PARALLEL WHITE ALBUM2(仮題)   作:双葉寛之

3 / 29
実は、今まで舞台は2008年だと思い込んでいたですが2007年ですよねこれって。なんで勘違いしていたんだろ。

細かいところは変更していかなくちゃ。


EPISODE:2.5

 2007年4月9日 月曜日

 

 昨年よりもいくらか開花が早かったせいか、すでに桜は葉をつけて萌葱色の青みをうっすらと含ませはじめた始業式の日。

 

 付属に入学し迎えた、三度目の春。

 

 新しいクラス編成の発表を見て、去年からの級友おなじクラスで安堵する者。好意を寄せた者と同じクラスになったのか薄く頬を染めてはにかむ者。逆に離れてしまい悲しむ者。その他色々の表情を浮かべる者達がいる新しいクラスを眺めながら、彼――北原春希はどちらかと言うと後者の感情を持っていた。

 

 1年、2年と共に過ごした親友、飯塚武也とその幼なじみである水沢依緒と三年間同じクラスという淡い期待は失われ、離れ離れになってしまった事がその感情の原因であった。

 

 尤も、寂しいという気持ちも持ちあわせているのだが、大半は『あいつらきちんと宿題提出出来るだろうか、定期考査はともかく小テストは大丈夫だろうか。問題をおこなさないだろうか』といったお節介、ともすればお前はおふくろか!というような心配事が占めていたのだが。

 

 春希にしては珍しく呆けたような顔でそのような考えを運ばせているうち、SHRが始まるまで残り数分という時間になって春希の左隣の席の主は教室に入ってくる。

 

 さしたる感情もなく、なんとなしにその隣の席の主が椅子を引き、席に座ろうとする姿を見た途端。春希の時間は停止した。

 

 心底億劫そうに、気怠いという気持ちを隠そうとしない横顔を見せる少女に一目惚れした瞬間だった。

 

 

 周りから優等生とか、委員長タイプとか言われている春希だが、当然その事は認識していた。

自身でも、安定を好む性格である、と。音楽であるならば緒方理奈の燃え上がるような恋の歌詞も好きだが森川由綺の落ち着いた、すこし後ろ向きではあるが受け入れるような恋の歌詞のほうが心に響く。

 ドラマチックな物語よりも読んでて安心感をもたらしてくれる物語のほうが好きだし、例えるなら『ひぐら○のなく頃に』より『らき☆すた』のほうが、『リリ○の』より『みな○け』を好む性格である。

 突然陥る恋とか馬鹿げていると思っていた。それこそパンを咥えて遅刻を回避すべく走る少女とぶつかる出会いとかありえねーよな、王道過ぎてもはや死んだ設定だよ。と、以前似たような出会い方をしたと女友達と話している少女を尻目に心の中で一蹴したくらい醒めていた。

 一番ありえる自分の将来を想像してお見合い結婚かな、と思うくらいには。それでもそういった場でお互いのことをじっくりと知りあう事が出来るならそれが自分にとって一番幸せな恋愛なのかもしれない。

 おおよそ現代の少年が考えそうな事ではないが、それくらい自分にとって誰々が可愛いといった顔の部分で好きになったり、ましてや一瞬で恋に落ちるなどというのはありえないと自覚していたのだ。

 

 

 衝撃だった。一目惚れというのがこんな感情だと初めて知ったのは。

 

 

 比較的身長が高くスラっとした、けれども細いだけでなく女性としてしっかりと主張した身体。腰まで伸びているが決して重い感じはなく、ふとした風でもさらりと舞いそうな、深い艶をもつ黒髪。

 普通の女子生徒は何かしら化粧をしているが、その作られた顔すら彼女と同じ舞台に立つことは出来ないくらいに白い肌に淡い桜色を彩っている薄い唇。気怠そうな目をしているがその奥には儚げな表情を宿しながらもそれを固く閉ざして必死に堪えようとしている瞳。

 

 これほどまでに自分の好みと合致している女性をみたら恋に落ちるのも無理はない。

 春希の17年間の人生で形作っていた固定観念が打ち砕かれていくのを感じた。

 

 

 ――冬馬、かずさ。

 

 春希の隣に座り、ずっと窓ガラスの外を眺めている女子生徒。

 

 今まで学年の『いいんちょくん』として様々な生徒と接してきた自分なのに彼女のことを知らなかっただなんて、俺はなんて馬鹿なのだ。と、これまでも自己を振り返り省みる事はあった春希だが初めて己の過去を罵った。

 と、同時にこれまで無神論者だった春希だったが最後の学年でかずさという少女に出会えたことをこれまた初めて天にいる偉い人に感謝した。それが神様なのか仏様なのかイ○オ様だったのかはわからないが。

 

 かずさと何としても仲良くなりたい。しかし恋愛経験などなく、しかも興味さえも無かった春希にはその方法がわからなかった。しかしここで止まっていては何もならない。ええい、ままよ!と勇気を振り絞り春希はかずさに話しかけた。

 

「あ、あの。これから一年、よろしくな!」

 

 彼の恋愛経験第一歩は、微塵の反応さえ返してくれない。無視、という形で敗北を飾った。

 

 

 

 

 SHR中もかずさはずっと外を眺めている。ヒソヒソとクラスメイトの話す「すごい美人」や「あの、冬馬かずさがなんでここに?」などといった話にも少しも反応することさえなく、窓ガラスの向こう――葉桜になりつつある姿か、やや崩れそうになっている曇り空か。すくなくともその瞳に映しだすのはクラスの光景ではなかった。

 

 SHR終了後の体育館への移動時間も、始業式中も、終わり教室に戻ってきてからも。様々なクラスメイトが彼女に話しかけるが全て無視。しばらくの時間消化の後に次のコマは新学期を迎えるにあたってのHRが始まったがそこにきてかずさは遂に机に伏せて眠りに入ってしまった。

 

 他者を寄せ付けない排他的な性格にほんの数時間であるがクラスメイトが彼女に関わることを萎縮してしまっている。

 彼女は人と関わりたくないのだろう。どういった事情があったかは知らないが。

 そんな中彼女に声をかけるのはいかにも『俺、彼女のこと狙ってますけん!』といわんばかりだと思い、ためらってしまう。

 しかしだからといってこのままの彼女との距離を保ってしまえばいずれ距離感が固定されてしまい近づくことに今まで以上に困難になってしまいそう――これまでの人付き合いの経験から距離感に対する固定観念というのを春希はよく知っていた。

 下手をすれば……、いいやこれほどの美人だ。こんな寄せ付けない性格でも絶対かずさに近づいて仲良くなっていく(ライバル)は現れるだろう。ならば、俺らしいやり方で先手を打つしかあるまい。

 

 初めての恋愛感情からか、春希は空回りすることも厭わないと持てる頭をフル回転させ勇気なのか無謀なのかわからない試練にチャレンジしていこうと決めた。

 

 その第一弾が前期クラス委員長への立候補だった。

 これまでクラス委員長になったことは何度もある。それは全て決して邪な気持ちでなく。教師陣への覚えを良くしておこうという思いから受けていたのだが。今回初めてそのプライドを捨て去り、近寄り難いかずさに接触する為のオフィシャルな口実作りに立候補した。

 ……もっとも、はたから見ればどちらにせよ覚えを良くするためクラス委員長になったんだろ。と突っ込みたくはなるが。

 

 斯くして、3年E組の前期クラス委員長となった春希であったが、早速行動を起こそうとした翌日も翌々日も、かずさが学校に来ることはなく。春希の中で空回り感は加速していった。

 

 

 

 

 4月13日 金曜日

 

――今日は最高気温が20度前後だろうと朝登校する前にテレビで予報をしていたが、さすがにこれだけ暖かいと眠気も誘う。春希はそんなことを考えつつ。左隣りを見る。

 

 4日ぶりに登校したかずさは暖かかろうが寒かろうが関係ないとばかりに朝も、ご飯の匂いに釣られて起きるだろうと思っていた昼休みも、そして授業が終わり放課後に至る今まで眠り続けていた。

 

 

「……冬馬? 冬馬。……おい。悪いけどちょっと起きてくれ」

 

 タイミングを図りかねていた春希だが、この後何も予定がない今こそが最後のチャンス。――これはお仕事の時間なのだ。と気合を入れ惰眠を貪るかずさに声を掛けた。

 

 

「……ぅ。……ん?」

 

 開けようとするのを拒否するかのような瞼を動かし、覚醒しきっていない瞳を声の主に向けるかずさ。

 そんな視線を受けた春希は「はっ……」と息を呑む音をだすと同時に心臓の鼓動が跳ね上がるのを感じる。

 

 

――やばい、やっぱり。可愛い。

 

 そんな気持ちを心のなかで抱きつつ。かずさに見惚れて言葉を続けるのを忘れる春希。

 

 

――冬馬かわいいなぁ。もし世界が違ってこの容姿で苗字が違ったら。今頃この子は武家で人型戦闘機を駆りながら地球外起源種と戦って食べられてしまうくらい可愛いんじゃないか。

 

 謎の感想を抱きつつトリップしていたところ、かずさは再び眠りに入らんと机に伏せようとする。

 それを慌てて留める為春希はかずさの机の前に回り、話を続けた。

 

 

「あぁ!ごめん、ごめん!……冬馬、かずさ。だよな?」

 

  伸びをするかずさを見ながら更に話を続ける。

 

 

「始業式の日以降ずっと登校していなかったよな。大丈夫か?」

 

 ん……。と春希の続きを促すかずさ

 

 

「冬馬が休んでる間な。連絡事項がいろいろあってさ――」

 

――かずさの顔を見続けていたいが、これも口実の為だ。

 

 話しながら左手に持ってるプリントを掲げ注意をひきつけ、そのプリントをかずさの机に広げながら話を進める。

 

 

「教科書、学生書、諸手続きの申請書類。……あと、学割の申込書……。岩津町だから、電車通学だよな?」

 

 で、とその中から一枚のプリントを取り出しかずさの前に掲げる。

 

 

「一番忘れちゃいけないのが保護者懇談会のお知らせ」

 

 その言葉を聞いたかずさはバツが悪そうな顔を作るが気づかずに話しかける春希

 

 

「来週から始まるから、ご両親には今日中に渡しといてくれ。ここまでで、なにか質問はあるか?」

 

 質問などない。話が終わったのなら私に構わないでくれ。とばかりに左手でシッシと手を払うかずさ。

 一瞬春希の心にチクリと痛みが走る。しかしその態度を表に出さずに質問がないなら次は書類の書き方だと。かずさの意向を無視し、話し続けた春希にかずさは遂に机を強く叩いて抗議する。

 

 

「……うざい」

 

 何ともない顔をし、慣れてますよと「よく言われているよ。俺がうざいなら……。これは必要なことだから一回で覚えてくれよ」としつこく話を続ける。しかし内心は接し方を間違ったか!?でもこれ以外に方法ないしどうしたらいいんだ!と激しく葛藤していた。

 

 

「いいかげんにしろお前……。っと」

 

 先程より幾分トーンを落ち着かせた声で接触を拒否しようとするかずさに、春希は自己紹介を忘れていたことに気付いた。名前を告げ、役職を述べる春希。かずさの担当になったんだぞ、とばかりに握手を求めて手を差し出そうとする春希の”うざしつこい”態度にかずさの怒りが頂点に達した。

 

 

「あたしに触るなっ!!」

 

 椅子から立ち上がり差し出そうとする手もろともプリントも巻き込み払いあげるかずさ。その怒声と手が叩いた音に教室に残っていたクラスメイトは一斉に注目する。喧騒から静寂に移っていく中、払われたプリントがひらひらと舞い散って落ちていく。

 

 それは手酷く拒否された春希の心を表しているようで。決して見せてはいけないと仕舞いこんでる自分の代わりに表しているようで……。

 

 春希は落ちたプリントを一枚一枚拾い上げながら「手荒い歓迎だな」とつぶやくしか無かった。

 

 拾われたプリントをテーブルにトントンと当てて整え、春希はかずさに再び渡す。

 

 バツの悪い表情のかずさは、何も答えず受け取ったプリントを鞄に詰め込み、立ち上がる。

 しかし、憤りを表すかのように荒く一歩を踏み出した際に、足を痛めたのだろうか。かずさはよろめくようにバランスを崩す。

 

 

「お、おい冬馬――」

 

 まさか転倒するとは思ってもいなかった春希。

 かずさに近づき声をかけようとするが、自力で立ち上がり関わるなとばかりに鋭い睨みを浴びせるかずさの剣幕の前に、彼は最後まで言葉を続けることが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 明けて土日を挟んだ月曜日。SHRギリギリに登校してくるかずさ。

 先週の出来事が気になるが弱気になってはダメだ。と勇気を出して「おはよう、冬馬」と挨拶する春希に

 

 

「あぁ……」

 

 と、到底フレンドリーとは思えない言葉だが、しっかりと春希に返事を返した。その声色は先週のことなど気にしていない。もしくはこの間のことはごめん。と伝えているようだったと春希は感じていた。

 

 その後も、かずさは遅刻をしたり授業中に机に伏せて眠っていたり。窓ガラスの向こうを見ていたりと先週までと変わりがないように見えていたが、クラスメイトが話しかければ受け答えをし(やんわりと断る方向に話を持って行っていたが)春希が話しかければウザがりながらもきちんと応え。しかし偶にはやはりウザいと激昂するが。とても始業式があった週とは思えない態度を取るようになった。

 

 

 春希やクラスメイト達は知ることはなかったが、付属に入学して以来、ずっと他者と関わろうとすることなく拒絶し続け、欠席を繰り返し、時には生徒にも教師にも激しく声を荒らげていたかずさと同一人物とは思えないほど穏やかな毎日だった(知らないクラスメイトにとってはそれでも問題児扱いだったが)

 

 そしてそれを見た春希はますます冬馬に想いを募らせ、伝える事はできっこないものの、なんとか形として表現出来ないものかと考えていくことになる。

 

 

 想いを伝えることなどできっこない――17年間、恋愛なんぞ少しも興味なかった自分がいきなりこのハイレベルな難関。それこそ難攻不落のジェリコの要塞に初陣で向かうようなものだと。

 

 

 そんな色々思いついては意気消沈しているある日。親友である武也が軽音楽同好会を結成しようと思う、と春希に溢す。

 

 

――飯塚武也。3年G組。春希にとって無二といえる親友。非常に軟派な男で、クラスごと、曜日ごとに彼女がいるんじゃないかと言われるくらいの女好きである。春希の誘いを断るときの理由は女性関係の場合が殆どだ。

 

 そんな武也だが春希とは何故か馬が合う。水と油くらいに正反対の性格だが、だからこそお互いにないものにひかれあったのかもしれない。

 

 そんな彼、武也に、そんなもの作ってどうするんだ? と今まで部活らしい部活などしていなかったじゃないか? と。

 しかも3年のこの時期だ。正直言って理解出来ない。春希は武也にそう伝えた。

 そんな春希に武也は『わかってねぇなぁ』と言わんばかりの表情を向けながら話を始める

 

 

「ギターってのはなぁ、女の子を落とすには最ッ高のツールなんだよ」

 

 と、続けて「これまでもギターを使ってきてたが、今度は軽音楽同好会を作って学園祭でライブを敢行する!そうすりゃすごいぞ。これまで全然縁がなかった子からも言い寄られて今まで以上にモテるぞ~」と笑いかけながらも意気込む。

 

――武也、お前なぁ。そんなことより時期考えろよ。もうすぐ進路調査の時期だろ。(峰城大)に進学するにしても推薦を受けたりとかあるだろ?

 

 そう返事が帰ってくるものと思ってた武也に投げられた言葉は武也の春希との友人関係を迎えて以来初めての意外すぎて驚くものだった。

 

「そっか! そっか! そうだよなぁ! ギターいいなぁ!武也、俺もギターやる!」

 

――春希、お前こんな時期なんだから推薦とか考えろよ。

 

 思わずそんなことを口にしそうになるほどの衝撃にまともな思考が追いつかない武也だった。

 

 思い立ったが吉日、というには些か時間が経ったが、4月下旬に入ろうとする金曜日の夕方。春希はギターを買いに御宿町のとある楽器店に訪れていた。




今日は飲み会の幹事なので早めに投稿します。

1話で7月、2話で6月、今回で4月の話になっちゃった。きっと次話は1年前の話に……なるわけないですけどねw
話が前に進まないし、原作と大差ないので今回はEPISODE:2.5となりました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。