凍える航海の悪魔 -彼女はただこの海を守りたかったー 作:ルチルネリネ
むろん、今の戦闘の事もそうだがこの戦闘の後についても。
彼女の戦術は見事に的中して相手に大打撃を与えれた。
だが、本当の目的……それを導くための戦略はまだ不完全。
故に、天城は土佐に言った。
天城「土佐、赤城にも無線で連絡してください。絶対に撃沈してはいけません、と」
――ユニオン南方海域:南東西海域――
「敵戦艦が全速力で接近してきています!距離三十五キロ!」
「敵戦艦の発砲を確認!敵さんの弾が来るよ!」
一番最後尾にいるラングレーが敵との距離をサラトガに伝え、その横にいるボーグが警戒するように大声を上げる。
「きゃあ!ひ、被弾した!?くぅ……ぜ、絶対に許さないわよ!」
数秒後、大きな水柱と甲高い悲鳴が上がる。レンジャーが被弾したのだ。
「レンジャー!被害状況は!」
「走行甲板に一発!そのまま側面に抜けて浸水が発生したけど、沈むほどじゃないわ!」
エンタープライズの言葉にレンジャーが被害状況を伝える。装甲が薄いレンジャーは敵戦艦が放った弾丸の信管が作動する前に海まで過貫通して難を逃れたようだ。
「流石に逃がしてはくれないわよね……艦載機を出すには波の揺れが激しすぎるから止まるしかない。だけど、止まれば敵戦艦の餌食になる。それに加え、そもそも出せる艦載機がほとんどいない状況だから止まる意味はない……」
サラトガは何とかこの状況を打開しようと必死に頭を回転させているが、どれも現実的ではない。
「サラトガちゃん。もういいわ」
そう言うと、ラングレーとボーグは立ち止まった。
「ラングレー!?早く逃げなさい!」
サラトガやエンタープライズ、ユナイ、レンジャーも急停止で止まった。
「先生、分かっています。なんで敵戦艦に追いつかれているのか。……私達の速力が十五ノット以上でないから。だから、それに合わせて皆さんが速力を落としているって」
「私達のせいで艦隊を全滅させるわけにはいかない……もう追いつかれている以上、誰かが足止めしなければ艦隊のメンバーは全滅する。なら足止めは足の遅い私達でやるのが一番の選択」
ラングレー、ボーグが反転して艤装を海と平行に保ち艦載機の発艦準備を行う。
「馬鹿なことを止めないさい!これは旗艦である私の命令よ!今すぐ逃げなさい!」
「ならば、私達は艦隊から外れます。ボーグ?準備は良い?二人で同時攻撃しますよ」
「いつでも準備出来ているよ!ゆけ、変化球!」
サラトガの命令を無視してラングレーとボーグは次々と発艦させていく。
「どどど、どうしたらいいです!?ここで迎え撃つです!?それとも逃げるです!?」
「迎え撃つにしても私とユナイの艦載機はもうないだろう?……邪魔になるだけだ、行くぞユナイ」
危機的状況に慌てるユナイ。現状を冷静に判断をしたエンタープライズはユナイの腕を取り前進を始めた。
「ちょっと!?エンタープライズ!貴方からもこの二人を説得して!」
「無理な相談だな。それに、私だって同じ立場ならそうする。レンジャー!サラトガを抱きかかえてでも連れて帰れ」
何とか二人を連れて帰ろうとするサラトガ。エンタープライズはレンジャーにサラトガを連れて帰るように指示を出す。
レンジャーは迷いながらも頬をパンッ!と叩くとサラトガに近づいて抱きかかえた。
「!?離しなさいレンジャー!この艦隊の旗艦である私の命令よ!このっ!離しなさい!ラングレー!ボーグ!」
体格差もありレンジャーの束縛を逃れることが出来ず、サラトガはレンジャーに連れて行かれた。
「行ってしまいましたね」
「ええ。ですが、大切な生徒を守るのは先生の使命です。これで良かったと思いますよ私は」
四隻が立ち去った後、ボーグとラングレーは「ふふふ」と笑った。
「さて、九回裏同点。ここ一番の大見せ場!絶対にランナーは出させませんよ!」
「ラングレー先生の最後の補習授業。もちろん、付き合ってもらいますわ敵戦艦の皆さん!」
ボーグが野球帽をしっかりと被りなおして気合いを入れなおす。
ラングレーはどこから取り出したのか指導棒を敵戦艦へと向けて挑発する。
二隻の航空母艦は着艦の事を考えずに次々と艦載機を飛ばして敵戦艦を攻撃していく。
だが、彼女達の健闘むなしく。途中で現れた敵航空母艦からの航空支援部隊によって全て撃墜される事となる。
サラトガ艦隊。航空母艦ラングレー、航空母艦ボーグ、艦隊から離脱。
今回は天城と土佐に追われて追い込まれたサラトガ艦隊から、足の遅いラングレーとボーグがしんがりとして残るシーンを書かせていただきました!
前書きで書いている通り、天城には目的があって敵艦を一隻も沈めていない状態で戦闘が行われています。
なので、足止めのために残ったラングレーとボーグは生き延びる事となるわけですが、生き延びるとわかっていてもハラハラするように頑張って書いたつもりです。
もうすぐこの海戦も終わりですね……長かったですが、書いていて楽しかったです。
いつ終わるのかまだ未定ではありますが、これからもお付き合いよろしくお願いします!