PARALLEL WHITE ALBUM2(仮題) 作:双葉寛之
正しい文法ではないでしょうが、ここ最近統一した書き方で整えてみました。
試しに載せてみます。
夏を目の前にしたこの時期、7月というのは憂鬱なものである。
いかにも暑い日差しにビーチが似合いそうな響きのする月ではあるが、今の時期――特に7月の初めというのは梅雨真っ只中であり、暑くなっていく気温に加えて強い湿気を好む人間というのは中々いないと思う。
それでも、学期末考査――1学期の期末テストが終わったこの日は、テスト期間ということで部活動を禁止されていた生徒達、とりわけ運動部員にとっては勉強漬けから開放された素晴らしい日と感じたことだろう。
そんな今までの抑圧されてきたストレスを発散しようといわんばかりの威勢のよい掛け声、ボールを打つバットの乾き響いた音。学園生活の青春を描くような爽やかさを見せるこの夕方。
屋上のフェンス越しに校庭を見下ろす生徒――小木曽雪菜は校庭の部活に励む生徒と対称的に物憂げに、何度もため息をはいていた。
――わたしも、部活に入っておけば良かったかなぁ……。
「はぁー……」
またため息がこぼれる。
学園に入って以来。自分という個性を人前に出すことを戸惑い続けながら早2年と少し。
もう少し経てば同級生たちは部活動を引退する時期だというのに、今更何を思っているんだと、雪菜は自嘲する。
悲しい出来事があった中学時代。明るく社交的だったばかりに起った、ありがちだけど――辛いこと。
その二の舞いを演じることはないようにと、当たり障り無く、波風を立てぬようひっそりと過ごした結果。
念願叶って辛かったり悲しい経験を再び味わうことは無かったが、その代わりに取り立てて楽しいことや嬉しい事、充足感を得ることもなかった。
親しい友人といえばクラスメイトに一人、女子バスケの部長を務めている子とは交友があるが、それも親友かと尋ねられると、自分が壁を作っているだけに返事に詰まる。
あとは去年から急速に仲良くなった男子生徒――それこそ休みの日に一緒に遊びに行ったりする程の付き合いがある男子生徒はいるのだが。
学校内では気を使っているのだろう。話しかけてくることは無かった。
それもこれも、大人しく暮らそうと思ったのに選出された挙句、1位を取ってしまったミスコン――ミス峰城大付属のせいだろう。
自分という個性を強く出さないでおこうとした足かせか、積極的に拒否することが出来なかったせいで、2年も連続して優勝してしまったそれは、雪菜にとって、全くありがたいものではないし、むしろ恨めしいタイトルであった。
そんな人間と親しく話をする男がいては周りから恨まれる。
決してそういう意味でその男子生徒は避けているのではなく、彼は学校内で評判の悪い。所謂不良生徒の烙印を押されている故に雪菜にあらぬ噂が立たぬように配慮して避けている。
そんな彼の変なところに気を配る優しさがまた、今の雪菜には孤独感を強く与えていた。
つい最近、その男子生徒に愚痴をこぼしたことを思い出す。
――寂しいならよ、いつまでもウジウジしてないで行動しろよ? 今からだって遅くねーよ。世界はお前にとって辛いことを与えるかもしれないけどさ、楽しいことだっていっぱいある。そう悪いことばかりじゃないぜ?
今どき流行らない、脱色した明るい髪にだらしのない挑発――まるでどこぞのホストみたいな格好をしている彼は、とてもそうは想像が付かない程親身になって話を聞いてくれていた。
――わたしは変われるかな。そうしたら
そうはいっても永きに渡る学園生活ですっかり染み付いたこの性格、どうやってチャンスを掴めばいいだろうか……。
「はぁ……」
また深い溜息。幸せが加速を付けて自分から離れていきそうなほど哀愁を漂わせる。
「あっ……」
階下の教室――音楽室から聞こえてくるギターの旋律。その音色を耳にした雪菜は一瞬、目を大きく開かせると、心のなかに染み渡らせるように、ゆっくりと細め、閉じていく。
――今日も弾いてるんだ……!
クリーントーンのエレキギター――手放しに上手だとは決して褒められない。けれども1ヶ月前よりかは遥かに上達したその旋律。
その上に、1ヶ月前も手放しに上手だと、掛け値なしに上手だと断言出来るピアノが優しく導くように寄り添うように重なり。雪菜のお気に入りの曲のイントロを奏でる。
雪菜はこの時間が好きだった。放課後、どういった間隔かはわからないがたまに彼女の大好きな――けれどももう、10年も前の古い古い曲。
“WHITE ALBUM”
それが今年の春から始めたであろう、ギターの男の子の練習の題材に使われているのだ。
ギターの男の子。
軽音楽同好会の子。
去年の学園祭の辺りから何度か目にした男の子。
雪菜の数少ないクラスメイトである友達――水沢依緒が言っていた事を思い出す。
曰く、軽音楽同好会は解散の危機らしい。
曰く、軽音楽同好会はボーカルが欲しいらしい。
――立候補しちゃおうかな。いやでもわたしなんか……。それに恥ずかしいし。
相変わらずウジウジした自分の性格を恥ずかしいと頭をブンブンと音が鳴りそうなほど左右に振りながらフェンスを握り再び校庭を見やる。
そこに先程回想した愚痴相手の――拓未と雪菜が指した男子生徒が、校庭を歩き、校門に向かっていく姿を見かける。
おそらくまた、進路指導の教師――諏訪に呼び出され今まで説教をされていたのであろう。ふてくされた態度が容易に想像がつくその足取りを見て雪菜はふっと笑う。
「そっか……ちゃんと、テスト受けていたんだね」
彼が、テスト期間であるにもかかわらず、何かの目的の為にだろうか……精力的に、積極的に活動し、多忙を極めていた事を雪菜は思い出す。
――そうだね。立候補、出来なくても。今ここで、歌うことくらいなら……。
自分もいつまでも殻に閉じこもっていてはダメだ。少しでも外に飛び出さないと。
そう決心した雪菜は、目を閉じて深呼吸し、しっかりと見開いたあと曲に集中する。
……が、次の瞬間には決心した相手――”WHITE ALBUM”は最後のサビが終わりエンディングに向かっていった……。
先程までの気持ちの高鳴りの落とし所がない。後悔と共に萎んでいく……。
「…そんなのって……ないよ……」
雪菜の学園生活で一世一代の覚悟は脆くも崩れ去り……。
――やっぱり、すぐに行動するべきだった。でも、歌いたかったな……”WHITE ALBUM”……。
意識せず勝手に流た涙を拭いながら、少し早いけどアルバイトに向かおう。そう思いながら踵を返そうとしたとき……。
「ああっ……!」
再びギターのイントロが響いてきた。
さっきと全く同じ音――けれども音に纏う空気感の違いから録音したものだと判る。
イントロにピアノが重なってきた。恐らく先ほどの練習の確認の為に再生しているだけだろう。
―― 演奏に合わせてじゃないけど、録音が相手だけど。
――けれども……届いて、わたしの”想い”!!
『――すれ違う毎日が 増えてゆくけれど ――』
一度歌い出してしまえば、あとは簡単だった。
緊張してどうしよう、と思った気持ちも忘れ去り、勝手に動く唇はメロディを口ずさんでいく。
本当は録音じゃなくて生の演奏で一緒に心を交わしたかったけれど。それでもわたしも、少しでもあなた達と同じ気持ちを共有したい!
――わたしに気付いて!
――わたしを仲間にいれて!
自分の胸の内を。学園に入学してからずっと出すことを抑えていた自分の気持を。
――隠すのはやめて、わたしはみんなと打ち解けたいの!
『――アルバムの空白を全部 埋めてしまおう』
久しぶりの、永く忘れていた感情が終わりを告げるのは突然だった。
1コーラスを歌い終わったのと同時に、金属製のドアが乱暴に、急いで開け放たれる。
「――小木、曽……?」
金属製のドア、階段の出入口のドアを開けながら、男子生徒は雪菜を確認すると息を切らしながらも呆然と、自分の名前を呟いた。
◇
「――小木、曽……?」
急いで階段を駆け上って乱れた呼吸を整えようとする男子生徒――北原春希は呆然と呟いた。
彼、北原春樹は先程までクラスの”お隣さん”であり、軽音楽同好会の仲間であり、そして自分のギターを指導してくれる師匠でもある、自身はピアノ担当である女子生徒――冬馬かずさから、席を外すからその間に録音した先ほどの曲を確認しておけと”指示”されていた。
大好きな”WHITE ALBUM” 指導をお願いして以来、初めて一曲通しでの練習だった。
胸が高鳴らないはずがない。ワクワクを抑えずにレコーダーの再生ボタンを押す。
自分の拙いギターの音色が流れる。それでも、かずさに教わってからはまともに聞こえる音になったと思う。
相変わらず惚れ惚れするようなピアノの旋律が寄り添うように重なり……歌い出しの部分が始まる。
――Aメロの出だしから少しもたついてるな……。
そう自己分析出来る程度には上達していた。注意深く再生される音に耳を傾ける……。
集中して聞くその音に、違和感を覚える。
――なんだろう。しっくりくる違和感……って、日本語おかしいな。
自分はこんなにボキャブラリーの貧困な人間だったろうか。変な自嘲をしながらもその違和感の原因を辿る。
スピーカーじゃないのだ。外か? 誰か、歌ってる……!
慌てて開いてる窓から身を乗り出す。歌声の向きは定まっていないのか、大きく聞こえたり、小さくなったり。何処から聞こえてるのかははっきりわからない。
わからないがこれだけ聞こえるというのは割と近い。大声を出せる場所……上か?
春希は弾かれるように教室に身体を戻すと慌てて――しかしスピーカーを窓の外に向けるくらいには落ち着いて、教室を飛び出した。
もちろん今向かう先が確実な訳ではない。違うところで歌っている可能性も充分にある。
だが、賭けるしかないのだ。
全力で走るしかないのだ。
何故ならば、今。自分が想像していたどんな人より。誰よりも”WHITE ALBUM”にピッタリの声
つまりは春希の求める理想の歌声の人がそこにいるのだから……!
階段を駆け登る。運動部の部員ほど鍛えられていない自分の肺が、心臓がもどかしい。焦ってもつれそうになる脚を必死に抑えながら屋上に繋がる出入口に辿り着き、倒れそうな程身体を押しこみ扉を開いた。
日没までにはまだ時間のある、けれども少し茜色に染まりつつある陽を背景に。綺麗な、薄茶色がかった髪が踊っていた。
◇
「――えっ…?」
久しぶりの心地よい時間を乱暴な音と自分の名を呟く声に邪魔され、雪菜は我にかえる。
立候補する勇気はないけど、この歌を聞いてスカウトしてくれたらいいな、届いてほしいな。そう思っていた癖にいざ歌い始めると最初の目的はすっかり忘れ去られていた。
だからこそ、意識していないからこその突然の事態に雪菜は驚き目を見開き、手を口に重ねて当てる。
簡単に言えば、
「え…? あ、あの……。わたし……え。……あ、なんで?」
これが2年間の集大成か。取り繕うことが出来ない状態でまともな言葉を紡ぎだすことが出来ない。
「あ……あの、わたし。やってませんから! これは何かの間違いなの……!」
「はぁ……?」
保安員に万引きが見つかった少女のようなセリフを放ち始めた雪菜を見て、ようやく心臓がいうことを聞き始めた彼、北原春希は思わず間の抜けた返事をしてしまう。
おかげで呼吸よりも、興奮していた思考のほうが先に落ち着いてしまった。
「あの、驚かせてごめん。俺、同じ3年のE組、北原春希っていうんだけど別に警察……じゃなくて、歌声が教室の外から聞こえて、慌てて駆け上って……」
「う、うん……」
「別に文句とかじゃなくて。その、俺の理想の”WHITE ALBUM”の歌声だったから……つい」
――あっ!
――わたしの気持ちが、届いてくれたの?
言葉に出来ない嬉しいような、感謝のような、達成感のような、今までの事が報われるような。複雑で形容しがたい感情が心のなかに広がっていく……。
「小木曽……あの……。っ……!」
春希は言い出しかけたのを一旦堪え。そして覚悟を決めた目で雪菜を捉える。
「小木曽……。俺の……俺達の軽音楽同好会に入っ――!?」
そして溢れだした感情は遂に心のダムを決壊してしまう。
「ぐすっ、うぇぇ……ふぇぇぇぇぇぇん!!」
「えー!?」
意を決して、まるで愛の告白をするような意気込みで雪菜を誘おうと言葉を発し終わる前に突然雪菜は泣き始める。
いきなりの事態にさっきとは正反対に春希がテンパる。
――ど、どうすれば……。俺なにかしたっけ!? っていうか、どうやったら泣き止んでくれるんだ? こういうときは……ヒッヒッフーと呼吸を……って違う、小木曽は妊婦じゃない!!
掛けて良い言葉が見つからずあたふたとする春希の前で遂に雪菜は崩れるように座り込む。
混乱したまま手をかけようとしたそのとき――
「北原ッ!!」
怒声が背後から鳴り響く。怒りの主は、彼のクラスメイトであり”お隣さん”であり同好会のメンバーでありギターの師匠であり……つまりは先程自分に”指示”を与えてくれた女の子、冬馬かずさだった。
かずさから見て春希の姿は逆光になっており、春希本人かどうかははっきりとはわからない。
わからないがそんなことは些細なことと無視して怒り上げながら”春希”であろう方向に歩き進んでいく。
「お前、舐めてるのか!? あたしお前に言ったよね!録音聴いとけって!
……って小木曽、雪菜?」
ようやく目が慣れ、中腰になっている春希を見たかずさは絶句する。
泣き崩れる小木曽雪菜の肩を掴みながら明らかに理性のない顔(驚いている+テンパっているだけ)で振り向く春希。
「……なぁ、北原。どうしたってんだよ。
……お前、そんな奴じゃないって思ってたのに。
……小木曽、大丈夫か? 何をされた?」
全く予想をしていない内容であるかずさのセリフにギョッとする春希の後ろで、先程まで泣きじゃくっていた――今ではエグエグとすすりながら泣く程度までは回復した雪菜は 。
「えぐっ……、北原くんが……。
えぐっ……、いきなり……。ぐすっ……、急に。わたしを……、その……!!」
――北原くんがいきなりやってきてわたしを軽音楽同好会に誘ってくれたの
「えっ、小木曽……さん? 間違ってないけど正しいこと言ってくれないとそれじゃ俺冬馬に……」
「うわぁぁぁぁん!!」
傍から聞いたら完全に犯罪者と間違われかねないセリフを吐きながら再び決壊する雪菜。
訂正を求めるも再び泣き崩れる雪菜を見て混乱の極地に達しながらも、もう全て手遅れだと悟る。
だって自分の後ろでは……かつて見たことがないほど顔を真赤に染めながら身体をふるふると震わせているかずさ。
その表情は怒りか、蔑みか、信じてた者に裏切られた絶望か……。
形容しがたい程の恐ろしい表情を見せながら、長くスラリとした、誰が見ても美しいといえる右足を、言葉に出来ない感情をその右足に込めるかのように、斜め後ろに弓引く。
「きぃたぁはぁらぁ……!」
「た、頼む!冬馬!話を聞いてく――ひぃっ!」
――どうしてこうなるんだろう。
――どうしてこうなっちゃうんだろう。
そんなこの世界には存在しない似たような舞台背景の某ゲームの冒頭のシーンみたいなセリフを頭に浮かべる春希をかずさは待ってはくれず。
夏の盛りも始まろうとする7月最初の金曜日の夕方。茜色に染まりつつある空に似つかわしくない、重く痛々しい音が鳴り響いた。
前半部分を割と大幅に加筆や修正をしたのですが、これがいいかどうかは判断付きません。
ですが最初に書いた時よりかはマシだろうと思い差し替えてみます。