メギド72オリスト「太古の災厄と新生する憤怒」   作:水郷アコホ

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41「少女の見た光景」

フォラス

「救助されたのが事件の引き金って……おい、それってつまり……」

「文句言うつもりじゃないが、住民たちがポーを助けたのは間違いだったって言いたいのか?」

 

バルバトス

「……結果としては、そうなる」

「翌日、目覚めた人格はポーだった。当たり前さ。パエトンは脳の使い方がわからない」

「そもそも体の主導権が自分以外にある事からして想定外だ」

「ポーが先んじて動かしているなら、パエトンには結局、『動かせないモノ』と同じだ」

「それならこれまで通り、死なないための努力を続けながら『放置』するしかない」

 

ソロモン

「って事は……パエトンは、地上に出てから今日まで、ずっと『強制起動』を続けてる……!」

 

バルバトス

「そうだ。魂がフル稼働し、その影響が、目覚めてから僅か数日で現れたってわけさ」

「それらは恐らく、何をどれだけ取り込んでも変わる事ない、パエトンの『個』の特徴だ」

「皮膚、体温、眼……恐らく爪の変化も。かつてのメギド体のイメージが現れたんだ」

「本能だけでメギドラル時代の姿を水晶で再現しようとしたのと同じようにね」

「もしくは、パエトンなりに『動かないモノ』を動かそうとした結果かな」

「動かないなら、動かした事のある『状態』にしたい。そんな本能でね」

 

モラクス

「パエトンが無理してたってのはわかったけど、それで何で急にああなっちまったんだ?」

「急に正体現して、ガタガタ震えるし、話が通じてるのか通じてないのかわかんねえし……」

 

ベレト

「そうか……『飢え』か……気の毒に」

 

ソロモン

「『飢え』? ベレト、今のでわかったのか?」

 

モラクス

「あんだけモリモリ食ってて、『飢え』って言われてもなあ……」

 

バルバトス

「ベレト。どっちが説明する?」

 

ベレト

「勝手にやってろ……儂の手を煩わすな」

 

バルバトス

「心得た……」

「より正確に表現するなら、致命的なフォトン欠乏だ」

「大空洞の加護もなく、得られるフォトンはヴィータの食物くらいなもの──」

「並のメギドでも死に至るような体を無理やり稼働させれば、それだけでフォトンも瞬く間に消費されるだろうさ」

「傷を治す暇も無く採算も採れず、とうとう『飢餓』に到達してしまったんだ」

 

フォラス

「末期の死病を患いながら、何年も精神力だけで耐えてたようなもんか……」

「確かに、そういう事なら『助けたのが一年後じゃなければ』なんて思いたくもなるな」

「頭の傷が完治してからなら、せめて強制起動や脳の『不便』による消耗は避けられたはずだし」

 

バルバトス

「(だが、ベレトの言うとおりなら、それも絶望的だけどね……)」

「(骨が変形して、その状態のまま固まってしまっているなら、もうフォトンでは治らない)」

「(頭蓋骨を形成しなおすような、前例があるかも怪しい大手術をするしかない)」

「(何十年経っても復活する見込みが無かったのなら、いっそそのまま……)」

「(いや。よそう……)」

 

ソロモン

「でも、空腹やエネルギー不足って、どんどん弱っていきそうなイメージだけど……」

「パエトンはむしろ、残り少ない力をどんどん使い込んでるように見える。やってる事が矛盾してないか?」

 

ベレト

「のうのうと生きてきた小僧が知ったように『飢え』を語るな!」

「毎度毎度、小腹が空いた程度でメソメソしているようなヤツには一生わからんだろうがな!」

 

ソロモン

「別にメソメソはしてないだろ!?」

 

バルバトス

「あくまで聞いた話だけどね。飢饉で滅びかけの、ある村に通りがかった旅人が居た」

「そこかしこで座り込み横たわる村人の誰もが、旅人をギラついた目で見ていた」

「そこへ偶然、一羽の鳥が迷い込んだ」

「すると、村人は老いも若きも鳥に群がり、捕まえると生きたまま引き裂いた」

「そのまま羽毛一本、血の一滴も残すまいと貪る村人達を見て、旅人は急いで村を去った」

「僅かな肉片をも奪い合う村人達は、旅人に向けたそれと全く同じ目をしていたから……」

 

一同

「……」

 

ウェパル

「旅人にも『勝てそう』なら、か……もう人間じゃないわね」

 

バルバトス

「生きる事への渇望は、時に並々ならぬ底力を生み出し、正常な判断力を失わせる」

「力を振るってるんじゃない。もうパエトンにも制御ができないんだ」

「小鳥一羽、虫一匹見つけただけで、捕まえて口に運ぶまで何も考えられなくなるのと同じにね」

 

ソロモン

「ごめん……甘く考えてた……」

 

シャックス

「じゃ、じゃあじゃあ……パエパエは何で、そんなになるまで我慢してたの?」

「フォトンならお水もヴィータも沢山あるのに……」

 

モラクス

「いや、だから、ポーが先に体動かしちまってたからだって話してたじゃねえかよ」

「パエトンの腹が減っても、ポーにはそんなのわかんねえからどうしようも無かったんだって」

 

シャックス

「でもでも、昨夜も今も、パエパエちゃんと動けてるよ?」

 

モラクス

「そういえば……」

「バ、バルバトスのアニキ?」

 

バルバトス

「織り込み済みだよ。パエトンは既に、主導権を取り返した事があるんだ」

「だから、昨夜や今……のっぴきならなくなった状況では体を動かせてる」

「ポーが間借りしていたとはいえ、現在の持ち主はパエトンだ。いざとなれば出来ないはずはない」

「そしてその上で……体の動かし方を会得した上で、パエトンは極限まで耐え続けていたんだ」

 

ベレト

「何故だ。パエトンは本能で動く事しかできんのであろう?」

「ひとたび目覚めれば、その辺のヴィータを食らう事など造作も無かろうに」

 

バルバトス

「……まさに『食らったから』だよ。二年前に」

 

フォラス

「二年前? ポーにとって二年前と言うと、両親が行方不明に──」

「……!」

 

ソロモン

「ポーの両親が『蒸発』した原因は、パエトンが2人を襲ったから……!?」

 

フォラス

「……やべえ。俺にも見えてきちまった……」

「……なあ、バルバトス……今更だが、この辺りの話、伏せとかねえか?」

「ここで明け透けにしちまうのは、ポーにとっても……」

 

バルバトス

「俺は黙らないよ。フォラス」

「パエトンが何者で、何をしてきたか。全て理解した上で処遇を決めなくちゃならない」

「少なくとも、仲間に迎えようと言うなら、生半可な同情なんてするべきじゃない」

 

フォラス

「……わかったよ。くそっ……」

 

ウェパル

「……私も、大体は察しがついてきたわ」

「つまり二年前、パエトンは一度『限界』を迎えたのね」

 

バルバトス

「ああ。地底湖やエリダヌス像も何らかの刺激になったのかもしれないが──」

「とにかく、家族水入らずで地底湖に赴いたその日、パエトンのタガが外れた」

「偶然か必然か、強制的に体の主導権を掌握し、ポーの両親を『食った』んだ」

 

モラクス

「食った……って……」

 

ソロモン

「パエトンは、食べなきゃフォトンを確保できないから……」

 

バルバトス

「そして……見てたかい? 先程の地底湖での、パエトンの変化」

「ポーの体が異形になったあの瞬間、あの時点からが『パエトン』だ」

「それ以前は恐らく、『ポー』がメギド体の欲求を自覚してしまった状態だ」

「ダダ漏れのパエトンの『渇望』が、ポーの魂にまで流れ込んでるんだろう」

「意識がパエトンに移る直前、彼女は……『ポーは』何て言っていた?」

 

ソロモン

「意識が変わる直前……」

 

 

 回想。

 

 

ポー

「ワたシ、思い出したんです……」

「おトウさン、カラダ、オニクが……」

「おカアさン、オナカ、ホントに……」

「ア……ア……アア、カ…………」

 

 

 回想終わり。

 

 

ベレト

「似たような言葉なら昨夜、ポーから両親の話を聞いた時にも言っていたぞ?」

「父親が体の肉が増えて困っていたとか、母親の腹に本当に赤子がいるのか疑問だったとか」

 

バルバトス

「そうか……だから、ベレトにはまだピンと来ないわけか」

 

ベレト

「ど、どういう事だ!」

 

ソロモン

「俺も、バルバトスの考えてる事の全部までは、まだわからないんだけど……」

 

バルバトス

「ソロモンは、まだ『ヴィータ寄り』だからだよ。それで良いんだ」

「ヒントだ。地底湖のセリフの続きは、『お父さんの体はお肉が沢山”詰まってた”』」

「『お母さんのお腹には、本当に赤ちゃんが”居た”』。そう言おうとしてたとしたら?」

 

ソロモン

「肉が『詰まってた』……本当に『居た』……?」

 

ベレト

「疑問に思っていた事を、確かめた……?」

 

ソロモン&ベレト

「!!!」

 

 

 みるみる青ざめるソロモンとベレト。

 

 

ソロモン

「まさか……ポーは『知ってた』? 両親が襲われた時の事……」

 

ベレト

「ふ……ふ、ふざ……ふざけるなバルバトスっ!!!」

「き、き、貴様……貴様、『ポーがやった』とでも言いたいのか!?」

 

バルバトス

「そんな問い詰め方すれば覆るなんて、本気で思ってるわけじゃないだろう。ベレト?」

「本当に聞きたいのはこうだろう?」

「『自分の体が両親を食らう一部始終を、ポーが見ていたと言いたいのか』って」

 

ベレト

「貴様ぁっ!!!」

 

 

 掴みかかろうとするベレトに、ウェパルが足を引っ掛けて転ばす。

 

 

ベレト

「ぬぐぅっ!?」

 

ウェパル

「今、バルバトスに当たり散らしたって何も変わりやしないわよ」

「さっきもバルバトスが言ったでしょ。これは今後のパエトンのための話なの」

「それでも仲間を叩き潰して戦力減らしたきゃ勝手にすれば。その間、私が続きを喋るから」

 

ベレト

「くっ……お、おのれ……!」

 

 

 体を起こし、その場に座り込んで観念したように項垂れるベレト。

 

 

シャックス

「ど、どどどゆことどゆこと!?」

 

モラクス

「パエトンが両親を襲うとこなんて、ポーが見れるわけねえじゃん!」

「パエトンが体を動かしてた時だろ? なら、ポーはその間は──!」

 

バルバトス

「二重人格はあくまで便宜的な呼び名だよ」

「ジルベールとシャミハザだって、何度も五感からの情報を共有してるじゃないか?」

 

モラクス

「あ……」

 

バルバトス

「体の主導権をパエトンが握り、そして最も手近なフォトン……両親を食った」

「その時、本物の二重人格のようにポーの意識が眠る事は、無かったんだよ」

「ポーの意識は『五感の全て』で、両親が腹に収まる過程と……『感覚』を共有していたんだ」

 

ソロモン

「でも、ポーにはそんな様子は全く……」

 

バルバトス

「ヴィータは本当に耐え難い事に直面した時、その記憶を封印して自らを守る事がある」

「例えば幻獣や暴漢に追われ、何をどうしたのか、気付いたらボロボロで逃げ延びていた」

「後になっても、その時の事は思い出せない。そんな話は事欠かないよ」

 

フォラス

「それに当時、見つかった舟には大量の血痕があったらしい」

「ポーに余計な心配かけないよう、大人達も口裏合わせたはずだ」

「『行方不明になっただけだ』って何度も刷り込まれて、ポー自身、そうだと思い込んでたのかもしれねえ」

 

ソロモン

「そんな……」

 

バルバトス

「そして恐らくその時、パエトンにも大きなダメージがあった」

「両親をフォトンに変えて、僅かながら食いつないだその時に気付いたんだろう」

「自分がヴィータ並の知性を獲得してるって事を」

 

ソロモン

「知性をって……両親を、その……食べたから?」

 

バルバトス

「違う。『健康な』知性なら、『特性』の取捨選択で切り捨てられる」

「当時は損傷が酷く停止していた脳を、知性と判定できずそのまま取り込んだ結果だろうね」

「ずっと、ただの『モノ』として扱い、見向きもしなかった『ポーの知性』──」

「それが、主導権を握った瞬間、体と共にパエトンの魂とも繋がったんだ」

 

モラクス

「でも、パエトンが気付く前から、脳味噌はポーが使ってたんだよな?」

「別に今更気付いたからって、気にするような事もないんじゃね?」

「フォトンを余計に食うとか言うわけじゃねえだろうし」

 

バルバトス

「フォトンは問題ない。問題は、脳を通して『心』を手に入れてしまった事さ」

「さっきも言っただろう。ヴィータの脳と魂は密接に関わり合っている」

「ポーの脳を取り込んでしまったパエトンは、ポーの記憶、感情、価値観──」

「たった今までのポーの『心』全てを『自分の人格』として共有してしまったんだ」

 

ソロモン

「ポーの価値観を共有……そうか。わかってきた……」

 

バルバトス

「今しがた自分がやった事が、ヴィータ的にどういう事で、ポーがどう思ったか」

「そして自分は、そんな事をしてしまい、そんな思いを誰かにさせた──」

「ポーと同じ『心』を持ったパエトンが、その事実をどう受け止める事になるか……」

 

ソロモン

「最初に言ってた、ポーとパエトンが限りなく同じ存在って、そういう事か……」

「バルバトスが言った、良い事であり、悪い事は……良い事は、俺達と同じ価値観で話に応じてくれるかもしれない」

「でも、悪い事は……」

「こんな事、『ポー』には、耐えられない……耐えられるはずがない」

「我を忘れてやったことだからって……俺だって、そんな事しでかしたら……!」

 

ウェパル

「『二度と表に出たくない。出ちゃいけない。どんなに苦しくても』」

「ヴィータの感覚でメギドの生態を裁いちゃったら、そうもなるでしょうね」

 

フォラス

「ポーがヴィータの心を持ったまま、メギドの体になっちまったようなもんだな」

「まあ、実際は逆のパターンだけどよ」

「『ポー』が両親を食い殺したようなもの……確かに、ガイードさんには聞かせられねえや」

 

シャックス

「じゃあじゃあ、パエパエ今までずっと……?」

 

バルバトス

「二年前のような『限界』を超えても、ひたすら耐え忍んでいたんだろうね」

「フォトンが無ければジリ貧なのはわかっていても、それでも『怖かった』んだ」

「悪魔である自分と、自分が次に何をやらかすか。そして、悪魔が居ると『知られる』事を」

「純朴に育った少女の倫理観で、割り切るなんてどだい無理な話さ」

 

ウェパル

「それで昨夜には、フォトンが足りなくてポーの意識……あるいは脳が『落ち』かけた」

「そして今朝、ポーがちょっとヴィータに触っただけで理性が飛びかけて、力が暴発したのね」

 

ソロモン

「だからか……ずっとおかしいと思ってたんだ」

「メギドの力でヴィータを直接攻撃すれば、護界憲章に抵触してしまう」

「でも、ヤブさんの死因はどう見ても『事故』じゃなかった」

「『見做されなかった』んだ。弱りすぎて……」

「ヴィータを殺せる力だとしても、護界憲章には幻獣同然にしか扱われなかった」

「パエトンの魂が、それほどまでに消えかけてるから……」

 

バルバトス

「あるいは、パエトンとポーの存在自体が護界憲章の想定外だったか、だね」

「例えば使われた力は、その時に主導権を持つ魂の力と判定されたのかもしれない」

「もし、ポーが己の力を自覚していれば、今朝の一件もポーから力を制御して──」

 

ウェパル

「考えてみるだけ無駄よ。どっちにしたって、人死にが出ちゃってる。今更だわ」

「でも、私にはそこから先がまだ良くわからないの」

「ポーがそのまま大空洞に向かった理由。それと水晶を砕いた理由もね」

 

バルバトス

「恐らくヤブさんを殺めたショックで、二年前の記憶が戻ってしまったんだ」

「忌まわしい記憶に囚われた魂に、パエトンの『渇望』が押し寄せた」

「体はあくまでメギド体だ。空腹などの生理現象もメギド基準になる」

「本能の求めに流されて、半ば錯乱したまま、大量のフォトンが眠る大空洞へ走ったんだろう」

 

ウェパル

「そこがわからないのよ」

「ヴィータに手を付けなかったのは無理ないとしても、水ならそこら中にあるのよ」

「四の五の言ってられないんだから、まずは酒場中の水でも飲み干すものじゃない?」

 

バルバトス

「理由は二つ。その一、迷惑がかかるから」

 

ウェパル

「迷惑って……」

 

バルバトス

「今、パエトンの価値観はポーと同じ……いや、塞ぎ込んでる分、ポーより自罰的だ」

「つまりまず、ヤブさんを殺めた時点での『主導権』がどちらにあっても、その後の行動は変わらない」

「そしてどちらも、どんなに困窮しても、人様の家の物や、仕事用の備蓄に断り無く手を出せる子じゃなかったんだ」

「そりゃあもしかしたら、少しは酒場で食料を漁ってはいたかもしれないよ」

「それでも精々、口にしたのは自分用のおやつとか、ロクに出なかった残飯とかだろうね」

 

ベレト

「(……客へのサービスなら、温かい飲み物一杯にありつける、か……)」

 

バルバトス

「そして理由その二。『死にそうでも、毒抜き前の水は飲んじゃいけない』」

 

フォラス

「ガイードさんが言ってた、代々子供に聞かせるおとぎ話か」

 

バルバトス

「子供の頃に刷り込まれた『善悪』ってものは、理屈じゃなくなるんだ」

「『こうしなさい』、『やっちゃいけません』。その教えに半ば縛られて生きていく事になる」

「例えそれが時代に合わなくても、悪党に吹き込まれた戯言でもね」

 

ソロモン

「言われてみると……俺が指環をどんな時でも外さないのも、そう教えられたからだし、それを疑問に思った事もあまり無いな」

 

フォラス

「アモンとか、たまに会った事も無い親の影が後ろにチラつくからな……」

「まず『環境』があって、その上でなきゃ従うも突っぱねるも出来ないんだって、人の親として胸が痛みやがる」

 

バルバトス

「以上の理由から、ポーは大空洞へ向かったんだ」

「水でもヴィータでも無いフォトン源をメギド体は知っていた」

「それが水晶。自分の体の一部なんだから、食べても迷惑にならないし、毒なはずもない」

 

ソロモン

「確かに、入り口からここまで、かなりの水晶が砕かれてたけど……」

 

ウェパル

「飢えたタコが自分の足を食べるみたいな話ね……」

「でも大空洞が自分の体なら、岩のフォトンやコケの存在も気付いてたはずじゃない?」

「パエトンって何でも食べるんなら、そういうのもいけるんじゃないの?」

 

バルバトス

「毒抜き前の水と一緒さ。ポーの価値観が『食べる物』と見做してなかったんだ」

「何日も食べてないからって、森を彷徨ってる時に草木に手当り次第齧りついたりしないのと一緒さ」

「食べ物になる可能性は頭でわかっていても、それらはあくまで『景色』だ」

「本当に食らいつくのは、完全に正気を失うか、背に腹変えられなくなってからになる」

 

ウェパル

「水晶だって普通、食べる物とは考えないと思うけど?」

 

バルバトス

「『注目』さえできれば良いんだよ。ポーの世界に飛び込ませるとも言い換えられる」

「食べ物としての可能性を意識する段にさえ入れば、後はもうポーにも抑えはきかない」

 

ウェパル

「……なんとなくわかった。景色の一部として流さない。そこに『何かある』と意識すれば──」

「そして一瞬でも『食べれそうな気がする』と考えたら、もう止まらなくなる……」

 

ベレト

「食えるやもと思えれば、石コロなど幾らでも食うとも……」

「よしんば毒だろうと、飢えて確実に死ぬより、毒に耐え抜く方が遥かに希望もある」

「何より、たった今の苦しみが紛れるなら、一秒先とて知った事ではないからな」

 

一同

「……」

 

バルバトス

「前回、大空洞に入った時、ポーが随分水晶を気に入ってただろう?」

「水晶の光が何故だかすごく好きだと言って、活用法を真剣に考えてた」

「多分、前々からパエトンの『渇望』の影響を少し受けてたんだ」

「だから、栄養源としての『魅力』が、水晶をポーの目に留まらせたんだと思う」

 

ソロモン

「ヴィータの無意識とポーの真面目さが、かえって自分の首を締めてしまったのか……」

「でも、食べたのが水晶だけだとしても、あれだけの量でも足りないのか?」

「エリダヌス像まで殆ど食べ尽くしたのに……」

 

バルバトス

「フォトンが摂取できなきゃ同じさ。水晶は傷つくとフォトンバーストする」

「ポーを取り込む以前から、本能任せで吸い上げてたのが仇になったんだ」

「溜め込みすぎた水晶は破裂寸前で、砕けた破片にフォトンは残らない」

「齧りついた所で、ただの砂を食べてるのと変わらない。満たされるわけがないさ」

「さっきの地底湖でもポーが呟いていたよ。『フォトンが足りない』って」

 

ソロモン

「足りないはずないじゃないか。そりゃあ、道中はクラゲに取られてフォトンは減ってたけど──」

「地底湖では、迂闊にヴィータが近寄れないほどフォトンが充満してた。あれだけあって──」

 

バルバトス

「無いも同じさ。『見えてない』んだから」

 

モラクス

「見えてねぇって、純正メギドなのに?」

 

フォラス

「『新世代』の奴らなら、見えにくいってやつも居るみたいだが、パエトンは古代のメギドだろ?」

 

バルバトス

「パエトンの『特性』だよ。必要が無ければ、知性と一緒に捨てられる」

「食べてフォトンを蓄積するなら、『フォトンを見る能力』をフォトンを費やしてまで維持する必要は無い」

「ヴィータが食べる物にどれだけ栄養があるか、見ただけじゃわからないのと一緒さ」

「フォトンが欲しければ、力任せに手当り次第、食べれば良いだけだったんだ」

「周囲からフォトンを吸収する機能も捨てたなら、直接喉を通らないフォトンは無意味だ」

「パエトンの常識では、フォトンは食べて得るもの。食べた瞬間に『消えた』らどうしようもないんだ」

「飢えて彷徨い、『ようやく食べ物にありつけた』と手に取れば、たちまち砂に変わるようなものかな」

 

ソロモン

「そんなの、絶望するために生かされてるみたいじゃないか……!」

 

フォラス

「パエトンの『やった事』が重いにしたって、流石に『罰』が重すぎだろ……」

「そういう話じゃねえとは分かってても、言いたくもなっちまう……」

 

ウェパル

「まあ、どっちみち『見えない』って答えは認めざるを得ないわね」

「フォトンバーストするほどのフォトンに見向きもしなかったのは事実なんだから」

 

ソロモン

「じゃあ、頼みの綱の水晶も、無駄に数を減らしてクラゲの利益になっただけって事か……」

「震えてたのは、体の制御もままならないから。そしていよいよ正体を隠せなくなって……」

「でも……それで今、パエトンは何をしようとしてるんだ?」

 

バルバトス

「パエトンが大空洞の状況をある程度把握できているとすると──」

「後、ポーの『無意識』に引っかからない、食いつなげそうなモノは一つだ。例の──」

 

ベレト

「……むっ!?」

「お……おい待て! そこを動くな、『ポー』!!」

 

一同

「!!?」

 

 

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