メギド72オリスト「太古の災厄と新生する憤怒」   作:水郷アコホ

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52「疑問」

 バルバトスによるウェパルの治療が一段落し、改めて向かい合うバルバトス、ソロモン、ミカエル。

 ウェパルは傷こそ癒したが、いまだ目を覚ます様子はない。

 

 

ソロモン

「『疑問』……今回の事件、まだ答えの出せてない部分があるって事か」

「でも確かに、こんな状況で『わかっていない事』を聞かされてもどうしようも無いな……」

 

バルバトス

「……いや、それで十分だ。ミカエル、聞かせてくれ」

 

ミカエル

「私は構わないが、果たして君たちに、その猶予は残されているのかな?」

 

ソロモン

「それは……」

「(フォラスとシャックスの安否も気になるし、ウェパルも今は意識を失ってる)」

「(何より、ベレトだ。防寒具も完全に使い物になってないし、間違いなく重傷だ。一刻も早く助けなくちゃ、まずい……)」

 

バルバトス

「有るとは言い難いが、無ければ作れば良い」

 

ソロモン

「作るって……どうやって?」

 

バルバトス

「ソロモン、まず君はフォトンを再びこの空間内に呼び出すんだ。仲間に意識さえあれば、すぐにフォトンが使えるように」

「けど、パエトンに送り込んだら変身が進行するかもしれない。かと言ってフォトン過密でフォトンバーストを招いちゃ本末転倒だ。そこはどうにか調整してほしい」

「そして、同時にモラクスにも直接フォトンを送ってくれ。モラクスなら、それで自分が何をすべきかすぐに理解してくれるはずだからね」

 

ソロモン

「確かに、モラクスだったらフォトンを受け取った時点で俺が『動け』と言ってると理解してくれると思う」

「パエトンと戦うにも、一旦距離を取ってシャックス達を探すにも、モラクスならその場の判断でやってくれそうだけど……」

「でも、悔しいけど俺もだいぶ消耗してる。フォトンの操作に集中してたんじゃ、とても……」

 

バルバトス

「とてもミカエルの言葉を吟味している余裕は無い。そんな事なら、何も問題ないさ」

「君が言ってくれたじゃないか。今この場に限っては、軍団の頭脳は俺が担っている」

 

ソロモン

「それってつまり……戦闘と仲間の救助はモラクスに任せ、俺はフォトンに専念──」

「バルバトスはウェパルとガイードさんに気を配りつつ、ミカエルの情報から打開の糸口を探すって事か」

「正直、モラクスに陽動を任せて、バルバトスには仲間を探して治療してもらいたい所だけど……」

 

バルバトス

「この期に及んで戦闘に参加しないのは、メギドの俺としても気が進まないけどね」

「ただ、状況が状況だ。君の考えにしたって、はっきり言って成功の目は薄い」

「今、新たな手を尽くせる可能性があるのは、ミカエルの持つ『疑問』だけだ」

「そしてそれを活かして見せる事が今、俺にできる最大の『戦い』なんだ。……罷り通させてくれ、ソロモン」

 

ソロモン

「……わかった」

「そこまで言うなら、俺もバルバトスを信じる」

「ただ……」

 

バルバトス

「ベレトだね?」

 

ソロモン

「ああ。フォラスとシャックスも、もちろん心配だけど──」

「ベレトが今、どんな状態か……俺達は見てしまっている。しかも今は、ずっと遠くに……」

「パエトンの攻撃からは逃れられるだろうけど、本当に危険なはずだ」

「これだけは気が気でならないんだ。指示を出す立場として、みっともないようだけど……」

 

バルバトス

「責任を取り切れるかまでは、この状況で断言はできないけど、そこもどうか信じてくれ」

「生きてさえいれば、何とかするアテは用意してる。もっとも、君の技量と集中力次第ではあるけどね」

 

ソロモン

「……わかった。話が終わったら呼んでくれ。何だってやってみせる」

「じゃあ、すぐにでもフォトンの転移にとりかかる。後は頼む、バルバトス!」

 

バルバトス

「任された」

 

 

 ソロモンが2人に背を向け、未だ静止したままのパエトンを見据える。

 指輪の一つが一瞬、明滅した。恐らく、モラクスの反応を確かめたか、フォトンを送ったか。

 それを見届けて、ミカエルに向き直るバルバトス。

 

 

ミカエル

「グローリアス。君たちの意志はまだ、些かもくすんではいないようだ」

「だが、先程も言った通りだ。少なくとも私には、『これ』が君たちの覚悟に相応の『勝算』へと繋がるとは思えない」

 

バルバトス

「それも最初から覚悟の内さ」

「それに、俺達の『勝算』はソロモン……ひいては俺達が見つけるものだ」

「冷たいようだが、ハルマの意見は参考程度だよ」

 

ミカエル

「オーケー。もっともな答えだ」

 

 

 柔らかく微笑み、一呼吸置いてから、ゆっくりと口を開くミカエル。

 一方で、パエトンのすぐ足元で手を拱いていたモラクス。熊に出会った時のように、パエトンから片時も目を離さないでいる。

 

 

モラクス

「くっそー……何度アニキたち呼んでも返事が無え」

「やっぱり声なんて届いてないっぽいな……」

「アニキ達がミカエルに助けられたのは見てたけど、指輪がすぐに使えるかまではわかんねーからなぁ……」

 

 

 警戒しながら、パエトンの体の随所を観察するモラクス。

 先程砕いた足先は、パエトンの蓄えているフォトンによって徐々に再生が始まっている。

 そして、上半身部分は肩までがエリダヌスとよく似た形に完全に形成され、頭は首から後頭部にかけてが完成している。

 辛うじて構成途中の顔面部分は、エリダヌスとは形が異なり、パエトンの大顎が下半分ほどまで出来上がり、ポーは頭部のまだ形成が曖昧な部分に包まれ、肩から下までメギド体に埋まっている。

 このまま完全なメギド体になれば、ポーの収まる部分は位置的に、エリダヌスで例えれば眼の辺りに取って代わられるだろう。

 

 

モラクス

「とにかく、フォトンがあるか分かんねえのに動くのは、絶対マズイ」

「パエトンが動かねえのは多分、俺達の方から隙を見せるまで、フォトンを使わないようにしてるからだと思うしな」

「それだけって事はねーかもだけど、パエトンもアニキからのフォトンを送られてないはずだから、俺だったらなるべく腹が減らねえようにする」

「こいつもそこまで頭良いほうじゃねぇみたいだから、多分そんなとこだ、ろ……?」

 

 

 不意に、すっかり覚えのある感覚が全身に走り、力が漲るモラクス。

 

 

モラクス

「来た、フォトンだ!」

「ってことは……ヤれって事だよな!」

 

 

 極地で冷え切り、疲労も募り続ける足腰に気合を入れ直すモラクス。

 

 

モラクス

「流石の俺でも、独りでパエトンに勝てるかは自信ねえ。まずはシャックス達を見つけねえと」

「つっても、中途半端に動いたらパエトンに狙われるかもしれねえ。だったら……」

 

 

 斧を握り直し、いつでも踏み込めるように姿勢を再確認するモラクス。

 再生を続けるパエトンの脚が、まだその巨体を支えられる状態でない事を確かめる。

 

 

モラクス

「まずはさっきみたいに足元崩しながら、ついでに目くらましってとこだ……なぁっ!!」

 

 

 現状で出せる最大限の力で、今一度、パエトンの2本目の脚を砕くモラクス。

 同時に、脆い脚を突き抜けて、地面を構成する岩肌を細かく打ち砕き、破片と砂煙を打ち上げた。

 遠くから見守るソロモンにも、モラクスの上げた狼煙はしっかりと見て取れた。

 

 

ソロモン

「モラクスも動いた。これでもう、路線変更する余裕はなくなった……!」

「バルバトスがパエトンを止める策を見つけ出すまで時間を稼ぎつつ、フォラス達を見つけてここまで運んでもらう……」

「荷は重いだろうけど、モラクスなら俺がこんな時に何を優先するか、伝わってくれるはずだ……!」

 

 

 今までも何度かあった、「自分も直接戦えたら」というもどかしさを振り払い、フォトン操作に集中するソロモン。

 一方、前線を気にしつつもお互いの役目に集中するミカエルとバルバトス。

 

 

バルバトス

「アンガーストーンの出所……か」

 

ミカエル

「イエス。より正確に言えば、パエトンとの関連性だ」

「君たちがアンガーストーンと呼ぶ例の3つの石。あれをどのようにして、哀しきレディが手にしたのか……」

 

バルバトス

「確かに、俺達もポーの持っていた石を、赤い月のアンガーストーンと繋げて、その影響までは結論を出せていたが……」

「そもそも何故ポーがそんなものを持っていたか、そこまで詰めるのは失念していたな」

「先に考えてしまいたい所だが……時間が無いなら、問題の残りを全て確認してからだな」

「もう一つの『疑問』、そっちも聞かせてくれ」

 

ミカエル

「クレヴァー、クレヴァー。そう、第二の『疑問』は、知性だ」

「即ち何故、私はパエトンを呼び止める事ができたのか」

 

バルバトス

「地底湖でポーがパエトンに替わった時の事か」

 

ミカエル

「イグザクトリー。言ったはずだ。あれは私としても賭けだった」

「メギドラル時代のパエトンに、およそ我々が期待するような知性は無かった。私も『友人』もそう結論を出した」

「ならばパエトンは、他のメギドが己を指して『パエトン』と呼んでいる事も『わからなかった』はずなのだ」

「会話という概念を知らなかったパエトンには、言葉など全て、異なる音の連続でしかない」

 

バルバトス

「そうか、そんな名前を付けられてるなんて『わからない』パエトンが、『パエトン』と呼ばれて反応できるわけがない!」

「仮に敵対したメギドから何度も聞いた『音』として記憶が残っていても、意味を考えもしない音で、命の瀬戸際から踏みとどまるのも考えにくい」

「パエトンにとっては、自宅の庭に生えた木が、風で葉をざわつかせる音と変わらない」

「気にも留めていなかった『自然の一部』を旅先でたまたま聞いたって、思い出せる方が稀だ」

 

ミカエル

「私には、いずれも確証を持てる『答え』を見出だせなかった」

「『パエトン』と呼びかけた件なら、辛うじて理屈を付ける事はできる」

「奇跡的にメギドラルの記憶を思い起こした。それをヴァイガルドで再び聞いたというギャップが、不意に意識を呼び起こした」

「所詮、どんな記憶が取るに足らぬか否かなど、主観の問題なのだから」

「だが、石についてはそうもいかない」

 

バルバトス

「主観がどうこう以前に、石として確かに存在しているからね……」

「ポーが肌見放さず持っていた石……確か、フォラスの話では──」

 

ガイード

「あの石でしたら……ポーの家族ですよ」

 

バルバトス

「ガイードさん?」

 

 

 すっかり存在を忘れていたガイードを見る2人。

 冷え切った岩肌の上で足を畳み込んでいたが、ゆっくりと立ち上がるガイード。

 

 

ガイード

「もうヤブが話した後でしょうがね。あれは、ポーの両親が消えた日に、唯一見つかったポーが、いつの間にか持っていたものです」

「ポーの母親のお腹には、二人目の子供が居たんですよ。そこに石が3つですよ?」

「しかも同じくらいの大きさが2つに、もっと小さいのが1つ……見たことも無い石ってだけでも珍しいのに、こんな偶然がありますかい?」

 

バルバトス

「確かに、家族と見立てて信じるには十分な理由だけど……」

「(ポーの家族と関係があるかもと、そこまでは俺も考えた。多分、モラクス達だって頭をよぎりはしただろう)」

「(だが、仮にポーの家族が石に成り果てたとして、一体どんな『経緯』があるのか……)」

「(そこを説明する証拠がない限りは、この考えはただの『迷信』でしかない)」

 

ミカエル

「かの石が持つ意味。パエトンが己の『あだ名』に反応した理由」

「そして口に出すまでも無いほど、明確で短絡的な『信仰』……それでも、君達は意義を生み出す他にない」

「私自身、関連はあると考えざるを得ない。だが、否定も肯定も、断じる根拠を持ち合わせていない」

「私から出せる知恵、そして君達に未だもって託したいと思えるものは、これで全てだ」

「答えが出せなければ……あるいは間に合わなければ、私は君が思い描いた通りの──」

「『ハルマとしての』私を演じる事となるだろう」

「『彼女たち』が、再びこの地で生きる事を願っていたとしても、希望の手がかりはもう、他に無いのだから」

 

 

 黙り込む2人の横で、しっかりと足を踏みしめたガイードが、静かに大きく息を吸い込んだ。

 

 

ガイード

「ポォォーーーッ! パエトーーーンッ!」

「どっちでも良い! どっちでも良いんだ! 一緒に、集落へ帰るんだぁーーっ!!」

「ポーー! パエトーン!」

 

 

 ガイードが叫んだ先へ視線を向けるミカエルとバルバトス。

 パエトンが脚2本を損傷し、体を大きく傾かせながら、足元の濁った雲に掌を振り下ろしていた。

 掌を叩きつける度に地響きがバルバトス達の元まで届き、異常気象と戦闘でグズグズになった地表から更に砂煙が舞い上がる。

 岩を抉る掌に、しかし手応えは無かったようで、パエトンはすぐに腕を構え直しては振り下ろしてを繰り返している。

 モラクスは、パエトンが撒き散らす砂煙に紛れて、既にパエトンの背後に回っていた。

 

 

モラクス

「(へへっ、やってるやってる……動物みてえに暴れてんなら、うまく歩けねえってのは相当焦るだろ?)」

「(煙に隠れて、俺がもうパエトンの近くから逃げた後って気付くまでは、もう少し余裕ありそうだな)」

「(今の内にフォラスとシャックス見つけて、アニキ達の所に届けねえと。相当吹っ飛ばされたはずだから、まずは壁際からだな)」

 

 

 モラクスの陽動が功を奏し、荒れる前線。

 そこに向かって、腹の底から全力で声を張り上げるガイード。

 

 

ガイード

「ポォーーー! パエトォーーーン!!」

 

ミカエル

「ヴィータよ。わかっているはずだ。聞こえてはいない」

「聞こえていたとして、今のレディには、それは『音』でしかないのだ」

「それでも、君は『2人』を呼び続けるのかい?」

 

ガイード

「ゼェッ……ゼェッ……あったりまえですよ……!」

「こんな所まで来て……こんな無茶苦茶見せられて……皆さん全員無事に連れて帰れるかも正直わかりゃしやせんよ」

「でも……『だから何だ』ってもんでしょう! 今この場で、誰があの子の帰る場所になってやれるってんです!」

 

バルバトス

「気持ちは痛いほど分かる。分かるけど……」

「ガイードさん、万一にもパエトンがあなたの声を拾ったら、今度はあなたが狙われるかもしれないんだ」

「この中で、最もパエトンに抵抗する力を持たないのが、あなただ。酷なようだけど、あなたはパエトンのかっこうの──」

 

ガイード

「危なかろうと何もできなかろうと、何もしないわけにはいかんでしょう!」

「本当にあの子が欲しかった未来……今からでも届けてやれるのは、あっしだけなんですから!」

「さっきは連れて逃げろなんて話も聞こえてきましたがね、皆さん殴り倒してでもあっしはここを動きませんからね!」

「皆さんの負担になるようなら、自分の身くらい自分で何とかしてみせます! だから──!?」

 

 

 強烈な光と風が迫ってくる感覚に口を噤むガイード。

 バルバトスの懸念通りか、ただの偶然か。光弾が地を削りながら接近していた。

 モラクスに掠りもしない直接攻撃に焦れたパエトンが発射した数発の内の一つだった。

 会話に集中していたバルバトス達だけでなく、最も光弾に近い位置に立つソロモンも、フォトン操作を優先していたために回避のタイミングを逃した後だった。

 

 

ソロモン

「まずい、直撃する……!」

 

バルバトス

「(光弾が不自然に膨らんでいってる……爆発する直前と同じ動きだ!)」

「(よしんばかわせても、爆風と異常気象でひとたまりも……)」

「……ダメだ、あの動きだとソロモンの手前で爆発する! 避けようが……!」

 

 

 言い終わる前に、予想通りの地点で光弾が光の波に変わった。

 考える間も得られず、バルバトスは咄嗟に、最も近くに居たガイードを抱きかかえるようにしてその場に伏せた。

 ほぼ同時に、極寒に晒す事となった素顔に迫り来る痛みが、熱風に晒されている事によるものだと感じ取るバルバトス。

 

 

バルバトス

「(火傷を負うほどじゃないか……ははっ、こんな時にまで顔の心配とは我ながら……)」

「(考える余裕がある!? 俺は今、無事なのか……!?)」

 

 

 爆風が収まって、すぐさま状況を確認するバルバトス。

 バルバトスも腕の中のガイードも無事だった。

 顔を上げ、ソロモンを確認する。

 ソロモンも無事だった。さっきまで立っていた位置のやや後方に尻もちをついて座り込み、前方を見上げていた。

 大きく腕を広げ、こちらを見下ろすミカエルを。。

 

 

ソロモン

「ミ……ミカエル、今、俺達を……庇って……!?」

 

バルバトス

「馬鹿なっ!! 護界憲章が……!」

 

ミカエル

「ノープロブレム」

「メギドとハルマの力と魂が干渉し合うか、メギドかハルマの力が純粋なヴィータの肉体を直接害する……その例から外れるなら、憲章には抵触しない」

「私の……ヴィータ体としてのフィジカルが勝る限り……ハルマゲドンが起きる事は無いのさ」

 

 

 熱波を間近で受け止めたミカエルの背面は、防寒具もジャケットも焼け落ち、原型を失った皮膚が軽快な音と煙を上げて泡立っていた。

 

ソロモン

「どうしようもなかったのは確かだけど……ミカエルはハルマなんだぞ!? そんな無茶な事──」

 

ミカエル

「ソロモン王よ、指輪から意識を逸らしてはならない!」

 

ソロモン

「はっ……!」

 

 

 フォトンの供給を再開するソロモン。

 指輪に集中しながら、再び抗議する。

 

 

ソロモン

「ミカエル。俺達を助けてくれた事は素直に感謝してる」

「けど今みたいな事、二度目は絶対に無しだ!」

「こっちの神経がもたない。危険を感じたらその前に離れるくらいのつもりでいてくれ」

 

ミカエル

「オフコース。なすべき事はなせた。次は君の役目を果たす番だ」

 

 

 再び立ち上がったソロモンの肩を軽く叩き、バルバトス達の元へ戻るミカエル。

 ガイードがバルバトスに押し倒された姿勢から、のそのそと上体を起こし、ミカエルを見上げた。

 

 

ガイード

「す……すみません。熱くなっちまって、本当に皆さんを危険な目に……」

 

 

 遮るように、ガイードに手を差し伸べるミカエル。

 

 

ミカエル

「君のなすべき事を見出したのだろう、怖気づいている場合かね?」

 

ガイード

「え……えっと?」

 

バルバトス

「ミカエル、呼びかけを続けさせようってつもりかい?」

「それも今よりも、パエトンの近くで……」

 

ミカエル

「イグザクトリー。他に何ができる?」

「もちろん、オーダーは心得ている。私はヴィータから決して離れない。被害が迫るようなら避難を優先。それは約束しよう」

「君としても、仲間の安全に一役買えると、そう考えているのではないかい?」

 

バルバトス

「確かに……君が『必ず』攻撃を避けられるなら、モラクスが仲間を助ける間のツナギにはなる」

「確かに一瞬、そう考えはしたけれど……」

 

ガイード

「なるほど……そういう事でしたら、やらせてください!」

「どうせここにいるなら、どこだろうと危険な事には変わりないんでしょう? だったらやれる事でお役に立って見せるまでです!」

 

バルバトス

「……説得は難しそうだね」

 

ミカエル

「今の私の役目は、先の見通せぬヴィータの手を取り、共に進む事」

「君の役目は何だい?」

 

バルバトス

「……わかったよ」

 

ミカエル

「私にしか知り得ぬ事があったように、君達にしか得られなかったモノがあるはずだ」

「私はまだ、諦めるつもりは無い」

 

バルバトス

「ありがとう。俺達も、闇雲に抗っているつもりは無い」

「一つ一つ『刻みつけた』先に、勝ち取ってみせるさ……!」

「聞いているね、ソロモン王。再び俺と二人っきりだ」

 

ソロモン

「ああ。ミカエル、ガイードさん、止めはしない。けど、気をつけて」

 

 

 次の瞬間には、ミカエルが背中の傷をものともせず、ガイードを連れて飛び立っていた。

 

 

ソロモン

「バルバトス、あまり急かしたくはないけど……」

 

バルバトス

「わかってる。こっちも焦りたくはないけど、全力のつもりだ」

「……ソロモン。ポーの持っていた石について、何か思い出せる事はあるかい?」

 

ソロモン

「こ、こんな時にか……?」

 

バルバトス

「少しでも、いつもの調子で考えたくてね」

「こんな時にでも思いつくような事で良い。とっくに話し合った事の再確認でも何でも良いんだ」

 

ソロモン

「そうは言っても、今はフォトンの操作とベレト達の事で頭が一杯で……」

「……えっと確か、フォラスからポーの石について聞いたんだったっけ」

 

バルバトス

「ああ」

 

ソロモン

「確かあの石は……ダメだ、油断するとフォトンの操作がブレそうで……」

「今は、あの石の事でフォラスが……後、ベレトが説明してくれた事くらいしか……」

 

バルバトス

「わかった。今はそれで十分だ」

 

 

 目を閉じ周囲の情報を遮断し、暗転した思考に意識を巡らすバルバトス。

 

 

バルバトス

「(1つ1つ思い出していくしかないな……ある意味、ソロモンの言葉は的を射ている)」

「(石の出所について俺達が知っているのは、フォラスがヤブさんから聞いた話……つまるところ又聞きだ)」

「(直接、ポーが石を得た経緯だけを掘り下げるのは限界がある。他の糸口……俺達が石について語らった部分から切り込むしかない)」

「(例えばソロモンが思い出した、フォラスから話を聞いた時の事……)」

「(そういえば、ベレトもポーから直接聞いたと言っていたな……ただ……)」

 

 

 回想

 

 

フォラス

「──ヤブさんから聞いたのは、大体そんなとこだ」

 

バルバトス

「ふむ。やはり、何故ポーが石を持っていたかはわからないか……」

「ベレトは、他に何か知っているかい?」

 

ベレト

「儂はポーから、かいつまんで聞いただけだ」

「儂に言える事は、もう全部言われておる……」

 

バルバトス

「些細な事でも良いんだ。持ち主から聞いたなら、個人的な話もあったんじゃないか」

 

ベレト

「強いて言えば──」

「それを持っていると、いつでも家族の事を思い出せる、と……」

 

 

 回想終わり

 

 

バルバトス

「(そうだ、正直言って、ベレトからは余り情報は得られなかった。出所についてもあの場は流してしまったな)」

「(ポーがメギドか否かについて、そして『怒り』で荒れた場を鎮める事が話題の中心だったからな……)」

「(後、石については……さっきのガイードさんの言葉くらいか……ん?)」

 

 

 再び回想

 

 

ベレト

「強いて言えば──」

「それを持っていると、いつでも家族の事を思い出せる、と……」

 

ガイード

「あの石でしたら……ポーの家族ですよ」

 

 

 回想終わり

 

 

バルバトス

「(……そうだな。少し、真剣に考えてみよう)」

「(ミカエルの言う通りとまでは言わないけど、数や大きさだけで繋げて考えるのは、俺も安易に過ぎるとは思う)」

「(だが、別方向から考えてみたら、どうなるだろう。『何故、ポーの家族は石になったか』──)」

「(あの石が家族の成れの果てなら……パエトンが家族を『食った』後の『残り』という事になる)」

「(パエトンの特性は取り込んだものの取捨選択ができる。必要ないものは吐き出せるとして、そこはおかしくはない)」

「(しかし問題は、何で『残り』がよりによって『アンガーストーン』になるかだ)」

「(たかが石が特殊な力を持つのなら、十中八九、フォトンが関わってくる)」

「(だがフォトンなら、パエトンがその魂まで残さず取り込んだ後だ。まず、石にフォトンが残っているはずがない)」

「(体の『仕組み』として不随意に獲物をフォトンに変えているだろうパエトンが、自発的に石にフォトンを分け与えたとも考えにくい)」

「(そもそも、何故ヴィータを『食った』、その『残り』が骨とかでなく『石』なのかも問題だ)」

「(諸々の問題を一旦置いとくとして、とにかく取り込まなかった『残り』をアンガーストーンに変えると考えてもだ……)」

「(メギドの軍団さえ平らげたのなら、当時のメギドラルは石コロまみれになって……)」

「(え……?)」

「(アンガーストーンまみれに……!?)」

 

 

 閃いたバルバトス。急遽立ち上がった仮説に基づき、アンガーストーンに纏わる諸々を電光の速度で洗い直す。

 

 

バルバトス

「(1000年前に造られた赤い月……ポーの家族と石の符号……)」

「(持っていると、いつでも家族を思い出せる……パエトンが食べた中から捨ててきたモノ……)」

「(取捨選択……感情は伝わり、共有できる……与えて、受け取れる……!)」

 

 

 目を見開いたバルバトス。前方に立つソロモンの、更にその先を強く見据えた。

 

 

バルバトス

「やれる……まだ、アレさえあれば……!」

 

 

 駆け出し、掴みかかり気味にソロモンを振り向かせるバルバトス。

 

 

バルバトス

「ソロモン、召喚だ!」

 

ソロモン

「バ、バルバトス!? せめて一声かけてくれよ、急に来られると集中が──」

 

バルバトス

「話は後だ! 俺を召喚……いや、転移させてくれ!」

 

ソロモン

「……何か分かったのか!」

「転移って事は、バルバトスを『遠くへ』って事か?」

 

バルバトス

「ああ。出来るはずだ。王都のフォトンを辺境へ届けたように、大体の座標がわかっていれば、少なくとも目の届く範囲なら、遠くへだって召喚出来る!」

 

ソロモン

「やった覚えはあまり無いけど……やってみせる!」

「どこでも良い、言ってくれ、すぐに飛ばす!」

 

バルバトス

「『穴』だ。ベレトが投げ込まれた壁の穴。『鍵』はそこにある!」

 

ソロモン

「願ったりだ。ベレトを頼んだ!」

 

 

 指輪が光り、過程も見えないほど一瞬で、バルバトスの姿が消えた。

 

 

<GO TO NEXT>

 

 




※ここからあとがき

場所が場所なので、ソロモンも手袋か何かしているはずですが、手袋越しに指輪の光が見えたとか、そんな感じでよろしくお願いします。

ミカエルが無茶した件についてはオリジナル解釈です。
かなり踏み込んだ解釈ですし、ぶっちゃけ話の展開上、必要な描写でもありません。
弾がギリギリ避けられる状況だった事にして、一番ダメージのないミカエルが再び全員運んで退避した事にしても何も問題ありません。
ただ、ブネとカマエルが殴り合ってたり、ブニの頭に血が上っての腹パンをミカエルが受けても護界憲章の対象にならない理由を筆者なりに考えてみたので、せっかくならと組み込んでみました。
ブネとカマエル→お互いヴィータ(体)としての力だけで殴り合ってるのでセーフ。
ブニとミカエル→多少はメギドの力が乗っても、ハルマ固有の力で防御しなければセーフ(『ヴィータ体』は『ヴィータ』では無いのでメギドの攻撃を受けても憲章の対象外?)
解釈違いでしたら、この描写だけ無かった事にしてしまっても話の進行に問題ありません。



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