メギド72オリスト「太古の災厄と新生する憤怒」   作:水郷アコホ

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50「コンフリクト抗命体」

 ベレトとポーがフォトンの光に飲み込まれ、見えなくなった。

 何かの輪郭を形成しながら高く、大きくなっていく光の柱。

 光の中心から少し距離を置いて、目を細め手をかざしながら辛うじて見届けるソロモンとバルバトス。

 

 

ソロモン

「この光……純正メギドが幻獣体になる時に似てる……!?」

 

バルバトス

「まさしく、その光だろうね。パエトンがヴィータ体から変身しているんだ」

 

ソロモン

「そんな、何で急に!?」

「ようやく岩の柱を回り込めたと思ったら、ポーが目覚めたみたいな事をベレトが叫んでて……」

「ベレトに任せた方が良いと思って様子を見てて、さっきまで何か説得してる風だったのに……」

 

バルバトス

「恐らく、ベレトが何か手を誤ったとかいう事じゃない。『残念ながら』ね」

「何が切っ掛けだったかまではわからないけど、『ポーが目を覚ました』。その時点でこの結果が決まっていたんだ」

 

ソロモン

「き、決まってた!? バルバトス……こうなる事がわかってたのか?」

 

バルバトス

「確証は無かった。いや……『そうならない可能性』を信じるしか無かった。だから、君にも言わなかった」

「ポーは、ある意味でベレトと同じものを手に入れてしまったんだ。逃れられない、過去の汚点というものをね」

「ベレトは世界を巻き添えにしながらも真っ向から『それ』と向き合いきってみせた。けれどポーは、ベレトのようにはなれなかった」

「一時的に主導権を得た脳で、ポーは自分の所業を再確認し、そして……『消え去る』事を望んだんだ」

 

ソロモン

「消え去るって、まさか……!」

 

バルバトス

「魂が死んだって意味じゃないよ。そんなに簡単に文字通り消えられたなら、いっそポーが苦しむ事も無かったろうけども」

「閉じこもったとでも言う方が正確かな。消える事はできなくても、音も光も届かない場所へ意識を沈めたんだ。苦痛や悲しみに耐えきれなくなった廃人のように、ね」

 

ソロモン

「それじゃあ、このままじゃますますポーとパエトンを助けるのが難しく……」

「でも、それで何で今、急に体が変わり始めたんだ?」

 

バルバトス

「パエトンの理性は戻らないまま。そして残るポーはヴィータとして生きる事を諦めた」

「ヴィータの姿を無意識に繋ぎ止めてきた『タガ』が外れたんだよ」

「今のパエトンにあるのは、半ば暴走状態にあるメギドの魂と、そこから溢れ出る本能だけだ」

 

ソロモン

「なら、逆に考えれば、それだけポーは……きっとパエトンも、ヴィータとして生きる事を諦めたくなかったんだな……」

「けど、このままフォトンを送って暴れ続けさせたら、メギド体になるだけのフォトンも、本能に任せて確保できてしまうかもしれない……」

「ど……どうしよう。フォトンの供給を止めた方が……」

 

バルバトス

「ダメだ! もう後がない」

「より大きな体を形成できるようになった。なら、食料をフォトンに変換する特性も復活したと考えるべきだ」

「ここでフォトンを止めたら、たちまち飢えと本能に任せて大空洞を食い尽くし、どの道メギド体の完成か、その前に護界憲章に消されるかだ」

「それどころか、散り散りになった皆もフォトンの供給が滞って、この場から逃げる事すらままならなくなる」

 

ソロモン

「でも、このままじゃ……!」

 

バルバトス

「今さら浮足立つんじゃない、ソロモン王! 『刻む』って決めたんだろう!」

「恐らく、今のパエトンはまだ幻獣体と同じ範疇だ。今すぐ憲章に消される事は無いはず」

「愚直でも何でも、今やれる事をやるんだ。それに──」

 

 

 光が収まり、改めて、視線を10メートルほど上へ移動させていく2人。

 

 

バルバトス

「もう……加減がどうとか、言ってられる状況じゃないだろう?」

 

 

 一行の知るエリダヌスとは、所々異なる姿だった。

 四本の尖った脚は、それぞれが異なる色をしている。尾は太く短く、これもいずれの脚とも異なる色味で輝いている。

 腹部の顔は死霊のようなものではなく、顎が大半を占めた獅子を思わせる、厳めしく硬質な造りをしている。

 エリダヌスの槍のような腕パーツは、肘関節あたりの琥珀色の基底部から片腕につき色別五本、両腕で計十本が手指のように生えている。

 そして、胸から上は──。

 

 

ソロモン

「ポー!?」

「エリダヌスの上半身が裂けて、ポーが腰から下まで埋まったみたいに……」

 

バルバトス

「エリダヌスの頭の辺りに異形のポーが収まる……か」

「ヴィータとしての生存本能か、あるいはかつてのメギド体には無い異物だからか……とにかく何らかの要因で、完全な変異が妨げられているんだろう」

「大きさもまだ、一般的な大型メギド程度だ。首の皮一枚、希望が残ってるかもしれない……!」

 

ソロモン

「でも、少しずつポーがメギド体の中に飲み込まれて行ってる。時間は余り無い……」

「……バルバトス、今度こそ覚悟は決まった」

「このまま撤退したら、依頼から何から全部ダメになりかねない。何としても戦い抜いてやる!」

 

バルバトス

「同感だ。だが、追加の召喚はまだ控えてくれ。モラクス達の安全を確かめるまでは──」

 

 

 轟音と地響きに言葉を遮られた。

 

 

バルバトス

「何だ!?」

 

ソロモン

「パ……パエトンが……飛んでる?」

 

 

 エリダヌスの四本脚の内には尾に繋がる、人間で言えば股間部が位置しているが、パエトンのそこは広く扁平になっている。

 その扁平な中心部からロケットの如く炎が噴き出し、パエトンの全身を徐々に浮き上がらせている。

 

 

モラクス

「あ、いた! おーーい、アニキー!」

 

 

 パエトンが上昇するにつれ、その向こうに居たモラクス達の姿が見えてきた。

 モラクスの声を受けて、視線を移すソロモン。

 吹き飛ばされたモラクスとシャックスが仲間の肩を借りるようにして歩いているが、足取りは比較的しっかりしている。

 

 

ソロモン

「モラクス! 皆も、無事だったか!」

 

モラクス

「無傷ってわけにゃいかねーけど、俺もシャックスもまだやれるぜ!」

 

フォラス

「それよりこれ、どうなってんだ!?」

「ベレトが喚き散らしてたみたいだが、異常気象のせいで内容まで聞き取れなかったし、急に光るしで……これ、色々と大丈夫なんだろうな!?」

 

ソロモン

「余り良くは無いけど、手遅れじゃない。まずはその……アレを警戒しながら一旦こっちに──」

 

シャックス

「モンモン~、ベレベレは? ベレベレは!?」

 

ソロモン

「あ、そういえばベレト……!」

 

バルバトス

「もう見つけた。ポーのすぐ近くだ」

 

ソロモン

「ポーの……? 上か!」

 

 

 改めてパエトンを見上げるソロモン。

 ポーの体がむき出している部分、すぐ隣にさっきは居なかったベレトがしがみついている。

 赤子が這うように少しずつポーに肉薄しながら懸命に呼びかけているようだが、ジェット噴射の音にかき消されて全く聞き取れない。

 

 

バルバトス

「変身の時、咄嗟に体の何処かに掴まったんだろう」

「変身した姿とポーにばかり気を取られて見落としていたけど、ベレトはそのままポーの元までにじり寄ってたって所だろうね」

 

シャックス

「バルバルー、上見てもベレベレどこにも居ない居ない~!」

 

ウェパル

「こっちから見えるのは背中側なんだから当然でしょ。それよりさっさと歩いて。迂回するわよ」

「アレが何を目当てに飛んでるのか知らないけど、近寄って良い事なんて無いでしょうからね」

 

 

 ウェパルが先導して、パエトンのジェット噴射が足元に描く光の円の、外周に沿うように移動を始める四人。

 

 

ソロモン

「バルバトス、皆の治療を頼む。フォトンは足りて──」

 

バルバトス

「待ってくれ……!」

 

 

 地上30メートルほどに至って尚も上昇を続けるパエトンから目を離さないバルバトス。

 

 

バルバトス

「ソロモン……パエトンが飛んでいるのが、大空洞から逃げ出そうとか言う事じゃないのは、わかるね?」

 

ソロモン

「ああ。多分、何か攻撃を仕掛けるつもりなんだと思う」

「でも、何が来るにしても、皆も十分に動ける状態じゃない。危険ではあるけど、治療してからでないと防ぎようも──」

 

バルバトス

「ただの、攻撃ならね……!」

 

ソロモン

「ただの……?」

 

バルバトス

「このまま落下してくるとか、上空から一方的に攻撃してくるだけなら、あんなに高く飛ぶ必要ないとは思わないかい……?」

「あれじゃあ俺達なんて豆粒ほどにしか見えないのに、まだ上昇してる。『狙いが付く』はずがない」

「それに、しぶとく体を這い回ってるベレトを気にかける様子もない。両手は下……俺達の方に向けられてる」

「そして、あの巨体を持ち上げるだけの炎を噴き出しているのが、『足』じゃなく『第三の手』だとしたら……」

「ソロモン……君だったらあの状態から、どんな攻撃を『してみよう』と思う?」

 

ソロモン

「『してみよう』?」

「えっと……パエトンはまだ本能で動いてるから、割と単純で、それでいて確実に俺達にダメージを与えられそうな……」

「……!!」

 

 

 ソロモンが同じ考えに至ったのを察したバルバトスは、ウェパル達に叫んだ。

 

 

バルバトス

「離れるんだ! 全員、できるかぎりアレから!」

 

モラクス

「え!? 何かヤバそうなのはわかるけど、先に治療してもらった方が良くね?」

 

バルバトス

「一刻を争うんだ!壁際まで逃げろ!」

「壁際に着いたなら可能な限り身を縮めるんだ! 少しは『マシ』なはずだ!」

 

ソロモン

「バルバトス! 皆を遠くに召喚する形で退避させれば……」

 

バルバトス

「そんな事したら誰が君を守るんだ! それにそっちにフォトンを割いたら『早まる』かも知れないだろ!」

 

フォラス

「ありゃぁ、俺達が思うよりヤバい事に気付いちまったっぽいな」

「大人しく従うが吉だ。モラクス、シャックス、走るくらいなら何とかなるな?」

 

シャックス

「う~、しんどいしんどい~……」

 

ウェパル

「それはここに居るみんな同じ。ほら散って。口ぶりからして、固まらない方が良いって事でしょうから」

 

フォラス

「ウェパルも大丈夫か? また頭痛でフラついたりしたら……」

 

ウェパル

「その時はその時。覚悟するしか無いわよ、お互いにね」

 

 

 小走りに去っていく仲間を見届けるソロモン。

 バルバトスが別の方角へ向き直り、冷え切った空気に収縮する呼吸器に構わず、声を張り上げる。

 

 

バルバトス

「ミカエル! ガイードさんを連れて通路まで引き返すんだ!」

 

ミカエル

「オフコース。心得ているとも」

 

 

 視線の先では、険しい目つきでパエトンを見上げるミカエルと、同じくパエトンを見上げながら、呆然と膝を突くガイード。

 

 

ガイード

「アレが……地底湖の……?」

「じゃあ、パエトンは……ポーは、どうなって……?」

 

ミカエル

「悩めるヴィータよ。幸か不幸か、その答えはまだ出ていない」

「そして、間もなく格別の『災厄』が訪れる。君と私は、その場に立ち会うべきではない」

 

ガイード

「……冗談じゃありません」

「あっしにゃぁ一体何が起こるっていうのかサッパリですがね。こんな所で目を背けるなんざゴメンですよ」

 

ミカエル

「これから訪れるものは、命など容易く消し去ってしまう。そしてともすれば、私にも君を守り通せる保証がない」

「万一の事があった時、誰が『彼女』を、再び暖かく迎えてやれると言うのだね?」

 

ガイード

「だったらばこそ! あの子が何者なのか、全部見届けなけりゃ向き合えないでしょうが!」

 

ミカエル

「……」

 

ガイード

「すいません。出過ぎた口を……」

「でも、せめて出入り口のキワとかで見守らせちゃくれませんかね……?」

「何か起こって、本当にヤバそうなら、通路に引っ張り込んででもくれりゃあ……」

 

ミカエル

「グレイト。その勇気と覚悟を讃え──」

「ノーウェイ!?」

 

 

 ミカエルがガイードを抱き抱え飛び退いた時には、轟音と眩い光が空間を染め上げていた。

 

 

バルバトス

「来る……ソロモ……っ!」

 

ソロモン

「皆っ! 早く逃……!」

 

シャックス

「ほぇ? モンモン今なにか……」

 

フォラス

「くそ、まだ壁際に着いてもいねぇっての!」

「って……これは、流石に……!」

 

 

 全員が等しく光に飲み込まれた。

 上空のパエトンが両手と「第三の手」から放つ光弾が、角度も速度もバラバラに、僅か数秒の内に100を超えんばかりの絨毯爆撃となって放たれた。

 一発あたりの光弾のサイズも巨大化し、ある光弾は岩壁に激突してもなお粉塵と岩塊を降り注がせながら滑り落ち続け、ある光弾は地面で炸裂すると共に巻き上げた破片をパエトンよりも遥か上空へ届かせ、あるいは壁に弾丸の如くめり込んだ破片が更なる崩落を誘った。

 這い回る光弾が水柱と炎の尾を引き、炸裂する光弾が一帯の岩肌を蓮の花のように波立たせた。

 その場に居た誰一人、その一部始終を見ては居なかった。災厄を免れる事に各々が手一杯だったが、それ以上に、6色に目まぐるしく切り替わる景色を前に、視覚など使い物にならなかった。

 パエトンの眼下の全てが、色とりどりの粉塵に包まれていった。

 

 

 

<GO TO NEXT>

 

 




※ここからあとがき

パエトン(バーストファイター)
・特性
 攻撃ダメージを確率で減少。減少成功するとスキルフォトン獲得。
・スキル
 敵単体に攻撃。ランダムな地形効果。フォトンを消費した数でレベル上昇。ランダムな敵○体に追加でランダム地形効果付与。
・覚醒スキル
 敵一体に攻撃。フォトンを1つ奪取。
・奥義
 敵全体に炎&雷ダメージ。
 敵の受けている地形効果の種類が多いほどダメージ上昇。

 大体こんな感じの能力で描写してます。
 メギド72はゲームシステムを設定に取り込む事が多いので、ある程度のステータスまで考えておいた方が「らしさ」が出るかなと。

 話がそれますが、アザゼルイベも読みました。
 ロンバルドどころか、エルプシャフト全体で破傷風の概念さえ確立しきっていなかったんですね……。
 まあ、二次創作の醍醐味ということで。

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