メギド72オリスト「太古の災厄と新生する憤怒」 作:水郷アコホ
フォラス
「大空洞がパエトンの体そのもの……確かに考えてみると、辻褄は合っちまうんだよな……」
ウェパル
「……その辻褄ってのを、ちょっと頭が理解したがらないから、丁寧に説明してくれる?」
モラクス
「だから、パエトンの魂が大空洞に追放されて、大空洞全部を取り込んじまったんだろ?」
ウェパル
「そこはもう聞いてるわよ。その答えにたどり着く過程を教えてって言ってるの」
バルバトス
「魂の寿命の問題は、今は置いておくとして──」
「大空洞に濃密なフォトンがあったことで、奥底に送致されたパエトンの魂は一命をとりとめた」
「そして大空洞を構成する岩や水、あらゆる自然物を徐々に取り込み、仮の体を作り上げたんだ」
フォラス
「ポーがパエトンに変わる瞬間、手足が水晶みたいなモノに変わったろう」
「あれがパエトン本来の体の特徴だとすれば、大空洞の水晶とも繋がる」
「水晶は千年以上前、急に現れて大空洞で幅を利かせたって調査が出てる」
「つまり、パエトンの追放と水晶の出現時期は一致するんだ」
ソロモン
「大空洞の『取り込まれた』領域に水晶が生えて、エネルギー源として地中のフォトンを吸い上げていた……」
バルバトス
「ついでに異常気象が集落でも発生する原因も説明が付く」
「地下水脈だ。大空洞の底の底を流れる水脈を取り込んで集落にまで根を張ってるんだ」
「それも、水から流れ出たフォトンが地表まで到達できないほどの奥深くでね」
ソロモン
「そうだとすると、異常気象が水晶から発生するのも説明がつくな」
「水晶がパエトンの『体』で、そこから『力』を放ってたからって考えられる」
ウェパル
「じゃあ何でこんな立派な『体』を手に入れといて、ポーに取り憑いたりなんてしたのよ」
「それにこんな広範囲に影響する『力』、護界憲章が黙ってないんじゃないの?」
バルバトス
「護界憲章の問題は簡単だ。単純に『弱い』だからだよ」
「空洞は所詮、空洞だ。『動作』する構造をしていない」
「大空洞を取り込んだパエトンは、その場でじっとしてるしかない」
「後はフォトンを蓄え、影響下で散発的に雷や氷を降らせる程度」
「それですら脆弱なクラゲに対処しきれないでいる」
「かつて王都の護界憲章を狙ってきたような大型の幻獣と比べてみるといい」
「勝つのはよくて『デカさ』くらいだ。被害の規模も深刻さも話にならない」
ソロモン
「ポーに憑依してからも、多分『機能』は残ってたんだな」
「それか、魂がその場を離れても、どこかで『繋がっていた』」
「だから、水晶は与えられた『機能』のままにフォトンを蓄え、クラゲという『害』を駆逐してきた」
フォラス
「ヴィータの体が病や怪我に対処しようとする、免疫反応みてえなもんだな」
ウェパル
「……」
「そこまではわかってあげる。じゃあ、改めて『寿命』はどうするの」
「確か、凍結した上で追放したって仮説が出てたわよね」
「だったら、凍結された魂でそんな大仕事が出来るとは思えないわ」
バルバトス
「そこも、考えが付いた」
「ウェパル、君の知っている中で、氷漬けになった後に解凍されて、生き返る動物に心当たりはあるかい?」
ウェパル
「無い。……いえ、一つだけあるけどね」
「どっかに棲息してるカエルが氷漬けで冬眠するって話を聞いた事あるけど、それ一件きり」
バルバトス
「そう。何かが『出来る』のは、それが『出来る』ように生まれた生物だけだ」
「魂の凍結が言葉通りの冷凍保存とは限らないにしても──」
「長期間の限りない仮死状態から復活できるのは、元々、そういう機能が備わっているからと考えるのが妥当だろう」
ベレト
「つまり、メギドの魂は元々、『凍結』に適応していると?」
バルバトス
「更に言えば、そんな能力は、生態に組み込まれていなければ獲得する理屈がない」
「メギドの魂は元々、『凍結する』ように出来ているんだ」
シャックス
「じゃあじゃあ、私もここで寝たら100年後くらいにスッキリ起きれる?」
バルバトス
「出来るわけ無いだろ、今はヴィータの体なんだから……」
「たまに手に入る『エンブリオ』と呼んでいる物質があるだろう」
「あれはメギドの魂の成れの果てじゃないかって仮説が仲間内で立った
事がある」
「あの仮説を引き延ばせば、大地に還らずに生き続ける魂は、何らかの『変化』をきたすと考えられるんじゃないか」
ウェパル
「その『変化』が、凍結?」
バルバトス
「ああ。幾つもある『変化』の1つに過ぎないかもしれないけどね。とにかく、仮説はこうだ」
「パエトンの追放時点で、魂の凍結技術は恐らくまだ無かった。そのまま追放されたんだ」
「だがメギドの魂は、極限状態に置かれると自己保存のために自らを『凍結』する」
「強いストレスに置かれたヴィータが昏倒するようにね。つまり、パエトンの例なら──」
「ヴァイガルドに来たパエトンは、まず『特性』のままに大空洞を取り込んだ」
「だが、自然物の大空洞に、メギドの魂は適合しなかった。そこで『仕組み』を変えたんだ」
「自然の一部として、独立してフォトンを蓄積し外敵を排除する『機能』を持った水晶を構築」
「準備を終えた魂は自らを『凍結』して機を待ったんだ。ヴィータのような適切な『端末』が向こうから訪れるまで……」
ソロモン
「それなら、地底湖のエリダヌス像も納得がいくかもしれない」
「パエトンは途中まで、自力でかつてのメギド体を作ろうとしたんだ」
「でも、上手くいかなかった。それで途中で諦めて方針転換したんだ」
バルバトス
「原因は、恐らくフォトン不足だね」
「多分、ポーに憑依した経緯からしても、パエトンの魂は地底湖の底──」
「もしくは湖底とほぼ同じ深さの地点にあった。そして地底湖のフォトンに働きかけてメギド体を作ろうとしたんだ」
「だが途中で、地底湖のフォトンだけでは完成させるには足りない事がわかった」
「その結果が、ヴィータが飲んでも無害にまでフォトンが薄まった地底湖の水なんだ」
「だからこそ、大空洞内を動き回ってフォトンを回収できる『端末』が必要でもあった」
ウェパル
「……推測の上塗り放題なのは目を瞑るとして、経緯に説明が付くのはわかったわ」
フォラス
「千年も前の事情なんざ、想像で補完するしか無いからな。歴史のジレンマにして醍醐味ってやつだ」
ミカエル
「だが、まだ足りない」
モラクス
「まだ!? 俺もうチンプンカンプンなのに!」
ソロモン
「確かに……俺達は今、パエトンの昔話をしたに過ぎない」
「何でクラゲや『石』が現れたのかとか、今、パエトンに何が起きてるのかはわかってない」
「それに、ミカエルにも疑問が残ってる……」
「ミカエル、あの質問……どういう事だったんだ?」
シャックス
「『あの質問』……なんだっけ?」
ソロモン
「パエトンに1つだけ質問した、あれだよ」
「確か、『会話を知ってたか』……とかなんとか」
ミカエル
「ふむ……状況が状況だ。私から説明しても構わないが──」
「『そこ』から先の答えはキミ達が自ら示さなければならない」
「故に、『そこ』に至る過程もまた、叶うならキミ達自身に導き出してもらいたいと考えている」
ベレト
「このハルマは、この期に及んでまだ酔っ払った事を抜かしおって……!」
バルバトス
「考えろって事は、手がかりは既に出ている……?」
「……パエトンは、ミカエルに否定を返した。『知らなかった』と答えた……」
「フォトンが、足りない……取り込む『特性』……災厄……」
「……そういえば確か、『パエトン』に変わる前、ポーが何か……」
「……!!!!」
シャックス
「お、バルバルが何か思いついてる! がんばれがんばれー!」
バルバトス
「ちょっと黙ってくれ!」
シャックス
「ひえっ……!?」
バルバトス
「……済まない。カッとなった。今、まとめてる所だ」
「でも、これは……そんなの、ポーが……」
ソロモン
「えっと……バ、バルバトス……?」
バルバトス
「……フォラス」
フォラス
「お、おう?」
バルバトス
「パエトンは、自分の前に現れるどんなメギドも、『食った』んだな」
フォラス
「ああ。読んだ感じだと、『交渉の余地は全く無かった』印象だったが」
バルバトス
「そうか……そうか……」
「……ソロモン」
ソロモン
「あ、ああ」
バルバトス
「暴走したジズと戦った時、君もかなり悩んだ事と思う」
ソロモン
「そ、そうだけど、何で今その話を?」
バルバトス
「もしあの時、ジズの意識が残っていて、そしてジズから『殺してくれ』と頼まれたら、潔く殺せたかい?」
ソロモン
「出来るわけ無いだろ! むしろそんなこと言われたら逆効果だよ!」
バルバトス
「だろうな……」
「ミカエル。今の俺の質問、できれば君にとって『見当違い』であって欲しいんだが……」
ミカエル
「……ソーリー」
バルバトス
「……だろうね」
「事件の全容、大体わかったよ。ここまでの推理も、一部軌道修正する必要がありそうだ」
モラクス
「そ、そりゃよかったけど……」
「バルバトスのアニキ、全然うれしそうじゃねえな……」
バルバトス
「ミカエル。ガイードさんを連れて、少し見張りを頼めるかい?」
ミカエル
「良いとも」
「では、ついてきたまえ。彷徨い、そして導くヴィータよ」
ガイード
「え、あ、私ですか。はい」
「じゃ、じゃあ皆さんも、こんな場所ですんで、お気をつけて」
話の聞こえない距離まで離れるガイードとミカエル。
フォラス
「どうやら、良くない話っぽいな」
バルバトス
「ガイードさんが聞いたら、本当に走り出してしまうかもしれないからね」
「いや、それならまだ冷静な方かもしれないな」
ソロモン
「事件の全容って事は、これからパエトンに会う前に、知っておくべき事だよな」
「覚悟はしておく……」
バルバトス
「……これから俺達が事件を解決する上で、良い事であり悪い事が1つある」
「今のパエトンは、限りなくポーと『同じ存在』だ……」