凍える航海の悪魔 -彼女はただこの海を守りたかったー 作:ルチルネリネ
潜水艦達に肩を借りて基地へと戻ってきた。
基地の周りでは艦船(KAN-SEN)達が負傷者の手当てに追われている。
リン「そうか……私は、いや私達は負けたんだな……」
だが、皆を守る目的は果たせた。
誰かの呼ぶ声が遠くで聞こえる。
シュヴェーリンは何処か誇らしげな顔をして眠りにつくのであった。
――鉄血北方基地:第一会議場――
艦船(KAN-SEN)の声一つなく重苦しい空気が第一会議場を包む。
「……シュヴェーリンの容態はどうだ」
重苦しい空気の中、ビスマルクが問いかける。彼女もまた負傷していた。
「一命はとりとめましたが、反動精神ダメージで今は深く眠りについています。艤装によるダメージ吸収がギリギリで崩壊も始まっていました」
基地で待機していた軽巡洋艦のケルンが報告する。
戦艦シュヴェーリン、最後まで退かずに他の艦船(KAN-SEN)を守り切った彼女が一番重傷で今は医務室で安静にしている。
「……そうか、命は助かるのか?」
「はい!必ず助けて見せます!」
それを聞いたビスマルクは「頼んだぞ」と小さく呟く。
「……いつまでもこの状態を続けていたら命を懸けてまで頑張ってくれたシュヴェーリンに申し訳が立たない、これより今作戦の事後報告を行う!まずは損害報告から聞こう、アドミラル・ヒッパー頼んだ」
「はい!今作戦における我が軍の損害はシュヴェーリン様が大破、ビスマルク様に加えてグナイゼナウ、ケーニスベルク、ライプツィヒ、Z1(レーベルヒト・マース)、Z19(ヘルマン・キュンネ)が中破、私とオイゲン、Z2(ゲオルク・ティーレ)、Z18(ハンス・リューデンマン)、Z20(カール・ガルスター)、Z23(ニーミ)が小破です」
アドミラル・ヒッパーが続けて詳細を語る。
「シュヴェーリン様は艤装が上限限界までの全てのダメージを吸収し艤装崩壊。加えて過度のダメージによる反動精神ダメージにより現在、絶対安静状態を維持しております。次の重傷者はビスマルク様と魚雷が被雷したZ1(レーベルヒト・マース)。ただ、それ以上のダメージを負わなかったので艤装の交換だけで問題はありません」
「私の方も艤装の交換だけで問題なく出撃できる。あくまで初期状態での話になるがな。練度を戻すのには時間がかかるだろう……。さて、次は敵に与えた損害をオイゲンに任せる」
報告を任されたプリンツ・オイゲンは普段とは違い真面目な顔つきで報告し始める。
「敵に与えた損害は眠る前のシュヴェーリン様の報告によると氷山空母一隻大破まで持ち込んだとのこと。艦載機は多数、墜としておりますがこちらはメンタルキューブと資金、燃料で回復可能ですので戦果とは言えません。駆逐艦一隻が大破。重巡洋艦二隻、軽巡洋艦二隻が中破。巡洋戦艦一隻、軽巡洋艦一隻と駆逐艦三隻が小破です」
再び重苦しい空気になる。こちら側が受けた損害よりも相手に与えた損害が軽かったからだ。
「……完全なる敗北か」
「ビスマルク様!完全なる敗北ではございません!目的であるハボクック氷山空母は大破まで持ち込みました!つまり、現海域において脅威はなくなったも同然……これはれっきとした戦略的勝利です!」
Z23(ニーミ)が重い空気を吹き飛ばそうと必死に吹き飛ばそうと声を張り上げる。
「……そうだな。よく聞け鉄血の者達よ!これは敗北ではない!我々はこれからの戦闘においての教訓を学ぶために行った実践演習だ!そして、その中で我々は次の戦闘につながる手がかりを掴んだ!それこそが我々の戦果である!」
ビスマルクは会場いっぱいに響き渡る声で言う。
「今作戦において、我々は航空母艦の存在を改めて再認識した!これからの戦闘において、先手を打てる航空母艦の存在は極めて厄介であり、そして強力な戦法と言うことが分かった!そして、それに対抗できるシュヴェーリンの存在もまた必要である!」
続けてビスマルクは言う。
「しかし、我ら鉄血には航空母艦が殆ど存在せず、対空に関しては貧相である。……そこで同盟国である重桜に支援を求め、航空母艦を臨時として配置してもらい、自国で航空母艦及び航空母艦に対抗できる艦船(KAN-SEN)の研究を行う!ここまでで質問や異論はないか?」
ビスマルクの言葉を聞いて一人、挙手をした。軽巡洋艦のカールスルーエだ。
「重桜は協力してくれるでしょうか?下手すれば攻め込まれる可能性もありますが……」
カールスルーエの一言に会場内がざわつくがビスマルクが答える。
「現在、ロイヤル、北連、アイリスを抑え込んでいるのは我ら鉄血があってこそだ、そして、重桜もユニオンと東煌に敵対して交戦している……その状態で鉄血を攻め込む余力はないだろう。それに加えて、こちらにはハボクック氷山空母に関しての情報を引き渡す予定だ」
ケルンが手を上げて異議を唱える。
「ハボクック氷山空母の情報を与える必要はないと思われます!命がけで得た情報を重桜には渡せません!」
「そうでもしなければ重桜は動かないだろう。それに、重桜にはもっと強くなってもらわなければ困る」
「もっと強く……ですか?」
「……今のことは忘れてくれ。だが、これからのことを考えればここで出し惜しみをしている場合ではない、本部に戻り次第一刻も早く電信をして重桜と接触しよう。こればかりは異論を認めん」
こうして、次の戦火に繋がるともし火が重桜へと渡っていく……。
反動精神ダメージは艤装が上限限界以上のダメージを負うと艤装が崩壊して肉体への損傷を防ぐ代わりに、徐々に神経を通して痛覚を疑似体験し精神にダメージを与える……という設定です。
生々しい傷とかも考えたのですが、何度でも出撃できる彼女達を見て後遺症が残ったり長期にわたって出撃できないのは話がかみ合わないのでこのような形に落ち着きました。