「おいクソナード!!」
廊下を歩いていると隣のクラスの爆豪勝己の声が聞こえる。彼には幼少期から出久と一緒に虐められてきたけど、中学に入ってクラスが変わってからはあまり絡まれなくなった。それでも同じクラスの出久は未だに虐めているようで、この間は助けに行った僕も殴られた。とてもヒーロー志望とは思えない…。
また出久が絡まれてるようだし助けに行かないと…
「てめェのことだよピーター!!」
「えっ!?僕!?」
どうやらクソナードとは僕のことだったようだ。確かにオタク気質ではあるけど…。
「てめェこの歳になって個性が現れたんだってなァ?それでいい気になって雄英志望かよ?なぁ?」
「そ、それがなんだって言うんだよ…」
勝己は今にも殺しそうな勢いで僕に迫ってくる。
「デクの次はてめェかよ…なんでてめェらはこうも俺の邪魔をすんだ?」
「言ってる意味が…」
「どうせ没個性なんだろうが!!俺と同じ土俵に立つんじゃねえ!!」
勝己は怒号と共に右手を大きく振った。
今までなら避けることもできなかったその攻撃がものすごくスローに見えた。周りの生徒の動きも、飛んでいる蚊も、なにもかもが見える。
僕は勝己の右腕の下をくぐって避けてみせた。
「ッ……てめェ………何避けてんだ?それがてめェの個性かよ?」
「やめてよ勝己!僕は別に君と喧嘩したいわけじゃ…」
「ッるせェ!!調子こいてんじゃねえぞ…ぶっ殺す!!」
攻撃を避けられた勝己は完全にキレてしまって、次々に僕に攻撃を仕掛けてきた。が、僕には指一本さえ当たらなかった。これ以上はキリがないので、勝己のガラ空きのボディに軽く一発…
「グゥッ…!!?」
軽く殴ったつもりだったんだけれど、勝己は5mほどぶっ飛んでしまった。みんなも驚いてるけど、僕が一番驚いてる。力の制御が出来てないなあなんて思ってたら勝己が起き上がった。完全にブチギレちゃってるなぁ…。
「てめェマジでぶっ殺すからな!!!」
「お前ら何やってる!!校内での個性使用は禁止だぞ!」
勝己が僕に飛びかかりそうになったときに先生が駆けつけてきた。
「今回はお前は悪くないが、校内で個性は使うなよ」
「すみませんでした」
「次から気をつけろよ。帰っていいぞ。」
僕は被害者なので早く解放されたけど、先に仕掛けた勝己はまだまだ怒られるようだ。そんなに睨まないでほしい…。
ここ最近出久とは学校と夜以外合わなくなった。早朝と放課後はトレーニングに励んでいるらしい。僕も頑張って個性をコントロールする練習をしないと。そう思って帰宅してジャージに着替えてからビル街の路地裏に向かった。周りに誰もいないことを確認してから、ビルに右手をついた。右手が完全に壁に貼り付いたのを確認して、体を持ち上げて左手と右足も壁につけた。右手の指先の力を抜いて壁から離してどんどん上へ進んでいく。「蜘蛛」という個性のお陰で蜘蛛みたいに壁を登ったり天井に貼り付いたりできる。これを利用すれば隠密行動が可能になるはずだ。意識せず指先の力を抜けるように繰り返し練習してくしかない。
壁を上り切ってビルの屋上で辺りを見渡した。ちょうど隣に同じくらいの高さのビルがあって、それが数ブロック続いている。僕は屋上の端に立って、そこから助走をつけて4〜5mはありそうなビルとビルの間を飛び越えた。そうしてビルからビルへ飛び越える訓練を数時間続けて、助走の距離を少し縮めることができた。
移動の練習はここである程度できるけどパワーの制御はどこで練習するか悩んでいた。人目につかなくてサンドバッグ代わりになる物もある場所なんて…海浜公園くらいだろうか。あそこはゴミだらけであまり人はよりつかなかったはずだ。
海浜公園には出久がいて、1人で公園のゴミを集めていた。なるほど、重いタイヤとか家電製品とかを運ぶことで身体を鍛えてるのか…。
「おーーーい!出久!」
「えっ!?ピーター!?なんでここに?」
「ちょっと僕も個性の練習をしたくてさ、できそうな場所を探してたんだ。出久はここでトレーニングしてたのか。」
「うん、この大量のゴミを入試までに片付けるんだ。」
「すごいなぁ、僕も一緒にいい?」
僕がそう言うと出久はばつが悪そうに
「えっと…ごめん。これは僕1人でやらなきゃいけないんだ。誰とは言えないんだけど僕を鍛えてくれてる人がいて、その人に認めてもらうためにも、僕1人でやらなくちゃ…」
「…そっか。わかった!僕は別のところを探すよ。頑張って!」
「…!ありがとう!ピーターも頑張ってね!」
出久と別れ別の場所を探すことにした。僕も出久に負けないくらい努力しなきゃ雄英には入れないだろう。みんなより10年出遅れてるんだ。頑張らなきゃ!
その後街のはずれに廃工場を見つけた。錆び付いてもう動かないであろう機械や鉄材などが放置され、天井からは太い鎖がいくつもぶら下がっている。手を怪我してはいけないので、手首から蜘蛛の糸を出してバンテージのようにグルグル巻きにしてみた。これで金属類を殴っても大丈夫だろう。試しに近くにあった機械を思いっきり殴ってみた。
ガコン!!
ハンマーでも凹ませることは出来なさそうなくらい硬い機械が深く凹んだ。現段階でのフルパワーだが、トレーニングを積めばさらに強くなるだろうし、事前の栄養補給によっても変わるだろう。しかしいくらヴィランとは言え、これを人に向かって殴ってしまったらひとたまりもないだろう。勝己は怪我しなかったけど、個性の制御が出来てない以上あれは運が良かっただけだ。もしあの時もっと力が入ってしまってたら…と思うと背筋が凍る。
しばらく出力のコントロールを練習していると、視界に蜘蛛の巣が入った。そこには糸で宙を揺れている蜘蛛がいた。…閃いた!
天井から垂れている鎖を握って、高いところにある出っ張りを掴んだ。そして両手で鎖を持って、振り子の要領でスイングした。次の鎖をキャッチして、またスイングする。こうやって街をスイングできれば、速く移動ができる。あとは手首から出る糸の強度の問題だが、スイングに耐えられるのか…一か八かやってみるしか
プルルルルルル プルルルルルル
携帯が鳴った。おばさんからだ。
「はいもしも…」
「ピーター!?どこにいるの!もう8時!!早く帰ってきて!」
「えっもうそんな時間!?ごめんすぐ戻る!!」
また明日続きをしよう。
個性を手に入れてから10ヶ月が経った。いよいよ明日は試験当日だ。僕はかなり自分の個性の使い方を知れたし、出久だって別人みたいだった。必ず2人で雄英に入って、ヒーローになるんだ。
次回入試です