PARALLEL WHITE ALBUM2(仮題) 作:双葉寛之
「ねぇお母さ~ん、片栗粉どこやったっけ?」
「ん? ほらそこにあるでしょそこよ」
「そこってどこよ~!そんなんでわかるわけないって言ってるじゃない。もー、戸棚?この引き出しのこと~!?」
「……あなた、いつもそこって言うだけでわかるじゃない」
わかるなら文句言わないの。呆れながらも雪菜の母、秋菜はその片栗粉先に使うから渡して。と告げる。
「ってお母さん、エビをお酒で洗って片栗粉まぶすなんて……」
「これはね、中華の下処理には必要なのよ。こういった一手間が大事なの」
「そうなんだ……。尾を切って洗ってとしか書いてなかったけど」
「あたしもあの子に教えてもらってんだけどね~」
「丸聞こえだよ……。
「あはは……。ごめん、うるさい家族で……」
ピンクを基調とした女の子らしさ溢れる部屋――小木曽雪菜の部屋で目の前に座る少年、弟の小木曽孝宏はうちの姉がみっともないところを晒してごめん。と恥ずかしそうに謝った。
カラオケハウスでの雪菜の”勝利宣言”の後、しばらく遊んでから店を出たところで雪菜は「せっかく仲良くなれたんだから、まだ帰りたくないな」そう言って春希とかずさを引き止めた。
「ねぇ、二人とも。まだ、大丈夫? ……門限とかある?」
「ウチは……親は海外にいるし、今日は柴田さん――お手伝いさんもいないから大丈夫だけど……」
お手伝いさん――柴田さんとは何度かかずさの家で練習していた時に会ったことがある。
年頃の女の子の家に通う男。
……誤解を抱かせるのは容易に想像が付いた春希は、懇切丁寧に説明し誠意を持って接するハメなった事は忘れるに忘れられない。
「俺も門限とかは特にないよ」
門限も無い代わりに家族としての関わりも無いけど――自分の家庭環境を愚痴に出すのも良くない。春希はあえて必要最小限を述べるだけに留める。
雪菜は二人の答えに目を輝かせると嬉しそうに、それでいて言いにくそうにしながらも二人を誘った。
「ならさ……。ね、ご飯食べてかない? 懇親会も兼ねて」
「確かに、ご飯を食べていかないかとは聞かれたけど、自宅に料理を食べに来ないかとは思わなかったよ……」
これが学校の
横を見るとかずさも居心地悪そうな顔をしている。
多分、その原因はお茶を持ってきてくれた、向かいの少年。孝宏だろう。
かずさも俺とおそらく同じで、俺達は一人っ子だし、弟――雪菜の弟だが。 そういう存在にどうやって接していいか図りかねていた。
「孝宏くん……だっけ? 今年いくつ?」
「今年、中3。姉ちゃんとは3つ違いだよ」
「ってことは受験生か。……やっぱり
「んー、ウチは普通の中流家庭だから無理かなぁ。二人も私立に通わせる経済力は無さそう
しかも姉ちゃんはこのまま峰城大だからね。俺まで行くとなったらすかんぴんになるかも」
「す、すかんぴん……。よく知ってるね」
都内のこの近辺に一戸建てを構えるのは中流家庭の中でも十分に裕福だと言えるだろう。
でも、たしかにうちの学校はお坊ちゃんにお嬢様が多いから、中流というのがピッタリといえばピッタリだ。
目の前の顔を強ばらせている――おおかた緊張しているだろう 「本物のお嬢様」と比べれば。
「……なぁ、冬馬ぁ」
「な、なんだ!?」
「お前なに中学3年生におっかなびっくりしてんだよ……。彼のほうがよっぽど年上に見えるぞ」
「ふ、ふざけるな!あたしはビビってなんかない!
……あ。……し、仕方ないだろ。あたしは……今まで、こんなこと」
「あーはいはい。孝宏くん、ごめんな。こいつ、獰猛だけどただの人見知りだからさ、近づいて手を出さなければ怖くないから」
「えーっと……。たしかにちょっと今のは怖かったけど。だいじょうぶ……」
「ば、馬鹿に――」
「あーはいはい。ほら冬馬、せっかく孝宏くんがコーヒー持ってきてくれたんだ。飲んで落ち着こう。
孝宏くん、ごめん、そのスティックシュガー貰っていいかな? この子甘党でさ」
◇
「なるほど、軽音楽サークルのボーカルにうちの姉ちゃんを」
「そう、突然押しかけてごめんな?」
「いやー、無理して家に誘ったのは姉ちゃんでしょ?
姉ちゃん付属じゃ猫被ってるみたいだしなぁー。中学の時は部屋に入りきらない程友達連れて来てたのに急にバッタリと。
それが3年になっていきなり綺麗な人と男の人連れてくるから、痴情のもつれかと思ったよ」
ゴホッと気管支に入ったのかむせるかずさ。噴き出さなかっただけマシであるが代わりに苦しいのは間違いない。
春希は慌ててかずさのカップをテーブルに置かせると、ハンカチを口元に差し出した。
「お、おい、大丈夫かよ冬馬……。
孝宏くん、痴情のもつれってどんなことを考えてるんだ」
「ご、ごめん冬馬さん。いやー、だって緊張した男女二人を迎えて、手を上げるかわりに料理で語る。そんな展開を――」
数時間前に歌で勝負を決めてきた雪菜だけに違和感が無い……。
強く否定出来ない春希を他所に話を続けようとする孝宏を遮ったのは雪菜の声だった。
「北原くーん、冬馬さーん、両手がふさがってるから扉開けてー――ありがとうって孝宏、どうしてここに?」
「どうしてじゃないよ。お客さんをお迎えしといてお茶も出さないなんておもてなしの心がなってないよ。姉ちゃん」
「孝宏にしては妙に気が利いてる……。なにか余計なこと聞いてない?」
「なーんにも! 2階から乾いた音が鳴り響くような状況じゃなくて安心しただけだよ。それじゃ北原さん、冬馬さん。ごゆっくり」
「な、どういうことよ!? 孝宏!って……もう!」
「……えーっと」
ぷりぷりと怒る雪菜。学校じゃアイドルが絶対に見せない顔だけに春希とかずさが驚いても不思議ではないだろう。
「ごめんね、二人とも。弟が何か変なこと言ってなかった?」
「い、いや。特には……」
「小木曽は猫を被ってるって言ってた」
「と、冬馬……」
「あー。やっぱり、孝宏ったら!」
――これ以上こじらせたってしかたないだろ!
春希は無言でかずさを叱りつけるように見やると雪菜の機嫌を取るように……だけども、本心からの言葉を話す
「孝宏くんは雪菜のことが心配だったんだよ。
……いいな姉弟って。俺一人っ子だからさ、そういうケンカもすごい楽しそうに見えたよ」
「そんなにいいことばかりじゃないんだよ? どっちかというと……。
はい、お待たせしました!さっ食べよ食べよっ」
湯気をたてながらローテーブルに並ぶ献立、鰤の照り焼きに八宝菜、そしてハンバーグ。それにごはんとしじみの味噌汁。何処に出しても恥ずかしくない「家庭の料理」を見るのは春希は久しぶりだった。
昔、父が出て行く前の”見かけの上”でも仲が良かった家族だった頃を思い出す。
そんな感傷に浸りかけた春希は思考を振り払うように「あぁ、食べよう!」と雪菜に同意した。
「おぉ……。肉汁が溢れてくる……」
「グッディーズとはまるで違うね。美味しい……」
「ほんと!? ありがとう!
ハンバーグはスプーンでこねたりして、焼くまではなるべく冷やしておくのがポイントなんだ」
あとは、片栗粉でコーティングしたりとか。 そう心から嬉しそうに話す雪菜。やはり学校では見られない生の表情だ。
「ハンバーグには砂糖は入れないって本当なのか?」
「冬馬さん、砂糖を混ぜて焼いちゃったら一気に焦げちゃうよ。
玉ねぎで甘さを引き立てるのが普通で、どうしても甘い味付けにしたいならソースを甘くするんだよ」
――こんなふうに食べるのも悪くないな。
友達の女の子の家で食べる夕食は、始め緊張していた時とは想像もつかないほど、和やかに過ごせていた。
◇
「そういや、小木曽。ひっこみがつかないとか、お嬢様を守るために無理してバイトってどういうことなの?」
あたし、スーパーで見かけた時は苦学生だったのかと思ったんだけど……。
食後、お茶を飲みくつろいだ所でかずさはカラオケハウスでの疑問を聞き出していた。
「えーっとぉ、最初に優勝した時はやっぱりわたしも嬉しくってニコニコしてたんだけど。周りはみんなわたしのことミスコンの小木曽雪菜としか見なくなって。そんな皆のイメージを壊しちゃいけないと思って……。
それに、そういったものにエントリーされるのは本物のお嬢様ばかりでしょう? 毎回違うお洋服とか揃えなくちゃいけなくちゃってドツボにはまっちゃって……」
なんだそれ、くっだらない話。とかずさはばっさり切り捨てる。
確かに周りのイメージに応えなくちゃいけないというのはかずさの最も嫌うところだとは思うが――春希自身、優等生のイメージを崩してはいけないと思うことは少なからずあるわけで、かずさみたいに断言することは出来なかった。
「な、ならさ……小木曽、そんなに嫌だったら2年の時のエントリー、断ったらよかったじゃないか」
「そんなの断る事が出来たら今こんなになってないよぉ……」
――やっぱりくだらないかもしれない。
エントリー条件は、本人の合意があることが大前提なのだから、適当に理由を上げたらすむ話なのに。
フォローして少し後悔する。
「でも、カラオケハウスでも言ったように、だからといって歌をうたうチャンスを諦めたくはなかったんだよ。
……だから、仲間に入れてくれて嬉しいし。こんな風に晩御飯食べながらお話出来るなんて夢みたい」
――
以前、緒方理奈が出した著書で森川由綺について述べていたことについて思い出す。
アイドルは誰にでも等しくアイドルでなければならない。そのためには普通の人と同じような生き方は出来ないのだ。と。
転向して一新。実力派アーティストとして新たな道を選んだ元アイドル、緒方理奈だからこそ語ることが出来る当時のライバルの心境。それを春希は思い出していた。
「あー……。小木曽、軽音楽同好会は俺と冬馬の二人だけじゃなくて、飯塚っていう部長がいるんだ。
だからアイツにも話を付けないといけないから。まだ確定ってワケじゃないんだ」
「そ、そうなんだ。飯塚君ってあの依緒の幼なじみで……その。”あの”飯塚君だよね?」
――”あの”というのが彼をどういう人を指しているのかと、あえて聞くのはよしておこう……。
隣で笑いを隠し切れないかずさ。おそらく彼女の中では"あたしが蹴り飛ばしたあの飯塚武也だよ”って言ってるところだろうか……。
そんなかずさを見ながら容易に想像できることを春希は考えていると。向かいの部屋の主は。
「その、ね。一つ、わたしもまだわからないことがあるの」
申し訳無さそうに話し始めた。
「なるほど、家族に相談ね……」
「なんだよ、家族ってそんなにめんどくさいものなの?」
「いや、俺もその点についてはよく解っていない
「ごめんなさい、見切り発車で物事を進めちゃって」
「いや、武也に了承してもらう前で助かったよ」
小木曽の家みたいなのが普通なのかどうかはわからないけど、そういう事情があるということだけは理解するも、かずさはやはり理解できないものは受け入れられないようだ。
「そんなものさ、無視して押し切ればいいじゃない。あたしならそうするけど」
「そんなのダメだよ! だって、大事なことだよ。
でも、大丈夫だから。話し合って、ちゃんと認めてもらう」
――なら、その手助けをしてやらないとな!
こういうのは自分の得意分野だ、とばかりに春希は宣言する
「なるほどなるほど、それじゃ説得だな。家族会議だな。
会議といえばプレゼンだ。早速作戦会議しよう」
こうして。春希達は失礼にならない時間まで、小木曽雪菜ボーカル承認計画を進めていくのだった。
◇
「こんばんは……秋菜さん。俺、奥さんに会えなくて寂しかった!」
「あぁ、そんな、いけないわ……。私には主人がいるのにっ」
「だって……俺、ツアー中ずっと会いたくて会いたくて――」
「……人の伴侶を口説く前に、まずは小木曽家の主に対して挨拶すべきじゃないかね、浅倉君」
帰宅して間もない小木曽家の主人の目の前で、訪問して早々間男ごっこを始める男、浅倉。
「いやー、つい。すみません、晋さん。こんばんは。
……あ、これ。お土産ですけど、兵庫の地ウィスキーらしいっす」
「ふぅ。まぁいい、上がっていきなさい」
「ははっ、お邪魔しまーす」
「相変わらず、自分の母さんを口説くのを見ると。俺、拓未さんにどういう目を向けていいかわかんないよ……」
「何言ってるんだよ、孝宏。こんなに美人なお袋さんの元で育つと目が肥えすぎなんじゃないのか?」
そりゃ晋さん心配で心配で家族第一になるくらいだよ。と
「あまり、大人をからかうな。それより浅倉君、今回は名古屋、大阪。広島に福岡、だったか?」
「そうです。さっきのおみやげは大阪から広島への移動中に。あ、雪菜と孝宏のおみやげはこれな」
「福岡は……確か」
「えぇ、俺が中学1年の途中まで育った故郷っす。今回は久しぶりに帰れました」
リビングで、孝宏に土産を渡しながら晋と話しているところに、秋菜が夕食を運んでくる。特に態度には出さないが秋菜はことさら上機嫌のようだった。
「……おぉ、八宝菜にハンバーグ。それに鰤の照り焼きですか? ご馳走ですね!」
「そういや、母さん。雪菜は?」
「それがね、今日は雪菜。お友達を連れてきてて、この献立もあの子と作ったのよ」
「そうそう、姉ちゃん付属に入ってから一度も連れて来なかったのに。スラっとしたすごい美人と、男を連れてきてるんだよ――怖いお姉さんだったけど」
「雪菜が男……だと?」
後半にだけ反応する父、晋を孝宏は「とーもーだーちー、だから!女の子と一緒に!」と両手を前に突き出しながら慌てて抑える。
それなら仕方……ないのか……? 渋々引き下がる晋。そんな家族ドラマの光景を目に
「そっか……、アイツ、友達連れてきたのか」
雪菜が仮面で繕って寂しい学園生活を送っていた事を知る拓未は雪菜が変わっていくようで嬉しいと思っていた。
「大体、拓未さんが学校で親しくしてあげてたら姉ちゃん猫被らなくて良いんじゃないの?」
欠食児童のように夕食に喰らい終わり、人心地つくと孝宏は拓未に軽く非難の声を上げる。
「そりゃそうだけどよ。学校じゃ素行不良の俺と関わってたら雪菜の評判が悪くなる。それに逆なんだよ、
そう、拓未は学校での評価はすこぶる低かった。喫煙問題や教師陣への反抗的態度等、懲罰を受けたことも何度かある。そういった過去があるだけに学園のアイドルと親しくしている姿を見られるのは避けなければならなかった。尤も、いつ周囲に知られてもいいように、最近は随分となりを潜めていたが。
「そう娘を思いやってくれるなら、その髪型と態度を改めるべきじゃないのかね?」
表に出す態度と実際の人当たりの良さの使い分けが理解出来ない。普通逆だろと晋は拓未に苦言を呈する。
「いやー、確かに俺もこの髪型は嫌いなんすけど。ライブだとステージ映えが良いって理由で……」
鬱陶しく、街を歩くだけだと時代遅れに見える髪――脱色し、後ろ髪をゴムで一本に束ねた長髪 を触りながら、拓未はピアノで歌うのに専念するならアフロとかでもいいんですけどねー。と答える。
「そう、それ!思い出した。姉ちゃん今日の友達とバンドをやるって――学園祭に出るって言ってたんだ!」
だったら拓未さん教えてやってよ。姉ちゃんヒトカラばっかで素人だし!と話題を振ってきた孝宏は、それが軽々しく言ってはいけない――父にとって重大な事だと気付いた。
小木曽家のルールの中の一つに、誰かが、何か大きな行動をする前に家族で話し合って決めなくてはいけない。ということ。
そんな大事な事を話し合わずに勝手に、と顔をしかめる晋。
「母さん、悪いがそのお友達には今日は帰っていただくように――それと浅倉君も」
「お父さん、それはそうですが――」
そういやそうだった。小木曽家は何処よりも家庭を大事にすること優先する、今どき珍しい家だったと拓未は思い出す。
確かに家長が言うことなら絶対だろう、だがしかし杓子定規だとアイツ……。
「なるほど、家族会議っすね。それなら仕方ないです。
でも、ちょっと待ってもらえませんか? アイツは、雪菜は。家族にウソをついて、影でこっそりと裏切りをするような人間だとは晋さんも思ってないはずっす。
ここで、父親が娘に横槍を入れるとせっかく出来た友達との関係に亀裂を生むかもしれません。
家族会議を切り出すのはアイツを信じて、もう少し待ってやって下さい。雪菜は絶対、相談してきます」
「浅倉君……」
晋は相変わらず腑に落ちない顔を作っている。……そんなことはわかっている、だが決まりは決まり――そう考えているのかもしれない。何より、娘と同じ歳の男に言われるのは癪だろう。
「出過ぎたことを言ってしまいましたね。すみません晋さん。とりあえず今日はお邪魔します」
席を立つ拓未。「秋菜さん、ごちそうさまでした」と伝えると晋に向き直り、よろしくお願いします。と頭を下げて帰りの支度を始めた。
「拓未さん!なんか……。こんな展開にしちゃってごめん」
玄関で謝る孝宏。拓未は何言ってんだと肩を叩きながら言葉を続ける。
「気にしてねーよ。なぁ孝宏、親父にお袋、それに姉ちゃん。家族が揃っているってのは良いよな。お前の自慢の家族だろ? 信じてたらいいんだよ。それじゃ、おやすみ」
大丈夫、お前んちのこういうところ、嫌いじゃねーよ。そう笑いながら拓未は小木曽家を後にした。
――な、孝宏。やっぱり問題なかったみたいじゃないか。
深夜に拓未の携帯が鳴り響く。発信元は「小木曽雪菜」
「よぉ、雪菜。俺さっきお邪魔してたんだぜ?」
◇
「……と、言うわけでだ。武也。ボーカルとして入ってもらおうと誘ったのが――」
「小木曽雪菜です。今日から軽音楽同好会に迎えてもらいたくて来ました。よろしくお願いします!」
明けて翌週、月曜日の放課後。あえて何も告げなかった春希はあえて何事もないように雪菜を連れてき、武也に紹介した。
染み付いたアイドル魂(?)でお辞儀する雪菜。ミスコンで見せてもおかしくない笑顔での挨拶だ。
「んな!?……お、おい春希!なんで小木曽さんがここにいるんだよ。冬馬もどうして落ち着いて……知ってたのか!?」
まぁそういう反応するだろうなー。あえてそれをわかってて提案したかずさも人が悪い。
――さすがの種馬、飯塚武也でも
そう意地悪い考えを春希に明かすかずさ。案の定想像通りの展開になったというわけだ。
「ダメか?武也」
「いや、この危機的状況で導き出したのが小木曽さんなら最上の結果だろうが……。その、失礼だけど歌の方は確かなのか?」
「安心しろ部長。あたしが保証する。アイドル目当ての一見さんならホロリとダマされる腕前だ」
「そっか……。やってくれたなぁ春希!冬馬に小木曽さんに、美人二人を揃えてくるとか、おまえ文化祭までに刺されるぞコンチクショウ!」
とんでもないことを言いながら春希の頭をもみくちゃにする武也。やはり予想以上のサプライズ人事だったのは間違いなかったのだろう。
「よろしく、小木曽さん……いや、雪菜ちゃん!俺、部長の飯塚武也。
いやぁ、雪菜ちゃんがボーカルだなんてこりゃすごいバンドになりそうだ」
有頂天の武也を諌めたのは音楽には厳しい性格の――やはり、かずさだった。
「部長。他のパート。ドラムやベースはどうなってる?」
「……冬馬。それが――」
やはり準ミス、柳沢朋を迎えて崩壊したという事実は重かったみたいだ。
それだけで敬遠する人達もいる中で、元同好会の
――”兄弟”達で集まるって、正気なのか?
げすな俗語でその噂を考えられないと切り捨てる春希。さすがにそんな目に見える修羅場に見を置きたくなかった。
「――そういうわけで、だ。このまま夏休みを迎えて2学期、噂も消えた頃に探して見つかるかどうかという状態だ」
本当に、申し訳ないと思っている。そう言わんばかりに真摯に謝る武也。
かずさはふん、と鼻を鳴らすと、彼女の実力を考えると嫌味でもなんでもないことを話し始める。
「そこの小木曽は確かにいい声を持ってるし、あたしだってピアノは全国の高校生に負けない自信を持っている。2学期のいつになるかわからない時期に素人を迎えて、さぁ練習だ。曲を決めよう。とかグダグダするのはあたしはやりたくないぞ」
というわけで、と続ける。
「部長、あんたベースに転向しろ」
「んあ!?」
「小木曽はこういっちゃセンスを疑うけど、北原のギターを聞いて加入するって言ってきたんだ。
ベースならギターから転向もし易いだろ。自分の仕出かした責任はきちんと取るんだな。
そして、ピアノは確かに伴奏や主旋律も奏でることができるが必須じゃない。バンドの構成で一番大事なのはそれを支えるリズム隊だ。だったらあたしがドラムをやる」
「ちょ!冬馬!」
――小木曽は冬馬のピアノも聞いてたんだぞ!?
そう春希が意見するのはわかってたのだろうか。かずさは手でそれを遮る。
「もちろん、練習を続ける傍らメンバー探しは続けろ。あたしも出来ればピアノがやりたいし、なにしろ代理だしな。
……それが、一番リスクが少ない方法だろ?」
たしかに正論だ。それで立派なバンド形態になる。だがそれでいいのだろうか。小木曽は……自分は……、かずさにピアノを弾くことを諦めてもらいたくはないはずだ。なにか……いい代案は。
結論が出る前に、なにか別の方法を――必死に探す春希だが思考の邪魔は、想像もつかない形で訪れた。
「ほら、こっちこっち!!拓未ー、なんでそんなに嫌な顔してんのー?」
「引っ張んなよ、おい!ちょ、話せ!俺は今日から音楽室方面には行きたくねーの!!」
勢い良くドアを開き、みんなー練習やってるかねー!と脳天気な声を上げる千晶。
その千晶に腕を引っ張られながらやってきたのは……。
「あ、拓未くん。やっほー!」
「たく……み……?」
「おい、まじかよ。カチコミってやつ?」
どこか間の抜けたセリフを放つ雪菜。呆然と呟くかずさ。同好会の悪評はそこまでだったかと絶望感を露わにする武也。
春希の目の前には、かずさを知るまで普通科で一番の問題児だと思っていたB組の暴れ者、浅倉拓未がいた。
長くてスミマセン。
0時辺りに更新とか嘘っぱちタグです。
そして寝る時間がヤバイです。
推敲なしに投稿。修正は明日仕事中に……。