そこにあった筈の建物は、初めから存在していなかったかのように更地となり、一人の騎士と王がそこにたたずんでいた。
騎士は戸惑っていた。何故このような事になっているのか、騎士には理解しがたい事であった。
「王よ!何があったのですか。これではまるで、初めから何もなかったかのようだ!」
「ウェルスよ落ち着け。我が話を聞け、そして、決してグウィンと戦おうなどと思うな。」
王は話した、グウィン・イザリス・ニトは、我等の世界にダークソウルを恐れたと、そしてその力を封じるために息子達を言いくるめ、王女を嫁がせた。
強欲な息子達は自分達さえソウルを持っていれば、後の世代は持たなくても良いと考え、力を持った同胞達を連れ、流刑地へと旅立った。
それがソウルの王達の望みとも知らずに。
「決してグウィンを殺そうと思うな。お前がいかに強くとも、王たちを相手に一人で挑んでは犬死にとなる。ならば、流刑地へと赴き次代に後を託し、外の封じられし者達を救うのだ。」
屈辱に震える騎士は、王の命令を聞き輪の都へと赴いた。そして王は深淵へと赴いた。
《アルヌスの丘》ウェルス
「うん?」
「どうしたんですか?」
「いや、何でもない。」
この感覚は‥、何か見知ったものが動き始めているのか?この3万年余り、感じたことのなかった懐かしい感覚だが、今になって何故このように感じるのだろうか。
もはや、神々は地上にはいない。いや、一人だけいて欲しいとは思うが。ただ、神の紛い物のは別の空間に存在していて、あの黒服の少女のような眷属を地上に置いておく程度しか力がない。
『灰』達は未だに燻っている、この大地に姿を表すのも時間の問題か。
そんな事を考えながら今日も日が傾き始めた時、なにやら自衛隊の隊舎が騒がしくなってきた。
魔術『見えない体』と『隠密』を使用して、隊舎に侵入する。
体温を測定するものが無いのなら、非常に簡単なことこの上ない。散々深夜に建物内部を調べていたから、マップは全て頭に入れてある。
一ヶ所から煌々と明かりが漏れている。
中を見れば一目瞭然、幹部が全員集合と言ったところだ。
口の動きから察するに、イタリカで伊丹殿達が戦闘に巻き込まれ籠城中とのことだ。成る程、それでどの隊が救出に行くのか考えていたわけか。ならば、私も付いていくとするかな。テュカが心配だからな。
一人だけ、目の色が薄いものがこちらを見ている。ばれたか?良い勘を、しているな。
ドアを無言であける。何もいないところに突如として、私は姿を現す。
「ああ、敵対の意思はない。最もこの状況で信じてもらえるかはわからないが。」
中心となっている人物、確か健軍と言ったか?が質問を、投げ掛けた。いつからここにいたのか、何が目的かと。
「イタリカと、最初に発した部分から。つまり最初から、目的は特にない、有るとすれば戦場を求めて。だから、出来ることなら共に行きたいのだが駄目かな?」
半ば脅しに近い形だな、なんせ監視の目を掻い潜りここまで来たのだ。いつでも殺せると言っているようなものだ。だが、一軍の長で有るものは流石と言えよう、動揺すらしていない。
《アルヌス》狭間 浩一郎
伊丹 耀司、二重橋の英雄が連れ帰ってきた難民の中で、唯一と言って良い重装の鎧をまとっていた騎士。
それが、今目の前にいる。
報告によれば、突如襲来した飛竜の群れを一方的に全滅させるという、人間離れした攻撃力を誇るという。
神話に出てくるような存在がこの男だ。
亜神といわれる少女がいるが、彼もそんな存在なのだろうか。しかし、突然入ってきて我々の作戦に参加させろか。なかなか面白い人物かもしれない、戦力としても申し分ないだろう。だが、現地人を戦闘に参加させるにはあまりにリスクが大きすぎるか。
最悪自衛隊の沽券に関わる事態にもなりかねない。
だが、手はあるか。
「許可はできない。」
見るからに落胆の色が見える。どうやら戦闘に参加したいのは、自分の意思からなのだろう。
「だが、ちょうど調査隊の現地協力者が不足していたところだ、どうだね。志願して頂ければ助かるのだが。」
少し面食らった顔をした
「忝ない。」
猛獣は鎖に繋いでいるのが一番安全だ。これが吉と出れば良いが。
《イタリカ》ロウリィ
あーん、退屈。何だかレレイと、テュカは、話をしてるみたい。話題の中心はレレイが持ってきてた魔導書。
でも、ただの魔導師書じゃなさそうなのよ。
だって、わたしぃの感覚から何か不穏なものを感じるもの。
「二人とも、何の話をしてるのぉ。」
「レレイが持ってる本の中で、私しか知らない単語があったからそれを教えてたんだ。」
「ふうん。その単語ってなぁに?私も気になるじゃない。」
そう聞いてみると、レレイが少し言い辛そうに
「『ソウル』という言葉、私には『魂』という意味以外では捕らえられない。」
ソウルねぇ、わたしぃも初めて聞く単語だわぁ。
うーん、うーんと唸っていると
「ソウルって言うのはね、力の源で生き物全てが持っていて、神様もその例外には無いって大ばあ様が言ってたのを思い出したんだ。それでその力で英雄は、世界に平和を取り戻したって。」
「それはぁ、いったいいつ頃きいたのぉ?」
「確か100年以上前だった筈。」
そんな事を考えていると、逆の門から狂喜と戦いが聞こえてきて、私ぃはとてもそれどころじゃなくなっちゃった。
我慢できず戦いへと体を動かして、敵を圧倒する。なんという快感。とても、好き。
伊丹たちも加勢して、一方的な戦闘になっていった。
そこに横槍が、来た。空から来る自衛隊の飛行する乗り物。そこから出される、眩い光の束が敵を挽き肉に変えていく。そこから、残党狩りが開始される所で、乗り物から鎧が降ってきた。
あの高さから落ちても、平気なものなんて人にはいない。
亜神だって、少しは怪我をするはずよぉ?なのにあれはまるで、それが当然かのように降り立った。
不思議よねぇ、あれじゃあまるでモンスターかその類いじゃないかしら。
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