目的を果たせぬままウェルスは、灰の大陸へと帰って来た。何か手懸かりが有るのではないか、もしかすると私に何かを託して行ったのではないかと、考えていた。
歩き続けていると、ふと見覚えのある景色が近付いてくるところが見えた。
灰の大陸にある、唯一の封印地帯。そこの景色は全て幻想なれど、未だ生命の息吹を感じさせるのには十分すぎる場所であろう。
彼は旅の出発地、輪の都へと数万年の時を経て帰還したのだ。
そこでふと、誰かが倒れているのが見える、紅い頭巾を被った人だろうもの。
いや、只人や灰、不死人とも異なるソウルの瞬き。それはまるで、絵画世界の住人に似ていた。
だが、それでも服装が奴隷騎士とは、いったい何が目的でここまで来たのだろうか?
首を傾げていると、件の奴隷がウェルスを感じ取ったのかゆらりと立ち上がり、剣を構えた。
まるで、幽鬼の如く立ち上がりウェルスを睨み付けている。
何かを口走っている『お嬢様のために…』奴隷はただそれだけを口にし、ウェルスへと飛び掛かった。だが、そんな攻撃対して避ける必要もなく、剣を素手で捕まれる。
刃の無くなった剣など最早鈍器にすぎず、己よりも力の有るものには通用しない。
それを解っているだろうに、目の前の奴隷は眼光を鋭くさせるばかりか。打開策が、出てこないのだろう。
だから、ウェルスは言った。この先の都に用事があるのなら止めはしない、だがもしもそこでお前の手に入れたいものが、努力で勝ち取れないものであったらどうするのか?と。
奴隷は答えたそれでも目的を果たすと。
ウェルスは呆れて剣を離した、そして言った。
行けと、もう私に突っかかるなと。
奴隷は駆けていった、後に復活した灰の英雄により殺されるだろうその奴隷を見送り、ウェルスは再び印を探し続けた。
《中心部》
体が傷だらけになりながらも、騎士やソラール、バルドを相手取り大立回りをしているグウィン。
その並々ならなぬ執念はいったい何処から来るのだろうか、果たしてそれはテュカに目をつけた。
灰や不死である連中とは違い、生身の存在で限りある命で、戦闘経験に乏しく何よりこの世界では精霊魔法は使うことは出来ない。
精霊…。いや、古い小人達の意志がここには留まっていないからだろう。
だから彼女をグウィンは狙う。彼女の身の内にあるダークソウルを、始まりの火の残り火を喰らうために。
だが、伊丹等も黙って見ているわけではない。
確かに銃はグウィンへの効果が薄いのだが、効かないと言うわけではない。
そこで、急所よりも足を狙うことを定め如何にして負傷させるかを念頭にテュカを守る。
レレイは己が身につけたソウルの業を使い、遠近の魔術でグウィンを迎え撃つ。
だが、それでも意地から来るものが、グウィンを奮い立たせる。
どうにかして最初の火の力を取り戻す、そして平和を手に入れる。
頭はもはやそればかり、亡者と変わり無いそれは、果たして伊丹等を出し抜いた。
ライフルの弾が、貫通しない。いや、貫通してもひたすらに駆けてくる化け物じみた絵面に、一瞬の戸惑いがあった。例えば象の突進のようなものだろう、対処の仕方に一瞬だが空白が生じるとは即ち死を意味する。
騎士達が背後から襲う瞬間に、腕に雷を握り大地に叩きつけた。ソラールのそれと違いラグがないそれは、周囲に伝播し生者は皆感電する。
ソウルを奪うために殺さないよう手加減しても、意識は失うだろう。
騎士達は吹き跳ばされ、戻るのに数秒かかる。そのうちに、テュカのソウルは奪われてしまう。かとおもわれた。
グウィンが掴もうとした手が血まみれの、ウェルスによって止められた。
グウィンは言った、古き友よ今再び世界を平和へと誘おうではないか。と、
ウェルスはそれを聞くと拒否した。もう、我らの時代は終わったのだと。
それを聞いて、グウィンは今までの雰囲気を解き地面に膝を付いた。
ウェルスは、グウィンの首へ捻れが取り除かれた剣を、添えた。
殺れとグウィンは言う。
ああ、また合おうと、ウェルスが答え。剣が振り下ろされて、グウィンは消えた。ソウルも何も残さずに。
~一月後の世界~
地球世界はおぞましい敵との戦いに勝利し、忙しくも達成感のある戦後処理をしていた。
有能になった国連は対応に追われ、どの国がどの程度貢献したかを数字に落とし込む作業にあった。
何故、中国にあれが表れたのか。
今回の戦いにおいて、最も多くの犠牲者を出した中国。
彼等が何故最初の標的とされたのか、それは簡単に説明が付いてしまった。
あの西洋の三枚舌の国によってさらけ出されたそれは、同情を買っていたものから一転して、世界を危機に陥れたとして捕らえられた。
だが、日本もその片棒を担がされようとしていた。中国の証言から導き出されたのは、日本でそれを手に入れたという事で要するに、ゲートの向こうの物を持ち込んだのではないかという事となった為に、日本にも矢が向けられたのだ。
確かに日本から来たのは間違いないだろう、監督不行き届きであるからだが、忘れてはならない事はゲートは日本の意思で開いた訳ではないこと。
だから、日本の言い分はこうなった。ゲートを開いたのは向こうの帝国と言う国だ、なら文句は向こうにお願いする。
事実上のゲートの国際管理を認める形となったのだが、あんな化け物がいる世界に人を送り込もうとする勇気が有る国は存在しなかった。
日本の主張する権利は概ね護られると言う結果になったが、帝国への憎悪は無くなってはいない。
その矛先は、皇帝へと向けられる。現皇帝のピニャは、それを聞いた時、卒倒しそうになった。
そして、決断に迫られたのだ。国の命か自分の命か、それともゲート開門の令は発布した、父の命か。
当然の事ながら、当時の自分に全責任を負う程のものはなかった。
蜥蜴の尻尾切りをするしかない状態と言えば良い、元老も自分を支持するだろうと考えた。
そして、実の父を手に賭けた。国民の命が大事、例え自分が死んだ後何と言われようと、年寄りに任せるよりかはまだましだろう。
その決定の数日後には刑が執行され、モルト前皇帝はその命と引き換えに、異世界の憎悪を背負って死んだ。
だが、本当の元凶を地球も帝国も知らない。
知るのはごく一部のみ。
その元凶は今、寿命を迎えつつある。
自衛隊の医務室のベッドに横たわる嗄れた老人。嘗ての面影もなく横たわるそれは、ウェルスだ。
始まりの火と共に消える筈だったダークソウル。その最初の種火、それをひたすらに吸収し続けたソウルのよって誤魔化し続けたものは、力を使い果たし見るも無惨なものとなる。
だが、彼にとっては良いことなのではないだろうか?無限に続く時間と言う名の地獄からやっと抜け出せたのだ。彼の友も家族ももはや何処にもいない。
有るのは、自分の血と神々の血が混じりあった、異世界に逃げた子供達だけ。
余生を過ごすには充分だろう、彼はベッドの上からただ太陽を見る永遠に続くかの如く光るそれが、寿命を迎えることを彼は知っている。だからこそ、それを偉大に感じるのだろう。
《ピニャの苦難》
アリス、彼女が帰って来た。そう聞いた妾は、執務等ほっぽりだして彼女の安否を急いで確認しに行った。
そこにいた彼女は酷く疲れた顔をしていたが、私の知る彼女がそこにいた。
おまけに・玉ねぎ騎士・バケツ剣士それと見たことの無い立派な騎士が共にいたのは少々驚いたが、彼女の安全が確認されたときの妾は人の目など気にせず、彼女に抱きついていた。
そのときは、本当に安堵したものだ。なのにあんなことになろうとは、露とも知らずにいた。
アリスが帰還して20日ほどたった頃だろうか、自衛隊、いや日本国からある書簡が届いた。
その中身を見るに、妾は頭が白くなる思いだった。内容を端的に言えば、『我々の世界で未曾有の大災害があった、それはお前達がゲートを開いたせいだ。だから、賠償を要求する』そんなことだった。
だが、そこに書いてある金額に目を通せば通すほど、頭が可笑しいのでは、と思える。
帝国の数百年分の賠償を払えと書かれていれば、どうすることも出来ない。払える訳がないのだ。
このままでは、国どころか民まで死ぬ。そうなれば最後だ。だから、妾は何としてもこの条件を何かで肩代わり出来ないかと、外交官と直接に話し条件を飲んだ。
恐らく妾は後世に身内を裏切った、裏切り者として名を残すだろうが、それでも良い。
父上の命、そして多くの交戦派の貴族達の命で国が残るのならば、私はその泥を被ろう!
それしか、方法は無いじゃないか…。
今日も夕日が沈む、誰かが執務室の扉を叩いた。
アリスが、私の元に来たのだ。何だろうか、聞いたら私の頭を撫でてくれた。自然と涙が溢れた、あぁ、辛い本当に味方は誰もいないんじゃないかと思うほどに。
だけど、こうして今も私と共に来てくれる者たちは確かにおるのだろう。薔薇騎士団の面々との顔合わせは少なくなろうとも、きっと私と共にある。
そんな事があった後、アリスが私に話をした。私の元を離れ、灰の大陸へ行くと言う、今回の顛末の元を探すためだと。
危険すぎると言ったが、聞く耳持たず。彼女がこんなにもわがままを言ったのを私は初めて聞いた。そんな彼女の人生を私が決めるわけには行かないか、渋々許可を出す。
また別れだが、永遠の別れではない。いつか再び合える日を楽しみに待とう。ああ、日が昇るまた朝が来る。
《アリスの探求》
あの戦いから早一月あまり、私はあの世界の事を灰の大陸の事をもっと知りたくなっていた。
あのウェルスや、上級騎士、バルドさんやソラールさん達が旅をした世界。
私達が産まれるよりも遥かに昔の世界。
もしかしたら、私はその事を探索して世界に伝えるために産まれてきたのかもしれない。
自惚れてるのかなぁ。
でも、きっとこの大地にはまだ残ってる筈だ。あのウェルスが護りたかった人たちの痕跡が、上級騎士が守ろうとした生活が、忘れ去られた物語が。
だから私は旅に出る、それが異邦人である私の中にあるもの、でもやっぱりピニャが心配だなぁ。
お父上の処刑から始まる国家運営なんて、逆境の中にあるから。
その中に私が出来ることは無いけど、でも彼女には彼女を補佐する人達が大勢いるから…。
例え私の事を忘れても私はいっこうに構わない。
だから、私は三人を連れてファルマートを出てここに立つ。
目の前に広がる灰色の大地に一歩、歩き出す。
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