PARALLEL WHITE ALBUM2(仮題) 作:双葉寛之
「よ、よぉ……雪菜。部活、頑張ってるか?」
「やだなー拓未くん。今さっき加入したところだってば」
1日目から会わないようにと
自分が関わっては、雪菜に――ひいては同好会とやらも評判を悪くさせてしまうのではないかと。そう思って今日から音楽室には(今まで行くことも無かったが)近寄らないでおこうと思ってたのに。
――今なら、ただの知り合いで通せるか?
「そ、そっかははは……。それじゃ、俺はここで――」
「た、拓未っ。どうしてここに!」
「アァ? 誰だ……ってかずさァ!? お前、どうしてここに!?」
いやー悪い悪いと、退出しようとしたところに拓未を呼び捨てにする女子生徒。
怪訝に振り返ると惚れ惚れするような黒髪を持つ、
「質問をおなじ質問で返すなよ!だいたい、あんたはひとつ上じゃなかったのかよ!」
「……お前、今年18歳の3年生?」
「あ、当たり前だろ?」
「……2年じゃなくて?」
「馬鹿にするな!」
同好会の男子二人――春希、武也。それと連れてきた張本人である千晶は突然のまるで蚊帳の外に置かれたような想像をしていない展開に目を白黒させる。
「あ、あのー……。俺達もう何がなんだかわかんねーから、落ち着いて説明してもらえないか?」
とりあえず軽音楽同好会の部長である武也は、混乱の極みにある現状の打開を拓未に求める。
「あぁ……そうだな。飯塚だっけ? ――とはいうものの、俺も全然把握出来てねーからよ、質問してもらえると助かる。
とりあえず、なんか皆知ってるみたいだが、3年B組の浅倉拓未、だ」
「学校で話すのなんて、初めてだよねー拓未くん」
「あー、ちょっと待ってね。雪菜ちゃん、今から大事な話するから。……えっと、どうしてここに?」
「ンなもん俺が聞きたいくらいなんだが……。
「瀬能。連れてきたって……どういうことだ?」
「飯塚君。拓未はね、フリーのバンド経験者だからね。せっかくだからって連れてきたんだけど」
――えぇー、こいつ連れてきたのかよぉ?
そう言いたくなる武也はグッと堪えてとりあえず、納得する。
「そ、そうか。じゃあ……さっき冬馬と争っていた件だけど」
「トーマ? ……かずさのことか」
「か、かずさ、ねぇ……。そう、その冬馬かずさと言い合っていたけど、どういう関係?」
「知り合い。っと言い切ったら納得しねぇよなぁ。
4月の初めにナンパ絡まれているところを助けた……のと、その時脚を痛めていたのを介抱したのがきっかけで知り合った」
「べ、別にあの時はお前の助けなんて――」
「あと、どういう関係かというところは……。2~3回程デートした関係?」
「はぁ!? デート!?」
一斉に驚く周囲の中でも春希は一歩抜きん出た驚き方である。それこそ「なんだとぉぉぉ!」と叫びかねない勢いだった。
「ちょ!お前、そんなところまで言わなくても――!」
「ま、まぁまぁ冬馬。はい抑えて抑えて。……とりあえず、知り合い。ね
あとは……雪菜ちゃんとのことだけど、まさか二股……」
「あー。……雪菜とは去年からの知り合いで。家族ぐるみ――というか俺が勝手に小木曽の家とだけど、親しくさせてもらってる仲で。決して雪菜が不良って訳じゃない」
「あ……そう。雪菜ちゃんがそんな子だとは思ってないけど。
……いまいち納得というか理解出来なかったけど。そうかい、わかったよ」
「まさか……こんなの私も予想してなかったよ……」
普段は見せない、狼狽えた態度で千晶は呟く。
今回はからかいでも興味本位でもなく、ただ単純に心当たりがある人物を紹介しようと親切心で行ったことだった。――アクの強いメンバーが加わったら見てて面白そうだ。 という気持ちがあったのは否定しないが。
だがここに連れてきて、同好会の女子――まさかそこに小木曽雪菜まで加わっているとは思わなかったが――二人と何かしら親しい関係だったと話が展開するとなると、次の矛先は当然……。
「あー、じゃあ。連れてきた瀬能とは……?」
「千晶か? こいつは最初、ライブの客として見に来てて……その後、妙に近づいてきてな――」
――いけない、考えこんでて止め損ねた!
「んで、いざ抱こうかってときになって、やっぱり怖いっていって逃げ出した女だよ」
「んにゃああ! い、言うにゃあ!!」
「せ、瀬能!?」
「瀬能さん!?」
第二音楽室の混乱は、今度こそ収集が付かない極みに陥った。
◇
「だーかーらー、仲がいい”お友達”だっつーの!」
一人は未遂だが、とは言葉にしない拓未
「はぁ……。俺の想像を遥かに超越した――大物を手玉に取る男だな。浅倉は」
「あぁ? 学園が誇る
「……いやもう、敵わねぇよ。浅倉には勝てねぇ」
「だから何もしてねぇって……」
しつこい勘違いをする武也にもう構ってらんねぇ。と髪を手で掻き分け掌を額に当てる拓未
「拓未、あんたが同じ学校で同じ学年だとは知らなかったんだけど」
「俺だってわかんなかったよ。制服姿見るの初めてだし、会った時はお前17って言ってたからな、年下と思ってた」
「あたしは、5月が誕生日で。今年は18だったんだ」
「……あー、俺4月の初めが誕生日だからな。……会った時は既に」
ようやく合点がいったと、最初の言い争いだった議題が解決する拓未とかずさ。
と、同時になんで3年になるまでかずさのことを学校で見かけなかったのかと疑問も出てくるが……。まずはこの場を離れるのが先だと判断する。
「んじゃ、ま。とりあえず俺は帰るな。
「えー、拓未くん帰っちゃうの? 一緒に、軽音楽同好会に入ってくれるんじゃないの?」
「いや、俺やるとは一言も言ってねぇし……」
「ツアー終わって今はフリーなんでしょ? いいじゃない」
「だからって俺がここに入る理由には……」
「一緒にしようよー!……ダメ?」
「……あー、その……」
――こうなった雪菜は断りづれぇ!
カラオケに行こうと駄々をこねる雪菜と同じモードだ。こういう時は秋菜さんか晋さんの手を借りないと逃げにくい。分の悪さから、振り切って逃げようとする拓未をかずさが制した。
「はん……なんだ、拓未。あたしの腕に吊り合わないと思って、ビビッてんの?」
「いや……お前のピアノは楽器屋デートで試奏した時くらいしか知らねーんだが……。かずさ、お前、誰がビビってるっつった?」
「ビビってるだろ。ウジウジと逃げまわって――それをビビるって言わなくて何ていうんだよ」
「……言ってくれるな。いいぜ、ンなら話だけでも聞いてやろうじゃねーか」
「え、そんなおっきな釣り針に……?」
雪菜のことを考えて早めに逃げ出そう――そんな考えを綺麗さっぱり忘れる拓未。
――案外単純なのかも……。
簡単にかずさに載せられる拓未をみて、こいつひょっとして御しやすいんじゃ。そう思ってしまう武也と千晶だった。
◇
「はー? “WHITE ALBUM”をやりたい? なんでそんな懐メロを……。あー、雪菜のお気に入りか」
「そゆこと!それと春希のお気に入りでもあるらしくてね。それで集まったらしいよ」
千晶の補足を受けて、「古臭い曲の何処が悪いっていうんだよ」と文句を垂れる春希をみる拓未。
――ん。確かこいつって
「なぁ、『いいんちょくん』って……かずさが前に言ってた。あの、お気に入りのギター君か?」
「な、お気に入りとは一言も――!」
「と、冬馬?」
かずさの”お気に入り”だという拓未の発言を受けて、驚きながらもムキになる春希。
「あぁ、そうだよ。お気に入りかどうかは知らないけど。俺がかずさにギターを教わってて、そして同好会に入ってもらった。――そういう意味では浅倉がいうギター君は俺だよ」
――あの、ナンパ野郎達に絡まれて……男三人に囲まれても蹴りを繰り出した、かずさが気に掛ける男か……。
「なるほど、ねぇ。なら、いいぜ。学園祭が終わるまでの間。参加してやるよ、軽音楽同好会に」
「本当!? 拓未くんとバンドできるの!?」
「ま、マジか……」
性格は気に入らないし、かずさと同じくらいの問題児。――男である分、余計に関わりたくない類ではあるが。先程の雪菜のツアー云々から、これはひょっとしたら良い拾い物なのでは? と武也は計算する。
春希も、こういった人種は苦手ではあるが声を上げて喜ぶ雪菜と、「やりました」と言わんばかりに手を組みながら頷くかずさを見ると反対することが出来なかった。
「まぁ、実力者が入ってくれるなら歓迎するよ。とりあえずさ、はじめからゴタゴタしてて、まだこっち側の自己紹介が済んで無かったよな。
俺が軽音楽同好会の部長の飯塚。楽器はギター。ま、名前は知ってくれてるみたいだけど」
「飯塚も北原も、それぞれ真反対の意味で有名っちゃ有名だからな。よろしく」
真反対の――女性に言われると不名誉だが同性に言われると何故か誇らしげに感じてしまうのは何故だろうか。そんな下らないことを考えつつ武也は「んで、こっちが――」と他のメンバーの自己紹介を促した。
「はーい!今日からボーカルの小木曽雪菜でーす!」
「拓未に自己紹介する必要はないよな。知っての通り、あたしはピアノ。あ、クラスは3年E組」
「……北原春希。担当はギター、補欠だけど……。レギュラーになれるように冬馬に特訓を受けてるところだ」
「あぁ、よろしくな。『ギター君』」
不機嫌な春希に「そう警戒すんなってー!仲良くやろうぜ」と笑いながら話す拓未。
「で、千晶は掛け持ちか? お前演劇部だろ?」
「わ、私ー? 私はー、春希のファンかな?」
「ふぅん……。今度は北原ねぇ……」
うすうす感づいている拓未。
――こいつは、千晶は生粋の……。形は違えど表現し伝える、そういう同業者としての……。
「それで、浅倉。お前のパートは」
思考を中断させたのは同好会の部長、武也。
「ん、パートは? と聞かれたらギターだ、って答えるんだが」
「……浅倉もギターか。となるとやっぱりベースは俺が――」
せっかく拾った『逸材』もギターか……。やっぱりベースに転向して冬馬にドラムをお願いするしかないのか。
そう諦めかけたのを救ったのは千晶だった。
「あー、飯塚君。その質問は拓未にとって適当じゃないよ。彼にはこう聞かないとダメ。
拓未、得意なパートは?」
「ギター」
「じゃあ、弾ける楽器は」
「バンドで考えるならほぼ全部」
『え?』
「だから、オーケストラはともかく、バンドで使う楽器なら全部担当出来るよ。俺は」
事も無げに――自慢も謙遜もしないような平坦な言葉でとんでもないことを伝える拓未に驚く春希と武也、そして雪菜。
千晶は知ってたみたいだし、かずさも驚いていない。
武也は、まさか下手の横好きというわけではないだろうが……。そう思いながらも一応尋ねる。
「何でもって……それって広く浅くってことか?
ちなみに、ギター歴は?」
「10年くらい」
「マジか! べ、ベースは?」
「10年くらい」
「嘘だろ……。ピアノは?」
「キーボードとしてなら10年くらい。本格的なピアノとして教育を受けたことはない」
「……ドラムは」
「10年くらい」
『…………』
弦楽器も鍵盤楽器も打楽器も歴およそ10年の18歳。そんななかなかいない経歴に今度はかずさも含めて息を飲む。
「な、なぁ……浅倉。一応聞くけど、バンド歴って、どのくらい?」
「んー、正式に所属したことはないけどずっとサポートとしてやってて、今年で5年」
「拓未、あんたどんだけ暇人なの?」
思わぬ逸材どころじゃない『とんでもない逸材』に武也は性格の問題など忘れたかのように喜ぶ。
「ほ、本当か浅倉!! なら、ならベースとかドラムを頼んでもいいのか!?」
「あぁ、いいよ。そうだ、忘れてた。確か飯塚、お前準ミス相手にやらかして大顰蹙かってたんだっけな」
そりゃパート探し大変だよなー、と笑う拓未。やっぱり知っていたのかと武也は苦虫を潰したような顔で嘆く。
「ってことはさ、俺が来るまでどんな編成考えてたんだ?」
「なるほどねぇ。確かに4人なら得意楽器を変えてでも編成しなおさなくちゃなんねぇな」
拓未が来る直前までの転向の話を聞き、その通りだなと頷く。
だが拓未が来た所で二人必要なリズム隊が埋まるのは一人だけ。
「だけどなぁ、これから探すとしても厳しいだろうなぁ……」
「なんでだよ、そこまで武也がやったことは広まってるのか?」
あまり気に入らない人間が自分の親友を咎めているのかと非難する春希。
予想していなかった反論に拓未は思わず笑い出しながらも「違う違う」と説明する。
「いやまぁ、広まってるのは確かだけどそりゃどうとでもなるよ。問題は雪菜だな」
「小木曽が?」
拓未に予想していなかった反論と思わせた春希も、拓未から予想もしていない問題点を指摘され、どういうことだ? と尋ねる。
「これから活動を続けていくうちに雪菜が同好会に加入したことは嫌でも知られるだろうな。
客観的に考えて事実だった。お近づきになろうと人だかりを作ってまで雪菜に接触してくる奴らはいるのだ。バンドに雪菜だけを目当てに入ってあわよくば……と考える不届き者がいてもおかしくはない。
「そんな……。わたし……」
雪菜も想像がついたのだろうか、自分は何処に行っても自由に振る舞えないと思ったのかもしれない。みるみるうちに顔が暗くなっていく。
そんな雪菜の頭の上にに手をやりながらも笑いながら拓未は話を続ける。
「心配すんなって、案はまだある」
◇
「まず、北原はかずさのギター君だし外せない――二人ともそう睨むなって。
次にかずさだが、これも雪菜が加入するきっかけとなった一人だ。モチベーション的にも技術的にも担当を変えるべきではないと思う」
そして、だ。と続ける。
「飯塚だが、確かにベースに転向するのはありかもしれないな。慣れない打楽器をするよりかはマシかもしれない。
だが俺は反対するね。不安定なリズム隊を編成してはバンド自体が不安定になってしまう。
それにツインギターのメリットもある。音の幅が広がるし、ごまかしが聞くからな。
ま、デメリットはゴチャゴチャしやすいんで音作りをしっかりとすることだが」
ここまでは良いか? と理解を促す拓未。なぜか千晶まで真剣に頷く。
こいつ自分の部活は良いんか? と思いながらも更に話を進める。
「今のところを整理すると。当然
そして残すパート、
「しんせさいだー?」
『……あ!』
よく解っていない雪菜に、そういう手段もあるかと気付く春希、武也、かずさ。そして千晶。
「ねぇそれって何?」
「シンセってのは、ようは予めこのパートをこうやって演奏しろよ。ってコンピュータにわかる楽譜を読ませて再生してもらう機械だな。お前の大好きなカラオケが楽器ごとに分かれて超進化したようなもんだよ」
「ふぅーん? つまり、足りない楽器だけカラオケするってこと?」
「ま、そんなもんだな」
「だ、だが浅倉。それって打ち込みだろ? 偽物臭さが……」
「厳密にいうと偽物臭さは隠せねぇけどな。案外いい機材つかってリバーブとか
ま、機材なら知り合いから借りてくるよ。プロユース仕様じゃないけどな」
「拓未の言うとおりかな。
確かに、テクノ系やポップス――特にアイドル系とかは打ち込みを多用しているアーティストは多いし」
かずさの同意に「そういうこと。ま、大きなところだとさすがにバックバンド連れてくるけど」と拓未は答えた。
「だ、だけどよ、浅倉。そうするとお前はどっちをやるんだ?」
ドラムか? ベースか? 武也はどっちがお前にもバンドにもいいんだ? と尋ねる
「俺がドラムを叩いてベースを打ち込みにしたほうが生音の打楽器の迫力というのはあるだろうが……あえて俺がベースをする。
人間じゃなくて機械にリズムを合わせなくちゃ行けないからな。慣れないやつらを加えて
少しの状況説明をしただけでそこまで楽器編成を判断し、振り分ける拓未。
「はー。やっぱ拓未連れてきて正解だったね」
「お前さっきバージンって知られてにゃあにゃあ叫んでなかったっけ」
私の功績だ、とばかりに拓未の突っ込みを無視して春樹に今度の学食をねだる千晶。
「お、おい浅倉、お前って……」
「すげぇ。なんかこれなら行けそうじゃないか?」
活動開始に光明が見えたように希望を見出す男性陣――春希、武也。
「ま、拓未なら一人でリズム隊も任せられるだろうね」
そうか? と笑う拓未に「あんたのベースでピアノを弾けるのは嬉しいよ」と付け加えてかずさも笑う。
「ね、拓未くん。これでみんなで"WHITE ALBUM”やれそう?」
「あぁ、雪菜。お前を音楽祭の
――WHIE ALBUMか。懐メロにも程があるなぁ。
またあの冬の定番曲を演奏するのもいいかもな。”WHITE ALBUM”――昔、初めて覚えた曲をステージで披露することが出来る事に拓未もまた楽しみを見出すのだった。
自分で見ても微妙すぎる出来栄え……。
ちなみに、筆者の周りにピアノ以外は出来る。という人間は数人。
ドラム以外は出来るという人間は一人います。
そういう才能持ってる人、いるもんですねぇ……羨ましい。
昨日に続き改訂は昼頃に。