PARALLEL WHITE ALBUM2(仮題) 作:双葉寛之
後半がまだ微妙なんでまた後日変えるとは思いますが。
土曜日。
小木曽家から帰ると、ギターを担いで冬馬邸に赴く。
浅倉のヤツがハンバーグを作って待っていた。何処かで食べたことのある味だ。
野郎の料理が美味しいと思ってしまう自分が悔しい。
”Routes”と”夢想歌”のTAB譜(ギターの楽譜)を渡される。ご丁寧に記号の意味まで書いてあった。
それくらいは知っている、俺を馬鹿にしやがって。
日曜日。
目が覚めたら冬馬邸の地下スタジオだった。
キスしそうな距離に浅倉が眠っていた。
息が止まるほど驚いていたらヤツが目を覚ました。
今度はお前か。と意味の分からない事を言いながら蹴られた。
理不尽だ。
月曜日。
冬馬も浅倉も朝からやたらとテンションが高い。
土曜日曜と合わせて3時間も寝ていないせいだからだろうか。
ギターを弾く以外には食事しかしていなかった為、身体が匂う。
一度家に帰ってシャワーを浴びよう。
その日は授業中も左手が無意識に動いていた。
教わったペンタトニックスケールだと気がついた時少し気味が悪かった。
心配する雪菜に、まさか二日間夜通しで指導してもらっていたなど、恥ずかしくて言うことは出来なかった。
火曜日。
昨日は一応、終電で帰ったが結局夜明けまでギターを弾いていた。
お手本として渡された音源をスロー再生しながら完全に一致するまで繰り返す。
出来たら少しテンポを上げて繰り返す。
出来なかったらテンポを下げて繰り返す。
昨日と今日、浅倉は昼食に来なかった、金曜日だけのつもりだったのだろうか。
放課後の練習には参加させてもらえなかった。
お前は一人で弾いていろ、だと。
水曜日。
また冬馬邸で朝を迎えた。
お手伝いの柴田さんと今週は2回もはちあわせした
ただれたかんけい、そんなめでみられていたきがす
なにをして た か おぼえ ない
ぎーた くびっ け
もく
あさが くるで ひい た
おなか すいた
たすけ て
とま
「北原くん!!」
両頬を叩かれる痛みとパシンと響く乾いた音でハッと目を覚ます。
雪菜が本当に心配したという表情で叩いたまま頬に手を当てて揺すってくる。
ここは……学食?
意識が飛んでいたか。まだ思考がままならない頭で春希は自分が眠っていたことを知らされた。
「ごめん、寝ていたっぽい」
「そんなの見たらわかるよ……。また徹夜で練習していたの?」
「あぁ……ほら、火曜日は一緒に参加させてもらえなかったからさ、悔しくて」
「前も言ったけど……あんまり頑張りすぎて、体壊しちゃ意味ないんだからね?」
「おい、春希。お前まさかホントに1日10時間弾いてるんじゃ……」
「どうだろう、数えてない。ただ、帰ったらギターのことしかやってない」
「ふぅん、だから北原くん。髪ボサボサなんだ」
よっぽど心配しているのか、テーブルに乗り出すようにして春希の前髪を触る雪菜。
雪菜は以前、アルバイト先の近くにある公園で、頑張る春希に無理をしないようにと話したことを思い出す。
人の話を全く聞かない。自分の周りには何でこんなに頑固者が多いんだろうと考えるとため息が出そうだった。
けれど、彼女だって女の子。”頑張る男の子”が嫌いなはずもなく。見守ったほうがいいものか、諌めたほうがいいものか、判断に困る。
そんな事を考えている雪菜を見て、乗り出したら髪が定食について汚れるのではないかと春希は心配するが、当の雪菜は弁当箱をあらかじめずらしていたし、自分の手元には調理パンしかなかった。
パンしか買わなかったっけ……?既に先程までの記憶が曖昧な春希。
確かに睡眠欲のほうが食欲より上まっているのは確かだが、ココ最近の苛酷さはカロリーもより求めているはず……。
「……ほら、そんなに遅くまで取り組んでいるならご飯もちゃんと食べないとダメだよ?
北原くん、ミニハンバーグあげる! おかずは殆どお母さんが作ったけど、これはわたしの自作なんだ」
「え、えぇっと……小木曽……」
「どうしたの北原くん、前に食べたわたしのハンバーグ、嫌いだった?」
「い、いや。小木曽のハンバーグはすごい美味しかったよ。あはは、嬉しいなぁ……ありがとう……」
弁当箱の上蓋をにハンバーグをよそい差し出す春希に周囲のテーブルから妬みの視線が注がれる。
それを感じ取った――もう慣れてきたがやはり不快なものは不快である。
そんな視線を前に春希は素直に雪菜から貰うのを躊躇う。
知り合って数日で”誰にでも平等に隔てることのない”小木曽雪菜というアイドル面をかなぐり捨ててきた雪菜だが、そんな自分をさらけ出す彼女を春希は好意的に見ていた。
見ていたが、こうもあけすけな態度を取ってくるとその被害者の最もたる自分としては些かダメージがでかい。
そこに更に投下された”2回目の雪菜の手作りハンバーグ”発言に、周りの視線が恨みに変わるのを、もう春希は受け入れるしか無かった。
こうも毎度、憎しみで人が殺せたらと言わんばかりの感情をぶつけられても耐えていけるって俺、すごいんじゃないのだろうか? 等と思いながら。
「なぁ春希。冬馬は?」
「さぁ……。たぶん教室で寝てるんじゃないか?」
「そういや、拓未も机に突っ伏して寝てたよ。いつもは誘いに行ってもどこかに消えるんだけどね」
「瀬能も何だかんだあったみたいだけど、結構浅倉と仲良くやってるよな」
「そりゃあ飯塚くんはヤってハイおしまいってするような鬼畜かもしれないけど。私は未遂だし、拓未は本当は根はいい人なんだよ?」
「人をろくでなしのように言うな!」
この場にいないメンバー、かずさと拓未の話をする武也と千晶。
すっかり武也はかずさと拓未に対しての恐怖感や苦手意識といった感情は抜けきったようだ。
むしろ仲間として当然といった雰囲気も醸し出している。
こうやって他人と分け隔てなく接することが出来るのが武也のいいところだ。……別け隔てなさすぎて女性関係は最悪であるが。
「ふぁぁ……。そうかぁ、あいつらも夜遅くまでやってんのかな」
「そういう武也だって眠そうじゃん。あんたは別の意味で夜遅かったわけ?」
「おい依緒。俺だってな、やらなくちゃいけない時の分別くらいは付いている。
春希がこんなに頑張ってるんだからな。俺も負けてらんねぇし――朱美と絢子にはフラれたけど」
「だからおい依緒はやめてって前から言ってるでしょ。っていうか最後のは自業自得じゃん……。
はぁ……それにしてもさ、雪菜も随分と変わったよねぇ」
「依緒はそう思う? ……ううん、そうかも。このメンバーでいると居心地良いんだよね。
何だかね、本当の自分でいていいんだって思えてきちゃうっていうか」
「嬉しい事言ってくれるねぇ雪菜ちゃん。俺も、こうやってメンバーとして仲良くやっていけるなんて嬉しいよ」
「ふふふっ、飯塚くん。こちらこそありがとうね」
さすがに武也といえど、学園のアイドルに微笑みもされたら少しは舞い上がる。
もっとも、目の前の依緒の睨みの前にはその気持ちもすぐに消え去ってしまったが。
――しかし、一日10時間ねぇ……。
前に、冬馬や浅倉に言われたことを真に受けているのか。と武也は案ずる。
武也自身でさえ10時間も弾くなどありえないと思っているのに、まさか春希があの”規格外”達の真似をするとは考えられなかった。
彼にとって春希という人間は何よりも学業、いや――学生らしさを重視する人間だと思っていた。
学業と断言しないのは、武也と一緒に酒盛りをしたこともあるしカラオケをオールナイトで楽しんだこともある。
ある程度の、若者らしいハメの外した遊びををすることはあったが、それでも授業に支障が出るレベルというのはこれまで無かった。
夏休みも間近、ということで特にキツ目の課題こそ出されていないものの、今度ばかりは春希も無茶をする。
馬鹿な行動だと武也は思っているが、春希のひたすらに打ち込む姿勢に、意固地さもそこまでくれば大したものだと、いっそ褒めてあげたいという気分でもあった。
「お、小木曽……風呂、入り忘れたから。あまり触らない、で……」
髪を触ってくる雪菜にそう言い残し再びこっくりと船を漕ぎだす春希。
笑みを浮かべながら、春希の髪を弄り続ける雪菜。
周りの男子生徒の声にならない叫びや絶望で濁った瞳など、寝ている春希が気付くことはない。
2種類の定食を食べる千晶のほくほく顔にも――気付くことは、ない。
◇
「ほぅ……」
「ま、あれだけ練習すれば、ね」
「北原くん、すごーい……」
「マジかよ、春希」
上から順に拓未、冬馬、雪菜、武也の声。
放課後の第一音楽室に彼らの感嘆の声が響く。
拓未のドラムで始まる”Routes”の演奏に、ソロこそ失敗したが、もたつきながらも、なんとか食いついた春希に驚く一同。
深く考えなくていいと前置きしながらも各種主要なスケールの運指を拓未は春希に暗記させた。
無理のないテンポからはじめて、ミスをすればすぐに止めさせ、問題なく弾けるテンポにまで下げることを仕込んだ。
居眠りしそうになる春希を楽譜を束ねて叩いた。
その結果、それまで溜め込んだ経験値も加味してだが――眠たさのあまり脱力して弾いたのがトリガーとなったのか、数段飛びでレベルアップを果たした春希。
とはいってもようやく同期間の他人と同じレベルに並んだ。というのが正解だろうか。
だがギターというのは一度コツを掴めばある程度までは――もちろん努力に比例してだが、すぐに上達出来る。拓未はHOTLIVEへの可能性を感じていた。
ぼぉっと椅子に座る春希。
自分がソロ以外、合わせて弾けたということも実感する余裕なく、眠たさのあまり意識を手放す。
まぁ、今日はこのまま寝かせとくか。仏心を見せる拓未にかずさが労いの声を掛けてきた。
「あんなに練習してようやくこれか……拓未、あんたも頑張ったね」
「あぁ、かずさだって……っていうかお前のほうがよっぽど根気よく付き合ってだろ。
これでようやく、追いついて弾けたってだけで、不安定ったらありゃしないがな」
こんな美人に教わるんだから、妬けるってもんだ。と拓未は軽口を叩く。
やはり、最初の頃から春希に教えていたからだろうか、かずさは拓未が想像していた以上に熱心に春希の練習に付き合っていた。
終電の時間を忘れるほど集中する春希に水を差すようなことは言わず、あえて黙って指導するかずさ。
練習を見る傍ら、自前のノートブックとかずさのキーボードで、ドラムと足らないシンセのパートの打ち込みを作る拓未と違って、かずさはずっとつきっきりで面倒を見ていた。
もっとも、3人が3人共徹夜の身。
ハイな気分になったのは、かずさも同じで「お前、あたしのこと舐めてるの?」とか「あたしの耳を腐らせる気なの?」とか数々の罵声の中には「人に頼むときは大事な言葉が要るだろう?『
そんな部分はあえて忘れるとして。
普段の表に出す性格は180度違うが、かずさの春希に対する様子は曜子と重なって見えた。
当時の自分とは比べ物にならない程下手くそではある春希だが、かずさの指導を受けるその姿は、かつての自分と曜子を思い出させたのだった。
一方、武也と雪菜も春希の予想以上の成長ぶりに驚きを隠せないでいた。
3ヶ月も掛けてようやく”WHITE ALBUM”ただ1曲がようやくギリギリ聞けるレベルになった春希。
そんな彼が今日一緒に合わせて弾くといっても、すぐに調子を外して皆の演奏を止めてしまう。
そんな事態が十分武也には予想が出来ていた。もしそうなっても拓未やかずさが文句を言うまでは自分は何も言わないでおこう。それが部長として、親友としての優しさかなと考えていた。
ところが実際合わせてみれば、まぁソロは失敗したしリズムも危ないレベルではあったものの一発目で見事に春希は弾ききったのだ。
もっとも、その一発目だけで眠ってしまったのだが――そんな春希の成長ぶりは予想外である。
これが、この間言っていた経験値とレベルアップなのか。何がきっかけだったのかは分からないが春希が確実にレベルアップを果たしたのは事実だ。
同好会を始めた理由は軟派な考えだった武也だが、親友と二人、ギターを持ってステージに立てる――その可能性に、大袈裟に例えるなら震えるような喜びを感じてしまった。
雪菜はそんな楽器を扱うものとしての感想は持ちえていなかったが、今まではクリーントーンとピアノが一緒に奏でている――そんなイメージが春希にはあった。
もちろんそれが良くて、そんな二人の旋律に引き寄せられるかのように誘われたのも事実だったが。
今日のズクズクと歪ませながらギターを弾く春希を初めてギタリストとして見るようになった。
正直に、格好良いといっていい。拓未もギターで合わせて演奏したらあんな感じなのだろうか。
武也にはそのような感想を考えもしなかったのは若干失礼かなと思いながらも、バンドって面白い。ただ歌うだけとは全く違う楽しさに雪菜はライブがますます待ち遠しく思えてならない。
残念ながら眠りこけた春希をおいて、結成以来かつて無いほどのテンションの高さで練習を続ける一同。
武也に渡したライブ向け編成の”夢想歌”のギターパートも数日にしてはまずまずの出来で雪菜が安定して歌えている。
そんなバンド全体の様子をドラムを叩きながら見渡す拓未。
”Routes”と”夢想歌”は平行して取り組んでいると春希は言っていた。
さっきの春希の出来栄えと、皆の調子を考えれば。週末は”あのこと”を実行出来るかもしれない。
何せ結成以来、初めてのライブ。しかもメンバーの内1人はとてもステージに立たせることの出来ない腕前。
そんなメンバーを集めて本番を迎えるには普通のやり方ではとても残り3週間で拓未が納得できるような形にすることは無理だと思っていた。
かずさと考えた”あのこと”――合宿練習。
尚早かもと悩みもしたが、今の調子なら一気に一体感を加速させることが可能だろう。
「なぁ。飯塚、雪菜。お前ら今度の土日、予定は?」
果たしてその選択が吉と出るか凶と出るか。拓未は己の直感に掛けてみることにしたのだった。
短いな、雑だな。と思いつつも投稿。
おかしい部分は後日変えればいいや。って考えはやっぱり良くないことですね。
しかし何かしらしないと自分のモチベを意地出来ない性分でして……。
何時にもまして拙い文ですみません。