凍える航海の悪魔 -彼女はただこの海を守りたかったー   作:ルチルネリネ

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ジャン「再び祖国を守れる機会が与えられるとはな……」

ジャン・バールは主砲を撫でて高まる気持ちを落ち着かせる。

ジャン「あの時の戦艦はいないが……まあ、良い」

撫でていた手を降ろして、一番砲塔をハボクックに標準を合わせる。

ジャン「そうだな、最初に狙うはあの巨大な航空母艦にしよう。あの大きさなら偏差を合わせなくとも当てれる。二番砲塔の練習にはもってこいだ」

続いて、新しく搭載された二番砲塔もハボクックに標準合わせる。

ジャン「騎士道など無用だ!まとめてかかってきな!」

ジャン・バールの主砲が火を噴く。


Jean bart(ジャン・バール)

 

――自由アイリス教国:南東海域――

 

 

「オレは……夢でも見ているのか?」

 

 ジャン・バールは一番手前にいる航空母艦に砲弾を撃ち続けている。

 

 完成された戦艦であるジャン・バール、その主砲である四十五口径三十八cm四連装砲は四十キロ離れた敵を砲撃出来る。

 

 劣悪な散布界によって砲弾が当たるかは運次第ではあるが、当たれば黙らせることは簡単だ。

 

 ましてや、二十キロ程度しか慣れていない巨大な航空母艦はただの的でしかなく。この距離ならば当たりさえすれば、確実に仕留めれると確信していた。

 

「なぜだ……なぜ倒せない!なぜ進み続けれる!?」

 

 だが、現実は違った。

 

 確かに劣悪な散布界によって砲弾の命中数は少ない。

 

 少ないだけで当たっていないわけではない。数十発の砲弾が当たっているのだ。

 

 それでも、敵航空母艦は前進を止めない。

 

 そして、オレを混乱させる事がもう一つあった。

 

「どうして攻撃してこない!手加減のつもりか!ちゃんと戦え!」

 

 そう、敵航空母艦は艦載機を発艦させずただこちらに向かって前進をするだけなのだ。

 

 空襲で痛い目を見てきたオレ、ジャン・バールは航空母艦を恐れていた。

 

 だからこそ、敵航空母艦と戦って勝つことでトラウマを克服しようと考えていたのだ。

 

 しかし、その敵は艦載機を一機たりとも発艦せずに突撃してきている。

 

 無抵抗な敵を一方的に撃ち続けるさまはまるで、自身が嫌っているロイヤルを連想させた。

 

「違う!違う違う違うっ!オレは卑怯者でも偽善者でもない!」

 

 オレは頭を大きく振って否定する。

 

「この感情に囚われては駄目だ!もっと視野を広く……!?他の艦船(KAN-SEN)はどうなっている!」

 

 オレは思い出したように味方艦隊と敵艦隊を確認した。

 

 味方艦隊は砲弾と魚雷を前進している敵航空母艦に集中させている。

 

 砲弾は受けても損傷は無いとばかりに無視して、魚雷は加減速によって回避していた。

 

 対して敵艦隊は前進してきている航空母艦以外、全く動いていなかった。

 

「た、単艦だけ突撃している……だと?」

 

 冷静になろうとして氷水をぶっかけられたような衝撃を覚える。

 

 敵は一隻だけ?あれだけ後ろに控えていて戦闘しているのは航空母艦だけ?

 

 いや、戦闘すらしていない。相手は攻撃していないから、こちら側が一隻を複数で寄ってかかって攻撃しているだけだ。 

 

「分からない……分からないっ!何なんだ、あいつは!?何がしたいんだ!どうなっているんだ!?なんでこうなっているんだよ!」

 

 確実に仕留めれると確信していたからこその困惑。

 

 徐々に接近してきていると言う事実から来る焦り。

 

 艦載機を発艦せず攻撃してこないことによる怪訝。

 

 一方的に攻撃する自身と偽善者を重ねて自己嫌悪。

 

 単艦突撃と言う理解が出来ない行為に対する恐怖。

 

 複雑な感情は息のペースを上げさせ、冷や汗と痙攣により身体が震える。

 

 装填が終わってもすぐに撃つことが出来なくなり、震える身体によって標準がブレて砲弾を外した。

 

 敵は次第に距離を詰めてくる。二十キロ、十五キロ、十キロ、五キロ……。

 

 気が付けばオレは撃つのを止めていて肩を抱いて震えていた。

 

 敵が来る。敵がオレ達を蹂躙する。オレ達はまた祖国を守れなかった。

 

 敵の航空母艦……ハボクックがオレの目の前で停止する。

 

「……オレ達の負けだ。好きにするがいい」

 

「そうですか。分かりましたわ。では、私の好きにさせていただきます」

 

 オレは目を閉じて覚悟した。仲間の叫ぶ声が遠くで聞こえる。

 

 オレはまたこの海で眠りにつくのか……そう思うと気持ちが嘘のように軽くなる。

 

 逃げたと言われたら否定は出来ないが、オレには敵わない相手だったただそれだけだ。

 

 そうして、最後を覚悟していたオレにハボクックは抱き寄せて抱擁した。

 

「怖がらなくて大丈夫です。私達は貴方の敵じゃありません。今は信じれないかもしれませんが、私は貴方の友人になりたいのです」

 

 その言葉は混乱したオレの中でスッと入って来て落ち着きを取り戻す。

 

「落ち着かれましたか?」

 

「ああ、まさか敵に宥められるなんて思わなかったがな……ところで、いつまで抱いているつもりだ?寒いのだが」

 

 そう言うとハボクックは「あら、ごめんなさいね」と言うと離れた。

 

「私達に敵対の意思はありません。ただ、鉄血方面へと通過したいだけなのです。これでも信じてもらえませんか?」

 

「……無敵の装甲と絶対的なる自信は嫌というほどわかった。だが、やはりロイヤルは信用できない」

 

 ハボクックの言葉に俺がそう言うと悲しそうな顔をする。

 

「……しかし、お前の誠意は確かなものだった。そのことに対してオレ達も誠意で答えなければならない」

 

 オレは何を言おうとしているんだろうな。これは祖国を危険にさせるかもしれない事なのに。

 

「お前が出した条件。全ての武装解除したアイリスとサディア、そしてロイヤルからはお前だけが通過メンバーとして参加する……それならば許そう」

 

 言ってしまった。許可してしまった。だが、後悔はしていなかった。

 

 それを言い渡されたハボクックは「ありがとうございます」と言うと無線で連絡を取る。

 

 向こうからロイヤルを除く複数の艦船(KAN-SEN)がこっちに来るのが見える。

 

「全艦、戦闘を止め!これより、通過メンバーの護衛と監視作戦を実行する!」

 

 オレは味方艦隊に無線で通告する。

 

 一方的な戦闘は終わったが、オレ達の本当の役目はここからだ。




今回はジャン・バール視線&感情込みでハボクック戦とのシーンを書かせていただきました!
一人称の小説は書いたことが無かったので書いていて難しかったです……これからも練習が必要ですね。
次回はどうしてアイリスとサディア、敵対している勢力がハボクックと親しいのかを書いていけたらなと思っております。
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