな……)」

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

フォラス

「じゃあ、そろそろ続きを始めようか」

「ガイードさんの話じゃ、まだまだ先は長いみたいだしな」

 

ガイード

「あっしも、今も叫び散らして駆けずり回ってでもポーを探したい気分ですが、たちまち落っこちて死ぬだけですからねえ……」

 

バルバトス

「緊張は長続きさせないに限るからね。気晴らしのつもりで頼むよ」

「ガイードさんには、また置いてけぼりにさせてしまうのが心苦しいけれど」

 

ガイード

「いえ、お気になさらず。その間は全力で、皆さんが安全なよう気を配らせてもらいます」

 

フォラス

「ま、気晴らしになるかは微妙な話になるけどな」

「まず──さっき話した通り、『パエトン』ってメギドは何でも平らげちまう」

「アテもなくうろつき回っては、進路上にある物を何でも『食って』どかして進むんだ」

 

モラクス

「それで、山まで食って突き進んじまうってのか……」

 

シャックス

「ポーポーも、たっくさん食べてたもんね!」

 

ベレト

「そうか。山に比べればカゴ入りドーナツなど……」

 

バルバトス

「追放メギドなら、メギドの頃の生活にそこまで影響は受けないと思うけどね……」

「(……って、事は……?)」

「(いや、考えるのは一通り話を聞いてからにしよう……)」

 

フォラス

「まあ、そんな規格外に傍迷惑なメギドだ。当然、中央に目を付けられて、討伐の話が持ち上がった」

 

ソロモン

「中央って事は、マグナ・レギオの前の、アルス・ノヴァか」

 

フォラス

「そこは何とも言えねえ。公文書とかじゃねえから、書き手も『中央』としか書き残して無かったんでな」

「あるいは、もっと前の組織だったりしたかもしれないが、俺もそこまでは知らねえ」

「とにかく、パエトンの討伐計画は何度も立ち上がったが、ことごとくが失敗した」

 

バルバトス

「中央の度重なる襲撃を、全て退けた……!?」

 

ウェパル

「もう殆ど化け物ね……」

 

フォラス

「最終的なパエトンの力は実際に化け物じみてたらしいが、敗因は2つだな」

「1つはパエトンの『特性』を知らないまま喧嘩しかけちまった事。もう1つは、その特性が裏目に出るような攻め方しちまった事だ」

 

ソロモン

「その特性っていうのは?」

 

フォラス

「どうも、パエトンは『食ったものを魂のレベルで取り込む』って特性があったらしい」

 

モラクス

「食った物を取り込むって……それ普通の食事と変わんなくね?」

 

バルバトス

「いや。魂のレベルでって事はつまり、食べたものの『力』を自分のものにしてしまうって事じゃないかな」

 

フォラス

「そういうこった」

「当時の中央はパエトンに普通のメギド討伐の兵力を送り込んで、返り討ちされては規模をでかくしていった」

「戦力の逐次投入。まあ、お偉方の対応としちゃ妥当だったんだろうがな──」

「お陰でパエトンは刺客のメギドを『取り込んで』モリモリ強くなっちまった」

 

モラクス

「食っただけで強くなれるとか、そんなのアリかよ!?」

 

フォラス

「記録にそうある限りは、そうだと信じるしかないもんさ」

「最終的には、今で言う『議席持ち』が3分の1くらい最前線に立って、その全員が犠牲になってようやく止められたらしい」

 

ウェパル

「それ、もうメギドってレベルじゃないんじゃない?」

 

フォラス

「まあ流石に3分の1はフカシだろうよ。相応の被害は出たろうがな」

「その時のパエトンの暴れっぷりも相当だったみたいだから、総力戦ではあったと思うぜ。何でも──」

「火を吹いて、水を吐いて、風を起こして、雷を呼んで、氷柱も飛ばして、岩も振らせて……だったかな」

 

ソロモン

「全部で6つなら、俺達が真似するにはメギド6人必要だな。いや、指環が足りないか……」

 

シャックス

「はいはーい、何かどっかでそんな話聞いた事あるあるー!」

 

バルバトス

「どっかでって、パエトンの話がヴァイガルドに伝わってるはずが……」

「あれ……? 全部で6つ……」

「あっ!」

 

ミカエル

「六つの夜に、怪物が目覚め人を殺す」

「火で焼き、土で潰し、風で裂き、氷で穿ち、水で貫き、雷で焦す」

「怪物の名はエリダヌス」

「七つ目の夜に昇る赤い月に、魂の光を捧げて踊る」

 

一同

「……!!」

 

ミカエル

「パエトンの情報は、赤い月と共に『友人』から齎された」

「私が今回の事件とパエトンを結びつけた切っ掛けは……キミたちの察する通りさ」

 

バルバトス

「地底湖のエリダヌス……やはりか」

 

ソロモン

「で、でも、あれを見て何で、エリダヌスじゃなくてパエトンの方と繋がるんだ?」

「試作機が見つかった事だってあるし、それにパエトンとポーが、どう結びつくかだって……」

 

ウェパル

「ここまで来て、今更しらばっくれる必要無いでしょ」

 

ソロモン

「し、しらばっくれる……?」

 

バルバトス

「ソロモン。今なら『気付ける』はずだ」

「初めてポーの額の石を見た時、既視感を覚えなかったか。何か似た物を見たことあるだろう?」

 

ソロモン

「ポーの額の……確か、真っ黒くて、真ん中に橙色の点がポツンと……」

「あ……エリダヌスの『眼』!?」

「そんな……どうして今まで……!」

 

モラクス

「アニキ、気付いてなかったのか!?」

 

シャックス

「ポーポーのオデコがエリダヌス……おお、そんな気がしてきた!」

 

バルバトス

「気がしてきたどころか、そっくりそのままだよ……」

「俺もウェパルも、そしてモラクスも。地底湖でエリダヌス像を見た時に、完成したエリダヌスの姿とポーの『眼』を即座に連想していた」

「だが結局、みんな言い出せなかった。ソロモンに至っては『気付く』事すら無意識に拒絶していたんだ」

「地底湖の時も、恐らく最初に酒場でポーの『事情』を知った時も、彼女はずっと持ってた」

「キンチャクに入れた例の、『恐れ』を発信する三つの『石』をね」

 

ソロモン

「こんな……こんな簡単な事さえ、『怖い』ってだけで今まで……」

 

バルバトス

「ただの『恐れ』じゃない。得体の知れない『恐れ』だ。自分でも気づけないほどにね」

「君がこの中で、良くも悪くも最も『ヴィータ』であった。そういう事だろうさ」

 

フォラス

「だからお前ら、『前会議』の時にエリダヌスの話だけ妙にしょっぱく流しちまってたのか」

「俺はエリダヌスとあんまり面識無かったから、思いつかなかった俺だけ『恐れ』もそんなに無かったわけだな」

 

モラクス

「でも、さっきアニキも言ってたけどさ。何で『エリダヌス』が『パエトン』なんだ?」

「メギド体って、それぞれで結構、見た目違うよな。ポーのデコの石がエリダヌスの目なら──」

「パエトンのメギド体って、エリダヌスとそっくりって事にならね?」

 

バルバトス

「あれはあくまで『兵器』だからね。何らかの経緯でパエトンの姿を模した可能性はある」

 

シャックス

「でもでもー、メギドラルで戦った時にも、おんなじ格好のメギドと戦ったりしなかったっけ?」

 

ソロモン

「そういえば、あったな。ゲートの番人のメギドとか……」

「余り気にしてなかったけど、エリダヌスみたいな格好のメギドと何度か戦ってるような──」

「どういう事だ?」

 

フォラス

「あっ……思い出した。地底湖で何か既視感あると思ったら……」

「誰か、『トレミーナンバーズ』って聞いた事ないか?」

「この中だと……バルバトスとか、どうだ?」

 

バルバトス

「確かに、聞き覚えが……何だっけな。確か……」

「あっ、同じ格好のメギドって、アレはそういう事か!」

 

ウェパル

「はいはい。説明説明」

 

フォラス

「メギド時代に、一度だけ『セールス』が来た事あってな」

「その時に紹介されたのが『トレミーナンバーズ』っつー、一種の兵器だ」

 

バルバトス

「その時に聞いた説明だと……こっちで言う『鎧』のようなものかな」

「メギド体をフォトンの霧のような状態まで拡散させて、『鎧』の中に格納するんだったか……」

 

フォラス

「俺が聞いた説明も、大体そうだった」

 

モラクス

「アバドンに乗り込んで戦うみたいなもんか?」

「強くなれそうなのに、そんなモン名前も聞いたことねえなあ……」

 

フォラス

「強くなれないからだよ。なんたって、俺達にはメギド体があるからな」

「例えば、モラクスの強さを腕っぷしとか技術とか全部ひっくるめて100点中、70点だとするだろ?」

 

モラクス

「そこは100点じゃねーのかよー」

 

フォラス

「メギド体にも得手不得手があるだろ。そういうのも含めてだ。あくまで例えだしな」

「それで、仮に俺の強さが40点だとしてだ。俺とモラクスが揃って『トレミー』を装着すると──」

「俺もモラクスも強さが50点になる」

 

モラクス

「ちょっ、俺ヨワくなってんじゃん!?」

 

バルバトス

「メギド体を曖昧にして格納してるから、どうしても強さは『トレミー』の出力に依存してしまうんだよ」

「『トレミー』より強いモラクスは却って弱まるし、フォラスもたかだか10点プラスされるだけ」

「よっぽど弱く生まれたので無ければ、大仰な兵器を纏うメリットは薄いんだ」

 

ウェパル

「戦力を『トレミー』基準で統一するってわけね。メギドラルでウケないのも当然ね」

 

フォラス

「ああ。後になって評判を聞いてみたが、やっぱり芳しくなかった」

「『トレミー』自体の出力を担保するために、内部に色々機械が詰まってるんだが──」

「メギド体はその余ったスペースに詰め込む事になる。これが窮屈でやってられんのだとさ」

「ヴィータ風に言えば、服つめこんだクローゼットに潜って車輪付けて出かけるようなもんかね」

 

バルバトス

「俺が聞いたのは、『個』が否定されるって評判だったな」

「『あんなの着けるのは、弱いくせに意識高い、『個』を殺してでも軍団に尽くすマジメくんだけだろう』って」

「見た目に違いが無くなってしまうから、メギドの名じゃなく『トレミー』の型番で認知されてしまうしね」

 

ソロモン

「型番?」

 

バルバトス

「強力なメギドを模した躯体が幾つかあって、それが更に特色別に細分化されているらしい」

「さしずめ、エリダヌスがそれぞれ司る属性が異なってたみたいなものだろうね」

「例えば『パエトン』という種類の躯体の『1番』って型番があるとして、それを装着してると──」

「『例のパエトンの1番が攻めてきたぞ』って具合さ。乗り手より『トレミー』の手柄になってしまう」

 

ベレト

「そんなモノ、メギドラルで何の役に立つのだ」

 

フォラス

「アイデアは悪くなかったかも知れないが、技術不足と需要の不一致だな」

 

ソロモン

「つまり、ゲートの番人とかはバルバトスの言う『マジメくん』だったのか」

「確かにゲート周辺って、特に整備もされてない辺鄙な所だったからな──」

「左遷みたいな場所に配属されて、そこで延々と働ける人材ってなると、うん……」

 

モラクス

「で、何で2人はそんなの知ってたんだ?」

 

バルバトス

「物を売り込みに来るのは、そいつが『買いたがる』と目星を付けたから──」

「要するに、『弱そう』だと思われたから声をかけられたのさ」

「俺もそれなりに戦功はあったが、日頃は楽器を鳴らしてばかりだったからね」

「ただ、あの時は機嫌が良かったからね。商品も見ずに『叩き』帰すだけで済ませてやったよ」

 

フォラス

「俺もあの時は、危うくオーバーキルしちまう所だったなあ」

 

モラクス

「(『キル』自体はしたってことか……?)」

 

バルバトス

「しかし──俺が『知ってるかも』と思ったのは、どう言うことかな。フォラス?」

 

フォラス

「ん? 物知りだからだが、他に何かあったっけか?」

 

バルバトス

「ま、今はそういう事にしてあげよう」

 

ウェパル

「つまり、地底湖のアレがエリダヌスそっくりだったのは、パエトンのメギド体がエリダヌスのモデルになったからって言いたいわけね」

「何で地底湖に水晶で自分の像を作ろうとしたかはさておき、ポーにエリダヌスの『眼』が生えたりしたし、そこは有り得そうね」

 

フォラス

「俺が調査できた歴史資料じゃあ、パエトンの外見までは言及してなくてな」

「『トレミー』と『パエトン』にも、記述の上じゃあ特に接点も無かったはずだ」

「空回りの商品とパエトンとなんて、今の今まで繋がる謂れも無かったぜ……」

 

ソロモン

「じゃあ、メギドラルはパエトンの魂を取り出した後、メギド体を兵器として活用しようとしてたってわけか」

 

フォラス

「ああいや、ちょっと違う。メギド体を処分できなかったから、魂を取り出さざるを得なかったんだ」

 

ソロモン

「えっと、つまり……?」

 

バルバトス

「そう言えば、まだパエトンが倒されてからの話を聞いてなかったね」

 

フォラス

「じゃ、話を戻すか。結局、パエトンは多大な犠牲を払って中央に倒されたわけだが──」

「『殺す』には至らなかったんだ」

「気絶させたのか拘束したのか知らんが、一時的に動きを止めるのが精一杯だった」

 

バルバトス

「なるほど。放っておいたら再び動き出してしまうが、これ以上は手出しも出来ない──」

「それ程までに中央の兵力が、パエトン一体に疲弊させられたんだな」

「だから非効率的なメギド体の破壊を諦め、魂の抹殺に焦点を置いた」

 

ソロモン

「後のトレミーナンバーズに発展したのは、そうするしか無かった後の副産物って事か」

 

フォラス

「そういうこったろうな。で、魂の方は無事に取り出せたわけだが、ここでまた問題が起きた」

「当時の中央は、パエトンを倒した時点でもまだ、何でパエトンがここまで強いのかわかって無かったぽいんだが──」

「『魂のレベルで取り込む』って特性なのを、中央はここで初めて理解したんだ」

 

モラクス

「魂を取り出したら、特性がわかった……ブンセキとかってやつか?」

 

フォラス

「もっとわかりやすい。取り出した後の魂をどうやって破壊するかって考えてたら──」

「魂を摘出する機材にパエトンの魂が入り込んで、勝手に動き出した」

 

ベレト

「憑依……!?」

 

バルバトス

「違うな。あくまで最初の目撃者には『機材にパエトンの魂が入り込んだ』ように思えただけだ」

「実際には、パエトンは魂に触れる全てを、自分のメギド体として取り込んでしまうんだ」

 

ソロモン

「な……えっと、な、何だって……?」

 

バルバトス

「魂だけになっても、手当たり次第に物体を取り込む」

「素材の力ごと、自分の新しいメギド体に作り変えてしまう。それが『特性』の本質だったんだ」

 

ウェパル

「ありえないわ。メギド体の姿形は魂の質で決まるはずよ」

「機械を取り込んだなら、機械のフォトンから作った小さいパエトンが精々でしょ?」

 

フォラス

「そうはならなかったから、『魂のレベルで取り込む』って結論が出たんだろうよ」

 

バルバトス

「乱暴な話だけど、魂で体が決まってしまうなら、魂を書き換えれば良い」

「素材を魂に取り込む。それによってメギド体を素材に関連する姿へ上書きしたんだ」

「火を扱うメギドの能力を魂に取り込んで、自らの魂を『火を扱える魂』に作り変えるって具合に」

 

ウェパル

「まともに出来るの? そんな事」

「あれもこれも取り込んでたら、能力や体の材質が雪だるまみたいに膨れ上がるわよ」

 

バルバトス

「実際に膨れ上がって、だから山をも食らう巨体に育ったんだろうね」

「……確かに、違和感は残るけどね。そんなマネして『個』は保てるのか、とか」

「だが、そうでも無けりゃ、中央が焦る理由も無い」

 

フォラス

「まあそんなわけで、どうやら魂取り出しただけじゃ、一安心なんてしてる暇も無いと思い知ったわけだ」

「そこからは大わらわさ。何せ、『本当に』死んでくれないと、いつまた復活するとも知れないからな」

 

シャックス

「何で何で? 魂なんて弱っちいんだし、そのままズバーっとやっちゃえば良いのに」

 

バルバトス

「それこそ、『恐れ』だな。当時はまだ、ようやく魂だけを取り出す技術が出来上がった頃だろう」

「どうすれば、魂が『完全』に破壊され然るべき所へ還るのか、確証を出せる段階に無かったんだ」

「となると、処刑したつもりが万一にも『半殺し』で済んでしまったらマズい」

「生き延びたパエトンの魂が周囲の何もかもを取り込み、災厄の再来となりかねない」

 

ソロモン

「魂への理解もまだ充分じゃなかった状態で、メギド体の渋とさのイメージを引きずったんだな」

「そうなると、中央としてはとにかく、『二度とパエトンがメギドラルに関わらない』ようにしたいはず──」

「そうか。それで『追放』か」

 

フォラス

「ああ。文献には手順まで詳しくは書いてなかったが、結果はそういう事だ」

「とにかくメギドラルの被害にならなきゃ良い。だからヴァイガルドに押し付けた」

「今みたいな刑罰として格式も無かった頃だ。文字通り『ポイ捨て』感覚だったんじゃねえかな」

 

モラクス

「いい迷惑だぜ!」

 

ソロモン

「そして、パエトンはロンバルドに流れ着いて、どうしてか生き延び──」

「ちょっと待てよ? 手当たり次第にメギド体の一部にするって事は……」

 

バルバトス

「そうか! 大空洞が……!」

 

ミカエル

「コングラッチュレーション! まさしくそれこそ、私の導き出した結論だ」

 

ウェパル

「『それこそ』って……さすがに、バカでしょ……話が大きすぎてついていけないわ」

 

ベレト

「お、おいまさか……」

 

モラクス

「あ、今のは俺にもわかったかも……」

 

シャックス

「なになに、どしたのどしたの?」

 

バルバトス

「今日までパエトンの魂が生き延びた理由の1つが、わかったんだ」

「そして、俺の『トンデモ仮説』の裏付けもね」

「この大空洞全体が……パエトンのメギド体だったんだよ」

 

 

<GO TO NEXT>

 

 




※ここからあとがき

 もちろん、「トレミーナンバーズ」は原作に影も形もないオリジナル設定です。
 パエトンとエリダヌスを絡めながら、原作設定やメギドアカマル問題と擦り合わせるための、橋渡しのためだけの存在です。割り切っていただけると助かります。

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