私は護る小人を   作:丸亀導師

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第34話 巡礼

ウェルスと騎士の戦いは、一方的な終わりかたをしてきた。ウェルスが圧倒し、騎士はなす術なく力にねじ伏せられる。

例えどんなに攻撃をとしても、それを逆手に取られ拳で潰される。

頭を握り潰されたり、剣で頭から尻まで両断されたり。様々な殺され方をしているが、この不死は諦めることを知らないのかいつまでも戦いをしようとする。

 

ウェルスは嬉しくなって、しまいには声を大にして剣術指南をしていた。今まで異形とばかり戦ってきたのであろう、その剣術は余りにも大振りで隙が大きく、対人には不向きで、もしもオーンスタインやダークレイス等と出くわせば返り討ちに会うのが目に見えている。

ならばと、自らの全てをこの諦めぬ者に叩き込んでいる。ウェルス自信何故自分がここまで彼に肩入れいているのかわからない、だが一つだけ言えることは、他の不死とはまるで違う何かを持っていると感じていた。

 

時が流れるのは早く、瞬く間に流れ順調に騎士は強化されていった。そして、ウェルスは有るものを渡すことを決意する。

 

「そこで止まれ、今まで自己紹介をしたことがなかったな。私の名は、ウェルス古い小人だ。お前の名はなんと言う。」

 

「……、俺の名は…。わからない、俺は名前すら忘れた。」

 

少しの間相法沈黙していたが、ふと何を思ったのかウェルスが言った。

 

「名が無いか、なら私がお前に名を与えよう。お前の名は、エスペランザと名乗るが良い。気に入らないなら捨てても良い、それとこれをお前にやろう。」

 

手に現れたものは一つの指輪、それは深淵歩きの伝承に現れる指輪と同じ形をしたもの。

 

「何故これをお前が持っている」

 

「昔貴公と同じように稽古を付けたことがある。まあ、あやつの方が貴公よりも遥かに腕は良かったが、だが貴公はあやつに無いものがある。」

 

不死は首をかしげた、最早亡者に近いものにあってアルトリウスに無いものがあろうものだろうか?

 

「それは、折れない信念だ。さあ、行けそれをもって我等が成し遂げられなかった事を果たせ。私が言っても奴等は姿を表さないからな。」

 

不死は指輪を受けとると、一目散に小ロンドへと入っていく。その背中を我が子のように見るウェルスがそこにいた。

 

そして、ウェルスは帰路に着く未だ不安の残る、山のような古龍の街へ。

 

 

《灰の大陸・アノールロンド》

 

ソラール先導の元、城?の中を走り続ける。城と呼ぶには余りにも巨大なそこは、まるでそこ一つが小国家とでも言える程の規模を一瞬見ただけで抱ける。

灰に被ったその全容を伺い知る事は不可能に近く、いったいどれ程の時が流れればこうもなるのだろうか。

 

その中を走っているにも関わらず、ソラールの足は止まることは愚か迷う事もしない。かって知ったるもの同然に彼は進んでいる。

 

「おい!バルドさん置いてって良いのかよ!」

 

「ああ!彼の者があの程度の燃え滓に遅れを取るのならば、巨人の友となり得ない!故に心配するな!バルドは、必ず来る!」

 

走りながらも、回廊を巡り何とか目的地にたどり着いたのであろう、彼の足はピタリと止まり一ヶ所に篝火を灯し始めた。

 

「この部屋ならば安全だろう。巡回も最早存在していないようだからな。それよりも、ロウリィ殿俺が何故飛び降りるのを止めたか、今見せよう。」

 

ロウリィは、途中ショートカットを行おうと建物から建物へと移ろうとした、それを彼が止めたのだ。そして、彼は近くに有った遺体を手に取るや、建物の外へと投げ捨てる。

するとどうだろうか、遺体は直ぐに灰のようにバラバラになり消滅してしまった。

 

「これがこの地、性格には巡礼地のルールだ。俺の指定する場所以外には行ってはならない、例外無くああなる。つまりは、ここは広く見えるが実はとても狭いのだ。まあ、俺もだいぶ死んだからなだからこそ言えることだ。」

 

「だったら出方もわかってるんじゃないのか?」

 

「そう焦るな。焦っては進むことも出来ずに、あの死体のようになるだけだ。」

 

そんな形で部屋に立て込もっている。見れば、古いが良くできた調度品の数々が置いてある、何れも此れも美しい。大きさを除けば。

 

「ねぇ、ちょっと聞きたいのだけど、ここにいた人たちってあの古ぼけた騎士みたいにぃ、とても身長が大きかったの?」

 

「うむ、それは『オオ、やっと到着した。まったく、私はこの国の地理に疎いのを知っているだろう?』神が住んでいた国だったからだ。」

 

バルドが到着すると同時に、安堵の空気が流れた。心配する余裕が彼等にはまだあると言うことだ。

それに引き換えソラールは、少し淡白だ。なれているのだろう、結局来れなくても不死ならば何れは到達できる。

 

「神の住んでた国って、私たちの伝承にある国の事ですか?」

 

「概ねそうだな。さて、バルドが到着したことだ急ごう。」

 

「少しは休憩させてくれても良いのではないか?」

 

「その程度で疲れるものではないだろう?かつて放浪の旅の果てに、巨人と手を取り合う程の猛者がその程度では。」

 

「ウム、そうか。貴公もかなりの実力者、太陽の騎士ソラール。その名はかつて、太陽の長子を崇拝するものたちに知れ渡る程の者であったな。そんな貴公が、余裕を見せないとは余程この地は恐ろしいものであったのだな。」

 

納得する二人を横目に周囲は置いていかれる。

されど、出発はするのだから身体が置いていかれる事はなく、古い話に花が咲く。

 

途中に現れる火の亡霊達を薙ぎつつも、歩みを止めることはない。ただ、それが続くわけもなく最初に音を上げたのはレレイだった。

例外も糞もなくただ、スタミナが足りないのは歳相応のものだろう、他のものよりかは遥かに優秀であるはずだ。

 

「ねぇ、レレイ大丈夫?ちょっと叔父さんたち急ぎすぎだよ!」

 

「おお、すまないな。だが、ここでは空間は愚か時間すらねじ曲がる。急がねば、最初の火の炉へは到達できぬ。幸いな事に、この場所はソラール殿が見知った場所だそうだ。もし、無理ならば私がおぶって行こう。」

 

そして、また進み出す。すると途端に開けた場所が見え、ソラールはそこを見たと同時に頭を抱えた。

 

「まさか、螺旋階段と書庫が無くなっているとは…。どうして、下に降りようか。」

 

そうして立ち往生してしまった。ヘリや航空機もなく、デーモンももういない、万事休すかと思われたその時。

 

「ヘッヘッヘ、困ってるようだなあんたら。」

 

突如として声が響いた。気が付くと、剥げたおっさんが蹲踞をしながら笑っていた。

 

「俺は不屈のパッチ、道案内してやろうか?」

 

どうにも胡散臭い奴がいた。

 

 

《日本》

 

伊丹等が旅立ってから一週間の時が流れている。だが、ゲートの向こう側から、本国へは通達することは無く、ただ来たものは遠征から帰って来た者達と、援軍と言う名のあのウェルスとか言う男だけ。

だが、不確かな情報をその時の内閣は信じた、そのウェルスと言う男だけが、全ての鍵を握っていると言う自衛隊からの情報を。

 

俄には信じがたいものが、こちらの世界にも起こっているのだから信じる他無い。

 

狭間陸将はこんな事態になる前から、ウェルスと交友を続けていた。

ウェルスが、再び日本に赴く前に彼へ話をしに来た。

 

内密な話を、それは不安を打ち明けるものであった。深淵と言う存在、それに対する自らの行った契約、それらを行う経緯を自らが記憶していないという事。

それによる自らの深淵に対する理解の不足、そしてかつてあれを封印した時他に三人の王が存在していたと言う事実。そして、契約により封印を解いたのであろうことを。

 

三人とは恐らくはウェルスの語る、神話の神だろう事は狭間は予測できた。そして、神話に語られない小人こそがウェルスだろう。それを、狭間は薄々とではあるが感じていた。

 

そして、そんな話を知らない内閣はウェルスに全てを押し付けようとする。自衛隊のPKFによる派遣。いや、前代未聞の国際レベルによる災害派遣特別法が確立される。兵器は最新の物を惜しげもなく注ぎ込む。

それは、人類の存亡を駆けるものだからだろうか?

そんな中でも、核地雷までの距離は狭まって行っているのだろう。

 

 

《灰色の世界》

シッダルタと名乗る修行僧は、三人と対面し共に足を組んで話を始めた。この世界の事と役割を。

 

「君たちは火継ぎをするためにここまで来たのかな?」

 

3人は肯定する。最も魔術師エルヴィラは、否定も含んでいたが興味はあったのだろう。この賢者のような男の話を。

 

「ここは古い時代、この世界へやって来た神が保険として作り出した世界だ。故にここにある文明は、まだ神に対する信仰が根強い時代のままの姿をしている。

そして、この時を操る所業を行いし神々は自らを贄として、火継ぎを行った。この灰色の世界を保つために。」

 

宇右衛門は聞いたでは、なぜ我々が火継ぎを行わねばならないのか。火が消えるとは何なのかと。

 

「我々が本来火継ぎを行う必要はない。あくまでもここにいるものたち、私を含めたものは保険のようなものだ。我々の太陽は星だ。

即ち、寿命あるものの燃え付けきるまでそれはそれは、永い年月が必要となる。そこの、探検家?学者もそれをよく知っているだろう?」

 

スコーラーは肯定した。だが、古代インドの服を纏った人物がその事を知っていることに違和感を禁じ得なかったが。

 

「だから、その為に火継ぎをするのではない。ここは牢獄だ。有るものを閉じ込め、この世界の消滅と共にそれを抹殺するための。それは、暗く重く全てを飲み込む。故に神ですらいや、神だからこそそれを殺そうとした。

そう、この灰色の保険の世界を一時的に保つためだけに、火継ぎを行う。全てはそれを殺すためだけに。」

 

3人は訳がわからなかったが、ただ一つわかることがあった。こいつは、火継ぎを行おうとしたのだと言うことを。

 

 




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