PARALLEL WHITE ALBUM2(仮題) 作:双葉寛之
『冬馬さん、紅茶淹れたよ』
午後の練習を一区切り付けて、男3人に依緒、千晶はコンビニに出掛けていった。
地下のスタジオから上がってここは1階のリビング。
外ではセミが懸命に夏を生きようと鳴いている。ほぼ24時間空調が効いているこの家だが、そのセミの鳴き声は快適な室内に居ても夏の暑さを感じさせる……そんなことをかずさは考えていた。
同じく家に残った雪菜が休憩だからと淹れた紅茶を差し出す。
家には紅茶は置いていなかった筈だけど……。
ついつい顔に出ていたのだろう。
『昨日、スーパーで一緒に買っておいたんだよ。冬馬さん、苦いのはホントはダメなんでしょ?』
『コーヒーは香りを楽しむものだろ? 苦味は余計なだけだよ』
『えぇ……美味しい淹れ方ってのがあるくらい味ってのは大事な要素だと思うんだけど』
ありがとうと述べてかずさは受け取る。砂糖が気になったが雪菜はきっちりとスプーン山盛り3杯入れたと教えてくれた。
口の中にダージリンの香りが広がる。もっともそれは、普通の味覚の人であれば香りよりもまず先に強烈な甘味でエナメル質や味蕾が破壊されるのだろうが……。
かずさにとってはコーヒーと違って苦味が少ない分、スプーン3杯でもまずまず満足出来る量だった。
コーヒーの香りも良いけど、紅茶も割りとイケてるかもしれない。砂糖が少なくて済む分ヘルシーだろうし。
そんな考えを浮かべながらもひとときのティータイムを楽しむ。
テーブル向かいのソファーに座った雪菜が同じく――こちらは無糖のだが、ミルクティーを口にする。
――そういえばチョコレート置いてあったっけ。
チョコ、いる? と尋ねるかずさ。雪菜は引き攣ったような笑みを浮かべながら断る。
これ以上さらに甘いものを求めるのか。そう思っているとはかずさは想像がつかなかった。
『冬馬さんは一緒にコンビニに行かなくてよかったの?』
『あたしは、暑いのは苦手だ。涼しいところにいたい。そういう小木曽こそよかったの?』
『あはは……きっとそう言うと思ってた。
わたしも、暑いところはちょっと苦手かなぁ……それに』
『……うん?
まぁ、北原にはアイスを買って帰るように言ってるからね。安い授業料だよ、ホント』
『っ……』
『ちょっと小木曽……そんな顔しなくても。
大丈夫だって! ちゃんとあいつには2人分買ってくるように伝えてるからさ――』
思いつめたような、難しい顔を作る雪菜。
やっぱり雪菜も甘いものが欲しかったのか。察することが出来るとは自分も成長したな……。
そんな事を考えながらかずさは心配は要らないとフォローに回る。
『北原くんってさ……』
『ん……北原?』
『北原くんってさ、見違えるように上手くなったよね。
あの日屋上でわたしが2人のセッションを聴いて歌った時より……格段に上手になってる』
『一応、厳し目には躾けたからね。これで上達しないほうがどうかしてる。
それでも、油断したらすぐミスるし、拓未が今朝、指摘していたようにまだまだ音が固い……あ――』
『そうだよねっ……そこまで面倒見たらさすがに上手くもなるよね、ずっと泊まり込みで練習すれば』
『いやっ、今朝のことは拓未が悪い――え、泊まり込み……』
今朝の、雪菜が拓未に手を上げた件をうっかり話題に持ちだしてしまい慌てるかずさにとって、予想だにしていなかった事を雪菜は指摘する。
『違うの? 合宿はここ最近、ずっとやってたんだよね?
北原くんだけじゃなくて拓未くんも一緒だったんじゃないの?』
なら、あの洗面所の男物の歯ブラシと髭剃りは誰の?
続けて問を入れてくる雪菜にかずさはとっさに言葉は出なかった。
『夜もずっとつきっきりで練習していたんだよね。だからあんなに上手くなったんだよね』
『別に、意味があって隠していたわけじゃない……。
ただ単に話す機会が無かっただけだ』
『でもそれって、黙っていたってことは、隠していたっていうことと同じなんじゃないかな』
もし雪菜が、眠たそうにしている春希に声を掛けた時、春希が素直に話していたらこうはならなかったかもしれない。
もし雪菜が、放課後どこで北原は練習しているのかと聞いていたら。自分は何の躊躇いもなく話していたかもしれない。
もし雪菜が、合宿待ち合わせの時に皆と合流していたら。話題に上がっていたかもしれない。
だが全てはもしもの――ifの話だ。もしもの話をしたって今の雪菜の悲しい顔が消えるわけじゃない。
『そんなつもりなんてない。話したところで、別に何が変わるわけじゃないと思ったんだ――』
『何も変わらないから、話す必要もないか……。そうだよね、わたしって、そうだよね』
『ちょっと小木曽。どうしてそう悪い方悪い方に――』
『だって、関係無いんでしょ!?
皆で頑張るって言ってた同好会なのに、わたしは関係ないんでしょ!
そう思ったから、結果として3人で内緒にしていたんでしょ!?』
一人でも遅くまで頑張るなんて北原くん、格好いいところあるんだなって思っていたのに……。
かすれたような声でそう呟く雪菜。
セミの鳴き声で埋もれてしまいそうな程弱い声音。
こんなに近いのに聞き取りにくい。こんなに近いのに雪菜が遠くにいるように感じる。
この距離は、雪菜の感じている距離なのか?
この距離は、雪菜が胸に秘めていた疎外感なのか?
自分が思っていたより、ずっと雪菜は仲間というのを重く捉えていたのか。
だから、こうして普段の陽気さからは想像がつかないほど、声を張り上げながら、隠していたのかと問い詰めてきたのか。
『ごめん――』
『ごめんなさい! 冬馬さん、ごめんなさい。
こんな風に言うなんて、わたしって嫌な女だな……』
――そんなことはない。小木曽を傷つけたのはあたし達だ。
雪菜が謝ることじゃないと告げようとするが、雪菜は膝に置いた手を握りしめながら『こんなこと、言うはずじゃなかったのに』と呟いている。
どこか遠い目をしながら自分の発言を後悔する雪菜は何かと重ねて見ているのだろうか……。
何故彼女は内緒にされていたことにそこまで傷ついてしまったのだろうか。
『みっともなく喚いて……。少女漫画のヒロインみたいに声上げちゃって……。
これってアレかなぁ中二病をこじらせたっていうヤツなのかなぁ……。
ごめんね、冬馬さんにこんなこと言ったって、どうしようもないのにね』
『小木曽……そんなに――』
『待って、冬馬さん。遮ってばかりだけど、もうこの話はお終いにしよう?
わたしが、どうかしてたんだよ、きっと……。
せっかくの休憩時間に、せっかくの合宿に、こんな思いさせてごめんね。
ちょっと顔洗ったらいつものように戻るから。
勝手だけど、冬馬さんは気にしないで。お願い』
なんだかわたしって今日、顔洗ってばかりだね。そう笑いながら――力なく笑いながら雪菜は席を立つ。
――きちんと、謝ること……出来なかったな。
口にした紅茶は、十分に甘いはずなのに、苦くて仕方がなかった。
◇
「なるほど……ね」
「拓未ぃ、どうしよう。どうしよう、あたし……小木曽を傷つけてしまった。
友達を傷つけてしまった……」
合宿も終わり、皆が帰ろうとするときに自分を呼び止めて。昼間、自分達が家を後にしている時に起った出来事を話すかずさ。
拓未は、そこまで雪菜を傷つけてしまう事態が起こってしまっていたのかと痛感する。
「いや、かずさ。お前が悪いわけじゃない。話す機会は俺のほうがずっとあった。
なのに雪菜に話さなかった。俺のほうがずっと酷い」
朝起きてから、雪菜の様子が変だったのはこういう理由だったのか。
妙に、自分との間に壁を作っていたのは昨晩男物の歯ブラシを見つけたからか。
触れた自分を拒絶し避けたのは、仲間に騙されたと傷ついた、雪菜の距離感の現れだったのか。
拓未は、どうして雪菜がそこまで仲間外れにされたと傷ついたことまでは理解が出来なかった。
女心という、男に無いものも確かにもあるのかもしれないが……。ことバンドに関してはクールに捉えてしまうのは拓未の悪癖かもしれない。
彼にとって、当たり前過ぎたのだ。
ボーカルに比べて、楽器隊のほうが必要とする練習量はずっと多い。
ライブの日程も決まった今。一番脚を引っ張っているのがボーカルと対をなすバンドのフロントマンとしてのリードギター。
徹夜でつきっきりで扱いたところで何もおかしい点はない。
故に、雪菜が深く悲しむ理由をわかってあげることが出来ない。
しかし、彼女が傷つき、悲しみ、手を上げ、声を上げたことは事実なのだ。
その原因を作ってしまったのはかずさではない。主に北原が悪いとは思うが、何より一番雪菜と接していたのは拓未、自分だった。
何で気付いてやれなかったんだろう。
雪菜の事は何よりも大事にしていたのに、バンドのほうがそれよりも勝っていたのか……。
落ち着けと諭されたかずさは、じっと拓未を見つめる。
「なぁ、拓未。あんたやっぱり小木曽を……」
「……何を言ってるかわからないな、かずさ」
言外に、それ以上発言するなと匂わす拓未。
口にはしたくない。
今の自分が、雪菜を選ぶ事は、無い。
バンド内で自分が誰か女性と付き合うことを選択することは、絶対に無かった。
「とにかく、俺が連絡とって、話を聞いてみるから。
お前は落ち着いて、今日はもう寝ろ。
徹夜しても平気だったのは授業中寝てたからだろ。実際はキツイはずだ」
「う、うん。
……拓未、ごめん。よろしく頼む」
「お前が謝ることじゃないってさっきも言っただろ。
それじゃ、帰るな。おやすみ」
そう告げて冬馬邸を後にする拓未。
バイクを数百メートル走らせるが近くのコンビニ前で停車し、ポケットに手をやる。
目当ての物を見つけ出すとヘルメットを脱ぎ、それを軽く叩き一本取り出し、咥えて火をつける。
虫の声が響く夏の夜の空に紫煙が広がる。
今は雪菜と話がしたい。
肺に溜め込んだ煙を吐き出しながら携帯電話を耳に当てる。
しかし耳に聞こえるのはコールする音ではなく、話中の音だった。
――くそ、繋がんねぇ。
もう何本吸っただろうか……。何度も雪菜に電話をかけ直すも、ずっと話中のツー、ツーという音ばかり響く。
このまま雪菜と、距離が広がって行くのだろうか。
漫然とした不安を、ニコチンは和らげてくれることは無かった。
◇
「北原さぁん。私、見ちゃいましたぁ」
振り返った春希の先に立っている女、会いたくなかった女――柳原朋は、格好のネタを見つけたとばかりにいやらしい笑みを浮かべる。
「あ、こんばんは、北原先輩。
――今の人、小木曽雪菜ですよねぇ?
ミス峰城大付属と夜道を歩くなんて、北原さんも意外とやるもんなんですねぇ」
「柳原……」
「この間の綺麗な女に、今回は小木曽雪菜、結構手を延ばすものなんですね、北原さん」
「なんだ? 冬馬のことか?
あいつも同好会の一員だ。練習帰りに一緒に歩くことだってある」
「そうでしたねぇ、こないだ音楽室にも居ましたよね。冬馬さん、ね」
「それがお前に何の関係があるんだ」
「だってぇ、ねぇ?
さっき、小木曽雪菜。泣いていましたよね。
恋愛沙汰ですかぁ? まさか手を出して傷つけたとか」
「変なことを言うな。たまたま話の行き違いがあっただけだ。
お前の考えているようなことは何もない」
「そうですかぁ?だって、普段この道、北原さん通らないでしょ?
冬馬先輩絡みでこの町に寄ったんですよねぇ?
そんな所で小木曽雪菜が泣いて去って行く……」
あーあぁ、どうしたもんですかねぇ。そう続ける朋に春希は苛立ちを隠せない。
今は先程の雪菜の事のほうが重大なのだ、
下らない、と春希は朋に背を向ける。
「だからお前が考えているようなことは何もないって言ってるだろ。
しつこいよ、お前。んじゃ――」
「どう見ても二股じゃないですか?
私が居ても居なくても、結局バンドは崩壊したんじゃないんですか?
これなら噂が広まる必要なんて無かったですねぇ。
だって――当の本人達が実際どうであれ。端から見れば誰だって小木曽雪菜と関係があった、そう思いますよぉ」
そう笑いながら屈むように――上目遣いに朋は春希の前に回り込み。はいっと差し出す。
そこには、携帯電話が。
春希を見つめる雪菜。涙を流しながら声を上げる雪菜。手で顔を抑える雪菜。走り去っていく雪菜の画像が――いわゆる”写メ”が映し出されていた。
「お前……。
――何が言いたいんだ」
「決まっているわ。
小木曽雪菜のミスコンエントリーを辞退させて」
これが出回れば、小木曽雪菜の取り巻きに確実に刺されますよ?
そう朋は続ける。朋は自分を……あからさまに脅してきた。
「……なんだと?」
「困るでしょう、困るでしょう?
ほら、こうやって……と。
私が今、この右上の送信ボタンを押せばすぐに広まっちゃいますよぉ」
「脅すっていうのか、ふざけるなよ?」
「ふざけてると思います?
夏休み明けには軽音楽同好会、跡形もなく消し飛びますよ。
今度は、期末試験後の噂とは訳が違いますよぉ」
「っ……。
残念だが、そんなもの広まったって、悪評は既に付いているんだ。
小木曽が可哀想だという噂は出るだろうけど、それだけだ。
俺の評判だけが下がるだけで、今更どうってことはないな」
「あぁもう、理屈ばっかり考えて、ホントうざったいですねあなた。
それに、意外とお馬鹿さんなんですね」
「はぁ?」
自分を貶されることについてはこの際どうだっていい。
朋に見くびられようが何されようが、所詮は朋。深い付き合いはないし、学年だって違う。
だがそれでも優位性を見せる朋に、自分は何か見落としがあるのかと春希は考えてしまう。
「前回の”私”の脱退騒ぎの噂に、今回の小木曽雪菜の写メ。
それにさらに冬馬先輩と関わりがあったという噂も流せば、風紀上問題があると教師陣から干渉が入るでしょうね。
消し飛ぶってのは、例えじゃないんですよ?
私としては、あの忌々しい浅倉拓未が悔しがる姿も見たいんですけどね」
チェックメイトだと言わんばかりに朋は告げる。舌なめずりをしそうなその顔は、獲物を追い立てようと目を光らせる、獰猛さを潜ませた表情だった。
「ね、悪いことは言わないから彼女、辞退させなさい?
あなたにとって、コンクールよりライブのほうが大事でしょう? やりたいでしょう?」
去年からサークルクラッシャーとしての噂は文化祭の実行委員の中では広まっていたし、実際同好会を引っ掻き回した朋ではあるが、ここまで見下げ果てた女だとは思わなかった。
しかし逆らうことが出来ない。ここで逆らっては余計に雪菜を傷つけてしまう。
「少しだけ、先輩に時間をあげまーす。
……北原さんだって小木曽雪菜や、同好会をこれ以上傷つけさせたくはないでしょう。
私、それほど返事は長く待てないの。
近日中に連絡をしてもらいますから。ほら、先輩。携帯出して」
呆然と、言われるままに携帯電話を差し出してしまう春希。
悔しかった。ここまで良いようにされてしまうことが。
悔しかった。自分が原因で同好会を危機に陥れてしまうことが。
悔しかった。雪菜の意思の関係なく、ミスコンを断念させることに加担してしまうことが。
思えば、自惚れていたんだ。
かずさに出会い、恋に落ちて。恋愛初心者故に空回りしてギターを始めて。
そのギターの先生が当の実はかずさで。
雪菜という理想のボーカルを見つけて舞い上がってしまって。
あぁ、自惚れていたんだ。
恋敵であろう拓未に負けてられないと躍起になって。
情けないことを承知でその彼に、かずさと一緒に教えてくれと頼み込んで。
そして徹夜で指導してもらって。拓未に認めてもらって、見返してやったと思って。
気恥ずかしさから雪菜に言えなかったけど、言えないと思った事自体自惚れ以外の何物でもないのだろうか?
カッコつけようと思わなければ普通に言えていたのに。
自惚れていなければ、浮かれていなければ朋に隙を見せることはなかった。
自惚れていなければ、浮かれていなければかずさとのことを揚げ足取られたりはしなかった。
自惚れていなければ、浮かれていなければ誰にも知られず隠し通していたのに。
隠し通す? 何をだ?
かずさの家で練習していたことか?
誰に隠す? 朋に対してか?
誰にも知られずと思った。
誰にも――。
自分は、雪菜に対して、かずさの家で練習していたことも、泊まりがけで教わっていたことも、自身の保身のために言えていない。隠していたんだ。
『皆で頑張らないといけないんだよな 』
『うそつき』
『俺さ、相談に乗ってあげたくて』
『うそつきうそつき!』
『俺達は仲間だろ』
『でも、わたしとあなた達の間には……何もないじゃない!!』
皆でやるんだと言った自分。雪菜を仲間だと言った自分。
だが、その雪菜を仲間外れにしたのは、何より自分じゃないのか?
そうだ、そうだったんだ。
自分は、雪菜にかずさと拓未のことを隠していた。
何かがきっかけで雪菜は隠されていた事実を知り、騙された思って傷ついた。
なんということだ、だとしたらやっぱり今朝の件も自分のせいじゃないか。
だから、雪菜は自分に対して怒り、慟哭して、走り去っていったんだ。
頭のなかに残っていたもやっとした違和感がすうっと消えていくのを春希は感じた。
呆然と、朋にいわれるがままになっていた春希の瞳に意思が灯る。
ならば、やるべきことは1つしか無いんだ、と。
「……うん?
ほら、先輩。アドレス帳に登録しましたよぉ。私の番号。
いいお返事をお待ちしていますね」
「柳原」
「あら、意外と早いんですね」
「はは、そうじゃない。そうじゃないんだ。
その噂、流してもらっても構わない。
俺、今日のお前に感謝だってしてるんだぜ?」
「は、はぁ!?」
「お前、案外良い奴かもしれないな。
お陰で用事が出来た、何か話すことがあったらまた今度しような。じゃな!」
「ちょ、ちょっと北原さん!?」
春希はひったくるように朋の手から自分の携帯電話を取り戻すと、にわかに活気付いたように先程までと打って変わって、明るく朋に感謝を告げる。
朋自身はそれを嫌味に、皮肉に感じているかもしれないが当の本人である春希は本当に朋に有り難いと思っていた。
噂が流れてしまうかもしれない。これ以上はさすがに指導が入るかもしれない。
だが雪菜に騙されたとこのまま思われるのは嫌だった。
こじれるならこじれた時に考えればいい。
今は彼女に謝ってきちんと説明するのが先だ。
決心すると春希は理解が追いついていないといった顔をしている朋を置いて駆け出す。
走りながら先程奪い返した携帯電話を操作し耳に当てる。
コールし続ける音が耳に聞こえる。一分一秒さえ惜しい。
何度も電話をかけ直しながらも、必死に息を切らす勢いで春希は駅を目指して行った。
前々回から雪菜さんを中心としたお話。
スーパー雪菜タイムは大事なのです。
とは言っても、基本的にノベライズ版と流れが変わらない。
彼らの印象的な、象徴的な出来事。
本質に迫る事柄を、別の手段で表現出来ないのは悲しいことですが。
それだけ丸戸史明さんの設定するキャラクタとシナリオが秀逸なんですね……。