凍える航海の悪魔 -彼女はただこの海を守りたかったー 作:ルチルネリネ
天城は南西艦隊の旗艦扶桑と南東艦隊の旗艦翔鶴より報告を受ける。
どちらも接敵及び攻撃に入っているとのことだ。
天城「さて、私達も動きましょうか」
天城がそう言うと他の者達は静かに頷いて薄暗く霧のかかった海へと消えていった。
――ユニオン南方海域:南西群島海域――
「私としたことが……油断したか!」
エンタープライズが飛んでくる砲弾の雨を回避しながら言う。
エンタープライズ率いる機動部隊は右舷に敵戦艦部隊と後方に水雷戦隊の追撃を受けていた。
「敵戦艦主砲の発砲を確認!来ます!」
フレッチャーの警告に艦隊全員が身構える。
敵戦艦から放たれた砲弾は輪形陣の中央、エンタープライズを挟夾(きょうさ)した。
「今のは危なかったな……だが、次は全門斉射が来るだろうな。その時が私の最後かもしれない」
「正義は不滅!正義は負けないわ!まだ諦めてはダメよ!必ず方法はあるはずだわ!」
死期を予感するエンタープライズにチャールズ・オースバーンが声を上げる。
「ちっ、面倒いね。後方から魚雷よ。この進路なら当たらないけど、進路変更したら当たる可能性が高いわ」
「ひぃ~!あの……ス、スペンスどうしたら……」
エンタープライズの後方にいるフートから魚雷の報告を受ける。スペンスは挟み撃ちされている現状に、誰かしら自分への指示を仰ぐ。
「全艦、後進一杯!魚雷を避けつつ敵の砲弾も回避する!」
エンタープライズの指示に全艦艇が速力を緩めて魚雷を回避する。
「次の魚雷の警戒を怠るな!速力を高速に戻して旋回!急ぎ基地へ戻るぞ!」
エンタープライズが全艦艇に指示を出したその時、右舷前方で戦艦の主砲が光り砲弾が飛来する!
「くぅっ!?しまった!エレベーターに被弾したか……!」
エンタープライズの側面に二発、エレベーターに一発、艦橋に一発被弾した。
「エンタープライズさん!?大丈夫ですか!」
「私は大丈夫だ。……だが、艦載機の格納が出来なくなったのは辛いな」
フレッチャーが被弾したエンタープライズを心配するが、エンタープライズは痛がるそぶりはなく返事を返す。
だが、彼女は艦載機格納不能状態……そして、側面から抜けた砲弾はエンタープライズの舵機能も奪っていた。
「困ったな……これでは回頭することが出来ない。エレベータ及び舵の修理には時間がかかるか……全艦、回頭して基地に帰投せよ」
「!?エンタープライズさん!?何を言っているんですか!一緒に基地に戻るですよ!」
「そうよ!諦めることは不義よ!それに、まだ正義は負けてないわ!」
「ちっ!面倒ね……スペンス、前に出るよ!」
「あああの、スペンスは頑張ります!だから諦めないでください!」
護衛艦隊のフレッチャー、チャールズ・オースバーン、フート、スペンスがエンタープライズの前に出る。
「皆でエンタープライズさんを守りますよ!妹達、ここが頑張りどころです!」
「ここで諦めるのは不義だわ!正義は必ず勝利する!私達は絶対に諦めない!私達が諦めていないのだからエンタープライズさんも諦めるのはまだ早いわ!」
フレッチャー、チャールズ・オースバーンがエンタープライズの近くまで来て抗議する。
「皆……悪いが、これは命令だ。全艦、帰投せよ。ここですべてを失うわけにはいかない。安心して欲しい、私が囮になれば君たちは必ず帰投できる」
「何が安心して欲しいですか!?そんなの無理ですよ!」
「何度も言わせるな!もう時間がない!必要以上に狙われている私はどのみち助からない。ならばユナイテッド・ステーツを援護して欲しいと言っている!彼女であればこの海域の制海権を取り戻すことが出来るはずだ」
「エンタープライズさん!」
フレッチャーが大声を出してエンタープライズを呼ぶ。
「貴方は私達を助けようとしてこのように言ったかもしれませんが、私達はエンタープライズさんを護衛することが任務です。これは旗艦であるあなたの命令ではありません、総司令部による命令です。もし、貴方が重桜へ特攻をかけるというのであれば私達もお供をします。そのことを忘れないでください」
「正義は何度でも立ち上がるわ、だからまだ諦めない!」
「本当に面倒な旗艦様だな。私達が最後まで援護するよ」
「ス、スペンスも頑張ります!」
フレッチャーが、チャールズ・オースバーンが、フートが、スペンスが、誰一人としてまだ諦めてはいなかった。
「そうか……どうやら私は間違っていたようだな。急ぎ舵を修理して帰投する!フレッチャーは本部へ至急救援要請を!チャールズ・オースバーンは南方基地に電信して航空要請をしてくれ!フートとスペンスは煙幕を私にかぶせて隠してくれ!」
護衛艦隊の駆逐艦はそれぞれ了解して、自身の指示された仕事をし始める。
「私達はまだ負けてはいない!ここを凌いで必ず帰投する!」
エンタープライズの言葉に護衛艦隊が「おー!」と返事をした。
こうして、エンタープライズの撤退が開始されたのであった。
今回は予告通りエンタープライズの撤退シーンを書かせていただきました。
エンタープライズが出撃する理由となったレーダーの反応は水雷戦隊の反応で、途中で近くに反応したのは戦艦艦隊でした。
さらに、水雷戦隊は大きく回頭してエンタープライズの後ろをとることに成功しております。
群島諸島ですのでレーダーと視界を見事にかいくぐっての奇襲成功、及び背後を突く水雷戦隊はまさに歴戦の艦船(KAN-SEN)と言えるでしょう。