凍える航海の悪魔 -彼女はただこの海を守りたかったー 作:ルチルネリネ
そう言いながら彼女は椅子と机を倉庫に、航空機を格納庫に片づけていた。
「今日もお疲れ様、辛い任務でも頑張ってくれて助かりますわ」
小さくなったフェアリー・ソードフィッシュを愛しそうになでる。
日も落ちてきて冷たい風が薄いドレスを揺らす。
クック「今日も吹雪きそうですわね……」
遠い空を眺めながら彼女は白い息をついた。
――ロイヤル海軍基地本部:中庭――
「--以上が今回の防衛作戦の報告です」
「流石はハボクック様ですわね……前衛二隊のうちの一部隊壊滅的に追い込み、後続に控えていた戦艦含む重巡洋艦を大破とは……数は力といいますがここまでの戦果が上がるのは私達もそうそうありませんね」
ウォースパイトがうんうんとうなずいているがクイーン・エリザベスはどこか不満げな顔をしていた。
「……ベル?敵の撃沈報告はないの?」
「陛下?我々艦船(KAN-SEN)は絶対防御システムが働いて殆ど沈むことはありません。艤装にダメージが入るだけで撤退してしまいます」
「ウォースパイト、貴方は分かっていないわ。彼女がどうしてロイヤルの切り札と言われているか……彼女はわざと敵を逃がしたのよ」
クイーン・エリザベスの言葉にウォースパイトとベルファストが驚く。
「では、陛下はハボクック様が手加減をなされたと言うことでしょうか?」
「そういうことよ。彼女のもう一つの名前を知っている?The iceberg of the devil……悪魔の氷山って意味よ。かつての大戦で彼女ほど戦果を挙げた艦船(KAN-SEN)は無いわ」
「悪魔の氷山……不吉な名前をどうして付けられたのでしょうか?」
「ベルは先の大戦の後半しか参加してないものね、知らなくても無理もないわ。……いいわ話してあげる。彼女はあの大戦で敵味方もろとも全部を吹き飛ばしたのよ」
クイーン・エリザベスの言葉にウォースパイトは黙りベルファストは驚愕した。
「失礼ですが、陛下。私にはハボクック様はそのようなことを決して行わないと思うのですが……」
「事実よ。正しくは攻撃しざるを得なかった……といったところだけど」
疑問を抱いているベルファストにクイーン・エリザベスは話を続ける。
「彼女は先の大戦で唯一といっていい航空母艦。当初、セイレーンも航空母艦が少なかった時代、彼女の艦載機だけが対空の要だったわ。それはロイヤルだけではなくアズールレーン全体……ユニオン、鉄血、そして重桜にも当てはまった」
「そのため、ロイヤルの上層部は彼女を独占しようとしていた。彼女さえ手元に置いておけば空襲の心配はないし、自国の制海権奪回だけを目的にすれば良いと。でも彼女がそれを許さなかった。彼女は上層部の話を振り切り自ら戦いの道に進むことを選んだのよ」
「彼女は奮闘したわ。それこそアズールレーンのロイヤルガードと言われるぐらいにわね。だけど、各国は彼女の情報を欲しがった。特にセイレーンの技術をもって対抗しようとしていた鉄血は。そして、あの日がやってきた……」
飲みかけの紅茶をソーサー(受け皿)において話をいったん区切る。
クイーン・エリザベスは思い出すようにまた語りだした。
「艦船(KAN-SEN)を含む鉄血艦隊、総勢四十隻による大規模海域奪回作戦。Lagerfeuer-Strategie(篝火-作戦)。彼女はその制空権を任されたわ。だけど、ふたを開けてみればそれは彼女の拿捕作戦だった」
「セイレーンとの戦闘で消耗したところに鉄血艦隊による砲撃。鉄血の作戦は完璧だった……彼女が氷山空母でなければ。砲弾は分厚い氷の層に食い込んで止まり、制空権を失っている鉄血艦隊はものの数時間で全て殲滅。……その中に第一世代の艦船(KAN-SEN)もいたわ」
「その日以降、彼女の心には疑心が芽生え、艦船(KAN-SEN)への攻撃にトラウマを持つようになりセイレーンの量産型だけと闘い大戦を終わらせた。軍縮条約が結ばれたのはそれから数か月後のことよ。その対象に入っていた彼女はひっそりと上層部に取り込まれて表舞台からは消えたわ」
長く話したのか少しため息をつくクイーン・エリザベス、冷えた紅茶をベルファストに渡した。
「そのようなことが……それでは、わざと手加減なされたのは――」
「そう、彼女は先の大戦のトラウマで人型の艦船(KAN-SEN)は沈めれない、そこが彼女の弱点であり懸念材料。そこを突かれないと良いのだけれど……」
クイーン・エリザベスの話を静かに聞いていたウォースパイトが口を開く。
「陛下、やはり護衛艦隊を付けるべきです。レットアクシズとの戦闘が激しくなれば必ず彼女の弱点が露出するでしょう。そうなる前にご決断を」
「ダメよ。彼女のバックにいる上層部がそれを許さない。私達に出来るのは彼女の補給時に少し話しかける、ただそれだけよ」
クイーン・エリザベスの言葉にベルファストは希望を口にする。
「ハボクック様にティータイムのお誘いを受けました。その場で断ってしまいましたが……彼女も本当は私達と交流したかったのではないでしょうか?」
ベルファストの一言にクイーン・エリザベスとウォースパイトは固まる。
「……ベル?そういう話は最初にしなさい。あと、今度から私も同席するわ」
「なりません、陛下。基地本部に陛下がいなければ混乱が起こります。ここは私が出向きましょう」
「あなたがここを離れたら任務に支障が出るじゃない!」
「陛下が動かれたほうが支障が出ます!お考え直してください!」
今までの空気が一転して騒がしくなる。クイーン・エリザベスとウォースパイトがどちらが行くかで騒ぎ、それを余計なことを話してしまったとベルファストは頭を押さえる。
この口論はフッドが来るまで続いたのであった。
今日はハボクックの過去にスポットを当ててみました。
今回はシリアス回となってしまいましたが、最後のオチで緩和できたはず……出来たらいいなぁ……。
鉄血も優秀な船はどうしたって欲しいから、作戦に紛れて拿捕しようとしたという話ですね。
氷山空母の拿捕……どこかで聞いた話ですがこちら側は拿捕失敗となっております。
本来なら攻撃自体も出来なさそうですが、戦火をこれ以上広げないためにという使命感で何とかなっております。
そうなるようにしたのはロイヤルの上層部で、上層部の狙いは自国の自衛といざという時の保険のためですね。
初めて二千文字を超えてしまいました、それだけ力を入れた回だったということで読んでくれたら嬉しいです。