メギド72オリスト「太古の災厄と新生する憤怒」   作:水郷アコホ

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61「エンディング・2」

 ブネとソロモンが語らった、その日の深夜。

 メギド用の個室の一つ。

 扉がじっくりと開かれた。

 

 

ベレト

「……腹が減った……」

 

 

 心ここにあらずと言った面持ちで現れたベレトが、ため息のついでのように呟いた。

 ずっと寝床に押し付けていたのだろう髪が、手芸用テープを裂いたように荒ぶっていた。

 廊下は月明かりも届ききらず、殆ど視界が無い。廊下のずっと先、突き当りにだけポツリと照明が灯っている。

 世間一般の消灯時間を過ぎると、たまにアミーやフォカロルが燃料節約で居住用スペースの照明を落として回るらしい事を思い出すベレト。

 遥か遠くから、夜更し組の賑わう声が聞こえている。アジトの夕食は残り物など滅多に出ない事も併せて思い出すベレト。

 

 

ベレト

「……また調理場に行けば、芋や果物くらい置いてあるだろ……」

「ぬっ? お、わ……!?」

 

 

 のそのそと歩き出したベレトが、何かそこそこの太さのあるものに足首を引っ掛け、すっ転んだ。

 

 

ベレト

「うっ……つつ……何なんだ……」

 

???

「うーん……」

 

 

 ベレトがつまずいた黒い影の塊が、モゾモゾと動いて立ち上がった。

 

 

???

「ふあ~あ……いけない、うっかり寝てた」

 

ベレト

「む……その声……?」

 

???

「え……ベレト!? ちょ、ちょっと待ってろ、暗くて危ないから!」

 

 

 非常に聞き慣れた声の影が近くの壁に掛かった照明に移動し、しばらくゴソゴソしていると、マッチか何かの小さな火が起き、照明が灯った。

 

 

ベレト

「……やはりか」

 

 

 照明に照らし出されたのは、ベレトが予想した通りにソロモンだった。何故か廊下で眠りこけており、投げ出された脚にベレトがつまずいたようだ。

 ソロモンの顔を確認すると、ベレトはバツが悪そうな表情を浮かべ、ただでさえ弱い語気を消え入るようにして呟いた。

 

 

ソロモン

「やっと会えた。アンドラスの言った通りだ」

 

ベレト

「……」

 

 

 落とし穴の底から遥か高みの出口を見上げるような顔でソロモンの笑顔を眺めていたベレトは、小さくため息をつくと立ち上がり、ソロモンに背を向け再びユラユラと歩き出した。

 

 

ソロモン

「ちょ、ちょっと待ってくれよベレト」

 

ベレト

「……」

 

 

 呼び止める声などしていないかのように、歩みを止めないベレト。

 

 

ソロモン

「……」

「夜食を作ろうかと思ってたんだけど、いらないって事で良いのか?」

 

ベレト

「ぬ……」

 

 

 ピタリと止まるベレト。

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 アジトのキッチン近くの空き部屋。

 主に小腹が減ったり、主だった食事時間にありつけなかったメギドが一人二人くらいでサッと食べる時等に使う軽食スペース。

 ソロモンとベレトがテーブルを囲んで、有り合わせの食材を煮た即席シチューにパンを添えて食べている今現在のような用途が典型例。

 

 

ソロモン

「俺も結構なもんだろ、ベレト?」

「皆への贈り物で何度か自分で料理した事もあるしさ」

 

ベレト

「がふっ、がふっ……はぐ、むぐ、ずずず……」

 

ソロモン

「はは、聞くまでも無さそうだな」

「お代わりもあるから、火傷しないように気を付け──」

 

 

 向かい合う二人のやや脇に置かれた鍋からソロモンがお玉を取って近づけると、無言で引ったくったベレトが自分でお代わりを注ぎ、また貪り始めた。

 

 

ソロモン

「そんな慌てなくても料理は逃げないって」

「それにしても、本当にアンドラスが言った通りだったなあ」

「せめてちゃんと食べてくれないと、一人で閉じこもったってドツボだぞ、ベレト」

「(俺が言うのもなんだけど……)」

 

ベレト

「ごっ……ごっ……ずぞぞぞぞずず……っぷはぁ!」

「げっふぅ……さっきから何だ? その、アンドラスの名前が出てくるのは」

 

ソロモン

「(口利いてくれた……!)」

「アンドラスが……いや、他の仲間も何人か気づいてたみたいでさ。ここ数日のベレトの生活」

「1日1回、夜遅くから明け方にフラッと部屋を出て、誰とも話さず食料そのまま食べて帰ってくって」

 

ベレト

「仕方ないだろうが。誰も儂の部屋に飯を届けんのが悪い」

 

ソロモン

「いやいやいや……」

「とにかく、それを聞いて、ベレトの顔を見たくて夜中にあそこで待ってたんだ」

 

ベレト

「な、何だ急に。い今更、儂にへつらって何を企んでいるのだ?」

 

ソロモン

「そういうんじゃないけど、朝からベレトを呼んでたのに返事もしてくれないからさ」

「ベレトには本当に済まないと思うけど、何か気に障る事した心当たりも無くって」

「だから、塞ぎ込んでる時は、まずは温かい食事をするのが良いってユフィールにいつか聞いたからこうして……」

 

ベレト

「餌に釣られたようで腹が立つな」

 

ソロモン

「(実際ホイホイ付いてきたけどな)」

 

ベレト

「それに言っておくが、貴様が儂の部屋を訪れた事など全く記憶に無い」

 

ソロモン

「記憶に無い!? 一時間ごとにノックして呼んだのに?」

 

ベレト

「何だそれ、流石に気持ち悪いぞ貴様……」

 

ソロモン

「いや、急ぎの事情があってさ……でも、どうして?」

 

ベレト

「……このところ、全く寝付けなくてな」

 

ソロモン

「殆ど眠れてなかったのか? じゃあ、今朝呼んでも返事も無かったのは……」

 

ベレト

「陽が昇る前に芋を3つばかりと水を適当に腹に入れて、部屋に戻って、気づいたらこの時間だ」

「頭の中がグルグルして止まらなくて、一睡もしていなかった。ようやく限界が来たのだろう」

 

ソロモン

「そ、そうか。殆ど気絶みたいな状態だったんだな。そりゃ起きないわけだ……」

 

ベレト

「……で?」

 

ソロモン

「え?」

 

ベレト

「何だ、自分からふっかけといて。つくづく儂を怒らせるのが上手い奴だ」

「指輪も使わず執拗に儂に纏わりついて、飯まで貢いでご機嫌取りして、一体儂に何をさせる気だ?」

「腹も満たせたし腹も立った。気分が良いから聞いてやる」

 

ソロモン

「(腹が立ってるのに、気分が良い……?)」

「ま、まあ、ベレトの方から話を聞いてくれるなら助かるよ」

「説明する前に……今朝はごめん。起きなかったとは言え、折角休んでたのに邪魔して」

 

ベレト

「それはもう良い」

 

ソロモン

「ありがとう。でも……今朝の件、すっかり無駄にもなっちゃったからさ」

 

ベレト

「無駄……儂を叩き起こす必要など無かったと?」

 

ソロモン

「昼までは必要があったけど、夕方頃から必要が無くなった。少し事情が変わったんだ」

 

ベレト

「全然要領を得ん。まず要点から話せ。儂への用向きとは何なのだ」

 

ソロモン

「パエトンを召喚して良いか、ベレトに聞いておくためだよ」

 

ベレト

「メギドの召喚など貴様がかって、に……」

「…………は?」

 

 

 興味なさげにシチューのお代わりをよそおうとしていたベレトだったが、数秒ほど完全に停止し、お玉が手から鍋へと抜け落ち、更に数秒後に、脱力しているのか強張っているのか判断しがたい神妙な顔をソロモンに向けた。

 

 

ベレト

「……い、いま……いま、何と言った?」

 

ソロモン

「だから、パエトンを召喚しても良いかって、ベレトに聞くために──」

 

ベレト

「っ!!」

「……~~~!!」

 

 

 すかさず拳を振り上げたベレトだが、そのまま天を衝く拳を震わせながら徐々に俯き、懊悩しながらゆっくり降ろした。

 キッとソロモンを睨んで怒鳴るベレト。

 

 

ベレト

「腹が立つんだか立っとらんのだか全然分からん! 腹が立つ!!」

 

ソロモン

「何もかもが何でだよ……」

 

ベレト

「こっちのセリフだ馬鹿者! 貴様、まだ召喚しとらんとでも言うのか!?」

 

ソロモン

「実は……そうなんだよ」

 

ベレト

「純正メギドだぞ! 放ったらかしてハルマが黙っておるものか!」

「人死にを出し、大暴れした挙げ句、貴様がこないだ言ってた話では、未だ暴走せん保証の一つもないのだろうが!」

 

ソロモン

「うん。だから、今日まで大荒れでさ」

「ガブリエルなんか、マルチネの件もあくまで保留なのにってすっかり──」

 

ベレト

「余計な話は良い! 何を考えとるんだ貴様は!」

「しかも儂の許しを得るだと!? 何のつもりだ、イヤミか貴様ァッッ!!」

 

ソロモン

「い、嫌味……? そもそも俺の考えでそうした訳じゃないし」

「パエトンがそうじゃないと召喚に応じられないって言って、折れてもらえる感じでもなくて……」

 

ベレト

「メ……メギドの、方から?」

 

ソロモン

「パエトンのお陰で地底湖前の横穴まで帰って来れて、そこで召喚を持ちかけて見たんだ。そしたら……」

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 ソロモンの回想。

 漏斗状の穴が広がる、地底湖へ続く通路。

 幻獣が現れる原因となった横穴に立つパエトンと、パエトンに向かい合う一行。

 

 

ソロモン

「じゃあ、パエトンはしばらく、大空洞でクラゲ達の駆除をしたいって事だな?」

 

パエトン

「はい しゅうらくの ひとたちが こまらないように」

「みつからなくなるまで ぜんぶ やっつけます」

 

バルバトス

「手伝いたい所ではあるけれど、環境が厳しすぎるからねえ」

「その点、パエトンは寒さを物ともしないし、大空洞の全てを有利に活かせる、か」

 

モラクス

「ベレトやミカエルが滑ってった坂を逆に登ってったのとか凄かったよなあ!」

「壁も天井もササーって這って行って、あっという間にロープ降ろしてくれたりで近道し放題だったし」

 

シャックス

「相性バッチリバッチリ!」

 

ウェパル

「ササーって言うかカサカサって言うか……あのスピードと動き、できれば余り間近で見たくはないけど」

 

フォラス

「バッチリでもねえだろ、クラゲはパエトン追討用に改造された幻獣なんだから」

「良いか、パエトン。クラゲを倒す時は出来るだけ遠くからだ。フォトンを奪われちまうからな」

 

パエトン

「はい おなかがすいたら しゅうらくで まちます」

 

フォラス

「良し、道中で説明した事ちゃんと覚えてるな。いい子だ」

 

ガイード

「パエトン。心配じゃないと言ったら嘘になるが、これはお前にしか出来ない事だ」

「応援してるぞ。でも、思い出した時だけでもたまに帰って来い。ヴィータの暮らしを忘れちまわないようにな」

 

パエトン

「はい ごはんをたべに たまにかえります」

「では このあなは ここでとじますね」

 

ソロモン

「ん……穴を閉じる?」

 

パエトン

「はい すいしょうで いわを うごかして うめます」

「かいぶつ …… クラゲを やっつけるまで でてこないように」

「なので ちていこの むこうも あとで うめます」

 

バルバトス

「そ、そんな事が出来るのか……!」

 

ミカエル

「プロバブリー。地割れ、岩の隆起と言った現象も異常気象の内に含まれていた」

「精密な埋め立てが不可能でも、横穴内部にだけ軽度の落盤を起こせば、同じ結果を得られる」

 

ガイード

「で、でもそんな事したら、パエトンも出てこれなくなるんじゃあ……」

 

パエトン

「わたしは ほって でます」

 

ガイード

「ほって……ほ、掘る?」

 

パエトン

「はい こうやって」

 

 

 パエトンの両手がほんのりと光った。

 手近な壁を爪とぎのように引っ掻くと、面白いように岩も水晶も削り取られていく。

 見る間に横穴の中に更に横穴が築かれ、カーブして開通、『地底湖脇の横穴』が2つに増えた。

 

 

ウェパル

「あの『大技』……こんな使い方できるのね……」

 

モラクス

「(モグラだ……)」

 

シャックス

「(オケラだあ!!)」

 

パエトン

「それで こうします」

 

 

 言うと同時、パエトンが通ってきた穴の地面がせり上がり、穴は痕跡だけを残してたちまち塞がれた。

 

 

ミカエル

「アンビリーバボー……本当に埋め立ててしまった」

 

パエトン

「かえりみちで すいしょうを いろいろ うごかしてたら おもいつきました」

 

フォラス

「すげえとしか言えねえや……」

 

パエトン

「えへへー」

 

 

 普通にトコトコ歩いて元の横穴に戻るパエトン。

 

 

パエトン

「みなさんを しゅうらくに おくったら あなをほって むこうへいきます」

 

ガイード

「いや、それじゃあパエトンが二度手間になっちまう」

「俺がひとっ走りミハルの所に行って予備の防寒具を持ってくる。それなら行って帰る手間も省けるだろう」

 

パエトン

「でも かえりも さむいですから」

 

アンドラス

「俺は案内の人に賛成かな。せっかく来たんだ。大自然ってのを堪能しながら帰るのも面白そうだし」

 

フォラス

「堪能で済めば良いけどな。ま、俺も賛成だ。この歳で子供に世話かけっぱなしじゃ立つ瀬がねえ」

 

ソロモン

「他の皆は……同意見みたいだな」

 

パエトン

「え えっと ……」

 

バルバトス

「君にも少しは楽をさせたいのさ。どこで別れるにしても、またすぐに会えるしね」

「それに、ここは観光地なんだ。大空洞らしい歩き方もしてみたいんだよ」

 

ガイード

「決まりですな。じゃあ、あっしは早速行ってきますんで、それまではゆっくり休んでてください」

「パエトン、俺が戻るまでお客さんらが冷えないよう、案内役としてよろしく頼むぞ」

 

パエトン

「は …… はい がんばり ます」

 

 

 去っていくガイード。

 漏斗状の穴から覗く水晶達が燃え上がり、上昇気流に乗って一帯を暖めた。

 

 

ソロモン

「さて、と──」

「パエトン、すっかり話しそびれてたんだけどさ」

「俺の召喚を、受けてくれないか?」

 

パエトン

「しょう かん ……」

 

ミカエル

「ソロモンの指輪……君の生きた時代にはまだ存在しなかった」

「メギドラルはメギドを召喚し使役する力を持つヴィータを生み出した。それが彼、ソロモン王だ」

 

パエトン

「ソロ モン …… オー ……」

「…… オー ……」

 

ソロモン

「ミカエルが言うほど大それたものじゃないよ。俺はそういうやり方は好きじゃないし」

「俺がパエトンを呼んだって心に伝わるはずだから、それに応えてくれれば良いんだ」

「それで、俺達は仲間になれる。それに……その……」

 

バルバトス

「今、このヴァイガルドではメギドがメギドラルの姿で居てはならない事になってるんだ」

「もしメギドの姿になってしまうと、説明が難しいけど……この世界から『追い出され』てしまう」

「だけど例外がある。ソロモンの召喚を受けたメギドは、かつての姿になる事を許されるんだ」

 

ソロモン

「そ、そうなんだ。だから、もし今回みたいな事があったとしても……」

「パエトンがメギドの姿になっても、それだけでパエトンが『追い出され』る事はないんだ」

「それに、パエトンの方から俺に召喚するよう呼びかける事もできる」

「本当にお腹が空いてしまった時、呼んでくれれば、すぐに召喚してフォトンをあげられるんだよ」

 

パエトン

「フォトンを すぐに …… たくさん …… おー ……」

 

ソロモン

「ま、まあ、大空洞くらいにフォトンが沢山ある場所は余り多くないけど……」

 

フォラス

「あー、それとな……小難しい話だが、パエトンがメギドラルに居た頃より、世の中ややこしい事になってんだ」

「今、メギドはこの世界のフォトンを根こそぎ盗んでやろうって色々と悪巧みしててな」

「そのせいで、ソロモンの召喚受けてないメギドが居ると、偉い人達が『大騒ぎ』しちまうんだ」

 

ミカエル

「悲しい事に……ね」

 

フォラス

「俺達はメギドが悪いやつばかりじゃないって事はよく知ってる。お前さんがいい子だって事も」

「だが……あー、お偉いさん達も、この世界のために、『決まり』ってのをどうしても守らなくちゃいけなくて……」

 

パエトン

「うー …… しょうかん を しないと メギドは すんではいけない きまり ですか」

 

バルバトス

「簡単に言えば、そういう事なんだ」

「メギド一体一体が良いメギドか悪いメギドか全部調べる事は、とても難しいからね」

「だから、良いメギドも悪いメギドも全部一緒に……そういう『決まり』を作るしかないんだ……」

 

パエトン

「ちょっと わかります」

「しょうかん してないと えらいひとが おこりに くるのですね」

 

ソロモン

「うん……だから、できれば今の内に召喚を受けて欲しいんだ」

「フォトンの事もあるけど……パエトン自身と、ポーのためにも……」

 

パエトン

「…… …… うー ……」

「うー ……」

 

ソロモン

「パエトン……?」

 

 

 パエトンは立ち尽くしたまま、指が時折カチカチと揺れる以外、微動だにしない。

 

 

バルバトス

「考え中のようだね」

 

モラクス

「いや、考える理由なんてなくね?」

「アニキは仲間が嫌がる事とか絶対しねえし、パエトンにとっても良い事ずくめじゃん」

 

ウェパル

「……パエトン」

「『はい』か『いいえ』で答えて。ソロモンの召喚を受けるのはイヤ?」

 

パエトン

「い いいえ」

 

バルバトス

「質問……そうか、同時にこなせないのか。ある程度こっちでサポートしないと詰まってしまうんだ」

「自分がどうしたいか把握する、考える、言葉を作る……無意識にこなす中にも多くの行程があるからな」

 

ウェパル

「どうしてもソロモンの召喚を受けられないっていう理由がある?」

 

パエトン

「…… いいえ」

 

ウェパル

「どっちでもないか……バルバトス、パス」

 

バルバトス

「諦めるの早いな! まあ良いけど……」

「そうだね……パエトンの、そしてポーの性格を考えると……」

「パエトン、2ついっぺんに聞くよ。どっちかが『いいえ』だったら『いいえ』と言ってくれ」

「まず1つ目、君は召喚を受けたいと思う」

「2つ目、召喚を受けたいけど、君が決めてはいけないと考えている」

「例えば、ガイードさんのような代わりの人が認めたら召喚に応じたい……とか」

 

パエトン

「!」

「は はい それ あ それ『です』」

 

ソロモン

「パエトン、気になってたんだけど……わざわざ敬語に直さなくても大丈夫だからな?」

 

バルバトス

「直したいんだよ。自分の力で『ちゃんとした自分』になれてると思えるように」

「それより、パエトン。その食いつきだと、今のが悩みの理由だったようだね」

「言葉は考えられたかい?」

 

パエトン

「はい あの お ……」

 

 

 チラッと、ソロモンがおぶったベレトを見るパエトン。

 

 

パエトン

「お …… オー さま が …… いいって いったら よんでください」

 

ソロモン

「オーさま……王様?」

「あの……自分で言うのも何か恥ずかしいけど、王様って、俺の事じゃなくて?」

 

パエトン

「はい おんぶしてる オーさま です」

 

モラクス

「いやだから、アニキはベレト背負ってるから、おんぶしてる王様じゃねえの……?」

 

バルバトス

「あ~……わかった。ソロモン『が』、おんぶしてる方の王様の事だ」

「ベレトが『召喚しても良い』とソロモンに認めたなら召喚を受けるって事だね?」

「何でベレトを指名したのかは分からないけど……」

 

パエトン

「はい オーさま なので」

 

ウェパル

「確かにベレトが、ポーは臣下とか何とか言ってたけど……何、マジなの?」

 

バルバトス

「どうだろうな……パエトンがそれを聞いてて真に受けちゃったって可能性の方が……」

 

フォラス

「いや、今は知性に慣れてないだけで、ポーと頭の程度は同じだろ?」

「パエトンだけが誤解するって考えるのも、ちょっとどうなんだ……」

 

シャックス

「違う違う! ポーポーとパエパエはベレベレとランランでお友達だから──」

 

モラクス

「いや何言ってるか全然わかんねえし」

 

ソロモン

「え、えっと、パエトン? ベレトはこの通り眠ってて応えられる状態じゃないからさ」

「こういう時はパエトンの考えで決めても良いと思うんだけど……?」

 

パエトン

「…… …… うー …… でも オーさま なので ……」

「わたしは あたまが つかえないので …… 『わからない』ことが たくさんで ……」

「うー …… ううう ……」

 

 

 頭を抱えだすパエトン。

 

 

ソロモン

「ええー……」

 

 

 回想終わり。

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

ソロモン

「それで、まあ何度か聞き直しても、やっぱり『ベレトが良いって言ったら』ばかりでさ」

「メギドとは言えあんな子に、こっちの複雑な事情を分からせようってのも、酷だろ?」

「だから、その場は召喚は保留って事で、パエトンとも別れたんだ」

「多分、まだまだパエトンは自分に自信が持てなくて、自分で決められなかったんだと思うけど……」

 

ベレト

「…………」

 

 

 ベレトは、ソロモンの話を聞いているのかいないのかも怪しいほど呆けた顔で黙りこくっている。

 一瞬、口角を引きつるように上げた後、咳払いしながら椅子に座り直し、テーブルに両肘を突き、組んだ両手に額を預ける姿勢で顔を隠し、口を開いた。

 

 

ベレト

「……よく、それでハルマが黙っていたな」

 

ソロモン

「全然黙ってなかった」

「今日までフォラスとバルバトスと、ミカエルにも口添えしてもらって、主にガブリエルを説得してた」

「色々と話し合って、ひとまず7日の『期日』を設けてもらってな」

「帰った翌日……ベレトが起きた後の事だから、丁度明日がその『期日』だったんだ」

 

ベレト

「『期日』……?」

 

ソロモン

「その間に、パエトンを召喚しろって事。『期日』を過ぎたら……」

「俺は野良メギドの管理を任すに値しないって事で、処分はハルマが下す事に──」

 

ベレト

「ドアホウっ! だったら何故もっと早く儂に話さなかった!!」

 

 

 顔を上げ、ダンとテーブルを叩くベレト。ソロモンに思いっきり唾がかかった。

 

 

ソロモン

「だ、だってベレトがとてもそんな雰囲気じゃなかったから……!」

「最初に起きた日も幽霊みたいに部屋に帰っちゃうし、そのままペルペトゥムも放り出して引きこもるし……」

「ただ事じゃないから無理強いはさせない方がって、今日まで悩んでて……」

「ベレトこそ、何で急にそんなになっちゃったんだよ? 俺が何かしたなら言ってくれよ!」

 

ベレト

「そ……っ! そ……ぬ゛ぅぅぅ~~~……」

 

 

 歯ぎしりしながら顔を背けるベレト。

 

 

ベレト

「そ、そんな事をとやかく言い合っとる場合じゃないだろうが!」

「あいつの身がかかっとるなら、今すぐにでも召喚しろ! 早く!!」

 

ソロモン

「い、いや、だからその必要が無くなったんだって……」

 

ベレト

「な、何ぃ?」

 

ソロモン

「だから昼頃までは『期日』が明日一杯だったけど……『期日』が延長されたんだ」

「バルバトスは7日の『期日』を容認させた時点で勝利は約束されてるなんて言ってたけど……」

「6日ギリギリまで待たされたこっちは本当にヒヤヒヤしたよ」

 

ベレト

「ハ……ハルマが、折れたというのか?」

「いや、今までだってハルマ共にはこっちの要求を思う様飲ませてやったような気もするが」

 

ソロモン

「そこまで大それた事はしてないと思うけど……」

「仮に俺達がハルマとの交渉に強気に出られるとしても、今回はそういう訳にいかないよ」

「一時的とは言え、内輪の都合でメギドの管理を果たさなかったこっちが悪い」

「ヴァイガルドのメギドは俺たちが責任持つって、そういう信頼関係があるわけだし」

 

ベレト

「むぅ……」

「そういえば、何故7日なのだ。ポータルも置いたのだろう?」

「ハルマ共ならその日の内に『今すぐこの場で召喚しろ』くらい言いそうなものだが」

 

ソロモン

「殆どバルバトスの受け売りになるけど……まず、先に7日後の再訪を予定してたって事」

「事前にパエトンに、またフォトンが足りなくなるまでの猶予期間を聞いたんだ」

「そしたら少なくとも7日は大丈夫って、本人から言質が取れた」

「7日あれば、俺の休養や、依頼とかメギドラルとか諸々を済ませて予定を空けられる」

「だから、そこでもう一度、パエトンと猶予期間について話し合おうって」

 

ベレト

「それが説得にどう役立つのだ?」

 

ソロモン

「こっちはあくまで、『期日』を何日設けさせるかの布石にしたって言ってたよ」

「本題はもう一つの方で、『ロンバルドはメギドとの共生関係が確立してる』って事」

「これについては、特にミカエルが熱烈に語ってくれたってさ」

 

ベレト

「強制関係?」

 

ソロモン

「今、多分、別の言葉思い浮かべてるだろ……」

「パエトンと集落の人達が、互いを支え合って生きているって事だよ」

「まず、パエトンにとってどれほど集落の人達が大切かは説明するまでも無い」

「で、集落にとっても、パエトンの存在は生活に欠かせないものになってる」

「パエトンと集落は互いに影響しあってここまでやって来れてるんだ」

「だからパエトンとの関係が拗れると、その皺寄せがロンバルドにまで及びかねない」

 

ベレト

「水なら分かるが、メギドそのものがヴィータの生活に重要か?」

 

ソロモン

「ああ。ほら、大空洞全体がパエトンの体も同じって話したろ?」

「大空洞の水晶がパエトンの一部なのも、俺達が帰る時に実証されてる」

「その水晶のお陰で、中では灯りに困らないし、空気中のフォトンもヴィータに影響ないレベルに薄まってる」

 

ベレト

「なるほど……そう考えると確かに」

 

ソロモン

「他にも、地底湖の水だってパエトンがフォトンを吸って薄めたものってバルバトスが考えてた」

「もしかしたら今後、水脈が変わって急に地底湖の水が毒抜きの必要な水になるかもしれない」

「そんな時も、パエトンなら水から直接フォトンだけ吸い出せるから、パエトンの腹も満たせて一石二鳥だ」

 

ベレト

「ああ、儂のメギド体をぶち抜いた『大技』か」

「だが、水晶はヤツの魂が無くとも『仕組み』だけで動くとか言っておったはずだ」

「水にしたって毒抜きさえすれば売り出せん事あるまい。根拠にするにはまだ弱いぞ?」

 

ソロモン

「最後のひと押しに、地下水脈の話を出したんだってさ」

「集落にまで異常気象が及んだって事は、地下水脈までパエトンの一部になってる可能性が高い」

「つまり、言ってみればロンバルドという土地全体がパエトンも同然って事なんだ」

「そして、独立しているように見えても、パエトンと大空洞は『繋がってる』可能性がある」

 

ベレト

「おい、そこはフォラスが大空洞で答えを出してたはずだ」

「異常気象で集落のフォトンが薄まるだかおかしくなるだか」

「大空洞の影響が直接伝わっとるのでなく、その場のフォトンの変化がメギド体であるポーを……」

「いや待て? あくまで可能性の話か。証明などしておらんし……」

 

ソロモン

「そういう事。仮説は立つけど、それを実際に確かめる方法がない」

「だから何かの理由で『繋がってる』可能性も否定しきれないんだ」

「大空洞がポーに影響を与えたように、パエトンの状態が大空洞の環境を変えるかもしれない」

「パエトンを危険に晒すような実験をすれば確かめられるけど、それでもし『繋がってた』場合……」

「大空洞の水晶もただでは済まないはずだから、最悪、大空洞が崩落、集落も地下水脈ごと沈み込んで……」

 

ベレト

「や、やめろ。今は考えたくもない……」

 

ソロモン

「うん……だから、流石にガブリエルもそれは確かめようとはしなかった」

「ロンバルドの安全のために、パエトンを放置した責任を俺達に求めてる訳だからな」

「俺達の責任問題のためにロンバルドを危険に晒したんじゃ本末転倒だ」

「これでまず7日を勝ち取れた。パエトンに今すぐ手出しするのは得策じゃないからだ」

「それで、『共生関係』がどれだけ事実なのかを確かめるって方向に切り替わった」

「言うほど共生って程で無いなら、多少の無理は通せるだろうって事だ」

「パエトンの要望を無視して召喚しても、ロンバルドや大空洞への影響は少ないって事になるから」

 

ベレト

「その調査の期間が7日という事か」

 

ソロモン

「その間、ロンバルドに行ったメンバーに交代で、向こうで滞在してもらってたんだ」

「例えば、今日の当番はアンドラスだった」

 

ベレト

「何のために?」

 

ソロモン

「俺たち側の調査員、それと見張りを兼ねてだよ。一応、王都とは対等の関係って事になってるしさ」

「実態調査している間、こっちから手伝いに一人派遣するって形だ」

「騎士団はもちろん、たまにガブリエル本人も視察に行ってたってさ」

 

ベレト

「ふむ……で、あの冷血ハルマが、ヴィータとメギドが仲良くしてる所に胸打たれたとでも?」

 

ソロモン

「流石にそこまでは……『否定する材料が見出だせなかった』ってのが答えだってさ」

 

ベレト

「ハンッ、いかにも捻くれた返事だ」

 

ソロモン

「ただ、ガブリエル的には肯定する材料も無いから、それで相殺ってなったらしい」

 

ベレト

「ヤツがヴィータの生活を助け、今も己を閉じ込めて幻獣退治しとると言うのに、何が足りんと言うのだ!」

 

ソロモン

「そういう事で物を判断するタイプじゃないからなあ、ガブリエルは」

「結局、パエトンを召喚せずに放置しても大丈夫って確証が無いのも事実だし」

 

ベレト

「そんなんでよく『期日』が伸ばせたものだな……」

 

ソロモン

「一昨日くらいの時点で、良い所までは行ってたんだってさ」

「集落の人達が騎士団をもてなしてくれたり、パエトンとも会わせてみたり」

「騎士団からの心象もすっかり良くなったそうだよ」

「それにパエトンも調子が良くて、当分、暴走の心配は無さそうだったって」

 

ベレト

「な……貴様、功労者の儂に黙ってパエトンに会いに行ったのか……!」

 

ソロモン

「俺は行ってないって。それに申し出てくれたら最優先でベレトを送り出してたよ……」

「とにかくそれで王都側を延期容認に抱き込んで行ったけど、ガブリエルだけは崩せなくて」

「けどそこで、シバのお陰で決着が着いたんだ」

 

ベレト

「何だ、急に登場人物増やして」

 

ソロモン

「たまたまその日の会議に立ち会ってたんだよ。一応、今回の依頼主だしさ」

「ガブリエルもシバが俺たち寄りなのは分かってたから始めは冷たかったけど……」

「シバが気づいて、何気なく呟いたらしいんだ」

「この調子で王都と俺達が口論してるのがメギドラルに嗅ぎつけられたらマズイんじゃないかって」

 

ベレト

「ふむ。両陣営が睨み合って他所に手が回らんでいれば、メギドラルが気付くやも知れぬと」

「すると、そこからロンバルドの存在をもメギドラルに知られてしまう……」

「いや、元から何がメギドラルに見つかっても良い事などない。言うだけ今更だろう?」

 

ソロモン

「そうなんだけどさ。共生関係自体は、既に成り立っちゃってるんだ」

「ガブリエルも、度合いはともかく、それは認めざるを得なかった」

「つまり今後、メギドとハルマやヴィータで会談して、新しく協定を結ぶとするだろ?」

「メギドがロンバルドを名指しして、『ここにメギドで成り立つ土地があるじゃないか』って言ったら……」

 

ベレト

「う……!」

「つけ込まれるではないか! それも極上のフォトンスポットごと!」

 

ソロモン

「そう。パエトンをダシに実効支配を主張、領有権を求められたりすると厄介な事になる」

「俺たちの不手際とはいえ、お互いの足並みを淀ませて、メギドラルに気取られるのはマズイ」

「だからって、さっき言った通りパエトンを無下にしてしまうと、大災害の可能性がある」

 

ベレト

「……なるほど、そもそも大空洞は今のメギドラルでは在り得ぬほどのフォトンスポットだ」

「大空洞の存在が知られるだけでも、メギドラルがヨダレを垂らすだろうな……」

「なら……何事もなかった事にする他あるまい」

「元からロンバルドは、洞窟の水とフォトンだけが頼りの不毛の土地……」

「そう言う事にして、儂らが訪れたという一連の事実など、早々に歴史に埋めておくべきだ」

 

ソロモン

「ああ。ガブリエルも流石に重く考えてくれたらしい」

「ガブリエル本人も大空洞のフォトン量を目の当たりにしたらしいしな」

「俺達にパエトンを召喚する意思が確かにあるって事もあって、ガブリエルも妥協してくれたよ」

「ひとまず波風立てず、ロンバルドの問題は早めに流す」

「まあその代わり、別の形で落とし前は付けてもらうって釘も刺されたらしいけどね」

 

ベレト

「……おい待て? バルバトスは確か、『期日』を定めた時点で勝ったと言ったなどと……」

「仮にハルマをへし折るのに、ここまでのお膳立てが必要だったと考えるとだ……」

「バルバトスのやつ、いつから、どこからどこまでを……!?」

 

ソロモン

「バルバトスかフォラスのアイディアなのか、それとも仲間の知恵を借りたか……」

「まあ、そこは教えてくれなかったよ」

 

ベレト

「ぬぅ……」

 

 

 一息置いて、改めてシチューをよそうベレト。

 もういくらか冷めてきていたが、3杯目を構わず口にする。

 

 

ベレト

「ずるっずずー……おい」

 

ソロモン

「何だ?」

 

ベレト

「その『期日』、わざわざ伸ばそうとした理由はもしや……」

 

ソロモン

「もちろん、ベレトがさっきまであんな調子だったからだよ」

 

ベレト

「さっきも言ったが、さっさと儂に話せば良かったはずだろう」

「指輪ででも呼べば、後は流石に手を貸すに決まってるだろうが」

「だのに今日まで指輪で呼ばれる気配さえ無かった」

「いや、そもそも部屋の前で要件だけ言えば充分なはずだ」

「メギドをハルマの勝手にさせるなど、儂が黙っておらん事くらい分かるだろうが」

 

ソロモン

「それはそうだけど……」

「結果としては、『期日』だけじゃなくロンバルドの安全のために王都の協力も取り付けられた」

「パエトンが必要以上に注目集めて、噂が広まらないようにする工夫とかさ」

 

ベレト

「そんなものは『ついで』だろう」

「ギリギリまで儂のプライベートを優先し、しまいには弱々しく儂に縋りつきおったのは何のためだ」

「そのために『期日』の延長まで根回しした、そんな貴様個人の目論見を吐けと言っとるのだ」

 

ソロモン

「……先に行っておくけど、俺は一言も、『期日』の延長を頼んだりしてないよ」

「バルバトスとフォラスが、俺より先にそうする段取りを始めてくれてた」

「皆ベレトを心配してたからこそだ。そこはちゃんと理解してくれ」

 

ベレト

「う、うむ……お、おせっかいなやつらだ……」

「だ、だが、貴様もそれを認めたという事だろう。貴様は延長に何を企んだのだ」

 

ソロモン

「まず、俺が指輪を使わなかったのは、『それは絶対にダメだ』って……そう思ったんだ」

「切っ掛けは、パエトンがベレトの許可を求めてきた時だ。内心、ハッとなった」

「パエトンはさ、ベレトを『王様』って呼んだんだ」

 

ベレト

「お……お、う、さま……?」

 

 

 目を丸く見開くベレト。

 

 

ベレト

「あっ……! あ、あいつ…………」

 

ソロモン

「ベレトも確か、パエトン……ポーは『臣下』なんだって言ってたよな」

「それでふと、思い出したんだ。ベレトを初めて召喚した時の事を」

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 回想。赤い月の墜ちた地。

 

 

ソロモン

「だけどベレトを、無理矢理この指輪で支配するような真似はしたくないんだ」

「それじゃ……奴隷商人と同じだろ」

 

ベレト

「!!!!」

 

パイモン

「ソロモン王、キミは……メギドと『対等』に……?」

 

 

 中略。

 

 

ソロモン

「よかったっ! 召喚に同意してくれるんだな!」

 

ベレト

「待て、誤解するなよ!」

「少しは静まったとはいえ、儂の『怒り』は尽きることのない原動力だ!」

「生きてる限り、儂は怒るっ!」

「貴様は召喚主として、儂の怒りの『正しい』ぶつけ先を提供する義務があるのだ!」

「それでもよいなっ!?」

 

ソロモン

「わかった! 幸い……っていうのは微妙だけど、怒りのぶつけ先は山ほどある」

 

ブネ

「『ハルマゲドン』とか、『メギドラル』とかな。どっちも遠慮はいらんぞ」

 

ベレト

「よかろう、ソロモン王! 儂は誰の支配も受けぬが……貴様の『招待』なら、受けてやる!」

 

ソロモン

「ああ……いくぞ、ベレト!」

 

 

 回想終わり。

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

ソロモン

「いつも、ベレトが気にしないでくれてるから、つい忘れがちだけどさ」

「ベレトは俺の『招待』を受けた、『対等』の相手なんだ」

「『王』と『対等』なら、ベレトも『王』って事だ。いつも自分で言ってるしな」

 

ベレト

「な……え……?」

 

 

 目を白黒させるベレト。

 瞳が潤んでいる気もするが、真夜中に蝋燭1つきりの頼りない視界では判然としない。

 

 

ソロモン

「そして、パエトンはベレトを『王様』と認めてる」

「なら臣下でも何でも、『対等』の相手の『仲間』を、俺の勝手で引き入れちゃいけない」

「ましてや俺の勝手のために『対等』の相手を呼びつけるなんて、絶対にしない」

「ちゃんとそのための場を作って、納得できる形で、話し合うべきだ」

「『仲間』として、大事な事なんだ。そのための時間は幾らだって用意するに越したことは無い」

 

ベレト

「そ、そのため、だけに……?」

 

ソロモン

「大した事はしてないだろ? 結局、気持ち悪いなんて言われたし……」

 

ベレト

「いやそれは流石に貴様が悪い」

 

 

 素に戻るベレト。

 

 

ソロモン

「ごめんってば……」

「後は、仮にベレトがあっさり部屋から出てきてくれても、7日じゃ足りないと思ってさ」

 

ベレト

「足りない? 儂の許可があれば呼んで良いとヤツも了承したのだろう?」

「儂のちょっぴりセンチな気持ちを慮った事は認めてやらんでもないが、だ」

「話さえ聞けば後は一瞬だろう。儂が認める、貴様が呼ぶ、ヤツが来る。これで完了だ」

 

ソロモン

「でもパエトンは、俺の仲間にもなってくれるだろうけど、あくまでベレトの臣下だろ」

「『対等』の相手からの許可を得て協力してもらうんだ。軽々しく呼ぶのは何か違うと思う」

「ベレトの見てない所で呼び出したりして、ベレトにヤキモチ焼かれても困るし」

 

ベレト

「やっやや、や、焼くかバカっ! そのくらいでこ、この儂が……バ、バカっ!!」

 

ソロモン

「(二度言った……)」

「と、とにかくさ。俺も一応ソロモン王で軍団長って立場なわけだし……」

「ちゃんと交渉して、取り決めを交わさないとって思うんだ。ベレトと」

 

ベレト

「と……?」

「…………取り決め?」

 

 

 ぽかんと口を開けるベレト。

 

 

ソロモン

「まあ、俺もこういうことに詳しくないから、本格的なものじゃないけどさ」

「例えば、緊急時だったら俺の都合だけでパエトンを召喚しても良いか……とか」

「もしかしたら契約書とか書けとか言われるかもって、一応用意だってしたんだぞ」

 

ベレト

「……わ、儂と?」

「貴様が? ……ソロモン王が?」

 

 

 ぽかんとしたまま、自分を指差すベレト。

 

 

ソロモン

「だから、そう言ってるだろ?」

 

ベレト

「じゃあ……そのためだけに……ハルマに『期日』を作らせて……」

「期限いっぱい待ちぼうけて、無理くり引き伸ばして……?」

 

ソロモン

「バルバトス達は分からないけど、俺個人としては、そうなるな」

 

ベレト

「…………」

 

 

 ぽかんとしたまま、まじまじと、対面のソロモンを上から下まで見つめ直すベレト。

 

 

ソロモン

「……な、何だよ?」

 

ベレト

「……」

 

 

 ぽかんとしたまま、シチューの皿を見下ろし、一口頬張った。

 咀嚼しながら、顔を伏せ、プルプル震えだした。

 

 

ベレト

「……ふ……ふふ……」

 

ソロモン

「ベ、ベレト……?」

 

ベレト

「ふ、ふひふふ……くふふ……ふひひふふふふぅ~……!」

 

ソロモン

「あの……?」

 

ベレト

「……むぁぐっ! がふっ! ふもぐぉ!」

 

 

 力任せにシチューを掻き込むベレト。こぼれたりあふれたりで口から首元までベタベタになっていく。

 

 

ベレト

「むがっぐぐ! ……ふー……」

「やい、『ソロモン』!」

 

ソロモン

「お、おう?」

 

ベレト

「先に言っておくぞ、パエトンを呼ぶ事は認める。だが、やつにはまだ務めがあるらしいな」

「務めを果たして、貴様が実際に呼ぶ時は、その前に儂を呼べ。儂が拒否してもしつこく呼べ!」

「思い返せば、儂はまだやつを『パエトン』と呼んでやってさえ居ないからな」

「これでは『王』として名折れだ。儂が最初に召喚を言祝ぐ。良いな!」

 

ソロモン

「わかった。約束するよ」

「(何だか、急に元気になったな。まあ、これで一安心かな)」

 

ベレト

「よし、まずは風呂だ。何日も寝そべっておったから髪も体もベタベタでかなわん」

 

ソロモン

「うん、口周りとか特に」

「じゃあ、お湯は俺が用意しとくよ」

 

ベレト

「うむ。上がったら早速、交渉とやらに応じてやろう」

 

ソロモン

「いや、お湯を届けたら今日は早く寝ようと思う」

 

ベレト

「ぬぐっ……何なのだ、すっかり人をその気にさせておいて!」

 

ソロモン

「悪い悪い。でも、言ったろ? 7日後にパエトンと話し合う予定だったって」

 

ベレト

「あっ……という事は」

 

ソロモン

「ああ。俺はベレトに、バルバトスは王都に付きっきりだったからさ」

「明日の昼から、パエトンに会いに行くんだ。もちろん、一緒に来るだろ?」

 

ベレト

「行く! 絶対に行く!」

「しかし……ええい、眠りまくっておったから全く寝付けそうにない。腹が立つ!」

 

ソロモン

「適当に時間を潰してれば、また眠れるんじゃないか? 時間になれば俺も起こしに行くし」

「それに、夜のアジトを回ってみるのも何か発見があるかもしれないぞ」

 

ベレト

「ふむ。ちょっと面白そうな気がしてきた……」

「ソロモン、『期日』は充分に稼げたのだろうな?」

 

ソロモン

「ああ。期間中は俺達がロンバルドで経過観察って条件付きだけどな」

「それでも、今度は7日なんて目じゃないくらい、長く取ってもらった」

「ベレトに万一が……ってのもあったけど、それ以上に慌ただしい時期でもあるし」

 

ベレト

「なら丁度良い、貴様が交渉を後先にするなら儂もそうする」

「明日のパエトンの件が済んだら、ペルペトゥムの溜まった仕事を片付けてくる」

「貴様に暇が出来た時にでも指輪で呼べ。交渉を進めさせてやる」

「長引けばハルマ共を少しでもやきもきさせてやれるかも知れんしな。クックック……」

 

ソロモン

「ハルマはどうかわからないけど……そういう事なら分かった。ペルペトゥムを引き続き頼む」

「最初はベリアルに肩透かし食らったとか騙されたとか言ってたけど、随分やる気じゃないか」

 

ベレト

「うむ、ヴィータを招く以前の問題だわベリアルも初っ端からサボろうとするわ……」

「だが、建国する気なのは確かなようだ。それに儂も気が変わった」

「いずれ受け入れるヴィータ共は、儂が面倒見る事を任されておる。つまり……ふふん」

 

ソロモン

「つまり?」

 

 

 椅子から降り、背筋を張り、ベレトは誇らしげに己の胸をドンと叩いた。

 

 

ベレト

「『儂の』! 民なのだからな!」

 

 

<THE END>

 

 




・作品全体のあとがき
 長らくお付き合いいただきありがとうございました。
 まだまだ駆け出しですので、拙い表現やら、持って回る展開やら、お見苦しい部分があったかもしれません。

 程度が低すぎたりややこしかったりで話がよく見えてこなかったという時は、
 簡単にまとめると「ベレトに子分ができる話」というつもりだった事だけ心の片隅にでも留めていただけると幸いです。



・61話のあとがき

 質問箱曰く消灯時間が決まってないアジトですので、消灯係についてはオリジナル設定です。念の為。
 メギド世界の暦がどうだったか、ちょっと記憶が曖昧だったので『一週間』という表現を用いないようにしています。


・全体の自己反省
 ベレトは「無口で引っ込み思案の儂とは今日でさよなら」とか「おこりんぼの割にキュート」とか、たまに自己評価が高め&少女チックになるという認識だったので、そこを作中でうまく表現できなかった所が、若干心残りとなりました。むしろ奴隷として生きてきた卑屈な一面を描く形に……。
 それともう一つ、基本的に食に興味のないメギドの中で「ドライエイジングを超えた旨味」を好んだベレトは食通の素質があるかもとか考え、エピソードに取り入れたかったのですが、こちらも機会が無く。
 どちらも今後、ベレトが出演する話を考えた時は気を付けたいと思います。


・最後に
 またしばらく間を置いたら、次回作を書いていくつもりです。
 メギドなら最推しのザガンさん主役の話。
 グラブルならもっと早くに形にしたかったオイゲン主役の話の予定です。

 メギドで書くなら、今回以上の独自解釈を混ぜに混ぜるかと思いますので、もしご期待いただける方がいらっしゃれば、予めご了承ください。

 グラブルもプレイされている方がいらっしゃいましたら、よろしければ前作のアンナさん(推しキャラ)が主役のお話もご一読いただけるとありがたいです。
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