メギド72オリスト「太古の災厄と新生する憤怒」   作:水郷アコホ

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45「受容か諦観か」

 大空洞最深部。何者にも気付くことなく、己の吐瀉物をすすり続けるパエトン。

 ソロモンがフォトンを操作し、空間一帯のフォトンをパエトンへと集中させている。

 

 

ソロモン

「フォトンの飢餓状態ってのが、どれほど深刻かはわからないけど……」

「まずはこのくらいから、どうだ!」

 

 

 集めたフォトンがパエトンの体へ取り込まれていく。

 

 

パエトン

「!!」

 

 

 パエトンの背筋が跳ね、地底湖で発見した時より更に激しい痙攣を始めた。

 

 

ソロモン

「反応があった! 続けるぞ!」

 

モラクス

「な、何か動きはヤベエけど……でも、ちゃんとしたメシが食えれば悪い事なんてあるはずねえよな!?」

 

フォラス

「生き延びてくれよ……ポーのためにも……!」

 

ウェパル

「……ソロモン」

 

ソロモン

「何だ、ウェパル? 今、集中してるから手短に頼む」

 

ウェパル

「今、操作してるフォトン。少し私達にも回して」

 

ソロモン

「あ、そうか。万一の備えもしておかないとな」

「わかった。みんなも油断せず頼む!」

 

 

 仲間にフォトンを配分しつつも、パエトンへの供給を続けるソロモン。

 パエトンはそのまま己の振動で崩れ落ちそうなほどに体中を個別に痙攣させていたが、ある時点でピタリと止まった。

 

 

パエトン

「……」

 

ソロモン

「! 意識が戻ったか……!?」

 

 

 パエトンの変化に、念の為、フォトンの供給を止めるソロモン。

 パエトンの首がゆっくりと天を仰いでいく。まだ万全では無いようで、少しばかり首を上に向けるだけの動作でも、ガクガクと頭を揺らしながら行っている。

 たまたま震えた角度の問題か、それとも存在に気付いたのか、首はややソロモンの方を向いている。

 

 

バルバトス

「ミカエル。ガイードさんとベレトに付いていてくれ」

 

ミカエル

「……オーケー」

 

ウェパル

「……」

 

 

 パエトンに集中するソロモン達を他所に、バルバトス、ミカエル、ウェパルの陣形が変わった。

 ミカエルはバルバトスの指示通り後方へ。

 バルバトスはソロモンの背後に付き、ラッパ銃の引き金に指をかけた。

 ウェパルはソロモンから見て、ほぼ真横。間隔は数歩分。かつ、ソロモンより一歩前へ出た位置。

 

 

ソロモン

「パエトン! 聞こえるか!?」

「今、お前を『飢え』から解放して──」

 

 

 次の瞬間には、パエトンの顔が、ソロモンの目の前に有った。

 顎が己の顔より大きく開かれ、ソロモンが事態に気付くより早く確実に、顎と一体化した牙がソロモンの頭蓋骨を捉える軌道だった。

 ソロモンの視界の7割を顎が占め、残りの3割は「眼」だった。

 閉じられたポーの両の瞼。その上で鈍く光る漆黒の石の中で、橙色の点と、ソロモンの視線がぶつかり合った。

 

 

ソロモン

「え──」

 

 

 ソロモンの神経が、自分が何者かに後方へ引っ張られるのを感知するのと同時、橙色の点が、横にギョロリと逸れ、別の何かを捉えた。

 

 

ウェパル&バルバトス

「危ないっ!!」

 

ソロモン

「おわっ!?」

 

 

 バルバトスが引き金から指を離し、空いた腕で背後からソロモンの襟を掴み、同時に足払いをかけ、諸共に転げるようにしてソロモンを引き倒した。

 ほぼ同時に、ウェパルが銛の後端から水流を噴射し、反作用を乗せてパエトンへ突き込んだ。上顎の辺りに命中し、パエトンの軌道が逸れた。

 一瞬遅れて、「ガチンッ」と空間中にパエトンの噛み合わせの音が響く。

 パエトンがソロモンの背後に抜け、下顎から着地してガリガリと地面を削っていく。

 

 

バルバトス

「痛つつ……怪我はないか、ソロモン?」

 

ソロモン

「あ、ああ。けど……」

「今、何が起こって……?」

 

モラクス

「パエトンが、アニキに飛びかかった……!?」

 

フォラス

「よく見えたなモラクス……」

「ていうか、今の『ガチン』って音……まさか、パエトンがソロモンを……?」

 

ウェパル

「まさかも何も無いでしょ! 相手は正気を見失ったメギドなのよ?」

「戦闘準備しとけって言われたのに、話が通じる前提でダラけてるなんてどうかしてるわ!」

 

モラクス

「ダラけてたわけじゃねえ! けど……」

 

ベレト

「何だ今の騒ぎは!? ポーはどうなった!」

 

ガイード

「ああ、ちょっと! まだ処置が……!」

 

 

 ソロモンの悲鳴を聞きつけ、ベレトが駆けて来ている。

 足首から下に包帯を巻いた以外、ろくに処置らしい処置が済んでいない。

 むしろ走る傍ら、中途半端になされた手当を自ら引っぺがしている。

 起き上がったパエトンの額で、橙の瞳が再びギョロギョロと忙しなく黒い石を泳ぎ回り、一点で固定される。

 瞳の直線上には、パエトンへ駆け寄るベレトの姿。

 

 

バルバトス

「ベレトォッ! 武器を構えろぉ!」

 

ベレト

「なに──?」

 

 

 バルバトスの声の方へ思わず振り向くベレト。その頭上では、跳躍したパエトンが再び大顎を開いて迫っていた。

 

 

ベレト

「む──」

「ぬおぉおっ!?」

 

 

 間一髪、不死者の瞬発力で防御が間に合ったベレト。

 両者の間に挟み込ませた旗竿の先端部にパエトンの顎が引っかかる。

 勢いそのままに押し倒されるベレト。

 

 

パエトン

「ギカ……カッ! カハァァァ……!」

 

ベレト

「ぐぎ、ぎぃ……!?」

 

 

 パエトンはベレトにのしかかり、旗竿ごとベレトの頭を噛み砕かんばかりに顔同士の距離を詰めていく。

 不利な体勢から、どうにか拮抗するベレト。

 

 

ベレト

「ポ……ポー……きさ、まっ……!」

「何をしている!? 儂が誰だかわからんのか!」

 

ウェパル

「だから『わからない』んだってば……」

 

バルバトス

「モラクス! この際シャックスもだ!」

「さっき受け取ったフォトンで、ベレトと協力してパエトンを押さえつけろ!」

「今なら数で動きを封じる事くらいはできるはずだ! フォラスは話がある。こっちに来てくれ!」

 

シャックス

「で、でもでもぉ……」

 

モラクス

「アニキに牙剥いたんじゃ、どの道、今のパエトンと話をすんのは無理だろ!」

「とにかく行くぜ!」

 

フォラス

「バルバトスもウェパルも、わかってたみてえに対応しやがったな」

「嫌な話を聞く事になっちまいそうだ……」

 

 

 駆け出すモラクス。何が起きたのか、まるでついていけていないシャックスも渋々あとに続く。

 フォラスの到着を待つ間にも、追って指示を出すバルバトス。

 

 

バルバトス

「捕縛に成功したら、とにかくそのまま指示があるまで、パエトンに呼びかけ続けてくれ!」

「クソ……思ってた通りになった!」

 

ソロモン

「思ってたって……こうなることが予想できてたのか?」

 

ウェパル

「逆。むしろあんた達の方が、楽観しすぎて見落としてたのよ」

 

 

 一方、やや距離を置いた地点では、ミカエルがガイードの前に立ちふさがるようにして護衛し、事の推移を見守っていた。

 

 

ガイード

「こ、今度は何が起きてるんです!? ポーが目を覚ましたんじゃ……?」

 

ミカエル

「残念ながら、そうではない。パエトンが暴れだしただけだ」

「やはり……『今のまま』では、どうあっても『救う事はできない』か……」

 

ガイード

「救えないって……それって……」

 

ミカエル

「安心できる事が一つある。彼らは、それでも『救う』事を選ぶだろう」

「だが、同時に覚悟しなければならない事も一つ、あるのだよ」

「今、彼らが講じている手立ては、確実にパエトンを『救わない』……」

 

 

 フォラスが到着し、改めて説明するバルバトスとウェパル。

 

 

フォラス

「で……この期に及んで、何が起きてるってんだよ?」

 

バルバトス

「事態を説明する前に、先に言っておく」

「俺とウェパルは、ソロモンの作戦には『反対』だ」

「恐らくミカエルも、同じとまではいかないが、かなり消極的なはずだよ」

 

ソロモン

「え!?」

 

フォラス

「な、何だよそれ。パエトンを……ポーを助けねえ方が良いってのか!?」

 

バルバトス

「助けたいさ! 俺達だって……!」

「だが……この方法『では』助ける事はできない。そして、この方法『しか』助ける事はできないんだ」

「それが今、実証された……」

 

ソロモン

「フォトンを供給するのが、逆効果だって言いたいのか……?」

 

フォラス

「だが、パエトンの抱えた問題ってのは、とどのつまりフォトンの欠乏に尽きるんだろ?」

「フォトンを足してやる以外に方法なんて……」

 

バルバトス

「そうさ。解決するにはフォトン供給、この方法しかない。だが──」

 

ウェパル

「バルバトス、来てる!」

 

 

 振り向くウェパルとバルバトス。同時に各々の武器を構える。

 視線の先にはパエトン。例によって大口を突き出して飛びかかって来ている。

 一瞬のさ中に確認したパエトンの姿は、どことなく雰囲気が異なる。

 ウェパルの銛がパエトンを受け止めた。

 

 

ウェパル

「ハァッ!」

 

 

 ウェパルの足元から水が天高く吹き上がる。

 再びその勢いで全身を跳躍させ、パエトンを弾き返した。

 上昇の勢いで宙返りし、その場に着地するウェパル。

 やや遠方に落下したパエトンにベレト、モラクス、シャックスが追いつく。

 うつ伏せのパエトンの背にモラクスの斧を乗せ重石にし、ベレトとモラクスが片腕ずつ背中側に捻じり上げた。

 デフォルメされた鳥のような姿勢になったパエトンの頭をシャックスが地面に押さえつける。

 銃の照準を合わせ続けていたバルバトスが、重たい面持ちで、ゆっくりと銃を下げた。

 

 

バルバトス

「ッ……!」

 

シャックス

「パエパエごめんね~……」

 

ウェパル

「こっちは今、取り込み中なの。ちゃんとやって」

 

ベレト

「ならとっとと話をつけろ! こっちだってやりたくてやっとるのではない!」

 

モラクス

「気を付けちゃぁいたんだけど、油断しちまってた!」

「手からモノ飛ばすし、急に足が変わったりして、すっかり出し抜かれちまった!」

 

ソロモン

「モノを飛ばして……足が……?」

 

フォラス

「お、おい、パエトンの足、マジで何か……四本?」

 

 

 フォラスが指差す。押さえつけられて暴れるパエトンの足は、ヴィータの足を真ん中から2つに裂いたように分かれ、それぞれが個別に蠢き、細い四本の足となっている。

 

 

ソロモン

「体が……変化してる!?」

 

 

 ソロモン達が驚いている間にも、パエトンを取り押さえている3人から声が上がる。

 五本五色の爪と、琥珀色の掌で構成されたパエトンの手から、一方は炎、もう一方から氷の弾が放たれた。

 天を向いた手から発射されたエネルギーは、空間天井近くの壁に直撃し、大小の岩の欠片を落下させた。

 

 

フォラス

「よく見りゃ、水晶の手も一回りデカくなってる。メギドの力が戻って来てるのか……?」

 

ソロモン

「でも、何で体の形まで変わってるんだ? これじゃ、ヴィータの体からどんどん遠ざかって……」

「まさか……!」

 

バルバトス

「そのまさかだよ……」

「地底湖で両親を襲った時、パエトンは二人とも『完食』するまで正気に返れなかった」

「それは恐らく、咄嗟に他の手頃な獲物を見出だせなかったから、たまたま冷静になれただけだ」

「『フォトンハイになるかも』なんて、とんだ思い上がりだったんだ。相手はメギドの軍団も平らげる大物だ。桁が違う……!」

「俺達の常識程度のフォトンを供給したくらいじゃ、パエトンは元になんて戻れないんだ」

「手あたり次第に獲物を食らう『災厄』としての力を少しばかり取り戻すだけだ。そして──」

「追放された当初から、パエトンの本能は常に『メギド体を取り戻す』事だけを求めてきた」

 

ソロモン

「じゃあ、フォトンを取り戻すほどパエトンは……!」

 

ベレト

「お、おいシャックス! 止めさせろ!」

 

シャックス

「そ、そんな事言われたってムリムリ~!」

 

ソロモン

「な、何だ!?」

 

 

 三人とパエトンの体勢は変わっていない。しかし、パエトンが地面をガリガリと貪り食っている。

 

 

バルバトス

「ソロモン! パエトンの周囲のフォトン、食われる前に取り出して三人に回せ!」

 

フォラス

「お、おい、フォトンを補給してやらねえと、パエトンが……!」

 

バルバトス

「『力』を使える状況なら、すぐに『末期』には至らないはずだ」

 

フォラス

「そりゃ、そうかもしれねえけどよ……!」

 

ウェパル

「ここで余計に回復されると、拘束を解かれて話どころじゃなくなるわ」

「あの三人に回せば、力も込めやすくなるでしょうし、一石二鳥でしょ」

 

ソロモン

「くっ……わかった」

 

 

 バルバトスの指示通りフォトンを操作し、パエトンが地面を食って得られるフォトンを抑制するソロモン。

 

 

フォラス

「だが……おい、バルバトス。確か言ってたよな?」

「ポーの知識を取り込んだせいで、パエトンは大空洞そのものを食い物とは認識できなくなってるって」

「それでも齧りついたって事は、まだヤバい状態には変わりないんじゃねえのか?」

 

バルバトス

「そうだろうね。あくまで期限が延びただけだ。だけど、冷静に考えてくれ。フォラス」

「このままフォトンを思う存分与えてやれば、同じくらいヤバい状況に追い込む事になる」

 

フォラス

「全然わかんねえよ……」

「飢えてる子供に食い物与えてやる事の何がダメだってんだ!?」

 

ソロモン

「……『子供』じゃないんだ。フォラス」

「いや……子供でもあるかも知れないけど、同時にパエトンはメギドなんだ」

 

フォラス

「んな事はもうわかってんだよ! 純正メギドなんだろ!? 古代の……」

「あっ……純正……メギド……」

 

ソロモン

「パエトンは追放されたんじゃない。改造を受けたわけでもない」

「大昔の、それも世の中の事さえ理解できない状態の、純粋なメギドなんだ」

「だから、護界憲章の事を知っているはずもない」

「取り込んだポーの知識にだって、護界憲章の事なんてあるわけない……」

 

バルバトス

「フォラス。パエトンがフォトンを得た結果は、見ての通りだ」

「飢餓による狂乱状態は回復せず、フォトンを得るごとに異形と化していく」

「元からポーの体だって、急拵えのメギド体なんだ。本能に任せて、力を取り戻して、行き着く先は……」

 

フォラス

「このままフォトンを取り込み続けたら……パエトンが、メギド体になっちまう……!」

 

バルバトス

「パエトンは今、本能だけで暴れ回っている。だから、『それしかできない』」

「ポーを案じたって、祈ってみたって、パエトンは、かつてのメギド体となって護界憲章に消されてしまうだけなんだ……」

 

フォラス

「……なんだよそれ」

「なあ、ウェパル。お前ベレトに言ってたよな?」

「ポーが聞いてるかもしれないんだから、取り乱すなって……」

「あれは……あれは何だったんだよ!?」

 

ウェパル

「私、一言も言ってないわよ。『パエトンを助けよう』なんて」

「『最期』くらい、あの子の『おねえさん』らしくさせた方が、あの子もまだマシでしょ?」

 

フォラス

「『最期』……?」

 

ソロモン

「ウェパル……!?」

「『反対』なのはさっき聞いたけど、その理由ってまさか……」

 

ウェパル

「『自分が死ぬ』って時に、誰も彼も自分のせいでバカみたいになってるの、見てらんないでしょ」

「少なくとも、『私』はそう思う。あの子、自分より他人を気にするタチだったしね」

「堪えきれない『傷』を抱えてる所に、善意で追い打ちなんて最悪じゃないの」

「せめて少しでも嫌な気分を取り払って、穏やかに逝かせてあげたいって──」

 

ソロモン

「や、やめてくれウェパル! もういい、頼むから……!!」

「で、でも、ダメだ、そんなの……」

「このまま限界を迎えるまで『放っておく』なんて、絶対にダメだ!」

「今までだって、どんな困難も諦めなかったからやって来れたんだ! 何か他に方法があるはずなんだ!」

 

バルバトス

「俺も同じ気持ちではあるさ、ソロモン。痛いくらいに……でも──」

「『諦める』と、『受け入れる』の違いは……何だろうね?」

 

ソロモン

「何って、そんなの……!」

「そんなの…………」

 

バルバトス

「俺は、こう思う」

「それが、『自然の成り行き』なら、俺はその結果を『受け入れる』。少なくとも、そうあろうと思える」

「例え、認めたくない事実でも、失いたくない命でもね……」

 

ソロモン

「なら……なら、『これ』は違うはずだ!」

「元々、メギドラルがパエトンを処刑しようとして、それで──」

 

バルバトス

「『それ』は千年の時を生きた理由ではないよ」

 

ソロモン

「でも、『それ』はただの『結果』でしかないだろ!」

 

バルバトス

「そうさ。自然に行き着いた『結果』だ!」

「『寿命』なんだよ。『これ』は……!」

 

ソロモン

「『寿命』……?」

 

バルバトス

「パエトンも、ポーも、ただ自分に出来る範囲で、自分の生きたいように精一杯生きただけだ」

「生きられるはずのない時間をただ眠ったまま過ごしても、年頃にも満たない年月で命を終えても──」

「『彼女』は己の運命の中で、短い一生でも、最期まで『自分』を諦めなかった!」

「生きて、生き抜いて、その果てに迎える『それ』こそが『寿命』なんだ!」

「ただ『それ』が、俺達から見て長いと思うか短いと思うか……その程度の違いしかないんだ」

 

ソロモン

「バルバトス……?」

 

 

 今にも泣きだしそうな顔のバルバトスに気圧されるソロモン。

 

 

バルバトス

「考えてみてくれ。ソロモン」

「俺達は王都に、アジトに帰らなきゃならない。救えなかった命に振り返りたくても、進まなきゃならないんだ」

「始めから勝算は約束されていた。後はここで全てを終えて、大空洞のフォトンを地上に転送すればいい」

「それでクラゲの騒動は終わり、ロンバルドの生活も維持され、事件は解決する……」

「今、どうにもできなかったその『答え』は、いつかの未来に実現させればいい」

「それで良いんだ……俺達は、誰かの一生まで左右することは出来ない」

 

ソロモン

「……俺は……」

 

フォラス

「……言いたいことは大体わかった」

 

ウェパル

「予想はしてたけど……『わかっただけ』って顔ね」

 

バルバトス

「……皮肉じゃなく、君を呼んで正解だったよ」

「このままじゃ、ただ一方的に言いくるめるのと変わらないからね」

 

フォラス

「当たり前だ。使いたくねえ言葉だが、敢えて言わせてもらうぞ……」

「『くそくらえ』だ」

 

ウェパル

「学者が、理屈なんてすっ飛ばしてやろうって?」

 

フォラス

「ああそうだ。学者以前に俺はヴィータで、ヴィータの親だからな」

「例え『子供のため』で子供を苦しめる事になろうと、これがエゴでも子への呪いでも何だろうとだ……」

「俺の目の黒い内は、絶対に『それ』だけは認めねえ! 結果がどうなろうと『俺は』助ける!」

 

ソロモン

「でも、フォトンを供給したら、護界憲章が……」

 

フォラス

「俺達の世界から追い出されるからって、絶対に死ぬとは限らねえ。このまま見届けるよりよっぽどマシだ」

「少なくともお前たちだって、目の前で野垂れ死ぬのを指くわえて見てたいわけじゃないはずだ」

「生物の摂理だろうが世界の法則だろうが、抗って戦い抜けばばいいじゃねえか」

「そんなものに『諦める』だの『受け入れる』だの、そんなものは言葉遊びだ!」

「世界全部の正解を実証したやつなんざ、この世に一人も居やしねえ!」

 

一同

「……」

 

ソロモン

「……」

「……バルバトス、ウェパル」

 

バルバトス

「何だい?」

 

ウェパル

「聞くまでもないけどね。最初っから『数』で負けてるんだから」

 

ソロモン

「もちろん、数だけが理由じゃないけど……」

「それでも、ごめん。ようやく『答え』が出せた。二人の提案は『受け入れない』」

 

バルバトス

「最初から、折れるつもりなんて無いと『信頼』はしてたよ」

「ただ、俺達だって切実に考えたつもりだ」

「その『答え』、君自身としての根拠はあるんだろうね?」

 

ソロモン

「ああ。みんなのお陰で出せた、この場で俺だけの『答え』だ」

「それに、この『答え』は──」

 

「勝算がある!!」

 

 

 ソロモンの指環が光る。

 途端、大空洞全体が大きく鳴動した。

 

 

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