凍える航海の悪魔 -彼女はただこの海を守りたかったー 作:ルチルネリネ
次々と艦載機を発艦させては上空を旋回させて一斉攻撃に備える。
少数ずつで敵を攻撃するのは艦載機が落とされやすく、相手にダメージが入りにくいからである。
また、せめて苦しませずに敵を倒すのが彼女の信条でもあった。
クック「艦載機の皆さん、お願いしますね」
ハボクックは若干の不安を覚えながらも艦載機に攻撃指示を出した。
――ロイヤル北方海域:氷山地帯――
ハボクックは焦っていた。敵一隻に予想以上に手こずっていたからだ。
「戦闘機と対空砲が強すぎる!それに大編成を一瞬で落としたあの弾は一体……」
最初に飛ばした百機のうち二十機を戦闘機で落とされて、三十機は主砲の特殊な弾で撃ち落とされ、三十機を対空砲で落とされた。
残った二十機が爆撃を行ったが、艤装に対して小さな彼女には至近弾と軽傷を負わせるだけで終わった。
まだこちらに分がある。しかし、歴戦空母である彼女の勘が今すぐに離れるべきだと訴えかけている。
未知の戦艦との距離が一万mに入った時それは起きた。
「主砲の発砲音!?だけど、この距離では私にダメージは入ら――きゃっ!?」
ハボクックより離れたところに四発、すぐ近くに一発、側面を守っていた氷に一発、砲弾が落ちた。
だが、問題はそこではなく砲弾の弾道とその威力だ。
「これは……まさか曲射砲っ!鉄血の戦艦が曲射砲を積んでいるなんて……!」
鉄血とロイヤルでは昔から海をめぐって敵対していた歴史がある。
ロイヤルは仮想敵国を鉄血だけと定めず、広い領海に合わせて色々な船が建造されていた。
だが、鉄血は地理的な理由上、大航海に乗り出すにはロイヤルが邪魔となり結果、ロイヤルやその周辺諸国だけを攻める船を多く作ってきた。
また、同じく地理的な理由で狭い海戦が多かったため、接近戦を主な戦場として貫通力が高い直射砲を多く採用している。
「――初めましてだな、ハボクック氷山空母。私の名前シュヴェーリン。歓迎の挨拶のつもりだったのだが、どうだったかな?私の主砲の威力は?」
接近してくる戦艦、シュヴェーリンが拡声器を使って話しかけてきた。
「――私の主砲はお前を葬るために作られた特別製だ。じっくりと味わっておくれ」
「冗談ではありませんわ。私はさっさと終わらせてお茶会の続きが……しくじりました!」
ハボクックは友軍艦隊への航空支援を思い出して、急いで発艦準備を整える。
慌てて作業に取り掛かったが、発艦準備がすぐに整う。いざ発艦しようとしたとき、彼女に砲弾が飛んできた。
「その角度では私には当たりません!一斉射撃分無駄に――ああ!?」
ハボクックを狙ったかと思われた弾は突如、炸裂してハボクックの上空を飛んでいた艦載機を襲う。
運悪く艦載機は炸裂した弾子を浴びて殆どが墜落、何とか持ちこたえた艦載機と発艦途中で被害がなかった艦載機の計六十一機だけとなった。
「嘆いていても仕方がありません……!今いる艦載機はフッド様の方へお願い!次の発艦を急いで!私も撤退します!」
急いで来た道に引き返すハボクック。だが問題が発生した。
「氷が重くて十八ノットしか出ない……!今は同じぐらいの速度でも私が作った道を渡られたら追いつかれる!」
ハボクックの装甲に使われている特殊な氷(パイクリート)は通常の氷と比べて溶けにくく、高強度。だが比重が重く、また一度つけると外せないため速力が二倍近く落ちていた。
「――どこへ行こうというのだ?私とのダンスは不満かい?」
拡声器の声とともに発せられる主砲の発射音。後ろを見つつ航行をしていたがついに鉄血の牙がハボクックを襲う。
「きゃあっ!うぅそんな……滑走路が……!」
今まで無傷だったハボクックがシュヴェーリンの一撃で左舷滑走路に大きな穴が開いた。
「――不発弾か……惜しかったが次は沈める」
迫りくるシュヴェーリンにハボクックはただ逃げることしかできなかった。
鉄血の対ハボクックの切り札、戦艦シュヴェーリン!ようやく登場させることが出来ました。長かったです、本当に。
シュヴェーリンは鉄血の戦艦ですが曲射砲を持ち、また戦闘機を自身で発艦させる能力と高い対空能力、特殊弾による艦載機の大編成一掃の力を持っています。
曲射砲の射程は一万mと戦艦としては近距離ですが、高威力でハボクックの装甲を飛び越えて攻撃できます。
特殊弾は現代の兵器で言う十四センチ砲用零式通常弾の射程強化の大型版だと思ってください。
フッドの方へと向かった六十一機の艦載機ですが、そのうち十一機がフッドへの航空支援する前に道中で墜落したため、フッドの方では傷つきながらも飛んできた艦載機を含む五十機となっております。