凍える航海の悪魔 -彼女はただこの海を守りたかったー 作:ルチルネリネ
瑞鶴はとめどなく飛んでくる敵の艦載機を戦闘機中隊が半数以上墜とし、残った艦載機は輪形陣をとっている航空母艦と戦艦の対空砲火が墜としている。
少し疲れが見え始めた瑞鶴に翔鶴が「大丈夫?」と声をかける。
瑞鶴「平気平気!このくらい蒼龍先輩達の訓練に比べたらへっちゃらよ!……そう、あれは訓練ではないわ……!」
瑞鶴がそう言うと声をかけた翔鶴も苦笑いする。
瑞鶴「そんなことよりも敵艦載機は減ったし、あとは敵大型航空母艦を見つけて攻撃するだけね!私が一番槍をもらうわ!」
地獄のような訓練を振り払うかのように、瑞鶴は敵大型空母の発見に全力で取り掛かるのであった。
――ユニオン南方海域:南東群島海域――
「かなりやばいのです!ユナイの艦載機達がボロボロなのです!」
航空母艦であるユナイは焦っていた。先手攻撃したはずが返り討ちに合っているからだ。
大型航空母艦ユナイテッド・ステーツは搭載機数こそ多いが、全機発艦させるには二つの滑走路をもってしても時間がかかる。
しかし、敵を甘く見ていたユナイは先手攻撃にとらわれ過ぎていて自慢の稼働搭載機数全機による一斉攻撃戦法をしなかったのだ。
さらに焦ることとなったのは敵の艦種である。
「足が遅いから戦艦だと思ったのに!何で航空母艦がちんたら進んでいるですか!?おまけに戦闘機も発艦済みで待ち伏せしていたですし!」
敵は航空母艦四隻と戦艦一隻による高速部隊。これが戦況を大きく変えることになる。
戦艦の速力は約二十ノットと比較して航空母艦の速力は約三十ノット、十ノットの速力の違いは侵入角度や攻撃目標地点、攻撃のタイミングを全て狂わせ命中率を大きく下げることになる。
加えて敵の攻撃を予測していた敵航空母艦は上空に多数の戦闘機を待機させており、ユナイが発艦した護衛の直掩機がほとんどいない艦載機を墜としていった。
「対空レーダーに無数の反応がこっち来ているです……これはまずいのです!急いで撤退なのです!」
焦るユナイは急いで転舵を行い海域からの離脱を行おうとする。
しかし、ユナイは大型航空母艦。転舵性能が悪く大きく弧を描きながら回頭するしかない。
それに加えて、双胴型であるユナイは最新鋭であるが重桜の航空母艦に比べて速力が出ない。
迫りくる敵艦載機、ユナイは腰からぶら下げている任務道具に手を伸ばした。
「前回は使う前に終わってしまいましたが、今回は非常事態に付き遠慮なく使うです!これがユナイちゃんの秘匿兵装です!」
ユナイは秘匿兵器を三つ手に取ると先端の紐を抜いて、進路前方三方向へと放り投げる。
投げられた秘匿兵器は海に落ちると浮いてモクモクと煙幕を発生させた。
「これがユナイちゃんの秘匿兵器!超発煙ブイです!さっさと隠れるです!」
ユナイは敵艦載機が突っ込んでくる前に煙幕の一つ中へと姿を消す。
「にしし!これで敵の攻撃は当てにくくなったですね!ですが、このままやられっぱなしで終わらせないです!甲板上の攻撃機は直ちに撤収、戦闘機発艦準備急ぐです!」
頭上では敵の艦載機がぐるぐると三つの大きな煙幕を取り囲むように旋回している。
数機の艦載機はしびれを切らしたのか燃料が少なくなったからか、煙幕の中へと次々と爆弾を落としたり魚雷を流したりしている。
だが、大きな煙幕に潜むユナイに爆弾が当たるはずもなく、魚雷もレーダーに映し出されて難なく回避される。
「攻撃機の撤収作業完了!戦闘機の発艦準備も完了!さあ、ここから反撃です!行きなさいです、ユナイの最新鋭戦闘機中隊!」
煙幕による視界の不良をものともせずユナイは戦闘機を発艦させることに成功した。
煙幕から出てきた戦闘機に敵艦載機は混乱し編成が乱れる。
そのことを確認するとユナイは急いで追加の発煙ブイを前方に投げて煙幕の中を隠れながら撤退し始める。
優勢とは言えないものの撤退に成功しそうと安堵したユナイに一通の電文が送られてきた。
「こんな忙しい時に一体誰です!?おっと、司令室からでしたか。何々内容は……!?エ、エンタープライズさんが大破撤退中。至急援護に向かえです!?そんな……こ、こんなのって有り得ないのです!あのエンタープライズさんが負けた……!?」
それは、エンタープライズの撤退を支援するよう呼び掛ける内容だった。
今回は敵機が来襲したユナイの取った行動にスポットを当てて書きました。
ハボクック氷山空母が氷による自己再生航空母艦であるなら、ユナイテッド・ステーツは煙幕による隠蔽発艦航空母艦と言う面白い船となっております。
実際は風の影響などで煙幕の大きさ、向き、煙の留まっている時間など問題もありますが、それを考慮してなお隠せる大量の煙幕を噴霧する発煙ブイだと言うことで……!
次回はエンタープライズに視点を当てて書こうと思っておりますので、今後ともこの小説をよろしくお願いします!