それぞれの休日を過ごす彼女たちは、「ある目的」のために集まっていた。
11月27日……その日、誕生日を迎える、一人の少女の為に……
せっかくなのでと思い、ハーメルンにも上げてみました、宜しければご覧ください。
唯「…………ん~~………あふ……受験勉強疲れたぁ~~~」
唯「憂もお買い物行ってるし……暇だなぁ~……」
言いながら、私は伸びをしつつ部屋を見回します。
すると、壁にかけてあったギー太が目に止まって……。
唯「……そだ、じゃあ今日は久々に……♪」
勉強する気もいまいち沸かないし、今日はギー太と遊ぼっと♪
―――そんなわけで今日は日曜日、お休みの日ですっ。
―――
――
―
和「さてと、それじゃ、そろそろ向かおうかしら」
軽く身支度を整え、私は家の玄関へと向かう。
和「いってきまーすっ」
和母「のどかー、今日夕飯はいるのー?」
和「食べて来るから平気~、それじゃ母さん、あとよろしくね」
和母「はいはい、いってらっしゃいな」
和「うん、それじゃ、いってきます」
母に軽く挨拶を済ませ、私は家を出る。
……11月も終わり頃のこと、すっかり冬を迎えた青空は、まさに透き通るように晴れていた。
――びゅうぅぅっ!
和「……寒い…………」
吹きすさぶ風は容赦なく私の肌を刺し、それがいやがおうにも私に冬がやってきたと認識させる。
和「唯、風邪引いてないと良いけど……」
そんな事を思いながら、私は商店街へと向かうのだった。
―――
――
―
家から歩くこと数分、商店街のファンシーショップであれこれと品物を見ていた時。
和「えと…これは……ん~、イマイチねぇ…」
声「あれ? 和?」
和「ん?」
後ろから私の名前を呼ぶ声が聞こえてきたので、声の方を向いてみる。
和「あら、あなた達」
澪「ほら、やっぱり和だ」
律「珍しいな~、和がこんなとこにいるなんてさ」
声の主は、クラスメイトの澪と律だった。
和「こんにちわ、二人も買い物?」
澪「うん、ちょっとこのあと用事でさ、その買い物でね」
律「へへ、澪と買い物なんて久々だなぁ」
和「そうなんだ、それで…澪、そのカゴの中は?」
澪「ああ、これ?……可愛いでしょ?」
澪の持っている買い物カゴの中には、中途半端にデフォルメされた動物(おそらくカエルだろう、これは)のぬいぐるみとストラップが入っていた。
眠そうな目をしているそのカエルからは、何ともやる気の無さそうな雰囲気が感じられる。
……今流行りの『ゆるキャラ』っていうやつなんだろう、これは。
和「……澪らしいわねぇ」
律「でしょ?」
澪「えー、可愛いじゃんか、これ」
律「………まぁ、確かにな」
和「いいんじゃないの? 澪のそう言う所、私好きよ?」
澪「和……うん、ありがと」
律「まー、そういうわけなんだ、和も一緒にどう?」
和「そうねぇ……ご一緒したいのは山々なんだけど、私もこのあと用事があるのよ」
澪「そっか、残念だけど、またの機会だなぁ……和、今度都合が付いたら、一緒に買い物行こうよ」
和「ええ、楽しみにしてるわね」
律「ぶ~、私はのけ者かよ~~」
澪「もちろん、律も一緒だよ」
律「へへっ、そう来なくっちゃな♪」
和「それじゃ、私ももう行くわね」
澪「うん、それじゃまた」
律「和~、まったね~♪」
2人に手を振り、私は再度買い物に移る。
澪と律、さすが幼馴染というか、いつ見ても変わらずに仲良しな2人だった。
私と唯も、はたからはああ見えているのかな
―――
――
―
憂「えっと……これとこれと……あ、これ可愛いなぁ~」
それは、夕飯のお買い物で近くのスーパーに来てた時の事でした。
憂「ん~……悩むなぁ……」
憂「こっちのお肉、綺麗で美味しそうなんだけどちょっと高いかな……あーでもでも……」
声「私、こっちがいい、この脂身たっぷりの方」
憂「そう? じゃあ、こっちにしよっと……って、えっ?」
ふと横から聞こえた声の方に振り返ります。するとそこには……。
憂「あー、純ちゃん♪」
純「よっ、奇遇だね、憂っ」
振り返った先には、お友達の純ちゃんがいました。
声「ったく……純~、いきなり走らないでよ~~って、憂?」
憂「あ、梓ちゃん♪」
純ちゃんの後ろから顔を覗かせたもう一人の女の子、それは、もう一人のお友達の梓ちゃんでした。
――なんだか奇遇だな、ここで2人に会えるなんて♪
梓「こんにちは、憂は夕飯の買い物か何か?」
憂「うんっ、梓ちゃんと純ちゃんもお買い物?」
純「ん~……いやね……その……」
梓「私、今朝から純に付き合ってるんだ、どうしてもって聞かなくて…」
純「梓、ホントにありがとっ」
憂「純ちゃん、どうかしたの??」
純「いやね、実は今朝、兄貴とちょっと喧嘩しちゃってさ……今、家に居づらいんだよねぇ……」
憂「お兄さんと喧嘩って……純ちゃんお兄さんいたんだ?」
純「うん……」
梓「私も、ついさっき知ったんだけどね」
憂「それで、お兄さんとなんで喧嘩なんか?」
純「実は、兄貴のお気に入りの服にコーヒーを……その……」
憂「あらら……」
純「わ、私悪くないもんっ! 悪いのはあのコントだもんっ! あんなに面白いコントやられたらそりゃコーヒーだって吹くよ~~」
梓「だからって……いくらなんでも向かいに座ってるお兄さんの服を汚すまで吹かないってーの……」
憂「あははは……」
純「だから、今日1日は家に居られないから、梓に電話して付き合ってもらってるんだ」
梓「私、ギターの練習したかったのに……」
純「ううう……今度お礼におやつ奢るから許してよ~」
梓「ま、いっか」
憂「じゃあ、二人とも今からうちに来ない? 今日ご馳走なんだ♪」
純「え、マジで? うんっ! 行く行く~♪」
梓「今日って………ああ、そっか」
今日と聞いて、梓ちゃんはすぐに分かったみたいです。
憂「うふふっ♪」
純「…? 2人ともどうかしたの??」
梓「じゃあ、この後適当に商店街見て回ろうよ」
憂「うんっ、そうだね~」
純「2人ともなに~? 私にも教えてよ~~」
梓「純もすぐにわかるよ~」
憂「…あっ、その前に2人にお願いなんだけど……。 この後タマゴの特売やるんだ、お一人様1パック限定なんだけど……それで……」
純「うんっ、1パックでも10パックでも持ってくよ、私にまっかせて~♪」
梓「それじゃあ、早く売り場に行こうか? 時間迫ってるんなら、そろそろ行かないとまずいんじゃない?」
憂「そうだね、みんな、ありがとうっ♪」
梓純(……ほんと……憂ってしっかり者だなぁ……)
タマゴも多く買えたし、純ちゃんと梓ちゃんも来てくれるって言うし……それに今日は………。
うふふっ、今日は……いつも以上に素敵な1日です♪
―――
――
―
和「ま、こんなもんかしらね……でも、まだ時間あるわね……あ、そうだ」
目的の品を買った私は店を後にし、本屋で時間を潰す事にした。
和「新刊……出てるかしら……?」
小説の新刊コーナーに行き、目当ての作家の本を探してみる。
……が、既に品切れのようだった……。
和「残念ね……参考書でも見て行こうかしら」
新刊コーナーを後にし、参考書のコーナーに向かう。
すると、そこに見覚えのある後姿が見えた。
和(あれ…ムギ?)
参考書のコーナーには綺麗な金髪をなびかせ、周りの客の目を惹いている一人の女性の姿が見える。
その着ている衣服もどこか高級そうなイメージがあり、私には、一目でそれがムギだと分かった。
……ムギも、参考書を買いに来たのかな?
和「ムギー、ムギも買い物?」
その後ろ姿に声をかけてみる。
女性「……………」
和「あれ、聞こえてないのかしら?」
遠くで聞こえていないのだろうか、なら、今度は近くまで行って声をかける事にしてみよう。
そう思い、私はムギに再度声をかけてみた。 そして……。
和「ムギ?」
女性「……ふぇっ? わ、私??」
声をかけた人が慌てて私に振り返る、……後姿こそ似ていたけど、その女性は明らかにムギとは違う顔立ちをしていた。
その瞬間私は、自分がまるで知らない女性に声をかけていた事に気付いたんだった……。
和「…と、ご、ごめんなさいっ、人違いでした……」
女性「いえ、その……」
和「すみません、後姿が友達に似てたもので…ついそうだと思って……」
女性「あははは……すみません、私の方こそ、そのお友達じゃなくって……」
照れ笑いを浮かべながら微笑む女の子だった。
ぱっと見で、私の2つ3つは年下なんじゃないかと言う事が伺える、気品の中にもどこか幼さの残る顔立ちをしていた。
和「本当に失礼しました……それでは……っ」
女の子に謝り、私は恥ずかしさで紅くなった顔を隠すようにしてコーナーを抜け出そうとする。
――その時。
女性「……すみません、もしかして、桜が丘高校の生徒の方ですか?」
和「って……はい?」
女性「いえ、間違ってたらすみません……私も見覚えある顔だったから、もしかしたらと思って」
和「えっと、はい、私、桜高の生徒ですけど……もしかして、あなた1年生の方?」
女性「ん~……ていうか、来年そうなりたいなぁと……あははは」
そう、笑いながら話す女の子。
話を察するに、どうやらこの子は、来年桜高を志望する受験生らしい。
和「そうだったんですか……それで、どうして私の顔を?」
女性「先月、桜高の文化祭でお見かけして、もしかしてと思いまして」
和「ああ、そういう事ね」
そっか、この子、先月うちに来てたんだ、それで……。
女性「文化祭、すっごく楽しかったです! 特に軽音部のライブ、すっごく盛り上がってたと思いますっ!」
和「それは良かった、うふふ、わざわざ来てくれてありがとう」
女性「私も、桜高に受かったら軽音部に入ろうかな……なんちゃって」
和「あははっ、もしかしたら、優しい先輩がいろいろ教えてくれるかもね」
女性「だといいんですけどね……そのためにも、勉強頑張らないと…っ」
声「―――すみれ~~、そろそろ行くよ~~?」
女性「うん、今行くから待ってて~~! それじゃ『先輩』、失礼しますっ」
和「ええ、勉強頑張って、是非受かってね?」
女性「はいっ! 頑張りまーす♪」
そして、すみれと呼ばれた女の子は友達の所へ向かって行く。
彼女が桜高に受かったら、きっと憂や梓ちゃんの良い後輩になりそうだなと、勝手ながらそんな予感がした。
和「卒業………か」
あの子がここに来るころには、もう、私も唯もいない。
――そう考えると、それがどこか寂しいと思ってしまう。
あと4ヶ月で、私も……。
―――
――
―
適当に参考書を読みふけり、ふと時計に目をやる。
……そろそろ、ちょうど良い頃合いの時間になっていた。
和「…うん、そろそろ行きましょうか」
参考書を買い、私は店を出る事にする。
声「あれ? 和ちゃん?」
和「あら、憂じゃない」
店を出てからしばらく、ちょうど買い物帰りの憂と遭遇した。
そして、憂を挟むようにして、梓ちゃんと純ちゃんの姿も確認できる。
3人の持つ大小様々な大きさの買い物袋の中には、これまたさまざまな種類の食材が詰まっており……。
それは、今晩の夕飯が相当のご馳走になるんだと言う事が、十二分に伺える程だった。
梓「和先輩、こんにちわ」
純「こんにちわ~」
和「みんなお揃いね?」
憂「うん、これから家でご飯なんだ、そだ、和ちゃんもどう?」
和「ええ、私もちょうど唯に用事だったのよ、良かったら一緒に良いかしら?」
憂「うんっ、ご飯は大勢で食べると美味しいからね~」
梓「和先輩もやっぱり?」
和「ま、今日ぐらいはね」
純「む~、みんなして何なんだろう……今日って何かあったっけ?」
憂「あははっ、今度純ちゃんにもしてあげるからねっ」
純「……?」
和「しかし、人数も増えると夕飯の準備も大変でしょ、私も手伝うわよ?」
憂「うん、じゃあ、せっかくだしお手伝いお願いしちゃおうかな?」
和「それじゃ行きましょう。 あ、梓ちゃん、荷物重かったら持つわよ?」
梓「大丈夫です、和先輩、ありがとうございますっ」
―――
――
―
和「そういえば、さっき本屋さんで桜高を志望する子に会ってね……あまりにもムギそっくりだったから声を賭けたら人違いで……」
純「へ~、生徒会長でもそーゆー事あるんですね?」
憂「紬さんそっくりな後輩かぁ……受かるといいね~」
梓「その子……軽音部に入ってくれないかなぁ……」
和「唯達が卒業しちゃったら、軽音部、また廃部の危機になっちゃうものね……」
梓「は、廃部になんか絶対させませんっ!」
憂「そうだよ、私達も協力するから、がんばろ梓ちゃんっ!」
純「私もっ! 私も力になるよっ!」
梓「憂……純……うん、ありがとっ♪」
和(唯……良い後輩に恵まれたわね……)
―――
――
―
のんびりと話をしながら、私達は唯の家に向かう。
そして、唯の家まで数分と言う所の交差点、そこで私達は律と澪とばったり会った。
和「あれ、あなた達?」
澪「あ、和……」
律「に、憂ちゃんに梓に純ちゃん?」
憂「律さんに澪さんこんにちはっ、こんな所で会うなんて奇遇ですね?」
純「澪先輩、こんにちはっ!」
梓「お二人とも、どうしてここに?」
澪「ああ、実は私達、これから唯の家に向かうつもりだったんだ」
和「じゃあ、さっき言ってた用事って……」
律「ま、そーゆー事♪ て事はあれか、和も私達と一緒か」
和「そうなるわねぇ。……なーんだ、結局一緒だったんだ、私達」
澪「そうみたいだなぁ……なんか、不思議な感じ」
声「あらあら?? みんなお揃いでどうかしたのかしら?」
一同「……?」
別の道からやって来る声にみんなが振り向く。
そこには……うん、今度こそ間違いない。
ウェーブのかかった金髪の良く知る同級生、ムギと……。
憂「あれ、さわ子先生??」
さわ子「やっほー♪」
私達の担任の、山中先生がいた。
律「さわちゃん、どうしてここに?」
紬「実は唯ちゃんの家に向かっていたら、偶然先生と会ったのよ~」
さわ子「なんか、今日はこっちの方に楽しそうな事が待ってるって占いで出てね、そしたらムギちゃんと偶然会って、それで今みんなと会ったってわけ」
梓「一体どんなセンスしてるんですか…」
律「まさにエサを見つける犬だな……すげー嗅覚してる……」
澪「まぁ……先生らしいというか……」
純「ですね…」
さわ子「ちょっと、みんなその目は何よー?」
和「しかしムギ……また随分な大荷物ねぇ」
紬「うふふっ、唯ちゃん喜んでくれるかしら?」
ムギの手に持ったその荷物は、ちょうど子犬ぐらいの大きさがあった。
というか、形的にそれはまさに子犬そのものだった。
澪「ムギ、まさかそれ、本物?」
紬「まさか、オーダーメイドで作って貰った物よ?」
梓「ムギ先輩……さすがです……」
紬「それじゃ、唯ちゃん待ってるだろうから早く行きましょ♪」
律「っかし、なんか知らんが……ものすげー人数だな……」
和「私、憂、純ちゃん、梓ちゃん、律、澪、ムギ…それに先生……急にこんな大人数……大丈夫かしら?」
憂「大丈夫だよ、それにみんながいるから、今日はお料理、頑張るね♪」
澪「憂ちゃん、大変だろうから私も手伝うよ」
律「あー、私も何か手伝うよ?」
澪「お前はじっとしてろっ」
律「ぶーぶーぶーぶ~~~~~~」
梓「あははは……なんだか、騒がしくなりそう………」
さわ子「みんなー、少しは落ち着きなさいよー?」
律「それ、さわちゃんにだけは言われたくねえ……」
梓「ものすごく同感です……」
和「そろそろね……」
こうして、なんだかんだで集まったみんなで、唯の家に向かう事になった。
今まで、あの家にこれだけの大人数が押し寄せた事なんてあったかな……?
……でも、それが唯の人徳なのかもしれない。
知らず知らずの内に大勢の仲間を、友達を、人を引き寄せる不思議な力。
それが唯の魅力であり、長所でもあった。
そして、そんな唯に惹かれたから、今こうして、みんなが集まったのだろう……。
唯「いえ~~~いっ!! じゃー次の曲、いっくぜええええ!!!」
唯「~~♪ 1秒あれば それでじゅうっぶん恋に堕ちれる♪ 一目で惚れて連れ帰って 添い寝もしちゃう~~♪」
唯「ギー太にーーー、もう首ったーけーーっっ♪」
律「……なんか、すっげー楽しそう……」
和「確かに……」
家の中からは唯の賑やかな歌声と、楽しそうに奏でられるギターの音色が聴こえる。
……誰か来てて、それで演奏でもしてるのだろうか?
純「誰かお友達、来てるのかな?」
律「って、私達以外にか?」
澪「ん~、姫子とか、エリとか?」
梓「と、とりあえず、入ってみましょう」
紬「そうねぇ、憂ちゃん、開けられる?」
憂「はい、今開けますね」
憂が家の鍵を開け、手早くスリッパを人数分用意する。
憂「どうぞー、少し散らかってますけど、上がってくださーい」
一同「「お邪魔しまーすっ」」
憂に案内され、私達は家に上がり込む。
2階のリビングからはなおも唯の歌声が聴こえ、唯の絶好調な感じがよく伝わってくる。
唯「いぇ~~~いっっ!! ノリノリだぜぃ! じゃあ次の曲、しあわせ日和……いっくよぉ~~♪」
憂「お姉ちゃん、ただいま~」
唯「あ、ういー、おかえり~~♪」
和「唯ー、随分盛り上がってるわね?」
唯「あー、和ちゃんやっほー♪」
梓「お邪魔しまーす」
唯「あずにゃーん、会いたかったよぉ~♪」
梓「その……会うなりいきなり抱きつくの……ヤメテクダサイ…………」
澪「唯、誰か来てたのか?」
律「随分ご機嫌に歌ってたよなぁ」
唯「みんないらっしゃーい。 ううん、ずっとギー太と一緒に歌ってたよ?」
紬「もしかして……今までずっと?」
唯「うんっ♪ おかげで新曲色々と思いついたんだー、今度みんなにも聴かせてあげるねっ♪」
和「唯……その……勉強は……?」
唯「いやぁ、なんかやる気でなくってさ、それで、今日はギー太と思いっきり遊ぼうと思って…えへへへっ」
さわ子「なんていうか……受験勉強そっちのけでギターに打ち込むその情熱……かつての私以上ね……」
憂「あはははは……」
律「まぁ、これで唯が真面目に机で勉強なんかしてたら、それはそれで明日は猛吹雪になるわな……」
唯「いや~、それほどでも~♪」
律「別に褒めてねえよ」
純「……唯先輩って、いったい……」
唯「それで、今日はみんなどうしたの?」
律「って唯、お前今日が何の日か知らないのか?」
純「あー、私もそれ気になってたんですよ、今日って何の日なんですか?」
憂「お姉ちゃん、今日何日か分かる?」
唯「ん~……11月の27日………あ~~~っっ!!」
唯「………もしかして、私の誕生日??」
紬「ええ、そうよ~」
純「そうだったんですか、私……全然知らなかった……」
さわ子「私はもちろん知ってたわよ?」
澪(嘘だな…)
律(嘘付けっ!)
梓(嘘ですね…)
和(嘘ね…)
唯「あの、もしかして、その為にみんなで何か計画して集まってくれたの??」
憂「ううん、そういうわけじゃないの」
和「別にみんなで集まってどうこうってのを考えたわけじゃないのよ、たまたまみんなが唯の誕生日を覚えてて、それで、みんな別々にお祝いしようとして集まったって感じなの」
律「よくよく考えたらそれって凄い事だよなぁ……別に打ち合わせとかしてないのに、偶然が重なってこうしてみんな集まったんだもんな……」
梓「それだけ、唯先輩って慕われてるんですよね……きっと……」
唯「なんか照れるなぁ……うん、みんな……ありがとうっ!」
憂「お姉ちゃん、私、今日はたくさんご馳走作るから楽しみにしててねっ♪」
和「プレゼントも買っておいたの、あとで渡すわね」
唯「うんっ♪ えへへ、嬉しいなぁ~♪」
憂「じゃあ、私夕飯の支度始めるね?」
澪「あ、私も手伝うよ、憂ちゃん一人だと大変だろうしさ」
和「澪、私も行くわ」
澪「うん、和がいてくれると助かるよ、ありがとうっ」
唯「あ、私も手伝うよ?」
澪「いいよ、主役なんだから、唯は律達とゲームでもしてて待っててくれ」
律「そーゆーこと。 唯ー、せっかくだしゲームやろうぜ~」
紬「わ~、私も混ざって良い?」
唯「うんっ、りっちゃん今日こそ負けないよぉ~?」
律「へへっ、私に敵おうなんざ100年早いってーのっ」
純「わ、私だって負けませんっ」
さわ子「………………………」
さわ子「私、どうしようかしら………」
そして、私と澪と憂が夕飯づくりに専念している間、各々がのんびりとした時間を過ごしていた。
……しかし、憂の手際の良さには目を見張るものがある……。
さすが長年、平沢家のキッチンで大鍋を振るっているだけの事はあると思った。
澪「憂ちゃん、揚げ物は終わったよ?」
憂「ありがとうございます、次に澪さんは玉ねぎの皮むき、お願いしていいですか?」
澪「わかった、任せてくれ」
憂「和ちゃん、オーブンはどう?」
和「タイマーは……あと3分ね」
憂「うん、もう大丈夫だから出しちゃっていいよ?」
和「え、時間良いの?」
憂「あとは余熱で大丈夫だよ、あんまり焼きすぎると鶏さんコゲちゃうからさ」
和「そこまで計算してたのね……」
澪「憂ちゃん、将来はいいお嫁さんになるんだろうなぁ……」
和「あははっ、間違いないわねぇ」
澪「それで、唯の奴きっと大泣きしてさ……」
和「「「私のうい~」って泣きつきそう」
澪「……うん、そんな気がする」
憂「澪さん、皮むきが終わったらその玉ねぎ、みじん切りにしてもらっていいですか?」
澪「うん、了解だ」
憂「お姉ちゃん、オムライス大好きだから…♪」
和(憂ったら、唯の為となると本当に一生懸命なんだから…)
―――
――
―
唯「いっけー! 赤コウラだよ~っ!」
律「ふはは、じゃあでブレーキかけて……純ちゃん、すまんっ!!」
純「くぬっ……あーー律先輩ひどーい!!」
紬「もうひとこえ~♪」
純「わふっ!! また赤コウラなんてひどい! ム……ムギ先輩ぃぃ……」
紬「うふふっ♪」
律「勝負の世界は厳しいんだぜ~……って、さわちゃん何してんの?」
さわ子「だって……私やる事ないんだもん」
梓「じゃあ先生、私とケーキの飾りつけ一緒にやりませんか?」
さわ子「そうね…年長者が何もしないってのもかっこ悪いからね……」
梓「それじゃあ、このスポンジの上に先生の好きなイラストをお願いします」
さわ子「イラスト…………ええ、いいわよ~♪」
さわ子「~~♪」カキカキ…♪
梓「…………あの、先生……その絵は……」
さわ子「何って、ドクロだけど?」
梓「……どこの世界にバースデーケーキにドクロの絵を描く人がいるんですかーーっっ!!!」
さわ子「あら、梓ちゃんには、産まれた日に敢えて『死』を暗示させるっていうこのアウェイ感がわからないのかしら?」
梓「不謹慎ですっ! もういいですっ! さわ子先生は律先輩と遊んでてくださいっ!」
さわ子「も~、冷たいわねぇ~~…やること無くなっちゃったじゃないのよ~」
和「あ、先生」
さわ子「和ちゃん、何かお手伝いできることはある?」
和「すみません、手が空いてるのでしたら、ジュースをもう2~3本買ってきて貰っていいですか?あ、もちろんお金はお渡ししますので……」
さわ子「……………………………」
そんなこんなで、パーティーの準備は進む。
キッチンでは次々に料理が出来上がり、梓ちゃんとムギのおかげでケーキも完成し、パーティーの開始まで残り数分を切っていた。
さわ子「はぁ…はぁ……買ってきてあげたわよ」
憂「わざわざすみません…」
さわ子「いいのよ、あ、これ、和ちゃんに渡して上げて」
憂「あれ、お金……それに、このジュースも隣のスーパーで一番高いやつじゃ……」
さわ子「先生が生徒に奢られたら立つ瀬無いでしょ? たまには先生らしいことさせてちょうだい、ね?」
憂「さわ子先生……ありがとうございますっ! このジュース、美味しく頂きますねっ♪」
さわ子「ええ、召し上がれ……」
律「お、さわちゃんが帰って来たぞ~!」
澪「これで始められるな」
純「先生はやく~、せっかくの料理冷めちゃいますよぉ~」
さわ子「みんな、待っててくれたの?」
唯「当たり前だよ~、だってさわちゃんがいないと始まらないんだもん、ねーあずにゃんっ」
梓「先生、その……さっきは怒ってすみませんでした、先生も早く席についてくださいっ、私もうお腹が…」(グゥゥ~
梓「ぁ………………」
紬「あれ、梓ちゃん今の音……?」
梓「けっ…ケータイのバイブ音ですよっっ!! もう昨日から迷惑メールが来てて……あ、あは、あはははは……!!」
和「ま、みんなお腹空いてるだろうし、早く始めましょうか……」
律「そうだなぁ……じゃあ、ここはまず部長の私から音頭を…」
澪「りーつ、今日の主役は唯だろー?」
律「てへへ、じょーだんだって…」
和「じゃあ唯、乾杯の前に何か一言…」
唯「ん~~………」
グラスを片手に、唯は数秒考え込み……。
唯「じゃぁ……こほんっ、今日は、私の為にみんな集まってくれて本当にありがとー♪」
唯「子供の頃は、1年なんてすっごく長いと思ってた年月だったけど、気付いたら、もう私も18歳になっちゃいました」
唯「18歳っていったら、車だって乗れる歳だし、危ない事だって自分の責任でできる、そんな歳なんだってお父さんは言ってたけど……正直、私はいまいちそういう実感って沸いてないんだぁ」
唯「前は……このまま、ぼーっとして…気付いたら一人で大人になっちゃうのかな? なんて思ったりもしたけど、みんなと一緒に大人になれるんなら、それでもいいと思えるようになったんだ」
唯「だから、私、改めてみんなに言うね……!」
唯「私……大人になってもみんなとずっと一緒に居たい…! 今日ここに集まってくれたみんなも、姫子ちゃんやいちごちゃん達クラスのみんなも、隣のお婆ちゃんもトンちゃんも大好きだから……!!」
唯「これからも、みんなずっとずっと一緒だから……! 私、みんなが大好きだから……!!」
唯「―――かんぱーーーいっっ!!!!!」
一同「「かんぱーーーいっっっ!!!」」
唯の音頭は、いつかのライブのMCのように、私達の心を震わせた。
それは、唯の純粋無垢な心。
それは、唯の「今を精一杯楽しもう」と言う思い。
未来を恐れず、あるがままの自分を貫こうとする意思だった。
唯にとっては、卒業もそうなのだろう。
留まる事を選ばず、みんなで前に進む。 そうすれば、誰しもが一人ではなくなる。
そう、唯にとって卒業は終わりではなく、新たなステージへの一歩なんだ……。
和「ふふっ…♪」
唯「…? 和ちゃん、突然笑ったりして、どうかしたの?」
和「なんでもないわよ、ほら、口元にソース……」
唯「んっ……和ちゃんが優しい……」
和「もう、まるで普段は冷たいみたいな言い方しないでよ」
唯「えへへ、ごめんごめん……」
澪「そうだ唯、せっかく18歳になったんだし、何か抱負とかないのか?」
唯「ほーふ?」
律「ま、簡単に言えば目標だよ、ほら、例えば「志望校に受かる」とかさ?」
唯「ん~……ほーふ……もくひょう……………」
梓「珍しく真剣に考えてますね……」
さわ子「ま、今大事なシーズンだしね……」
唯「……もくひょう…………そだっ!!」
紬「まぁ、何か浮かんだのかしら?」
唯「私の18歳の目標は………とりあえず………」
律「とりあえず……?」
唯「――アイス、たべたいっ!!」
一同「ずるるるるぅぅぅ……!!」
その発言に、誰しも床に突っ伏す事になったのは言うまでもない。
梓「ちょ……ちょっと真顔になったからもしやと思って期待したらこれですよ……」
澪「さ……さすが唯……良い意味でも悪い意味でも期待を裏切らないな……」
さわ子「私の教育、間違ってたのかしら…?」
律「あたしの期待返せばかやろー!」
紬「でも、唯ちゃんらしい目標だと思うわ、あはははは……」
純「ムギ先輩が珍しく引きつってる……」
憂「お姉ちゃ~ん…」
和「まったく……この子は……ふふっ」
和「っっ……ぷっ……あははっ、あははははっっ…!」
律「うぉう、和があんなに感情を露わに!」
澪「和笑いすぎ…っ…私にまで移って……っぷっっ…っくくくっっっ…あはははっっ!」
――そう、どこまで行っても唯は唯だ。
これからも、そして何年経っても変わらない。ここに居るみんなは……変わらない。
この先何十年経っても、誰かが結婚しても、遠くへ行っても……私達はずっと一緒……。
唯がいる限り、私達はどこにいても、同じ場所へ集うことが出来る………。
そうだよね……唯……。
和「……唯」
唯「ん、なーに? 和ちゃん」
和「お誕生日、おめでとう」
唯「和ちゃん……うんっ、ありがとう……♪」
澪・律「唯、おめでとうっ♪」
紬・さわ子「唯ちゃん、ハッピーバースデー♪」
梓・純「唯先輩、おめでとうございます!!」
憂「お姉ちゃん、お誕生日おめでとうっ♪」
唯「みんな……ありがとう……! 本当に、ありがとうーーっっ♪」
律「よーし、じゃあ、みんなでプレゼント渡そっか♪」
梓「はいっ♪」
さわ子「うっ……しまった……さっき買って来るんだった……」
純「わ、私も、何も用意してません……」
澪「まぁ……2人とも今日はいいんじゃないか、次に会った時でも……」
憂「じゃあ、まずは私から……♪」
唯「うい~~♪ ありがと~~~♪」
和「うふふっ……唯ったら本当に嬉しそうね……」
紬「ふふふっ、今日も素敵なものが見られたわぁ……」
――その日、お祝いの宴は、遅くまで続けられた。
誰もが笑い合い、唯の誕生日を盛大に祝っていた。
それはきっと、これから先も変わらず続いていく。来年も、再来年も……いつまでも、いつまでも……。
一同「唯、お誕生日、おめでとうーーー!」
唯「うんっ! みんな、あっりがとーーー!!!」
唯の家からは、みんなの賑やかな声が絶えず響いていた――。
Fin...